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白狼の過去

 


 ーー10年前ーー


 名も無き英雄、無名の白狼と呼ばれた少女は魔王との対決後に自らの里へと戻り、その手で里の大人達を葬った。


 しかし、彼女には子供を斬ることはできず、里の食料をかき集めて里から遠く離れた場所を目指して燃える里を後にする。


 遠く、遠く離れた場所へ……目的地など無いが誰も知らない辺境の地を目指して。




 二週間歩き続け、里から持ち出した食料を激しく消費していた白狼達は村の跡地を見つけ、そこを新しい村として朽ちていた家らしきものを直し、畑を作り、水を確保して動物などを狩って生活をしていた。


 彼らは子供ばかりの村だということをすっかり忘れ、里では教えられることのなかったことを白狼から教わりながら新しいことに夢中になっていた。


 それから更に二週間後、里を出てから一ヶ月が経とうとしていた時に村が魔獣の群れに襲われた。


 白狼と腕に自信のあった男子で魔獣を撃退しようとするも柵も何もなく、次々に侵入を許してしまうような子供ばかりの村では無理があった。


 戦いの最中で白狼が見たのは魔獣に首を喰われる女子と助けようとして刀を魔獣に振り下ろす男子、腕を食い千切られ、悲鳴を上げながら群れに食われる防衛戦に参加していた男子、家の中へと侵入していく魔獣の群れと女子の悲鳴。


 撃退に成功した時には既に生存者は鎧を身に纏って最前線で戦っていた白狼のみだった。


 鎧はボロボロになり、魔獣の血で汚れていた。持っていた愛用の刀は折れ、子供達の屍を見てその場で崩れ落ちるようにして地面へ倒れた白狼は二日後に冒険者達に見つかってミッドリンガル王国へと運ばれた。




「おい、おい貴様。我のことが見えないのか?おかしいな、確かに目に光が戻ってきたと思ったのだが……何があったのだ?白狼」


「……ここは?」


 白狼が気がついた時には城の客室にあるベッドの上だった。段々と意識が戻ってきた白狼は頬を叩かれていることに気が付き、ベッドの上にいる幼い子供の存在に気付いた。


「やっと言葉が使えるようになったか。ふぅ……毎日同じ問い掛けを繰り返した甲斐があった。白狼、我のことが分かるか?」


「……第3王女か、某は……生きてしまったのだな」


「ああ、生きている。貴様が居たのは魔獣の縄張りだぞ?何を考えている。幼子の骸があったと報告もあった、何があったのか聞かせよ」


「縄張りか………愚かなことだった……注意深く、よく調べれば分かったことだっただろう……某の失敗で幼き命を奪ってしまった……」


「はぁ……白狼よ。我の言葉が聞こえているのなら、まずはそれに答えよ。悔いることなど後でいくらでもできる」


「………すまない」


 白狼は目を閉じて話す気がないことを態度で示すと王女は腕を組んで不満そうな顔をしつつ、ベッドの上で立ち上がり、飛び上がって両足で白狼の腹へ思い切り着地する。


「ぐぁっ!?」


 子供とはいえ体重の乗った攻撃に白狼はくの字になって声を上げた。王女が腹の上からベッドの上に下りると白狼はお腹を両腕で押さえて蹲り、それをベッドの上に立って腕組をした王女が見下ろす。


「しっかりするのだ白狼!貴様の身に何があったのか分からぬが、3ヶ月も彫刻のようだった貴様を見ている身としては一刻も早く何があったのか知りたいのだ!言え!!何があったのか!」


「姫様!お止めください!」


 王女の声を聞いて客室へ入って来たメイド長が第3王女を抱き上げて客室の外へと連れ出そうとするが、王女が空中に展開した魔法陣から伸びる鎖を腕に巻き付けることでメイド長の動きが止まる。


「ええい!我が父を討ち取った貴様が自害して死ぬなど許さぬ!!貴様の目を見ればわかる!生気が感じられないその目は気に入らん!このわれが許さぬ内に自害などしてみろ!この部屋の床を血で汚してみろ!その時は絶対に許さぬからな!!」


 腕に巻きつけられた銀色に輝く魔法の鎖がメイド長の魔法で作り出した斧で叩き切られると王女はメイド長の腕の中で暴れながら客室の外へと連れて行かれた。


「うぐ……これは…効く………初めて会った時から変わらぬな……」


 白狼は腹に感じる痛みを深呼吸を繰り返すことで和らげ、仰向けになって目を再び閉じた。


 精神が崩壊し、3ヶ月の放心状態から白狼が戻ったことは夜にも関わらず、その日のうちに城内の者達全員に伝わった。


 そして、2日程経った頃にとある大企業の令嬢が見舞いに訪れた。


「おっはようございますわ〜!」


「やかましいぞグローザ。部屋に入るときは静かに入れと言っただろう」


「一日の始まりは元気から始まりますのよ?最初から暗かったら自分も周りの人々も酷い一日になってしまいますの」


「大した差はないだろう」


「いいえ、ありますわ」


「ない」


「ありますの!あっ!」


 部屋に入ってくるなり口喧嘩をする二人に困惑している白狼のことを見たグローザは持っていた見舞いの品を王女に押し付けると上半身を起こしていた白狼に飛び付いた。


「あぁぁーー!!本当に!本当に意識が戻っていますのね!良かったですわ、ほんっとぉぉに良かったですわ!大丈夫ですの?いい物を食べて早く元気になるんですのよ?なにか食べたいものがあればわたくしが…」


「グローザ……貴様ぁ!われは貴様の召使いではないのだぞ!荷物を押し付けるな!」


「あらあら、失礼しましたわ王女陛下?まだまだ身長も心も子供の貴女様では、この荷物は相当重いでしょう?」


 挑発しながら白狼から離れたグローザを睨み、抑えている怒りから来る微笑みを王女は浮かべて荷物をグローザに差し出す。


「おのれ……ふ、ふふ……その挑発に乗るほど我は器が小さくなど…」


「でも身長は小さいですわ」


 グローザが王女の手から荷物を受け取り、頭を軽く叩くと王女の顔が段々と真っ赤になっていく。


「おのれ!おのれ!おのれ!おのれ!おのれ!おのれ!おのれええぇぇぇぇ!!!!」


 怒りが限界に達した王女は両手で握り拳を作り、何度も思い切りグローザの足を叩くが力が弱いせいで全く効かず、殴られているグローザは余裕の笑みを浮かべて王女を見下ろす。


「おっほほほほほ!無力!無力!無駄ですわぁ〜!」


「あまり調子に乗るなよ!貴様ぁ!」


 王女がグローザに指を指すと空中に展開された魔法陣から剣先が出てグローザに狙いを定める。


「おっほほ…ほっふぉあ!?それはやり過ぎでしてよぉ!?」


「うるさい!死んで詫びるか、死ぬ前に詫びるか!どっちだ!?死んで詫びるか!?」


「嫌ですわよ!死にたくないですわ!」


「やかましい!死ね!」


「ちっせぇ器ですわねぇ!?」


「二人共、お止めください」


 二人の騒ぎを聞き付けて部屋へ入ってきたメイド長が仲裁に入り、二人が大人しくなったところでメイド長は客室から退出し、二人がベッド近くに置かれた椅子に座ることで改めて見舞いの時間が訪れる。


「……貴様のせいで叱られたのだぞ」


「はいはい、悪かったですわね。そのちっせぇ器のせいではなくて?と言いたいのですけど、わたくしは大人なので?そんなことは言いませんわ」


「チッ……すまなかったな、ちっせぇ器で。だが体と共に大きくなるからな、見ていろ」


「いつも見ていますわよ。それより白狼さん?体の方は大丈夫ですの?」


「……うむ」


 グローザの言葉に頷いて返事を返した白狼だったが、それだけだった為少しだけ間が空いてからグローザが再び喋り始める。


「そ、それなら良かったですわ……。その、白狼さんの鎧と刀は勝手ながらわたくしが回収して直しておりますわ。それが直ったらすぐに…」


「要らぬ」


「は、はい?……要らぬ?ど、どうして」


 白狼の武器と防具を直して返すつもりでいたグローザは予想外の言葉に困惑し、俯く白狼の顔を覗こうと椅子に座ったまま前屈みになる。


「もう某には不要だ。溶かして素材にして構わぬ」


「そんな……大事な武器と防具だと前に仰っていたではありませんの。一体なにがあったんですの?」


「よせグローザ。我が聞いても口を開かぬのだ、お前が聞いても結果は同じだと来る前に言っただろう」


「うっ……す、少しずつでも良いですのよ?例えば、そうなる前の話やあの場所へ行くことになった経緯とか……あっ、でも話したい時で良いですわ!無理に話しても辛いだけですものね!おほほっ……そ、その……サラ!貴女もなんとか言ってくださいな!」


「散々言ってる。だが言わぬのだ」


 グローザに助けを求めるが既にかけられる言葉をほとんど言い終えていた王女は腕を組んでため息を吐くしかできることが無く、口元を歪ませることしかできなかった。

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