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帰還と別れ

 ネメシス達を討伐し、西側のギルドに戻ってきた王女とダイヤは三人組の冒険者と合流していた。


「王女陛下!ご無事でよかった…!」


「おっと、飛び付くな。血の臭いが着いてしまうぞ」


 ギルドの椅子に座り、王女を待ち続けていたシスターは戻ってきた王女に飛び付き、それに驚きながらも受け止めた王女は笑みを浮かべて彼女の背中を軽く叩いた。


「王女様!」


 剣士が手を上げながら駆け寄ってくると王女は軽く手を上げて答え、剣士は王女の近くまで来ると突然、ダイヤに向かって深々と頭を下げる。


「ダイヤさん!ありがとうございます!ダイヤさんが居なかったら俺…アイツを守れなかった…」


「いいえ、謝らないで下さい。今回の件は私の調査不足で起こったこと、ですので謝らなければいけないのは私の方です。大変申し訳ありません」


「えっ…?いやいやいや!そんなことないっすよ…!」


 ダイヤが深くゆっくりと頭を下げると剣士は顔だけを上げて彼女を見たあと、あたふたしながら後ろにいたハンターに目で助けを求める。


「……ダイヤさんが謝ることないっすよ。急で俺も気付けませんでしたし、警戒はしていたつもりなんすけど…」


「ネメシスは彼ら独自の魔法によって透明化しています。その上、ネメシスは素早く音を立てずに獲物を狩る技術を持ち、自然に溶け込めるように臭いも環境に合わせるなど徹底しています。気付くことは難しいでしょう」


 ゆっくりと体を起こしたダイヤはネメシスのことをそう説明し、ハンターはそれに頷いていたが剣士とシスターは俯いて表情が暗くなる。


「そう怖がるな。街の外へ出なければ会うことはない。ところでまだギルドの職員はいるか?」


「あっ…はい、あちらに…」


 俯いていたシスターは顔を上げてカウンターの方を見る。王女はカウンターで慌ただしくしている職員達を見て、ギルドの中を見渡した。


「閉鎖をするための準備…をしているわけではなさそうだな」


 ギルド内では多くの冒険者達がいつも通りの様子で食事や会話を楽しんでおり、王女の目にはギルドの職員だけがいつもとは違った様子で慌ただしくしているように見えた。


「実は…。ギルドの人達がすぐに王城へ連絡してくれたようなのですが…」


「王が“余計な混乱を起こすだけ”と閉鎖の許可を下ろさなかったそうっすよ」


 シスターとハンターの報告に舌打ちをする王女だったが、ため息を吐いた後に目を閉じたまま天井に顔を向けて考え始める。


「確かに余計な混乱を招く…がしかしだ。そんなことを言っていたら被害が広がる。兄上は忙しい、報告を待っていたら冒険者達の命が危ないだろう」


「ですが、ギルドを閉鎖することは難しいです…。たとえ王女様であっても…」


「ん?誰だ?」


 突然、声を掛けられた王女が振り返るとそこには東のギルドで見たことがある受付嬢がいた。黒いベールを被り、目元に巻かれた黒い布で目を隠している受付嬢はゆっくりと王女に深く頭を下げる。


「突然のお声掛け、申し訳ありません…。初めまして、ノスタルギア共和国…元異端審問官のエカテリーニと申します…。東側の騒動をお伝えに参りました…」


 騒動と聞いて王女の目付きが鋭くなり、ダイヤは少し驚きながらもエカテリーニに聞く。


「騒動とは?」


「王女様がご帰還される前、数十分ほど前のことになります…。東側の森にて異変を確認、これに対処するためゴールドとシルバーのメダルを所持している冒険者を合わせて30人ほど向かわせました…」


「30人も?それならすぐに終わるんじゃ…」


「…まさか」


 ハンターが何か嫌な予感を感じる中、エカテリーニは報告を続ける。


「シルバーメダル所持者が一名帰還し、報告を聞いたところ森にてヒュドランゲア変異体の群れとネメシスの群れと遭遇。ほぼ壊滅状態にまで追い込まれたとのことです」


「嘘だろ!?」

「そんなっ…!」

「なんだって…」


 エカテリーニの報告に三人は驚き、王女とダイヤは考え込むような表情を見せる。


「サラ様…」


「ああ、今すぐにギルドは閉鎖しなければならぬな。兄上に証拠を持って行かねば…」


 王女はすぐに魔方陣を展開しようと手を前へ出すが、王女が魔方陣を展開する前に光輝く魔方陣が王女の目の前に展開され、ゲートが開いた。


「王女様ならそう仰るだろうと、魔女より伺っております…。このゲートは森へ直接繋がるもの…準備がよろしければ直ぐに森へ行くことができます…」


「助かる、手間が省けた。ダイヤ、連戦になってしまうが良いか?」


「はい、サラ様」


「では行くぞ。エカテリーニ、護衛を頼みたい」


「お任せを…」


 エカテリーニは先にゲートへ入っていき、後に続いてダイヤが入っていくと王女はゲートへ入ろうとする王女を見守っている三人に体を向けて腕を組んだ。


「此度の事、覚えておこう。貴様達との遊戯は実に面白いものだった」


「お、おぉ…王族っぽい…」


「ちゃんと王族だ。貴様、失礼だぞ」


「そうだよ?妹みたいだけど王女様なんだからね?」


「妹ではない。王族を妹呼ばわりして良いと思っているのか?」


「だって王女陛下、可愛いから…」


「ん?そうか?…ならば今の言葉に免じて、無礼は無かったこととしよう。また会う時、話し相手になってもらうぞ」


 王女が手を差し出すと三人はお互いに顔を合わせた後、笑顔で順番に握手を交わした。


「今度は騎士になって会いに行きます!」


「お体に気を付けて」


「王女陛下、お話ができて嬉しかったです」


「みな、元気でな。この事は何とかして見せよう。不安に思う所もあるだろうが、今は我に任せよ」


「王女陛下なら必ずやり遂げます!私、祈ることしかできませんけど…。王女陛下のこと、信じています!」


「俺も王女様を信じてます!頑張ってください!」


「王女様なら俺達の居場所を守ってくれると信じていますよ」


「うむ、任せよ。では友たちよ、また会おう」


 王女は軽く手を振り、ゲートへ入っていくと輝いていた魔方陣が消滅したことでゲートが即座に閉じられ、三人の前から姿を消した。


「い、今……友って言われたのか?」


「…俺も驚いた。凄いことだ…これは…」


「ますます騎士にならねぇとって思うようになってきたぜ…。よし…ちょっと訓練しようぜ!お前ら!」


「今回のことで反省もある。ちゃんと守るべきものにも目を向けないとな…。ん?」


「お、王女陛下とお友達になれた…?い、いいい、今!いま…今のって夢…!じゃない…よね?」


「落ち着け、ほら深呼吸しろ」


 興奮気味のシスターに落ち着くよう促し、同じく興奮状態になっている剣士に額を押さえるハンターだったが、そのハンターも誤魔化すことができずに笑みをこぼしていた。


 ゲートを通過して森へ向かった三人は歩いてすぐに冒険者と魔物の群れが戦った場所に到着していた。


「何だこれは…」


 あまりの惨事に王女は驚きを隠せなかった。地面にはメダルや冒険者の装備品が転がり、血が着いた骨や頭蓋骨だらけで死の臭いが充満していた。


「うっ…」


 あまりの光景と臭いに吐き気を抑える王女にダイヤは隣に立って背中をさする。エカテリーニは調査のため、転がっている骨を拾い上げて臭いや手触りを確認する。


「消化液…それから齧りついたような窪み…。殺した冒険者をその場で食べたようです…」


「よく平気でいられるな…」


「死の臭いには慣れておりますので…」


 エカテリーニが骨を置き、落ちているメダルを拾おうと歩き始めた時、突然エカテリーニは左手を前に突き出して、光の盾を展開すると何者かの攻撃を防いだ。


「異端者を確認…。正義執行」


 エカテリーニは盾を解除して右手に光の剣を形成すると背後から飛んできた矢を弾き落とし、輝きに包まれると共に姿を消す。


「何だ?消えた?」


「彼女は瞬間移動が得意で、戦闘にも用いています。相手の逃げ道を塞ぎ、隠れ場所を見破る。異端審問官時代の経験を生かした戦い方のようです」


 そう説明しながらダイヤも死角から飛んでくる矢を刀で弾き落とし、王女に向けられているものも全て弾き落とす。


「グォォオッ…!!」


 周りから悲鳴が聞こえ、肉が焦げる臭いが漂い始める。青い炎が木々の隙間から見え、やがて矢が飛んで来なくなると木々の間から血濡れになったエカテリーニが現れた。


「処罰が終わりました。先へ進みましょう…」


「まさか、奇襲してきた敵を皆殺しにしたのか…?」


「報告の通り、ネメシスのようです」


 エカテリーニは左手に持っていたネメシスの首を持ち上げて見せる。ダイヤは何も言わずに刀を鞘に収め、王女は顔を引きつらせていた。


「エカテリーニ、サラ様にそのようなものを見せてはいけません」


「申し訳ありません…。ただ安全を確保したことをお伝えしようとしただけなのです…。お許しを…」


「…少々驚きはしたが、気にしなくてよい。進むとしよう」


(わたくし)が先導いたします…」


 エカテリーニを先頭に王女達はさらに森の奥へ進んで行く。ネメシス以外の何者かに見られていることには気付かずに…。

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