冒険者達と魔物の群れ
ダイヤ達がネメシスと戦っている頃、他の場所でもネメシスと戦闘している冒険者達がいた。
「クソッ!蔓が絡まって…うわぁぁぁああ!!」
「じょ、冗談じゃねぇ!三体…いや、六体か!?どんどん森の奥から出てきやがる!」
「全員、街まで退きなさい!私がなんとかするわ!」
森にティナの声が響き渡り、次から次へと来る魔物の群れを見た怯える冒険者は後退りし始める。森の奥からやってくる魔物はネメシスだけではなく、変異したヒュドランゲアや二つの頭を持つ犬ツヴァイなども混じっていた。
「こんなに出てくるなんて聞いてない…。しかもネメシスまで…俺は帰るぞ!」
シルバーメダルの冒険者は街の方へ走り出し、それに続くようにして他のシルバーメダルを持つ冒険者達が続々と街へ向かい始める。
「逃げろ!走れ!止まるな!」
両手剣を持った冒険者が逃げ始めた冒険者達の背中を守るため、木々の間からやってくる魔物へ向かっていく。
弓矢を扱う冒険者が魔物の群れを見て後退りをしているとそれを見た他の冒険者の一人が持っていた大盾の持ち手を握り直し、その冒険者の側へ歩み寄る。
「逃げるなら手伝う。俺が壁になれば街まで行けるだろ?」
「……いや、僕はこのメダルを飾りにしたくない。やっとシルバーからゴールドに上がったんだ。貴方が逃げてください。奥さんが居るでしょう?」
「お前に心配されるほど、俺の嫁はヤワじゃない。お前さんこそ、この前告白が上手くいったとかなんとか言ってただろ」
「ええ……帰れたら奢りますよ。御祝いに」
大盾の男は頷いて盾を構え、正面から次から次へと波のようにやってくる魔物の群れに弓矢の冒険者は、深く息を吸ったのち雲行きの怪しい空へ矢を放った。
「ティナ!このままじゃマズイ!」
「だから退きなさいって言ってるでしょ!?早く!」
魔物の群れに空から魔法によって強化された矢の雨が降り注ぎ、最前列の魔物が矢によって倒れるもそれを踏み越えて後続の魔物達が押し寄せてくる。
「空より舞い降りる業火よ!敵を焼き払え!!」
空に展開された魔方陣から魔物の最前列へ向けて隕石のような火の玉が落ち、巨大な爆発を起こす。魔術師の攻撃によりヒュドランゲアの蔓が周りに飛び散り、多くの魔物が灰となった。
「やった…!これで少しは…」
「足を止めないで!街まで早く…」
灰となった魔物達を見て少し気が緩んだ冒険者にティナが叫んだ瞬間、シルバーのメダルと共に冒険者の首が宙を舞う。
「っ!?ネメシス…!」
「お嬢さん下がれ!」
ティナの背後に居た魔術師がティナの前に立ち、杖を水平に振るうと扇状の炎が繰り出される。
しかし、焼かれたのは死体のみでネメシスの姿は見えないままだった。
「時間稼ぎにしかならない。お嬢さん、早く逃げるんだ」
「なに言ってんの!貴方も逃げないと!」
「お嬢さん、周りを見てみろ。シルバーの連中はもう大勢やられた。ゴールドメダル持ちですらやられてる」
「それは…」
ティナが周りを見ると持ち主が分からない血の付いたシルバーメダル、血溜まりの中で横たわるゴールドメダルを首から下げた冒険者の姿に、魔物と懸命に戦い仲間を逃がそうとする冒険者達の姿が目に入る。
「私が時間を…」
「いや、お嬢さんは強い。だから退路を確保するんだ。俺達にはこの包囲網は破れない」
「まだ包囲はされてないわ。今ならまだ…!」
「うわぁぁぁああ!!」
街の方へ向かっていた冒険者の一人が叫び声を上げ、振り返ったティナが冒険者達が逃げた先を見ると見えない敵に蹂躙される冒険者達の姿が目に入る。
「そんな…助けないと…!」
ティナが冒険者達の元へ走り出そうとした瞬間、後ろから肉を裂いたような音が聞え、ティナはすぐさま振り返った。
振り返ったティナの目に入ってきたのは、真っ二つにされた魔術師の体だった。
ティナは先程まで言葉を交わしていた相手の命が一瞬で奪われた現実に言葉を失い、血の気が引くような感覚を覚える。
「…っ!ダメっ!しっかりしなさいティナ…!」
自分の頬を叩き、気を引き締め直して周りを注意深く観察するティナだったが…。
背中で感じ取った殺気に目を見開き、考えるより先に跳躍魔法で前へ飛んだティナは気配を頼りに追って来ているはずの、姿の見えないネメシスに向けて魔法の斬撃を放つ。
しかし、当たった様子はなくティナは後ろを向いたまま跳躍魔法を駆使して森の中を逃げ回り、ネメシスから距離を取ろうとするが…。
(速すぎる…!振りきれるか怪しいわ。それに見えないなんて卑怯なんてものじゃない!)
姿が見えないため気配を頼りに索敵をしているティナの周りからネメシスの気配が離れることはなく、纏わり付くように追いかけてくるネメシスにティナは驚きを隠せなかった。
(魔法を使ってる様子はない…。今の速さなら余裕でドラゴンから逃げきれるくらいの速さのはず。心臓が縮むような思いをして逃げてるのに気配が全く離れない…!)
ネメシスの身体能力に驚きつつ斬撃を飛ばしてみるティナだったが、遠く離れた木を斬り倒すのみで当たる気配が無い。
(マズい…このままじゃ…)
ティナが他の策を考えている時、正面から近付いてくるネメシスの気配があった。
「っ!!!」
見えないネメシスの攻撃がティナを襲い、攻撃を剣で防ぐことはできたが衝撃でティナの手から剣が飛ばされてしまう。
「くっ…!」
飛ばされた剣を取りに行こうと考え跳躍魔法で方向転換した瞬間、ティナの脇腹に矢が刺さる。
「うぐっ…!?」
地面に墜落したティナの体は地面に叩き付けられるようにして何度も転がり、地面に突き刺さった大太刀の近くで止まった。
脇腹に刺さった矢が転がった際に更に深く刺さり、あまりの激痛にティナは剣に手を伸ばすことしかできず、その手は剣からはあまりにも遠かった。
(この前、死にかけたばかりなのに…。どうしてまた……こうなってしまうのよ…。私……どうして…)
体から力が抜けていき、伸ばしていた手が地面に落ちると段々と目の前がボヤけていく。呼吸がまともにできなくなり、体が冷たくなっていく感覚を感じたティナは矢に毒が塗られていたことを悟った。
(……毒で死ぬってこんな感じなのね。食われて死ぬより、こっちの方が苦しい時間が短くて痛みも毒のせいか、さっきまでの痛みが嘘みたいに無くなった。……ここまでなのかしら)
目の前が暗くなっていく中、ダイヤの姿を思い浮かべていると幼い頃のティナを助けた白狼の姿がダイヤと重なり、走馬灯のように白狼を探し回っていた時の記憶が駆け巡る。
『白狼ならミッドリンガルにいるって噂が…』
『魔王と和解して仲間の魔法使いと一緒にギルドをやってるらしい…』
『白狼?この街に居るって噂は知ってるけどな…』
『白狼ちゃんのこと?知ってるよ。教えてあげようか?』
『そう、ダイヤちゃんこそが白狼ちゃんなんだよ。けどね…』
『悪いけど、まだその時じゃないから黙ってて貰うよ』
聞き覚えのある声が木霊する中、ティナの意識が闇へと沈んでいく。
(そう…だったわ。ギルドマスター、アイツが…確か正体を知ってたから話を聞いて……それなのに私は何故か知らなくて……どうして?一体、なんの目的で…)
暗闇の中でティナが疑問を浮かべていると体を揺さぶられるような感覚を感じ、ゆっくりと目を開ける。
「……きろ…。……おいっ……お嬢ちゃん」
意識が戻り、目を開いたティナのことを揺さぶっていたのはカムレックスに襲われているところを助けた冒険者だった。
「貴方は…」
「しっ…」
口元に指を当てて静かにするように指示されたティナは周りの草が揺れ動く音に気付き口を閉じる。それと同時にティナは体の妙な滑りに気付いてしまう。
(こ、これ…ハンターが使う臭いを誤魔化す粘液じゃない。気持ち悪いけど…)
周りに敵がいるこの状況では仕方ないとティナは周囲の気配や草の揺れる音を聞いて状況を把握しようとする。
音は四方から聞こえ、姿が見えないもののティナ達は魔物に包囲されていて、身動きが取れない状況になっていた。




