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王女の王族らしい勝利

「サラ様……グスッ……よく戦いました……本当に……でも、お姉様は街に残る決断をしてくれたんですね。サラ様の頑張りは……無駄じゃなかったんですね」


「無駄も何も我が勝ったのだから当然だろう」


「グスッ……ん?はい?」


 話を聞いて目に涙を含ませていたサリアは王女の発言が受け入れられず、何度か瞬きを繰り返したのち首を傾げる。


「実は……そのすぐ後に……」



 ーーーーーー



 両手で王女の身体を抱きしめる白狼は、王女の身体を抱き上げてメイド達の元へ向かって歩き出す。メイド達が慌しく城の中へと入って行き、メイド長が王女を渡してもらうために白狼へ向かって歩き出したところで突然、白狼は背中に何かを当てられて動きを止める。


「……!」


 驚きのあまり目を見開いて立ち止まった白狼の体に背中から電流が走り、叫ぶことも許さず彼女の体を痺れさせると王女を抱えたまま白狼の体は前へと倒れていった。


 白狼は王女を押し潰してしまうことを避けるために体を捻り、王女を上にして仰向けに地面へと倒れた。


「くっ……な、なんだ……」


「ふ、ふふ……見事に……我の思い…通りに動いてくれ…たな、白狼よ。ふ、ふふ……卑怯…などと……言うな?これは……戦い…なのだから」


 王女は白狼の体の上に馬乗りになり、黒く短い棒状の先端に銀色の球体が埋め込まれた道具を捨てた王女は魔法陣から包丁を取り出して白狼の首に包丁の背を当てる。


「はぁ……はぁ………さっきは、これで首を…貰った気になっていたな?……なら、これで我が…白狼の首を……取ったことになる……そうだろう?」


 王女がまだ諦めていなかったことに思わず笑みが溢れた白狼は、笑い声を抑えながら王女の求める言葉を口にすることにした。


「フッ…フフフ……クククッ……ああ、認めよう。そなたの勝ちだ、王女」


 負けを認めた白狼に王女は満面の笑みを浮かべ、包丁を投げ捨て、白狼の体に自らの体を預けて目を閉じる。


「まったく……強すぎだ、貴様……。流石に…疲れたぞ……」


 ーーーーー


「と……不意打ちで私の負けになりました」


「あの後、我は全身筋肉痛の上に魔力が空っぽ寸前で熱を出して2ヶ月寝込むことになった。ダイヤに2ヶ月の間、看病してもらったことは嬉しかったが痛みと苛立ちと戦って酷い思いをした。あれから魔力が無くなるまで戦うことはしなくなったな」


「王族らしい大人な勝利ですね、王女様」


 目を細め不服そうに皮肉を言うサリアに王女は少し苦笑いを見せる。


「そう不服そうにするな、退けぬ戦いで手段など選んでいられん。相手が勝ち目のない奴であれば尚更な」


「確かにそうなんですけど……。ところで、もしかしてそれに使ったのがグローザ様の自信作ですか?」


「うむ、護身用の携帯型高圧電流棒だ。確か名前は……スタンロッドだったか……」


 王女は魔法陣を展開してその中へ手を入れる。魔法陣の中を探って目当ての物を見つけた王女はそれを手に魔法陣から引っ張り出す。


 王女は魔法陣から出した黒い棒状の先端に付いた銀色の球体を指の腹で撫でながらサリアに向かって微笑む。


 笑みを向けられたサリアは王女の意図がわからず、隣のダイヤに顔を向けて困ったような表情を見せて助けを求める。


「かなり痺れますよ」


「えっ?」


 ダイヤの言葉を聞いたサリアはその言葉で王女の微笑みの意味が分かり、すぐに顔を王女に向けて両手と首を振って意思表示をした。


「いやいやいや!お姉様が動けなくなるようなもの試したくないですから!」


「ほほう?そうか。実は我はダイヤ以外に使ったことがないのでな、改良型もこうして持ってはいるが……ふっ、全く使わん」


「そりゃあ、サラ様はそれに頼らなくてもいいぐらい強いから……」


「グローザが自分の体を張って作った物だ。馬鹿なことに自分で心臓近くに電流を流して泡を吹いたらしいが、改良型ではそれがないらしいぞ?」


「えっと……もしかして、心臓近くで電気流して試して欲しいとか……思ってます?」


 王女が首肯を返すとサリアは頭を抱えてテーブルに突っ伏し、うめき声を上げて更に意思表示を強くする。


「うううーーーッ!うぎぃぃぃあああッ!!」


「なんだ?嫌なら我が自らの体を使って試すが?」


「だ、駄目です……で、でも私だって電気を流されたくないし……」


「では私が…」


「それも駄目なんです!!サラ様、無礼を承知で申し上げますが馬鹿げていますよ!こんなことは!」


「おお、いつになく威勢がいな」


 テーブルを叩いて立ち上がったサリアに王女は笑いながら彼女の脇腹近くに展開した魔法陣から腕を出して腹に棒を当てるとスイッチを入れた。


「いだだだだだっ!!」


 突然の電撃にサリアは体を激しく震わせながら倒れ、ついでと隣のダイヤにも同じことをした。


「んぅッ…!……確かに前より弱くなっている気がしますね。魔石の出力を抑えて痛みを感じる程度のものにしているようです」


「冷静に分析しないでください!お姉様!」


「ハッハッハ、グローザに付き合わされて慣れているようだ。ふむ、一応自分にも試してみるとするか」


「ちょっ!サラ様!?」


 王女は自分の首に球体を当てて一切躊躇することなくスイッチを入れる。


 しかし、スイッチを入れられた瞬間に王女と球体の間に稲光が走り、一瞬の眩い光を放った後スタンロッドは機能を停止した。


「ん?しまった……壊してしまったか」


「サラ様!大丈夫なんですか!?」


「問題ない、がスタンロッドはダメにしてしまった。すまないが見てくれるか?」


「わかりました」


 王女はダイヤにスタンロッドを渡し、受け取ったダイヤは慣れた手付きで分解して点検を始める。一通り見終わったダイヤは組み直して元の状態に戻すと王女に返した。


「魔力の逆流で魔石が割れていました。回路も焼けてしまって駄目になっています。グローザ様に修理をお願いするしかありませんね」


「そうか、魔力の逆流が起こることがあるのだな」


「サラ様の特異体質が原因かと」


「薄々わかっていたことだが、厄介な体質を抱えてしまったものだな」


 王女は溜め息を吐いてテーブルに置かれた皿を見ると残っていた料理を手にしたフォークで口へと運んだ。


「まあ、この厄介な体質のおかげで5歳という幼さでダイヤと戦えたのだ。常人であれば生成魔法など使った時点で勝敗は決まっているだろう」


「生成魔法って大きさによって消費する魔力も違いますし、5歳でダガーを作るとなると一本でもかなり大変じゃないですか?」


「しっかり使えるものを形成するとなると相当な魔力を消費することになります。5歳で10キロの重りを持ち上げるようなものでしょうか」


「我が言っても説得力はないが、そこまで大変ではなかった。魔法に長けた遠方の友人曰く、5歳という幼さで生成魔法を使うのは才能があったとしても人の身では不可能に近いそうだ」


「なるほど、サラ様の体質は悪いことばっかりじゃないんですね」


「定期的に魔力を使わなければ獰猛な魔物や生物を引き寄せてしまうがな」


 残った料理を食べ終えてフォークを置いた王女はナプキンで口周りを拭いて綺麗にし、少しばかり考えるような表情を見せたあとダイヤと目を合わせる。


「時にダイヤよ。ここ最近、魔物や大型生物の襲撃はどれ程度増えている」


「先月の倍、去年の今頃より遥かに多いです」


「そうか……実はな。我の魔力、日に日に増す一方で消費が間に合っていない。いつも通りの魔力消費に加えてメイド達の手伝いや戦闘訓練の相手をしているのだが消費が追い付かなくなってきている」


「2体のカムレックスが街を襲撃してきたことに何か思うところが?」


「ふむ……考え過ぎであれば良いが。12を過ぎてからというもの、街を襲撃する魔物や怪物の数と質が上がってきているように感じていてな。いずれ、街を滅ぼしかねない何かが来るかもしれん」


「その時は私と仲間達が解決します。信頼できる冒険者達とハンターの方々が街周辺の状況を報告してくれていますし、グローザ様の作った街全体を覆う障壁が街を守ってくれています。心配無用です」


「そう言ってくれるのは頼もしい、だが万が一のこともある。心配はしておくべきだろう。さて、話は変わるが……」


 王女は立ち上がって個室の扉へ足音を立てないように近付いて行き、扉を素早く開けると扉の前で盗み聞きをしていた若い男女の冒険者風の3人と王女の目が合った。


「盗み聞きとはいい度胸だ。入れ」


「やっば!!」

「し、失礼しましたー!!」


「入れと言っただろう」


 王女の展開した魔法陣から射出された鎖が逃げようとする3人組の腰に鎖が巻き付き、巻き付いた鎖に引かれて個室へと引き込まれた3人組は王女に扉を閉められたことで退路を断たれ、巻き付いた鎖で身動きが取れない3人に王女は微笑みを浮かべる。


「我から逃げようなどと考えるな?不届き者達よ、盗み聞きをした罰を受けてもらおう」


「「ひぃぃっ!」」

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