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冒険者のメダルは飾り

「お姉様にもそこまで追い詰められた時期が……」


 サリアが飲み物の入ったコップを手に小さく言うと先にサラダを頼んでいた王女はフォークで次々と口へと野菜を運びながら鼻を鳴らす。


「誰にでもあると思います。大きな壁に当たることは」


「ええっと……そう、3ヶ月彫刻のようだったというのは?」


「3ヶ月の間、意識は回復していたそうなのですが何をしても目が虚ろで反応しなかったそうなのです。私には、その記憶がないのでサラ様から聞いた話しか分かりません」


「フェレリと一緒に車椅子まで持ち出して外の空気を吸わせながら、どうにかして彫刻から人間に戻そうと試行錯誤を繰り返した。結果的には勝手に戻ってきたのだが、それで良かった。本当に何も分からなかったからな、3ヶ月経った頃には白狼が戻らないことに我は自暴自棄になりそうだった」


 野菜を飲み込んでそう言った王女にサリアが首を傾げ、サリアが思ったことを察した王女は口の端についたドレッシングを持参したハンカチで拭き取った後に喋り始める。


「自暴自棄になりそうだったというのはだな。話の中でも出てきた通り、白狼は我が父ベルデロイ王の首を討ち取った英雄で、間違った道へと進むことしかできない父上と母上を止められなかった我ら王の子供達にとっても英雄だったからなのだ」


「私はそこまで…」


「ミッドリンガルの民達全ての英雄であり、我ら王の子供達を救った恩人。そんな英雄が3ヶ月も正気に戻らない、だが幼い頃の我では何もできない。それが腹立たしくて、無力感に苛まれ、薬も医師も白狼の正気を取り戻せずにただ時間だけが過ぎてゆく、幼い我にできることは毎日同じ問い掛けをすることのみ」


「そ、想像するだけで辛くなってきます……」


「実際に辛かったのだから当然であろう」


 ダイヤの言葉を遮って王女が話を続けたことに少し納得がいかない様子のダイヤだったが、気にせず二人は話を続けた。その様子を見て諦めたダイヤは小さくため息を吐く。


「だが、我よりも誰にも理解されぬほどの辛さを味わったダイヤの方が辛かったはずだ」


「そうですね……」


 二人の会話が途切れ、少しの間沈黙が流れるがサリアが会話を続けるために思った言葉を口にする。


「あっ、でも…その……お、お姉様は何故受付嬢に?送り出した人が帰ってこない事、沢山あると聞いたので……お姉様には辛いお仕事じゃあ……」


「帰ってこない人を少なくするために狩猟や討伐関係の依頼を受け付ける受付嬢になったんですよ。辛くないといえば嘘になりますが、皆さんの声と仲間達の支えもあります。それにもう一つのお仕事も…」


「ダイヤには魔女の監視役も兼ねてもらっている。元々、受付嬢として働いてもらうことにしたのはそれが理由だ」


「ん?働いてもらうということは……サラ様が命令して?」


「ああ、そうだ」


 王女の返しに驚いた表情を見せたサリアに何故驚いているのか理解できなかった王女は首を傾げる。


「サリアよ、我はこの話を聞かせたことが何度もあったはずだが」


「えっ……えぇっと……あ、あはは…そ、そうで……したっけ?」


「ほう、その耳の穴は繋がっているようだな。面白い、水を流し込んでやろう。きっと反対側から水が出てくるのであろうな」


「ごごご、ごめんなさぁぁぁい!」


 テーブルの反対側から水の入ったコップを手にサリアの耳を引っ張る王女に謝罪するサリア、それを見て二人の仲の良さを知ったダイヤは微笑みを浮かべる。


「まったく、まあ良い。ダイヤには魔女の監視役として受付嬢をしてもらっている。10年前からな」


「創設時の初期メンバーなんですよね、お姉様」


「ええ、ソフィアという名前で最初は受付嬢をしようと思っていたのですが、無理に名前を使わなくてもいいとサラ様が言ってくれたおかげでダイヤメダルを貰うまでは名前はありませんでした。ダイヤという名を使うようになったのは7年ほど前でしょうか?」


「7年前……お姉様、その頃は18歳ですよね……?」


「そうですね」


 ダイヤメダルを取る人間の平均年齢は30代後半でベテランが多く、冒険者ギルドで記録されている最年少は21歳。


 それよりも3歳ほど離れてダイヤメダルを獲得しているダイヤにサリアは彼女が凄い人物であることを再認識し、笑みを浮かべながら腕を組んで強く頷いた。


「でもお姉様でも3年かかるんですね。ダイヤメダルを取るのは凄く難しそうです」


「いえ、サラ様にも手続きを手伝ってもらって3日で貰いました」


「ブーッ!!……あっ」


 飲もうとしていたオレンジジュースを盛大に王女へ向かって吹き出したサリアは顔を青くさせ、これから口へと運ばれるはずだったオレンジの香りを放つ野菜を皿へ戻した王女は顔に付いたジュースをハンカチで拭き取る。


「……今日は厄日だな」


「サリア……貴女……」


「いや!あの!ご、ごめんなさい!ごめんなさい!あまりにも衝撃的な話だったので!」


 慌てて二人に忙しなく顔を交互に向けて謝罪するサリアに王女が手を向けて落ち着くように促す。


「メダルなど所詮飾りだ、我でもダイヤメダルを取ることは容易なのだからな。冒険者など書類に名前と年齢、住んでいる国の名を書くだけでなれる簡単な職業だ。だから副業としても人気の職なのだぞ」


「しかし、本来であれば登録から3年以上、討伐困難な魔物や生物を50体以上狩猟、それに加えて災害級の魔獣または生物を最低でも1体討伐していなければ貰えません」


「お姉様、もしかして白狼として活動していた時にその条件を……」


「ええ、冒険者だった覚えはありませんが既に条件を満たしていたようです。フフ…」


「えっ?笑えるところありました?」


「いえ、思い出し笑いです」


 何故か笑ったダイヤを不思議に思いながらも王女に話を振ろうと顔を向けたところで王女の顔が青くなっていることに気が付いたサリアは椅子から立ち上がって王女の隣へ忙しく移動して背中を擦った。


「食べ物が詰まりましたか!?落ち着いて、水を飲んでください」


「サリア、まずお前が落ち着け。別に食べ物を詰まらせたわけではない」


「そうなんですか?じゃあ、どうして顔を青くさせたんですか?」


「ダイヤが笑ったからだ。あの不気味な笑いには…良い思い出がない」


「そう……なんですか?」


 不思議そうな顔をするサリアに手にしていたハンカチを畳んでポケットへ入れた王女は深く息を吸い込み、ゆっくりと吐いてサリアに椅子へ戻るように手で促す。


 それに従ってサリアがダイヤの隣へ戻ると王女はジュースの被害を受けていない水の入ったコップを手に話を始める。


「白狼の意識が戻った話に戻るが、それから1ヶ月後にそのことを嗅ぎ付けた奴が居てな。そいつのせいで我は少し白狼のことが嫌いになったのだ」

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