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武具屋からギルドへ

 食事を終えて店を出た3人はサリアの為に武具を取り扱う店の店主へ挨拶に来ていた。


「お城でも時々聞くことがあるお店ですけど、とても腕が良い人なんですか?」


「ケーネル武具屋の店主、ケーネルはハイデルブルク帝国で働いていた元鍛冶屋だ。奴に任せればどれ程ボロい剣や鎧でも元通りにしてくれる」


 鍛冶屋の扉が開かれ、中に入った三人をカウンターの向こう側に居る黒髪の少女が見ると王女は少女が居ることに疑問を感じながらカウンターへ近付いて行った。


「ふむ……確か娘が居るのだったな。名は…クロウだったな」


「ん……」


「ケーネルは不在か?」


「ん……」


 相槌をうつクロウに王女は後ろを振り返り、ダイヤに顔を向けると王女の後ろに居たダイヤがカウンターの前に立つ。


「クロウさん、こちら私の義妹のサリアです。ケーネルさんに覚えておいて欲しいとお伝え下さい」


「分かった……。待ってて」


 そう言ってクロウはカウンターの下から紙と羽根ペンを取り出して何かを書き始める。待つように言われ、3人がクロウの様子を見守ること数分。


「お姉様、クロウさんは何を?」


 そっと後ろに立ったサリアがダイヤに小声で言うが、ダイヤは何かを書いているクロウを指差した。


 指を指した意味が気になったサリアは少し覗き込むようにしてクロウが羽根ペンで書いている紙を見ると、そこには既に完成間近のサリアの似顔絵が出来上がっていた。


「できた」


「ええぇぇぇっ!!?早っ!それに上手!?」


 羽根ペンで特徴を捉えた描き方で仕上げられた似顔絵は綺麗な線で何処にも違和感を感じさせることなく、少しも墨が滲んだような箇所もなく、サリアそっくりに仕上げられていた。


「クロウさんは記憶力がとてつもなく良いので、それを活かして似顔絵も描けるんです」


「これは驚いた。我も絵を描くことはできるが少ない線で一度も顔を上げずにここまで似せられるとはな……。それも短い時間の中でだ、それで食べていけるのではないか?」


「ん…………んん………」


 少し俯きがちに顔を赤くさせるクロウに王女は手を差し出す。差し出された手の意味が分からず、王女の手と顔を交互に見るクロウに王女は微笑む。


「挨拶だ。サラ・フロイデ・ヴァンクローク、我の名だ」


「クロウ……クロウ・シュタイン」


 クロウは名を名乗り、ゆっくりと差し出された手を握った。


「あ!私はサリア・ハルシュタットです!よろしくお願いします!」


「ん……」


 それに便乗したサリアが手を差し出すとクロウは王女と手を離してサリアと握手を交わす。


「ダイヤは握手しないの?」


「私と握手したいのですか?」


 サリアと握手を交わしたクロウがダイヤに顔を向けて言うと、ダイヤは予想もしていなかったこと言い出したクロウに驚く。


「時々、ギルドで会うくらいだけど……私がお話できる人だから……」


「なるほど、そういうことでしたら。妹と仲良くしてください、クロウさん」


「うん……」


 ダイヤが手を差し出すとクロウはその手を強く握り笑顔を見せた。


「また来てね」


「また来まーす!じゃあね、クロウちゃん!」


 クロウに別れを告げ、店を出た3人は城へ向かうために商店街を歩き始めた。


「あっ!おーい、ダイヤセンパ〜イ!」


 すると王女達が歩いている方向からギルドの受付嬢の一人が手を振って近付いてくる。


「おや?リズさん、貴女はまだ勤務時間だったはずでは?」


「センパ〜イ、ギルマスがストライキだとか言って仕事しないんすけど。マジ殺したいんすけど、殺っちゃって良いっすか?」


「良いぞ、殺せ」


「あざっす、じゃあ魔女なんで火炙りで」


「サラ様、彼女の冗談に乗っかろうとしないでください。なにか理由があるんだと思いますよ」


「予想はできる。給料を上げろだとか言うのだろうな」


「とにかくギルドに戻りましょう」


 笑顔でギルマスを処刑しようとする二人を止め、とりあえずギルドへ戻ることにしたダイヤは3人を連れてギルドへと早歩きで向かう。


 そして、ギルドに到着すると冒険者達はいつも通りにテーブルで談笑しながら酒を飲んでおり、受付に誰も居ない以外はいつもの光景の中でアトラルカと従業員達が受付の前でダイヤ達の帰りを待っていた。


「王女様ー、我々は給料を上げてもらわなければ働きませんー。さぁ!みんなも一緒に!」


「「「キュウリョウ、アゲロー」」」


「棒読みすぎじゃない?いつものことだけどさ」


「ヒヒッ、貴女を殺す為の拷問道具をたぁくさん買い込んだの。そろそろ給料よりも貴女の命が欲しいわぁ」


「まったく……昨日はギルマスの家を吹き飛ばしたので私はまた爆破するための時間が欲しいのですが?こんな下らない事に付き合わせないでください」


「火炙りにしたい……」


「もぉー皆さん。もっと真面目にやってくださいよ!首を切り落として即死じゃないと駄目じゃないですかぁ」


「アハハッ!今日も元気だね〜みんな」


 殺意の高い従業員達に満面の笑顔を向けるギルマスのところへ王女が近付いて行き、王女はギルマスに手刀を落とすと顔を向けたギルマスの顔を鷲掴みする。


「イデデデデデデッ!?」


「給料を上げはしない、お前が呼んだ各国の刺客達は満足しているようだし貴様も満喫しているだろう。それで?何か急ぎの用があって下らない事を言っているのだろう?何だ?」


「まず!まず顔から手を退けてぇ!潰れちゃうから!」


 必死に王女の手を引き剥がそうとする魔女の顔から手を離し、手を離された魔女は頬を片手で撫でながら王女と目を合わせる。


「その〜……ダイヤちゃん、今日の受付で二人の男女がアゲラダリノスの狩猟に行ったと思うんだけどさ。ゴールドメダルの人達ね」


「ディースさんとローリーさんのことですか?何かあったのですか?」


 王女とダイヤの目を交互に見ながら言い辛そうにしているギルマスは頭を搔きながら少し笑みを浮かべながら口を開く。


「男の人だけ帰ってきた。舟に乗ってね」


「そうですか……。女性の方は?」


「星巡り、ちょっと事務所に寄っていきなよ。お茶出すからさ」


「そうしましょう。サラ様もご一緒しますか?」


「ああ」


 ギルマスと従業員達は事務所へダイヤ達を招き、ギルマス以外の従業員は通常業務に戻って事務所にはダイヤ達とギルマスの4人だけになった。


「それで?捜索はどこまで進んでいるのだ?」


「えっ?」


 4人だけになった所で王女がギルマスに言った言葉にサリアは驚いた。


「“星巡り”とは、ギルドでは“捜索中”という意味なんですよ。サリアは知らなくて当然だと思いますが、ギルドに通うようになると頻繁に聞く言葉なので覚えておいてください。それと、これはブロンズメダル以下の方に恐怖心を持たせないようにするための工夫なので大声で言いふらすようなことはしないように」


「ブロンズ以下の方に恐怖心を持たせないためですか……それと関係ない人に知られないようにするためとか?」


「それもありますが、どこのギルドでも使われている言葉なので知っている人は多いですよ。直接的な言い方を避けて他の冒険者の方々への精神的影響をなるべく少なくする意味合いが強いですね」


「だからね、大声で「捜索中なんだって〜!」とか言わないようにね。他の冒険者がギルドに通報すれば、“他の冒険者に精神的悪影響を与えた”とかいう理由で罰金か、払えないなら拘留されるから」


「そうですか、わかりました。ところで男の人は?帰ってきたんですよね?その人から何があったのかお話してもらえば…」


「死体が喋るならそうするだろうな。魔女、お前にならできるだろう」


「し、死体……?じゃ、じゃあ……もしかして船に乗って戻って来たというのは……」


「そういうことです」


 言葉に隠された意味に驚きを隠せないサリアは胸を痛めて手を胸に置いて目を閉じる。サリアが胸を痛めている間に二人の手元に男性冒険者の帰ってきた時の状態が記された書類が渡され、それを見た二人はお互いに目を合わせた。

アゲラダリノスの名前。


ギリシャ語のスクリロス(残忍)と同じくギリシャ語のアゲラダ(牛)を組み合わせて“ロ”を“ノ”に変えて名前にしました。


本当はアゲラダリロスという名前にしようとしていましたが、自分で読んだ時にアゲラダ・リロスなのかアゲラ・ダリロスなのか迷ったので初めて読んでも分かりやすいと思ったアゲラダ・リノスにしました。

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