噂の受付嬢
前回のお話はミスして投稿してしまったので、ロクに予定も組めていない状態の見切り発車になります。
頑張って続き書きます……
冒険者ギルド、中央街へ通ずる門の近くに建てられた二階建ての大きな建物であり、酒場や宿屋としても利用され、毎日各地から訪れた冒険者や商人達が大勢立ち寄っている。
そんなギルドでは昨日の飛竜撃退の話で冒険者、商人、非番の守備兵達の間で盛り上がっていた。
「カムレックスを受付嬢が撃退したって本当か?」
「ああ、本当さ。監視塔の上からだったが凄い動きが塔からも見えた。下の連中が手も足も出ない強い奴だったのに、その受付嬢は攻撃を躱しながら見事な立ち回りで奴の右目と左翼に傷を付けて撃退したんだ」
「マジかよ。どんな受付嬢なんだ?」
噂話程度だと思っていた外から来た冒険者は食い気味に非番の兵士に聞くと、兵士は酒が入ったガラスジョッキを手に笑みを浮かべる。
「この街じゃ有名だよ。なんたって冒険者の憧れ、英雄クラスの証であるダイヤメダルの持ち主なんだからな」
「おいおい、俺なんかシルバーメダルだってのにダイヤなのかよ。凄いな」
「シルバーだって馬鹿にはできない。大型の怪物や魔物なら倒せる実力があるってことじゃないか」
「上にはまだゴールドとプラチナがあるんだぜ?怪物や化け物相手に連戦するゴールドでも凄いのにプラチナなんて魔物や怪物を同時に相手できるような化け物だ。それよりももっと化け物みたいな実力のダイヤなんて、俺とは比べ物にならない」
「未解明の怪物や生態が少ししか分かってない連中を相手にできる人達だからな、ダイヤメダルの人達は。けど、彼女はダイヤメダルを貰ってから一度もそういうのと戦った話がないんだ」
「どうして?二匹の怪物を相手にできる実力の持ち主なのに」
「彼女自身が受付嬢の仕事で忙しいからさ。この国には4つのギルドがあるけど、それでもこの建物がいっぱいになるくらいの人の多さだ。忙しくて兼業してる彼女じゃ未解明の怪物と戦ったりなんてする時間がない」
「なるほど……一目見ておきたいな。どの受付嬢がそうなんだ?」
「あぁ……白い長髪で仮面を付けてて身長が高いのがそうだ」
話に出てきた受付嬢を一目見ようと冒険者が受付カウンターの方を見ると、その特徴に合った受付嬢が四人組の冒険者を相手にしているのが見えた。
「ゴブリンとオークの複数討伐依頼になりますが、本当に問題ありませんか?」
「ゴブリン15体とオーク10体……お、お願いします」
「……大変申し訳ありませんが正直に申し上げます。ブロンズメダル1人にアイアンメダル3人で行くのは非常に危険です。依頼の案内をする身として無謀とも言える行いを見過ごすわけには行きません」
「そ、そんな……でも、急ぎでお金が必要なんです」
「なるほど、わかりました。でしたら、シルバーメダル所有者を見つけてください。協力してくれる方がいれば、依頼の受注を許可します」
「シルバーメダルですか?」
四人組のリーダーらしき青年がギルドの中を見渡すも、シルバーメダル所有者のほとんどが同じようにシルバーメダルを持った者同士で集まって酒を飲んでおり、気軽に声をかけられる者をすぐには見つけられそうになかった。
「アルバ、無理して受けるのは良くない。俺達が一人でも欠けたらアイツが悲しむだろ?」
「そうですよ。最後の集会が豪華じゃなくてもいいじゃないですか。私達が一人一人無事であることの方が大切です」
「それに二度と会えないわけじゃないしな。アルバ、考え直して植物採取の依頼とかにしよう」
「みんな……そうだな。それじゃあ…」
「おっと、その話少し待ってくれないか?」
四人組の冒険者達が諦めているところへ一人のシルバーメダルを首から下げた男が近付いてくると四人組の前で首から下げていたシルバーメダルを指でつまんで見せた。
「ちょうど暇なシルバーメダルのおじさんがいるんだが、力になれそうかい?」
「い、いいんですか?俺達、ブロンズメダルが一人居るくらいですけど……」
「ハッハハハハ!構わん構わん。若いのがいい思い出作りをしたいってんなら手伝うさ。シルバーメダルが居ればいいんだろ?受付嬢さん?」
「はい、その前にご確認をさせてください」
「はいよ、ダンデリオン帝国のディーマだ」
「ダンデリオン帝国のディーマ様ですね。少々お待ち下さい」
受付嬢が近くの棚から一冊の本を取り出すと字が一瞬しか見えないほどの速さでページを次々とめくっていき、閉じて本を棚に戻した受付嬢は依頼書に小さな筒状の道具で焼印を押した。
「ご依頼の受注を承認しました。お気を付けて」
「ほぉ、やり方が古いな。他のところじゃ魔道具で確認するのが当たり前だったから久しぶりに見たぜ」
「ありがとうございます!ディーマさん!」
「「「ありがとうございます!」」」
勢いよく頭を下げたアルバにディーマは驚き、目を見開いていると他のメンバーも同じようにディーマに頭を下げた。
「おいおい……そんな大袈裟な……」
「いえ!大袈裟なんかじゃありませんよ!本当に心から感謝してます!」
「ハハハ……そうかい。でも急いでるんだったら歩きながらでも話せるだろ?」
「あ、そうですね。すみません、依頼書の複製を…」
「こちらです」
「ありがとうございます」
素早く出された依頼書の複製を受け取ると5人はディーマを囲って話をしながらギルドの外へと出ていった。その背中を見送った受付嬢が足音を立てながら近付いてくる人物に目を向けるとゴールドメダルの少女が受付嬢の目の前で持っていた依頼書をカウンターに叩きつけた。
「おや、ティナ様。どうされました?」
「ぐぬぬぬ……信じらんない!!もぉ!なんなのよアンタはぁぁ!!」
いきなりカウンターで大声をあげた少女にギルドに居た人間のほとんどが彼女に視線を向けたが、大声をあげた人間が誰かを理解すると外から来た人間以外はすぐに視線を外した。
「今日も荒れてますね」
「アンタのせいよ!カムレックスといえば一体でもゴールドメダルが相手にしなきゃならないくらい強い怪物だってのに!それをアンタは2匹同時よ!同時に相手したのよ!?」
「そうですね。しかし、2匹同時と言っても片方は既に疲労していましたし、すぐに逃げてしまったので関係ありませんよ」
「関係ないわけない!聞いたところによると凄い連携で襲ってきたそうじゃない!つがいで襲ってくる怪物なんて長い間一緒にいるってことでしょ?!そんな怪物を相手にして普通無傷で済むわけないでしょうが!!」
「受注を承認しました。どうぞ」
「ありがと!とっと終わらせてまた話に来るわ!覚悟してなさい!」
依頼の複製を握りしめて大声で受付嬢に一言だけ言うとティナは足早にギルドから出ていった。嵐のような少女に受付嬢はため息を吐きながら、衝撃で乱れた書類を整理して次の冒険者に案内をする準備をした。
それから十数分ほど経った頃……。
「先輩、交代の時間です」
「分かりました」
交代の時間になった受付嬢が交代しに来た受付嬢と場所を代わっていると隣の受付から聞こえてきた話に受付嬢は耳を傾けることになった。
「とんでもなく恐ろしい飛竜だった……!右目が潰れてて左の翼に傷があるんだぜ!?ありゃどう見たってやべぇよ!」
「お、落ち着いてください。どこで見たんですか?記録して報告しないといけませんから」
「東の森のゴブリンとオークの巣の近くだ。きっと飢えてなんでもいいから肉を欲しがってるに違いない。でなきゃ奴らにとっても不味いゴブリンとかオークの肉なんて狙わねぇよ」
ゴブリンとオークの巣の近くに昨日の怪物が現れたと聞いた受付嬢は嫌な予感を感じ、足早に事務所へ入って更衣室へ入り、私服に着替えると急いでギルドを後にした。