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盗み聞きに罰を

 盗み聞きをしていた3人を捕らえ、個室へ招いた王女は椅子に座って頬杖をつき、地面に額を付けて謝る2人を見下ろしていた。


「本当に申し訳ございません!い、命だけはどうか!!」


「陛下の声が聞きたくて……ほ、ほんの出来心だったのです!お許しください!」


「ふむ、弓使いと服装から見るに神官か。それで、頭を下げようとしない貴様はリーダーか?」


「いや、俺はリーダーつうか……ハンターなんすけど……」


「ほう?ではその二人とは何故行動を共にしている」


「幼馴染なもんで……偶にこうやって集まって一緒に飲むんすけど、急に二人が居なくなったと思って探して見つけたら扉が開いて……まあ、その……巻き込まれたっす」


「本当か?」


「えっ、あっ……はい……」


「悪いのは私達二人だけです。彼は本当に巻き込まれただけなので彼だけでも許してください」


 頬杖をついていた王女が若いハンターから視線を二人へ移すと二人は顔を青くさせ、石像のように正座のまま瞬きすらできずに動きを止める。


「貴様、職業を言え」


「は、はい!!お、俺は騎士を目指し…」


「戯けぇぇ!!」


「くぼぉぉっ!?」


 素早く立ち上がった王女の前蹴りを顔面に正面から受けた若い男は正座のまま吹き飛び、後ろで待機していたダイヤに受け止められて壁に衝突するのを免れる。


「騎士を志す者、邪な考えは圧し殺すことが当然と考えよ。王族の個人的会話を盗み聞きする者など騎士に値しない!!」


「ず、ずびばぜん……」


 顔へ王女の履く靴の底の跡がしっかりと付いた男に指差して叱った王女は腕を組んで椅子へ戻り、男も膝を折ったまま膝歩きで元の位置へと戻る。


「それで職は?何をしている」


「ふ、普段は実家で果物を主に食べ物を売っています……」


「働く時間、勤務態度は?」


「はい?……あっ、えっと……8時間きっちり働いてます!」


「王女様、そいつ嘘付いてるっす。この間、店のもの昼休憩とか言って食ってったすよ」


「うおぉい!……あっ!ハハハハハ!いやー違うんですよ!事前に親から店の物食べて良いって言われてて〜」


「我は嘘をつくような男など騎士にはせぬ」


「退屈で真面目に働いてません!!嘘ついて申し訳ありませんでしたぁぁぁああ!!」


「うむ」


 地面に額を叩き付けながら自白と謝罪をした男の言葉を受け入れた王女は次に神官らしき服装の若い女性へ視線を向ける。


「貴様は?」


「わ、私はマドレア教団のシスターでございます」


「マドレア教団、力と知恵を信仰する団体だったな。信仰対象であるマドレア神は太古の昔に勇者に魔王に打ち勝つための力と知恵を授けたと言われている」


「はい!そして勇者様は見事魔王との決戦にて勝利し、一国の王となって人々の平穏を守り、マドレア様は人々に魔物や怪物などから身を守る力と知恵を授けたのです」


「でも、その勇者様。圧政政治して反乱で死んでますし、神様は神様で必要ないのに次から次へと勇者に力を与えて最終的には人と人で戦争を起こしてるじゃないですか」


「それは作り話ですから!マドレア様は望んで戦争を起こすような神ではありませんから!」


 サリアの横槍に声を荒らげながら言い返したシスターだったが、二人の会話を聞いていた王女は不機嫌な表情を見せる。


「誰が何を信仰しようとどうでもよい。我は神など嫌いだ、神が人々の為になにかするのは人類のためではなく己の為なのだから」


「そ、そんな……で、でも陛下なら本はお読みになられているはずです!陛下のお考えをお聞かせください」


「我は必要のない話などせぬ、貴様にとって罰になるのであれば話は別だが」


「ば、罰……ですか……例えば?」


 恐る恐る聞くシスターに王女は不機嫌な表情を見せるのを止め、微笑んで見せるとシスターは王女が言おうとしていることを予想して顔を青くさせる。


「退団だ。我の考えを聞きたいのであれば退団しろ、シスター。横暴だと思うのであれば退団せずとも構わぬ、我の話よりも信じるものを優先しても文句は言わん」


「聞きます!お聞かせください!サラ王女陛下!!」


 食い気味に膝立ちで迫ってくるシスターに押されそうになる王女だったが、手を振って下がるように伝えるとすぐにシスターは元の位置へと戻った。


「……良いだろう。マドレアとか言う神がどのような神と夫婦になったかは知っているな?」


「戦の神、ライオール様ですね」


「奴は争いが好きな神だ、見るのも自ら戦いに出るのも好きな神だったがマドレアは自ら戦いに出ることのない第三者として戦いを見るのが好きな神だ。そんなマドレアが夫ライオールと共に人間に何をしたかは知っているか?」


「えぇっと……ライオール様は人間に試練をお与えになり、マドレア様はその試練を乗り越えるための力と知恵を授けて人類を更に賢く、強くなさったことでしょうか?」


「では、更に強く賢くなった人類はどうした?」


「人の住める場所を確保するため、魔物や怪物を倒して生息圏をどんどん狭めて行きました!」


「そして?」


「えっ?そ、そして?」


「そして人類は住める場所を確保して行って仲良く平穏に暮らしたのか?」


「い、いえ……場所の取り合いになって血みどろの大戦争を起こしました……」


「そうだ。それで大抵の人間は人間は愚かだと言う、だがそれは違う。この2神は己の娯楽のために人間に力と知恵を無責任に与え、戦争を引き起こして人々が争うことを楽しんでいたのだ」


「そ、それは……」


「違うと思うか?では、この2神は人類が戦争を起こしているときに何をした?」


「あ、悪の……根源を…断ち切るために……ゆ、勇者に……力を与えて……」


 歯切れが悪くなってきたシスターに王女は足組をして組んでいた腕を解いて頬杖をつく。


「神が言う悪とは何か?定義は曖昧だ。時に己のルールを押し付ける者へ力を与え、才能があると言って最低の悪人に力を与え、正義の為に動く者に与え、自己中心的に動く者に力を与えた。サリア、今我が言ったの勇者の資格がある者達とやらの最期は?」


「ルールを押し付ける人は仲間に殺されて、悪人の人は億単位の人々の命を奪う戦争を起こして戦死して、正義の人は悪い人に利用されて裏切られて死んで、自己中は国のことに首を突っ込みまくって逃げて大戦争を勃発させて処刑されました!」


「正直に我の考えを言おう、本で見ただけでも反吐の出るほどの邪悪な存在だ。実在するのであれば我の手で始末してやりたいほど憎たらしい神々だ。マドレアは特にたちが悪い、自らの力を使い人類を混沌に陥れ、巨大な戦火を巻き起こした。どの本を読んでもマドレアが少し涙を流すだけで人類は躊躇うことなく戦争と殺戮を繰り返している。そして!褒美と言って力と知恵を善人悪人問わず信仰者に与えている。これを聞いても貴様はまだマドレアを信仰できるか!!」


「う、うぅ……た、退団…しましゅぅ……」


 何も言い返せなくなってしまったシスターは涙を流しながら四つん這いになり、退団することを震える声で言うと王女の目はハンターに向けられる。


「次は俺っすか?」


「いいや、貴様は良い。罰はこのくらいで良いだろう、二人を連れて行け」


「うっす、おーら泣いてないで早く歩けっての」


「お、王女陛下にぃぃ…ひっく、忠誠を誓いますぅぅ……」


「忠誠を誓われるようなことをした覚えも言った覚えもないのだが?」


「お、俺真面目に働くように頑張ります!絶対に騎士になりたいんで!それじゃ失礼します!」


「期待している」


「……っ!はい!!」


 個室の扉が閉まり、王女は溜め息を吐き出すと個室の扉が開いて店員が水の入ったコップを持って入って来た。


「失礼致します。お水をお持ちいたしました」


 店員がテーブルにコップを置いて一礼し、静かに個室の扉を閉めて立ち去るとダイヤがコップの水の香りを嗅いでからコップを手に取って一口だけ水を口に含む。


「問題ありません。普通の水です」


「そうか、全く。店に迷惑なことをしてしまったな、後で詫びを入れなければなるまい。はぁ……神の話などしたくなかったのだがな」


 王女は再び置かれたコップを手にダイヤが口を付けた場所に口を付けて水を飲む、それを見たサリアが少し頬を赤くさせていると頬を赤らめているサリアに気付いた王女だったが、考えることに疲れて気にせず水を飲むことに意識を向けた。

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