命の価値
長身の男の名はエルトンと言った。彼のクラスは盗賊で、先行して敵情を偵察したり罠の排除をするのだそうだ。
クラス!
何て響きのいい言葉なのだろうか。学校のクラスじゃあない。ここでの意味は役職だ。
エルトンが盗賊なら、黒髪の如何にも魔法少女然とした少女は魔法使いで、鬼と呼んで差し支えない大男は僧兵だろうか。
俺は彼らから目が離せなかった。
「しょうもない理由で俺たちを呼び出したのならぶっ殺すからな」
「おいおい、物騒だな。久しぶりに会ったんだからハグの一つでも交わすのがお約束ってもんだろ?」
「誰がお前なんかと」
エルトンが心底嫌そうに吐き捨てる。
「はあ、まったくお前たちは相変わらずだな」
鬼のような大男が大きな溜息を吐いた。
「ローフ、お前は優しすぎなんだ。こいつは『銀翼』を捨てたんだぞ」
エルトンがローフと呼ばれた大男を睨み付ける。
「捨てたんじゃない。コトブキタイシャだ」
ローフが何か言おうとしたのを遮ってディランが答え、腕に抱えた俺を三人に見せる。
エルトンは舌打ちをし、ローフはニコりと牙を覗かせた。黒髪の少女は我関せずとミルクを啜っている。
「茶番はここまでだ。早速本題に入る」
空気が変わった。
「早くしろ」
「話を聞こう」
「……」
三歳の俺ですらわかる。明らかに何かのスイッチが入った感じだ。
周囲の冒険者も、ディランを含めた四人の雰囲気の変化を感じ取ったのか、心なしか話している声が小さくなったような気がする。
「こいつはギル、ギルレイン・ウェントウィッスル。俺の子だ。こいつを俺と一緒に都まで護衛して欲しい」
エルトンが片眉を上げた。
「ガキを? んなもん、お前なら大して難しいもんじゃないだろうが」
「まあ待つのだエルトン。まだ話の続きがあるようだ。聞こう」
「……チッ」
「ありがとうローフ。ギルはこの一週間高熱にうなされている。最初はただの風邪だと思ったんだが、一週間も続くとそうも言っていられない。だから都の賢者に診せに行く」
「なるほどな、そういうことか」ローフが顎に手をやる。「言うまでもないと思うが、魔法医でもダメか?」
「村の魔法医も原因が分からないと言っていた。だから都へ行く。そのためにお前たちの力を借りたい」
「金次第だ」
エルトンがジョッキをダンッと机に置いた。
「わかっている」ディランは懐から金貨のみっちり詰まった革袋を取り出すと机に投げる。「これはうちの全財産だ。まだ安いか?」
「お金は要らない」
「黙れローフ。金は受け取る」
エルトンが革袋を掴む。
「おれたちは何度一緒に死線を潜り抜けた? 背中を預けた仲間からお金を取るなんてできない」
ローフがその手を押さえた。
「いや、いいんだローフ。これは貰ってくれ」
「ディラン……」
「こいつもいいって言ってんだ、手を放せ」
エルトンはローフの力が弱まったのを見逃さず、革袋をひったくると懐の中へしまい込んだ。