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駆け出し冒険者の王女様

 医務室から出たダイヤは医務室の前で待っていた王女に声を掛けられ、ギルドにあるテーブル席を二人で独占してギルド内の様子を見ていた。


「東の森は今ヤバいことになってるぜ、妙な化け物がウヨウヨいるんだ」

「蛇みたいなやつが小さい寄生虫を吐き出して森の動物を魔物化させてるらしい」

「本当なんだ!木が動いてた!アレは間違いねぇよ、見間違いなんかじゃねぇ!」

「花の魔物が彷徨いてるらしいし、しばらく採取依頼を受けるのは止めないとだな」


 周りから聞こえてくる話の内容に王女は眉をひそめ、腕を組んで溜め息を吐き出した。


「はぁ……何が起こっているのだ?城でも情報が錯綜して姉様と兄上が困り果てていたが、こうも状況が混乱しているとパーティーどころではないな」


「既にヒュドランゲア変異体のことは各ギルドに報告していますが、他のギルドからも変異体の情報が入って来ています。早めに調査の依頼を国から出された方が良いと思います」


「そう簡単には出さないだろうな。兄上のことだ、もう少し様子を見てから調査依頼を下すだろう」


「国から直々に調査依頼となれば大事ですから、慎重になることは必然と言えます。ですが、今回はあまり時間をかけてはいけないと思うのです」


「兄上は頑固者だ。一大事である証拠を持ってこなければ簡単には依頼を出さぬ。そこでだ……ダイヤ、勤務中に聞いた話はなんでも良い。情報を集めて欲しい。ここなら有益な情報が城より早く手に入る」


「わかりました。サラ様はお城に戻られるのですか?」


「いや、最近は城に居てもつまらぬからな。故に冒険者とやらをやってみようかと思っている」


「……はい?」


 王女の言葉に耳を疑ったダイヤは思わず声が出てしまい、その声をしっかりと聞き取った王女は悪い笑顔を見せた。


「第3王女とはやることが特になくてなぁ。毎日毎日、勉強勉強と机にしがみつくか兄上達の手伝いや散歩くらいしかやることがない。だが、冒険者なら毎日違う依頼をこなすのだから毎日が楽しそうではないか」


「いえ、そこまで楽しいものでは…」


「それに我は王族。故に護衛が必要になるだろう、相当な手練である冒険者か衛兵。しかし、手練れの冒険者は調査で忙しい上に衛兵も城を離れるわけにはいかぬ。そうなると今、暇になっている者が我の護衛になるしかなかろう?」


「……そうですね。では、まずは手続きからしましょうか」


 王女の言いたいことが分かって呆れたように王女に手続きを勧めるダイヤだったが、王女は何かを差し出せと言うかのような手の動きを見せて席から立ち上がろうとしなかった。


「まったく……仕方のない人ですね」


 ダイヤは席を立ち、事務室へ向かって行った。少しして1枚の紙と羽根ペンを持って戻ってきたダイヤは王女の隣に座り、冒険者登録の仕方を手取り足取り教え、無事に王女の冒険者登録を済ませた。


「これで登録完了になります。まずは駆け出し冒険者の証としてアイアンメダルを贈らせていただきます」


「ほぉ、粗末なメダルだが気が昂るな」


「駆け出しなのでいくつか採取依頼をこなしてもらうことになります。どれもお一人、または大人数による依頼の受注が可能で、十個の依頼を達成すれば次はブロンズメダルになります」


「ふむ、サリアは城へ報告のために無理やり戻してしまったしな。こんな状況なのだ、一人や二人駆け出しで困っている者も居るだろう。その者たちを呼ぶといい」


「分かりました。何組か心当たりはあるので聞いてみましょう。少々お時間を頂いてしまいますが宜しいですか?」


「構わん」


「分かりました。少々お待ち下さい」


 そう言ってダイヤは少し離れている落ち込んだ様子の女性のみの三人組、楽しそうに談笑していた男性三人と女性二人の五人組、慣れない手付きで武器の手入れを行っていた男性二人組に声をかけ、3組に声をかけたダイヤは王女の元へと戻ってきた。


「3組とも了承してくださりました。早速、採取依頼に行ってみましょう」


「ああ。ダイヤよ、得物を持ってくるのだぞ。恐らくだが薬草採りをしただけでは終わらないだろうからな」


「分かりました。少々お待ちを、ティナ様の容態を聞いてきます」


 そう言って席を立ったダイヤの背中を見送りながら、王女は首から下げているアイアンメダルを手の中で玩びながら冒険者としての初陣に心を踊らせる。


 そうして採取依頼を受けた王女達十二人のパーティーは街近くの薬草がよく採れる場所に行き、全員で薬草採りに励むこととなった。



 数十分後、特に問題もなくギルドへ帰ってきた王女達は依頼主と薬草を交換して得た紙を手にカウンターに並び、達成の報告を終えると自然と王女の元へと集まってくる。


「ありがとうございました!凄く早く終わったおかげで次の依頼に行ける余裕ができました!」


「私達も最近はモンスターが怖くて依頼ができなかったんですけど、王女様が助けてくださったおかげで無事にブロンズメダルを取れそうです。ありがとうございました」


「あ、あの……ありがとうございました」


 元気のいい五人組のリーダー、ギルドを出る前は落ち込んでいた三人組の一人、まだ冒険者になって日が浅い二人組の一人が変わり代わりに王女に礼を言いに来た。


「うむ。みな、怪我せぬように励むのだぞ?」


 それに対して王女は笑顔で答え、励ましの言葉を送って若き冒険者達の背中を見送った。


「サラ様、今日はアイアンの方はあの方達だけです」


「ほう?そうなのか。では、我も民に負けぬように励むとしよう」


 そう言って王女は“ブロンズメダル獲得”を今日中に行うことを胸に夜まで採取依頼を受け続けた。


 ダイヤはそんな王女に付きっきりで一日を費やし、空に輝く星々が見える時間なって王女はブロンズメダルを獲得するに至った。


「ブロンズメダル獲得、おめでとうございます」


 ダイヤの手から王女へブロンズメダルが贈られ、王女は早速ブロンズメダルを首から下げる。


「ふむ、このままシルバーまで突き進んでしまおうか」


「いけませんよ。今日はもう帰りましょう、ギルドの決まりで新しいメダルの獲得者には休養をさせるように指示されていますから」


「調子に乗って死なぬように設けた決まりか?我には必要ないが……だが、王族が決まりを破って良いなどと言うつもりはない。従うとしよう」


「では、城に…」


「何を言っている。ダイヤの家へ泊まるに決まっているだろう」


「…………あの、サラ様?メイド長とサリアが待っていると思いますが?」


「なに、いつものことだと溜め息を吐いて説教の支度をするだけのこと、城に帰ってもつまらん。怒られようと我は別に構わぬ。それにダイヤの家といえばグローザにも会えるのだしな」


 ダイヤは王女の自由奔放な行動に溜め息を吐き、展開された魔法陣へ王女に手を引かれるようにして入り、魔法陣の向こう側にある屋敷へと連れて行かれる。


「困った人です……」

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