後編
「ようこそ、サラ・フィーエ。そしてフィーエ家のみな」
私たちを出迎えてくれたのは黒曜国の王子・漆殿下だ。黒髪に銀色の瞳、頭に黒い鬼角を2本持つ美青年である。
「君たちがこちらに来てくれて、とても嬉しいよ」
「こちらこそ、家族を受け入れてくれて感謝の念に堪えません」
私は両親や兄、そして一家の退鬼師たちと共に漆殿下に一礼する。
「早速なのだが、サラ」
「はい。殿下」
「私と結婚してくれないか?」
「えっ、私は人間ですが、よろしいのですか?」
「もちろんだ。私はずっと君が好きだったが、婚約者がいる身だったからこそ諦めていた」
「―――そう、だったのですか」
まさか、漆殿下に想われていたなんて全く思っていなかった。
あの頃はメンザン王子の婚約者として受けるやっかみを受け流すのに必死だったからなぁ。
「私のプロポーズを受けてくれるだろうか」
「喜んで!」
ぶっちゃけ言って、漆殿下はとても優秀で性格もいい。何より、私の外見が平凡だと揶揄することもない。初めて会った時に、とてもかわいらしい。本心だと言ってくれたのは紛れもなく彼の本音であったと思う。
だから私はこの申し出を何の躊躇いもなく引き受けた。
家族も大喜びである。
―――こうして、亡命した私たち一家は、鬼族の国・黒曜国から公爵位を賜り、私の兄の妻として漆殿下の姉王女殿下が嫁がれた。とても美人で優しい義姉ができたことに私も大満足である。
そして私は王太子でもある漆殿下の妻、王太子妃となり、幸せに暮らしましたとさ。
***
その後聞いた話によると、退鬼師がいなくなったビハコール王国は、周辺の鬼族の国々に攻められ、国土を分割されて植民地になったらしい。王族は根こそぎ処刑で、メンザン王子とその婚約者になった侯爵令嬢も芋づる式に処刑されたのだとか。
元陛下は私たち退鬼師を国外に逃したメンザン王子を非難したが後の祭り。
退鬼師を失った人間の王国は滅亡した。
元々、退鬼師の名のもとに鬼族に偉ぶって不当な外交を強いていた国である。鬼族からの不満は相当なものであったし、他の人間の小国も退鬼師がいるというだけで、ビハコール王国に多くの利益を搾取されていたので、全く反論せずむしろ鬼族の側についたのだ。
だからこそ、ビハコール王国は滅亡し、今では鬼族の統治のもと、人間の小国は今まで搾取されて来た分の利益を正当に受け取ることができるようになった。
そもそも退鬼師とは何なのか?その実は、鬼族と人間の間を取り持って来た外交官の一族であり、鬼族と同等の異能を持つ者たち。その昔人間たちから迫害されて鬼族に迎え入れられたのを、人間たちが不当に奪い去り、鬼族に対抗する武器として飼いならしたのだ。
更には、王族との血の契約で、王族の許可がなければ国から出られないように。
当然鬼族たちは怒ったが、私たちが人間の国から出られなくて、王族との血の契約で鬼族が攻めてくれば強引に戦わされることも分かっていたので表面上は対等に外交を敷いてきた。
その外交の場には、鬼族の王子・漆殿下がおり、私も両親と兄についてよく殿下と遊んでいただいた。その縁もあり、再び鬼族の元に戻った私たちは、こうして今は鬼族の大国・黒曜国で幸せに暮らしている。
(おしまい)
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