空を舞う二匹の怪物
魔物、怪物などに頻繁に襲撃される国、ミッドリンガル王国。
ミッドリンガルは城を中心に少しずつ規模を大きくしていった影響で外壁と城壁に挟まれた複数の城下町が城を囲うようにして広がっている国であり、城下町は怪物などの侵入を想定して東西南北に3つずつ分かれた街がある。
一番外側は最も被害が多い為、冒険者や守備兵達の宿舎や訓練施設が多く立ち並び、内側の街は一般市民の街が広がり、更に内側の城下にある街には裕福層、英雄クラス冒険者、将校達の住まう住居が広がっている。
そんなこの街で最も襲撃が多く、壁の修復が多い東側の街では3ヶ月に一回ほどの頻度で、守備兵達では抑えられない強力な個体の怪物がやってくる。
「ぐわあぁぁっ!」
「クソッ!なかなか下りてこない奴だ!」
「負傷したやつは避難しろ!俺達が引き付ける!」
大人の人間をゆうに超える大型の飛竜が空を飛び回り、口から放たれる火炎ブレスを盾で凌ぎながら街を守る守備兵達が応戦している中、兵士達の顔色を青くさせる咆哮が遠くから聞こえてきた。
「おいおい……」
「マズい……もう一匹来たぞ……!」
遠くに広がる森から飛んできた緑色の飛竜が空を飛ぶ片割れの近くへとやってくると二匹の飛竜は空で円を描くように飛び始め、その下で様子を見ていた兵士達は盾を握る手を震わせていた。
「ちくしょう!代わりの魔術師はまだか!」
「狩猟任務に大半が出かけてるんだぞ。他の街から寄越すにしても時間がかかる」
「落ち着け!全員固まるんだ!魔術師が来るまで守備陣形で耐えるぞ!」
「「「おう!!」」」
巨大な盾と槍を持つ兵士達が集まり、空より来る攻撃に備えると片割れが急降下し、もう一匹がその後を追うようにして急降下してきた。
「来るぞ!」
守備陣形で耐えようとする兵士達の頭上から襲いかかった飛竜はブレスを吐いて盾を焦がし、追うようにして付いてきていた片割れが兵士達の盾へ自身の足を利用した突撃を行い、兵士達の陣形を乱して飛び上がるとそこへ間髪入れずに低空を滑空してきた飛竜が爪で一人の盾の横から奪い去っていった。
「盾が!!」
「後ろに隠れてろ!俺が守ってやる!」
「上だ!来るぞ!」
横からの攻撃で陣形が崩れる寸前まで追い込まれてしまった兵士達の頭上で空中浮揚していた飛竜が追撃のブレスをしようとした瞬間、兵士達の近くを走り過ぎていく人物が居た。
「お、おい……あれ…」
「ギルドの受付嬢じゃないか。何故ここに……?」
兵士達の側を走り過ぎて行った顔全体を覆う仮面と胴当て以外の防具を身に付けていない受付嬢に飛竜の視線が移り、受付嬢めがけて飛竜がブレスを放つと受付嬢はそれを素早く躱しながら飛竜の真下に行き、横から滑空してくる飛竜が受付嬢を狙って突撃してくると受付嬢は突撃してきた飛竜の頭を蹴って真上を飛ぶ飛竜のところまで跳躍した。
受付嬢は自身の背丈ほどある背負っていた剣を鞘から抜き、空中で体をひねると飛竜の左翼を一撃で切り裂いた。飛膜を切り裂かれた飛竜は空中で慌ただしく翼を羽ばたかせ、地上に下り立つと既に地面に足を付けていた受付嬢によって追撃を受け、右目を切り裂かれる。
目を切り裂かれた事で大きく後ろへ仰け反った飛竜は、ブレスを吐いて受付嬢に応戦するものの難なく躱され、懐に入り込んだ受付嬢によって更に体に傷を付けられていく。
「すげぇ……」
「ソードマスターみたいな動きだな……」
「おい!見惚れてないで負傷者を運べ!今の内に避難させるぞ!」
「あ、あぁ!わかった!」
受付嬢の動きに見惚れていた兵士が慌ただしく負傷兵を街へと運んでいる間、片目となった飛竜に更に傷を増やしていく受付嬢だったが迫りくるもう一匹の飛竜を見て受付嬢は飛竜から離れて距離を取る。
片目の飛竜の前へ守るように下り立った飛竜が受付嬢に向けて咆哮して威嚇し、それに対して受付嬢は静かに飛竜を睨んで次の行動を見ていた。
片目の飛竜が空へ飛び上がると街から離れて森へと飛んでいき、その後を追って飛び上がった飛竜も森の奥へと消えていった。
「よい連携だった。長く一緒にいるのだろうな」
そう呟きながら剣を背中の鞘へ納める受付嬢の近くに一人の兵士が駆け寄ってくると受付嬢は服に着いた砂埃を払って兵士の方へと体を向けた。
「すまない、助かったよ。だが、なぜ君が?」
「魔術師の代わりを探しましたが、あいにく手の空いている魔術師が見つからず、相当手強い怪物だと報告にあったので私が来ました。死傷者は出ていませんか?」
「ああ、寸前のところで君が来てくれたおかげで重傷者くらいで済んでいる。油断して魔術師を負傷させられてしまったのが大きな痛手だった」
「魔術による拘束を嫌って狙ったのでしょう。戦いに慣れていたようですし、油断せずとも結果は同じだったと思いますよ」
「今年の最強はあの夫婦かもしれないな。あんなに強いのとは数年ぶりに戦った。ところで君はどこも怪我をしていないのか?」
「問題ありませんよ。貴方は?」
「凄いな、俺は軽くやけどを負った。こんなに強い受付嬢がギルドにいたとは知らなかった。まるでソードマスターのような…」
「私、ソードマスターのことはあまり好きではないのでその話は遠慮させていただきます。それに負傷しているのならここで立ち話はせず、兵舎に戻って休養してください」
「お、おう……すまない……。でも、休めるかどうか怪しいな……」
兵士は受付嬢に背中を向けると兜を取って頭を掻きながら街へと戻っていった。兵士の首の後ろが赤く腫れ上がっているのを見た受付嬢は森の方を一瞬見た後、兵士の背中を追いかけた。
しばらくして冒険者ギルドへ戻ってきた受付嬢がギルドマスターへの報告を済ませ、報告用の書類を整理をしているところへギルドマスターがやってきた。
「おつかれ〜」
「お疲れさまです」
「久々に剣振ったんじゃない?ソードマスター君?」
「からかわないでください。私は女です」
「性別とか気にしてなかったくせに〜」
「貴女が気にしろと言ったからです。それに生き方を変えるのなら、自身の性別も気にしておくべきだと思ったので」
「昔は『某は性別など気にせぬ』とか言ってたのにね」
「記憶力が良いのなら、ここでは誰かに聞かれるかもしれないから止めてほしいと言ったのも覚えて貰えると嬉しいのですが?」
「私、そこまで注意力がないと思われてる?今は色々と忙しくて他の子は事務室には入ってこないから大丈夫だよ。それより最近、東側の森が騒がしいみたいで強い怪物いっぱい出てきてるみたいだよ。どう?久しぶりに体を動かすこともできるけど?」
ギルドマスターの言葉を聞いて手元にある報告用の書類に視線を落とした受付嬢は、撃退した怪物のことについて書かれた報告書を手にとってギルドマスターに差し出した。
「遠慮しておこう。目立つような行いは避けたい故、怪物と戦うのは街に危機が迫った時のみに留める。それよりも書類を頼みたい、アトラルカ」
「あいはい、分かってますよ。それじゃあ、受付嬢らしく仕事を紹介してきてちょうだいな」
「すまない、いつも世話を焼かせるな」
「慣れてるから気にしないよ。十年以上の付き合いじゃん」
ギルドマスターが報告書を手に取ると受付嬢は仮面越しに一瞬だけ微笑み、すぐに無表情な顔へ変えて事務室から出ていった。
「別に遠慮しなくてもいいのに」
ギルドマスターは手にした書類を持って受付嬢が座っていた椅子に腰を落とすと新しい紙を机の上に出し、台座に刺してある羽ペンを手に取った。
「ハハハ……もう十年近くこの仕事やってるのに全然書類書くの上手くなってないなぁ。最初よりはマシだけど〜」
内容がまとまっていない書類の書き直しをしながらギルドマスターは独り言を言った。かつて、ソードマスターの相棒として各地を巡っていたギルドマスターは懐かしい記憶を思い出しながら、今は普通の受付嬢として依頼の案内をしているソードマスターに昔の姿を重ねて一人で笑った。
書いたあとで気付きましたが、某人気狩りゲームぽっい感じになってしまいました。あのゲームに影響は受けていますが、参考程度にしつつ魔法や魔物などを出して徐々に離して行きたいと思っています。