自己紹介
「ところでエルトン、その子は新しい『銀翼』のメンバーか?」
「ん? ドロシーのことか?」
ローフが手綱を握る幌馬車の中、俺を抱えるディランが、馬車の奥で杖の手入れをしている少女を横目に見ながらエルトンに尋ねた。
これは正直俺も気になっていた。ディランが所属していた頃からの『銀翼』メンバーなら、もう少し年が上だろうからだ。
エルトンがドロシーと呼んだ少女は、ひいき目に見ても十代半ばにしか見えない。
まあ、これはとんがり帽子を深く被っているから正確なことは言えない。それに、ここは異世界だから見た目通りの年齢だとも限らない。
元の世界でも、アジア人は西洋人から見て幼く見えるというじゃないか。それと同じように、異世界にもそういう人種がいてもおかしくない。
「こいつは最近うちに入った二等級の魔法使いだ。過去一で強い」
エルトンがさも自分のことのようにドヤ顔を決める。
「マジか……その年で二等級かよ。最近の若いのは半端ねえな」
初めて聞いた単語だ。オリヴィアの聞かせてくれた話には出てこなかった。ランクみたいなものだろうか?
であるならば、二等級は相当凄そうだ。
「……」
当のドロシーは、我関せずという感じで杖を磨いている。が、よく見るとその口元がによによしている。満更でもない様子だ。
「ドロシー、こいつに挨拶してくれ。一応雇用主だからな」
「……ん」
ドロシーは杖を置くと、ディランの向かいに座り、それまで外すことのなかったとんがり帽子を、小さな膝の上に置いた。
お伽噺に出てくる妖精のように尖った耳が二つ、黒髪をかき分けてピンと立っていた。
「ほう、やはり君は魔族か」
「まあ、はい……」
「おいおい、そんなに怖がらなくていい。これでも俺は元『銀翼』のメンバーだぞ? 魔族だろうと人間だろうと同じ生き物だ。差別なんてしない」
「……ありがとうございます」
「俺はディラン・ウェントウィッスル。腕の中にいるのは息子のギルレイン・ウェントウィッスルだ。よろしくな」
「どうもです……エルトンさんやローフさんからお話は伺っています。えと、私はギルモア・ドロシーと言って……えとえと、私の故郷では名字を先に言うので、ディランさん風に言うとドロシー・ギルモアになります……これでも一応、二等級魔導士です」
「よろしくドロシー!」
ディランは俺を左手に移し右手を差し出した。ドロシーはその手をおずおずと握り、ひとまずの挨拶が終了した。