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冒険者達の討伐依頼

 鼻息を荒くして頭を振るシュヴァインに剣士は笑みを浮かべ、鞘から抜いた剣の柄をしっかりと握る。


「へへっ、ただの豚に負けるほど弱くないぜ。俺は」


「そうだけど良いけどな」


「いいとこ見せたら次はシルバーメダルだろ?早くあの銀色に輝くメダルを首から下げてみてぇ…!」


 右手を柄から離して拳を握り、目を閉じて妄想に浸っている剣士に呆れながらシュヴァインの様子を見ていたハンターは、シュヴァインが体を引いて突進攻撃をしようとしていることに気付く。


「おい、ちゃんと構えろ。来るぞ」


「おう!いつでも…いいッ!?」


 シュヴァインの突進が剣士の想像より速く、しっかりと柄を握った頃にはすぐ目の前に足元目掛けて突撃してくる豚の姿があった。


 シュヴァインの突撃を避けるのが遅れ、剣士の足を完璧に轢くと思われたがハンターがシュヴァインの体を横から飛び蹴りをしたことで体勢を崩させ、直撃コースから外したことで剣士はなんとか轢かれずに済んだ。


「ひ、ヒヤッとしたぁ…」


「おい!なにボーッとして…!」


「へ?」


 轢かれなかったことに安堵している剣士の足元へすぐにUターンしてきたシュヴァインの頭突きが炸裂し、剣士は何が起こったのか理解する前に顔面から地面に落ちた。


「いってぇっ!痛ぇよぉ!!」


「何やってんだ…」


 心底呆れつつ、剣士を轢いて勢いを殺さずに突撃してくるシュヴァインにハンターはシスターの位置を横目で確認し、シュヴァインの目がシスターに向かないよう突撃を避けつつ予め引いていた弓矢を放ち、シュヴァインの体に矢を命中させる。


 体に弓矢が刺さったことでシュヴァインは激しく鼻息を荒げ始め、痛みから怒り狂いハンターへ向かっていく。


 シュヴァインの突進攻撃に臆することなく、ハンターは弓を引いてシュヴァインの頭を踏み台にして頭上を飛び、二本目の弓矢をシュヴァインの首近くに命中させる。


 首近くに矢が刺さったことで二本目の矢が当たった場所から血が溢れ始め、命の危険を感じたシュヴァインは首を振り回して暴れる。


「やはり彼は動きが良いですね」


「うむ、慌てず冷静に動こうという考えが見て取れる。弱点を狙い撃つ程の腕があり、仲間に狙いが向かないように立ち回る動きもできるようだな」


 二人がハンターのことを高く評価している中、シスターはシュヴァインの気がハンターへ向いている内に剣士の治療を行っていた。


「いってて…悪い、助かるぜ」


「大丈夫?また転んだりしない?」


「なーに言ってんだよ。今のは油断しただけだっつーの」


「そんなこと言って……また転ぶよ?」


「へーきへーき、今すぐアイツを仕留めてやるよ!」


 剣士は立ち上がると右手で親指を立てて笑った後、暴れているシュヴァインの元へ駆け寄っていく。


「遅いぞ、仕留めるなら早く仕留めろ」


「分かってるって!」


 剣士は走りながら剣の柄をしっかりと握り、地面を強く蹴って飛び上がると暴れているシュヴァインの胴体を狙って剣が振り下ろされる。


 振り下ろされた剣はシュヴァインの胴体を深く切り裂いて大量の血が吹き出ると、大量に出血したシュヴァインは弱々しい鳴き声を出しながら倒れ、少し痙攣したのち鳴き声も痙攣もしなくなった。


「ふぅ……いや、悪い。また手柄取っちまったな」


「弓だと時間がかかるからな、お前の剣の方がトドメには向いてる。だから良いんだよ、気にすんな。はぁ〜……集中してたら腹減ってきた」


「……お前、王女様とダイヤさんの前だからって本気で動いてたろ」


「なんだ?もしかして悔しいのか?」


「悔しいわ!あんな格好良く動きやがって…!俺だって特訓すりゃできんだかんな!」


 指を指して言ってくる剣士にハンターは複雑な顔をして頬を指先で掻きながら視線を逸らす。


「ああいや……さっきのあれは無駄な動きだ。あれは真似しなくていい」


「格好良く飛び上がって敵の体に深手を負わせたらカッコいいって思わないか?思うよな!お前には今日から俺の特訓に付き合ってもらうからな!」


「面倒くせぇ……てか、空中に飛び上がるのは隙だらけなんだぞ。調子に乗ってやっちまったけど、本来ならやらない方が…」


「カッコ良けりゃ良いんだよ!実際、さっきのお前カッコ良かったしな!」


「馬鹿には何を言っても無駄か…」


「なんだと!?」


 痴話喧嘩をする二人の様子を見ていたシスターは微笑み、二人の下へと歩み寄っていると森の中から視線を感じて動きを止める。


 木々の間から何かが見ているような気がしたシスターの目に、透明な“何か”の輝きが目に入る。


 その輝きを不思議に思っていると、シスターの見ている方向から木々を揺らして葉を落とすほどの勢いで何かが彼女に襲いかかった。


 シスターは突然のことに目を閉じて杖を盾にした。


 静かな森の中に金属と金属のぶつかり合う音が響き渡り、その音を聞いた剣士とハンターの二人はシスターがいる方を見た。


 二人の目に飛び込んできたのは、見えない何かと鍔迫り合いをするダイヤの姿だった。


「な、なんだ…?」


 見えない何かと鍔迫り合いをするダイヤの刀からは金属と金属の擦れる音が確かに聞こえ、何かと戦っていることは分かるものの、敵の姿が見えないという不気味さに二人は背筋を凍らせる。


「馬鹿な……なぜネメシスが……」


 ネメシス、霧の発生しやすい湿地帯を生息地とする姿の見えない狩人。魚や動物、人間などを狩って食料とする彼らの生態はあまり知られておらず、プラチナに上がったばかりの冒険者を安々と狩ることからプラチナキラーとも、霧の暗殺者とも呼ばれている。


 何人もの優秀な冒険者を仕留めることで有名な為、一時期ダイヤメダル所有者のみに討伐が許可されていたことを知るダイヤは三人を守りながら戦えるのか不安を感じていた。


「ダイヤ!三人は我に任せよ!」


 不安を感じるダイヤの気持ちに気付いた王女は転移魔法で三人を自身の近くに転移させ、ネメシスとダイヤの一対一の状況に変わる。


「ありがとうございます。サラ様」


 油断できない状況の為、ダイヤは小声で感謝の言葉を言う。


 鍔迫り合いを続けるダイヤとネメシスだったが、ネメシスの武器とぶつかる感触が突然消え、相手が仕掛けてくることを察したダイヤは気配を頼りにネメシスの見えない攻撃を刀でいなす。


 ネメシスの武器と刀がぶつかりあったことで火花が散り、傍から見ただけではダイヤの刀から火花が出たようにしか見えない状況に王女の近くで戦いを見ていた三人には何が起こっているのか理解できずにいた。


「なにと……戦ってるんだ?」


「完全に姿が見えない……何だよ、あれ」


 姿の見えない敵に驚き、それと刀を交えるダイヤの姿に驚いている三人に王女は目を向けつつ、森の様子にも気を配っていた。


(本来、ネメシスは魚や動物といった獲物の多い湿地帯を好むはずだが……そもそも生態の多くが謎に包まれているダイヤクラスと言って良い化け物だ。狩り場を変えたのだと思えば、簡単ではあるが……)


「お前達、怪我は無いか?」


「えっ?あぁ、はい!大丈夫です!」


 王女の近くに居たシスターが反応を返し、王女はそれに対して頷くと転移魔法を発動して王女達の足元に魔法陣が浮かび上がる。


「王女様!ダイヤさんを置いていくつもりですか!?」


「ここはダイヤに任せよ、貴様達が居ては邪魔になる。悔しいが我も実戦経験が不足している。一度ギルドに戻って…っ!?」


 王女が何かの気配を察して転移魔法を中断して防御魔法と鎖を展開し自身と三人を守ると、展開された防御魔法と鎖から攻撃を防いだ甲高い音が鳴り響く。


「くっ……仲間がいたか…!」


「王女陛下!」

「王女様!」


「騒ぐな!貴様らのことは守ってやる!」


 王女は攻撃を防いでいる音と気配を頼りに人数を把握しようと、額から汗を流しながら耳と目を頼りに敵の数を予想する。


 王女の正面と三人の方から聞こえる2つの得物で風を切る音から三人に狙われていると予想する。


(多すぎる…この森にネメシス一体でも異常というのに何故三体も…)


 王女はネメシスの連続攻撃から三人を守りつつダイヤの方に視線を向けると、ネメシスの攻撃を受け流すのが精一杯の様子を見て疑問に思う。


(ダイヤがネメシス一体に苦戦するなど考えられない、あの様子は……まさかダイヤも三体と戦っているのか!?)


 絶え間なく刀から飛ぶ火花、王女でも目の追い付かない速さで攻撃を躱し反撃し攻撃をいなすダイヤの姿に王女はダイヤも同じ状況であることを悟った。

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