西からの訪問者
王女の悪戯っぽい笑みに不安しか感じなかったダイヤは何をするのかと王女のことを見ていると王女は笑みを浮かべたまま立ち上がると魔法陣に手を入れて一本の刀を取り出した。
「白狼と毎日顔を合わせる程の仲だったダイヤだ。多少は剣術を教えてもらっていたらしくてな、刀の腕は白狼にも匹敵するほどらしいのだ」
「サ、サラ様ッ…!」
取り出した刀で肩を叩きながら自慢気に喋る王女にダイヤは顔を青くさせる。
「あっ!それならドラゴンを2頭無傷で追い払ったというのも納得ですね!刀の扱い方がその…白狼様に近いのであれば太刀だって同じように扱えますよね!」
「刀と太刀では違いますから…」
「ふっ、よく聞くのだ。此度の依頼、無事に終えた場合は我がダイヤに剣術を披露するよう命じようと思っている。いつも以上に集中して戦うのだぞ」
「マジで!?ダイヤさんの剣術見れるのか!」
「興味は前からずっとあった。ダイヤさんの太刀捌きが見れる、こりゃ気合が入るわ」
「剣術のことはよく分かりませんが…ダイヤさんの剣術見てみたいです!」
3人から期待の眼差しを向けられ、とても断りづらい雰囲気にダイヤは溜め息を吐く。
「はぁ……わかりました。無事に終えたらお見せしましょう」
「よし!ならば早速出るぞ。お前達の奮戦を期待している」
「「おー!!」」
立ち上がって声を上げる二人に続くようにゆっくりと立ち上がったハンターとダイヤはため息を吐く。ハンターは公衆の面前でも構わず大声をあげられる二人に呆れて。ダイヤは不本意な剣術のお披露目が決まったことに。
そして、ギルドを出た王女達は討伐対象である小型モンスターの討伐のため、ダイヤの案内で街を出て西の森へと足を踏み入れるが……。
「………ダイヤさん、西の森ってこんなに静かな森でしたかね?」
「おかしいですね。ここは東の森とは違って、小動物と無害な魔物で賑やかなはずなのですが……」
西の森へ足を踏み入れた5人は不気味すぎるほど静かな森の様子に、周辺を見回しながら森の中を進んで行く。
すると、5人の前に黒いマントに身を包んだ一人の女性がふらふらと草むらをかき分けながら向かって来た。
一同が歩みを止め、冒険者の三人が警戒する中で王女とダイヤはお互いに顔を見合わせ、そして歩み寄ってくる人物の方へ顔を戻す。
「おい!お前!」
「バカ…!大声出すな…!」
歩いてくる人物にただならぬ気配を感じ取った剣士が我慢できずに歩いてくる人物に声をかけ、それになるべく小さく聞こえるようにハンターは注意する。
歩み寄ってくる人物の足が止まり、前髪で隠れていた目元が見えるとハンターとシスターは顔を青くする。
「きゅ、きゅきゅ、吸血鬼…!」
縦長の瞳孔と赤い瞳という吸血鬼特有の目をしている女を見たシスターが噛みながら言った言葉を聞いて剣士も相手を理解し、震える手で鞘から剣を抜いて剣先を女吸血鬼に向ける。
それを見た吸血鬼はマントから黒い手袋をした右手を出し、右手に黒く光る魔力の霧を集めて剣に変化させる。
「ようやく…」
吸血鬼が発した言葉に三人が身構え、吸血鬼がゆっくりと剣先を剣士でもなく、ハンターでもなく、シスターでもない誰かに向ける。
三人は振り返って吸血鬼が剣先を向ける人物に顔を向けた。
「ソードマスター…!ようやく……ようやく会えたわ!」
「ソード…マスターって……」
「まさか……」
吸血鬼の剣先に立っていたのは………王女だった。
「アンタ、人違いだぞ」
「お前、人違いだぞ」
剣士とハンターが言い、シスターが頷くと吸血鬼は目を細めて左手で目を擦って目を凝らしてよく見る。
「いや違うわよ、その隣!ちょっと霞んで見間違えただけよ!」
「その隣…」
再び三人が振り向いてダイヤに視線を向けるがダイヤは腕を組んで首を傾げた。
「すみません、やはり人違いでは?」
「そんなわけ無いでしょ!血の匂いで分かるんだから嘘は通じないわよ!」
「ソードマスターの治療も行ったことがあるので、恐らくその臭いではないかと」
「嘘つき!じゃあなんで貴女からソードマスターの血の匂いがプンプンすんのよ!」
「……貴女は吸血鬼ですよね?日の下に出ていれば身体に異常が出ると思いますが」
「「ああ、確かに」」
本来、太陽が昇っている時間には外に居るはずのない種族であるため、ダイヤの発言に剣士とシスターが頷いて納得するが吸血鬼は納得の行かない様子で剣先を震わせる。
「わ、私はそんな貧弱な吸血鬼じゃないわよ……。何年も日の下に出て運動して克服したんだから!」
「そう言う割には右手が震えてるし足も震えてるぞ」
ハンターが指摘すると吸血鬼の持っていた剣が四散して消え、膝から崩れ落ちた吸血鬼は地面で四つん這いになる。
「ふ……ふふ……わ、私は吸血鬼よ。恐ろしいでしょう?はぁ…はぁ……だから……だから……はぁ、水を寄越しなさい。さもないと……サイコロに…するわよ」
「喉乾いてるんですね。えっとお水は……ありました!」
シスターが無警戒で駆け寄っていくが剣士もハンターもそれを止めず、剣士は剣を鞘へ入れて警戒を完全に解いてシスターと同じように吸血鬼に歩み寄った。
吸血鬼はシスターから渡された水筒で水を飲み、水筒の中身全てを飲み切ると空になった水筒をシスターに返した。
「まだ必要でしたら補給できますよ?」
「いいえ、要らないわ。貴女、優秀ね。下僕にならない?」
「下僕?申し訳ありません、仲間のお誘いでしたらお断りさせて頂きます。もう仲間がいるんです」
「あらそう、残念。ってそんなことよりソードマスターよ!ソードマスター!」
立ち上がった吸血鬼がダイヤに顔を向けて再び右手に剣を生成すると剣先をダイヤに向けて睨み付けながら笑う。
「人違いだなんだって言っても私の鼻は誤魔化せない。一度嗅いだ血の匂いは忘れないわ」
「キモいな」
「キモくない!吸血鬼にとって普通なのよ!普通!」
ハンターの呟きに吸血鬼が怒り、三人が哀れみの目を吸血鬼に向けると更に顔を真っ赤にさせて吸血鬼は怒り出す。
「なな、な、なによその目は!!見るな!というかそこに居たら怪我するわよ!シッシッ!」
三人に向けられた視線に我慢ならなかった吸血鬼は剣先をダイヤに向けつつ、三人に手で離れるように言うとハンターが吸血鬼の近くに居た二人の服を引っ張って強引に離れさせる。
「ふむ、まあ少し相手をしてやれ」
王女が宙に展開した魔法陣から刀を取り出し、ダイヤに差し出すとダイヤはそれを受け取って頷いた。
「ソードマスターではありませんが、私を倒せないようではソードマスターには勝てませんよ」
「まだとぼけるのね。いいわ、ここでねじ伏せて認めさせてあげる」
吸血鬼が剣を構え、ダイヤは鞘から刀を抜くことなく左手に持ったまま3歩ほど前に出て立ち止まり、吸血鬼と目を合わせたまま動きを止める。
静寂の時が流れ、風で木々が揺れる音だけが辺りに響き渡る。




