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説教より面白い話

 女性冒険者を馬車で迎えに来たグローザとギルド前にある通りで合流していた王女は庶民のような格好をしているとグローザに笑われ、不満そうな表情を見せていた。


「グローザ、さっさと連れて行かぬか。我は銅像では無いのだぞ」


「アッハハハハハ!…い、いや、仮にも王女というのに何ですの、その格好は?フッ…ハハハハ!おな、お腹が痛いですわ」


「笑い過ぎだ、貴様。不敬だ、不敬」


「フ、フフッ……ふう、では後の事は任せてくださいな王女陛下。あっ!また面白い物ができましたのよ、近い内に見せに行きますわね」


「ああ、では任せたぞ」


 グローザは両手でスカートを摘んで持ち上げつつ、右足を下げて辞儀をした後、馬車へ乗り込んで王女へ手を振った。馬車に取り付けられた鈴が鳴り、ゆっくりと動き始める馬車の中で女性冒険者が頭を下げると腕組をしていた王女は軽く手を上げ、遠ざかっていく馬車を見送った。


「サラ様、彼女の職場のことについてギルドマスターに報告しておきました。“今から”動くそうです」


 ギルドマスターと話をしていたダイヤが外に出てくると馬車を見送った王女の斜め後ろに立って報告する。


「そうか、寝ぼけたことを言うことを期待していたのだがな」


「そのようなことはサラ様には言いませんよ。10年前のことで実力差があることは分かっているでしょうから」


「ふっ、10年前か。我がまだ5歳の幼児だった頃のことだろう?今だに心の傷が癒えぬか……フッフッフ」


 空を見上げて思い出し笑いをする王女を見てダイヤは王女の隣へ移動して横に立ち、右手を差し出すと王女は視線を空から彼女の手に移してその手を握った。


「うむ、こうして誰かの手を握るのは妙に落ち着く。姉上も兄上も我の手を握ってはくれないからな」


「フェレリメイド長が居るではありませんか」


「……手が冷えているからと断られるのでな、ここ最近は誰の手も握れていなかった」


 顔を見せないように顔を背けた王女だったが、一瞬だけ見えた悲しむような表情をダイヤは見逃さなかった。


「今日は私もサリアも居ます。サラ様は一人ではありませんよ」


「ふっ……何を言っている。気遣い無用だぞ、ソフィア」


「そうですか。忘れていなかったのですね、その名前」


「我の大事なメイドの名だ。当たり前であろう」


 ダイヤのもう一つの仮の名を呼びながら顔をダイヤに向け直した王女の表情は優しい笑顔になっていた。先程まで見せていた悲しそうな表情は無く、柔らかな笑顔を向けられたダイヤは一瞬だけ見せた表情のことは口にせず、ただ王女の手を離れないように少し力を入れて握った。


「お姉様〜!お待たせしました!」


「遅かったですね……サリア……」


 ギルドから遅れて出てきたサリアを見たダイヤはその姿に溜め息を吐き出しそうになる。


 彼女の左手には一つの焼きそばが挟まったパン、右手には牛乳瓶と昼食前の腹ごしらえをする義妹の姿がそこにあった。それを見たダイヤは王女に一礼をしてから手を離してサリアに近づいて行った。


「必要なものは揃いましたか?」


「はい!お姉様の言われたとおりに冒険者ギルドに登録してカードを貰いました!それからギルドのお店で焼きそばパンと牛乳を…あいて!」


 笑顔で言うサリアの頭へ軽い手刀を落としたダイヤにサリアはどうして叩かれたのか理解できずに首を傾げる。


「王女様のことを一人にしてギルドショップで買い物をしてはいけません。護衛として来ているのではないのですか?」


「うっ……そ、そうでした……滅多に来られないから浮かれてしまいました。ごめんなさい」


「次からは気を付けてくださいね。ギルドカードを作っていると思っていたので、何かあって遅れているのかと思いましたよ」


「お姉様、私は子供じゃないんですよ。立派な22歳の大人です」


 自信たっぷりに言うサリアにダイヤの目付きが仮面越しに変わり、手と手を前で重ねた彼女は一歩前へ出てサリアまであと一歩ぐらいしか間がないところまで詰め寄る。


「ふむ……大人であれば両手に焼きそばパンと牛乳瓶ではなく、ギルドカードを持って速やかに王女様と合流しています」


「む~…お姉様、久しぶりに会えたのに冷たいです。永久凍土みたいです」


 サリアは頬を膨らませ、不満を表情に表す。そんなサリアを見てもダイヤは一切動じることなく、サリアの説教を続けようとした。


「そんな顔をしても甘やかしませんよ。王族の側近として責任感を…」


「よいよい、そこまで気にする必要など無いぞ。我はそこまで気を抜いて外を歩いているわけでは無いのでな」


「しかし…」


「よい、説教など見ていてもつまらぬ。説教を見せられるくらいであれば、楽しいものを見せてもらいたいものだな」


「……わかりました」


 隣まで歩いてきた王女にそう言われ、ダイヤが頷いてサリアの説教を諦めた時。太陽が雲に覆われて周りが薄暗くなると遠くから雷鳴が鳴り響いた。


「雨が降ってきそうですね〜。そうだ、近くに良いレストランができたと聞きました!そこに行ってみましょうよ!」


「うむ、少々ダイヤと話したいこともある。そうするとしよう」


 ダイヤの顔を見ながら言う王女にダイヤは首を傾げた。彼女の反応を見た王女は手招きをしてすでに店へ向かって歩き始めていたサリアの後を追って歩き出した。


 何を話すのか分からず、店に着くまでの間も考えていたダイヤだったが結局わからず、店に到着した三人は店員の案内で個室へと案内される。


「ダイヤ、今回はサリアの隣に座るとよい。寂しがっていたのでな」


「えっ?良いんですか?サラ様」


「よい、我よりサリアの方が長くダイヤと一緒に居られなかっただろう」


「やった!ありがとうございます!サラ様!」


 ダイヤの手を引いて自分が座る隣の椅子にダイヤを座らせたサリアはため息を吐いて不満そうにしているダイヤを見て彼女の肩に手を置いたまま固まった。


「あれ?お、お姉様?私の隣…嫌でしたか?」


「いえ、そういうわけではありません。王族より先に座ることは失礼なことですから……」


「も〜お姉様。サラ王女はあんまり真面目な人は苦手だって言ってましたよ〜?」


「むぅ……そう教え込まれましたからね。なかなか難しいです」


「仕方ない、フェレリに教え込まれたことが身に染み付いているのだ。今はメイドではなく一般人なのだから難しく考えず楽にしてよい。どれ、メニューでも見るとしようか」


「メイド長に教え込まれたというのは……お姉様がメイドとして城に働きに行っていた時のお話ですよね?ずっと気になっていたんですよ!聞かせてください!」


 サリアはダイヤの隣に座り、王女がメニュー表を手に取って料理を決めようとしている中でダイヤは仮面をゆっくりと外してテーブルの上に置いた。


「私の話を聞いても面白くないと思いますが……サリアが義妹として来る前のことです。私は、サラ様の命によりギルドの受付からメイドの仕事をすることになりました」


「今から10年前。魔王を倒して、お姉様がやることをやって街にやってきて生活をしている時だってサラ様から聞きました。」


「そうですね……。あの時は……もう生きる気力もありませんでした。何度、首を包丁や短刀で切ろうとしたことか……」


「え……?お姉様が?」


「ええ、精神的に限界が来ていました。アトラルカに止めてもらわなければ死んでいたでしょう」


 首の傷跡を指で撫でながら言うダイヤを悲しそうな目で見るサリアはかける言葉が見つからず、ダイヤの肩に右手を置いた。


「えっと……ごめんなさいお姉様。私……」


「謝ることはありません。サリアにも私のことを知ってもらいたいですから」


「サリアが義妹となってからメイドとして城に住まわせているからな。ダイヤの過去を知る機会がなかなか無かっただろう?よい機会だ、ダイヤの口から過去のことを聞くとよい」


 メニュー表を見ながら言った王女にサリアが顔を向ける。


「サラ様は知ってたんですか?」


「当たり前だろう。一時とはいえ自分の側近のことを知らぬなど、気持ちが悪くて仕方がないのでな」


「半ば尋問でしたけどね」


「ふん、そうでもしなければ過去のことを話そうとしなかったソフィアが悪い。第一だ、私はまだ峰打ちで仕留めようとしてきたことを許していないからな」


「んん?峰打ち?何の話ですか?」


「それも話します。その前に少しばかり心の準備をさせてください」


 ダイヤが姿勢を正して深呼吸し、王女もメニュー表を見るのをやめて元の場所へ戻すと腕と足を組んで楽な姿勢になる。


 これから聞かされるダイヤの過去がどんなものなのか期待と不安を感じていたサリアもダイヤの肩から手を離して姿勢を正して彼女の横顔を見つめながら耳を傾けた。

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