依頼待ちの暇潰し
屋敷で朝食を済ませた二人は屋敷を後にし、転移魔法でギルドへやってきた二人は早速、依頼案内板の前でブロンズ冒険者向けの依頼を探した。
「サラ様、やはり一言挨拶をしてから出てきたほうが良かったのではないでしょうか?」
「なに、まだ世話になるつもりだ。戻るのに一々挨拶などしなくてよいだろう。それよりもブロンズから早くシルバーにならなくてはな。何をすればよい?」
「分かりました。そうですね……ブロンズからシルバーに効率よく上がるのであれば、小型モンスターの捕獲が一番手っ取り早いですね。しかし、小型モンスターの捕獲を依頼するのはコレクターの方や研究員の方だったりするので、なるべく傷を付けずに捕獲しなければなりません」
「傷を付けずに捕獲するのは得意だ、問題ない。行くぞ!」
王女は貼り紙の一つを掴み取り、受付を済ませて転移で小型モンスターの生息域となっている森へとやってきた。
「よし!捕まえたな」
そして、あっさりと銀の鎖で傷を一つ付けることなく猿のような小型モンスターを捕まえた。
すぐに捕獲したモンスターを依頼人の元へ届け、依頼達成の証である依頼人のサイン付きの依頼書をギルドの受付へ持って行き、次の依頼を案内板から掴み取ってくると同じように受付を済ませて転移で生息域へ飛んだ。
そうして、昼前まで捕獲依頼を繰り返し受け続けた結果、捕獲の依頼が無くなってしまい、王女とダイヤは早めの昼食を取ることにした。
「う~む……もう5、6ほどは達成したぞ。まだなのか?」
「もう少しです。あと一つといった所ですが、昼を過ぎなければ依頼が来ないと思います。急ぎの依頼でもなければ昼前のこの時間帯には来ませんが、小型モンスターの捕獲依頼となると緊急で飛び込んでくることはまず無いでしょう」
「受付嬢に言われると現実味があるな。仕方ない、ギルドの食事でも楽しみながら気長に待つとしよう」
そう言って王女はテーブルに置かれている注文表を手にして気になるものを探し始めた。
「ああ!王女陛下!」
とそこへ聞き覚えのある声が耳に入り、王女が声のした方へ顔を向けると昨日のシスターが背丈ほどの魔法杖を手に駆け寄ってくるのが目に入った。
「昨日のシスターか。我になにか言いたいことでもあるのか」
「はい!マドレア教団を退団して今はフリーの治療術師としてやっております!」
「なんだその行動の早さは……しかし、良いのか?我は何を信じようと気にせぬ、それで救われるものもあるのだろうからな」
「良いんです!今は王女陛下を信仰していますから!」
「我は信仰対象にされるのは苦手なのだが…」
「それより今日は何かしていらっしゃるのですか?捕獲依頼がなんとかかんとか〜って聞こえましたけど……」
シスターは王女に聞きながらさり気なく隣に座ると笑顔を向け、王女は目を細めてダイヤの方を見る。
「小型モンスターの捕獲依頼を待っているんですよ」
「えぇ~!?捕獲依頼ですか!?流石は王女陛下!私達では引き受けるのに躊躇ってしまうというのに凄いです!」
「無理もない、捕獲依頼は危険なのだ。本来であればシルバーに上がれる程の実力者でなければ引き受けないだろう」
「それもそうなんですけど、ダイヤさんが駄目だと言うので受けられないんです」
「そうなのか?」
王女がダイヤに聞くと彼女は縦に首を振った。
「彼女は味方の回復及び強化などを行う術師で、攻撃などの魔法は見せてもらいましたが火力不足で小型モンスターに対しては脅し程度にしかならず、騎士志望の彼は考え無しの突撃多用で前衛としては役不足、ハンターの彼は器用に前衛と後衛を行っていたようですが、それで疲労が戦闘中に出てしまい動きが鈍くなる始末。なので彼女達に捕獲依頼を受けさせるのは危険と判断しました」
ダイヤの話を腕組みをして聞いていた王女はテーブルに置いてあった呼び鈴を軽く叩いて鳴らすとエプロンを着たギルドマスターが王女達の元へと駆け寄ってきた。
「は~い、なんてございましょうか〜?」
「話は聞いていただろう?このシスターの仲間を呼べ、急ぎではない」
「かしこまりました!少々お時間いただきますね〜」
ギルドマスターは注文を承諾するとすぐにカウンターを飛び越えて事務所へと戻って行き、王女はメニュー表をテーブルの上に置いてシスターに手招きをしてギルドの扉へ向かって歩き出した。
「王女陛下?」
「行ってください、稽古をつけてくれるそうですよ」
「え……えぇ!!?けけ、け、稽古ぉ!?そ、そんな王女陛下が私のような者に稽古をしてくださるのですか!?」
「たわけ、暇潰しだ。稽古などと呼ぶようなものではない」
少し立ち止まって振り返らずにそう言った王女が扉に向かって再び歩き出すとシスターは嬉しそうな表情を浮かべてダイヤに一礼し、小走りで王女の後を追いかけて行った。
「今のうちに確認しておきましょうか」
ダイヤは二人が扉から外へ出ていくのを見送った後、カウンターで受付をしている受付嬢の元へ向かって歩き出した。
ギルドの外に出た二人は従業員のみが入れる路地に入ってギルドの裏へ回り、少しばかり木箱や樽などで散らかっている広い置き場で向き合う。
「さて、ここなら迷惑にならぬ。魔法を見せてみよ」
「は、はい!では少し離れて……よし、行きます!」
シスターは魔法を見せるために王女から距離を取り、王女は腕を組んでシスターの魔法を受け止めるつもりで彼女の動きを見る。
「サンダーボールッ!!」
シスターの全身は黄金の輝きに包まれ、その輝きが杖に移されていくと杖を振り上げてから振り下ろすと共に王女に向けて雷の球体が飛ばされる。
が、杖から出た玉は飴玉のような大きさだった。
王女は目を細めながらゆっくりと迫ってくる光球を見つめ、その身で受け止めたが静電気程度の痛さしかない技に額に手を当てる。
「シスターよ、その杖の魔石だが何色に見えている」
「え?……暗めの青色ですね!」
杖を少し見つめた後、シスターは宝石の色を言う。
「魔石の色は魔法と関係するものなのだ。学校で口うるさく教えられる基礎知識だぞ」
「で、でも使えますし…!頑張ればこの子だってできますから!」
「杖を我が子のように想う気持ちは良い。しかしな、できぬものはできぬ。それは水関係の魔法が強化される杖だ、氷ならともかく雷となると少しばかり相性が悪い」
「じゃあ素手でやります!サンダー!」
杖無しでもできることを証明するためか、杖を丁寧に両手でゆっくりと地面に置いてから右手を王女へ向けて振り下ろしたシスターの手から閃光が放たれる。
しかし、王女は防御魔法すら身に纏わせずに受けたにも関わらず、全く動じないことからシスターは首を傾げる。
「あれ?」
「……サンダー」
王女が呆れた顔で胸元まで右手を上げて人差し指だけをシスターに向け、呪文を唱えると王女の指からシスターに向かって稲妻が放たれた。
「キャァアッ!?」
シスターは突然の電撃に腰を抜かし、その場に倒れそうになるも王女の浮遊魔法によって体が少し浮かび上がることで尻もちをつくことを免れる。
「手を開きすぎだ、確かにそれで攻撃できる者も居るがシスターの場合は五本の指へ魔力が分散して上手く行っていない。一点に魔力を集めて魔力の分散を抑えて使えば少しは使えるものになるだろう」
「い、今の一瞬で改善点を見つけたのですか!?」
「いや、苦い思い出があるのだ。ある日、この技を繰り返している内にふと頭に浮かんでな。一点に集中させることで威力は上がるのではないか?と、それに気付いた時は心底嬉しかったものだが、我が親友に誰でも当たり前に知っていると言われ赤ん坊扱いされたのだ」
「あ、赤ん坊扱いですか……」
「うむ、いくら4歳とはいえ赤子と言われたことには腹を立てた」
「よ、4歳……流石は王女陛下……」
「まぁそんなことはよい。続きだ、構えよシスター」
「はい!」
王女はシスターに構え直させ、稽古の続きを再開する。
それを気配を消して箱裏から見ていたダイヤは二人の様子を見て微笑みを浮べ、声をかけずにそのままギルドへと戻って行った。




