表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
魔素を見る、転生する  作者: 鉛風船
第一章 魔素を見る
7/12

『魔王』なんてまやかしだ

 俺の熱は一週間経っても引かなかった。その結果、俺はディランに連れられて都の賢者に診てもらうことになった。


 一週間も熱がある状態が続くと、三歳児の体力ではまともの起きているのもキツく、常時フラフラの頭せいで何かを真っ直ぐ見ることも難しかった。


 端的に言って、マジでヤバイ。下手をしたらインフルエンザ以上の辛さだ。


 この状態だと、風邪でも日々の鍛錬だ、なんて言っている場合ではなく、魔法を使おうものなら強烈な吐き気が押し寄せ、ジャニスとスージーが折角作ってくれたご飯をリバースしてしまうので、ここ二日は自粛せざるを得なかった。


 皮肉にも、そのお陰もあってか小康状態を保っている。


 出発するとき、俺を胸に抱えたディランが内心の焦りを押し殺した声で俺に問うた。


「ここから都まで寝ずに走ったとしても三日はかかる。だが、お前を抱えていくのは難しい。だから一旦ファスレインの街まで行って、昔の冒険者仲間と一緒に幌馬車に乗り換えようと思う。四日だ。その間我慢できるか?」


「……うん」


 俺は頷く。


「よし、じゃあオリヴィア、行ってくる。スージーも俺がいない間オリヴィアのことを支えて上げてくれ、いいな」


「気を付けて、二人で絶対……絶対に帰って来るのよ」


「かしこまりました、旦那様」


 まだ外は暗い。日が昇るのはまだ数時間かかるだろう。


 オリビアと別れのキスを済ませ、俺を抱えたディランが馬に跨った。


「そんな顔をするなオリヴィア。ギルは絶対に大丈夫だ。昨日も言った通り、ファスレインの街に『銀翼』の連中を何人か呼んでいる。都まで俺たちが命に代えても守るから安心してくれ」


「……うん」


「行ってきます」


「行ってらっしゃい」



             ◆◇◆



 俺はファスレインの街までの道のりをディランの腕に抱えられながら駆け抜けた。


 さながらシューベルトの『魔王』だ。幸い魔王の囁き声は聞こえてこないから、楽曲通りになることはないと思うけれども、油断大敵であることは変わりない。


 ファスレインの街は俺たちが暮らす村から一番近い街らしい。話に聞く限りではそこそこ規模の大きな街で、冒険者ギルドのギルドハウスもあるとのことだ。


 これから向かうのはそのギルドハウスだとディランが言っていた。


 そこに『銀翼』がいるのだという。


「あと少しでファスレインに着く! それまで頑張るんだ!」


 俺はそれに応える余裕がなかったので、代わりにディランの服を強く掴んだ。


「よしッ! 一気に駆け抜けるぞ!」


 ディランが馬に鞭を打つ。グンと後ろへ引っ張られる感覚と共に、頬に受ける風が強くなった。


 森を抜け丘を越え草原を駆け抜ける。


 いつの間にか空が白み始めていた。それまであれほど明るかった星々も消えかけ、月が舞台から追われ始めている。


 夜明けだ。


 空が晴れていて本当に良かった。


 雨など降ってみろ。間違いなく俺は体温を奪われてファスレインを拝むことなく死んでいただろう。


 ややをしてディランが叫んだ。


「ギル! 見えてきた! ファスレインの街だ!」


 俺は、馬上で揺られながらディランの指さす方を見た。確かにそこには街があった。高い石塀の向こうに、幾つもの煙突の煙が立ち上っている。


 そうか、皆は丁度朝ごはんか。


 そう思うと、無性にオリヴィアとスージーの作るご飯が食べたくなった。


 お腹が鳴る。


「よしよし、いいぞギル! 腹が空くってことは、まだ死にたくない証拠だ! 着いたらギルドハウスで何か食べよう!」


 既に街を防護する巨大な門は開いていた。行商人や旅人たちが門の前で出発の最終確認をしている。


 俺とディランはその脇を猛然と駆け抜け、目抜き通りを突きあたりまで来ると、広場に佇む一際大きな建物の前で止まった。


「ここがギルドハウスだ」


「……でっか」


 思わずそんな声が零れてしまう。


 ディランは馬を繋ぎ場に留めると、俺を抱えてギルドハウスのドアを勢いよく開けた。


 中は酒場になっていた。左側に大きな掲示板がある。きっとここでクエストを受注したりするのだろう。その近くに受付がいくつか並んでおり、まだ朝早いにも関わらず、受付嬢たちが忙しなく動き回っていた。


 流石に朝なので酒場はお酒の提供はしていないが、料理は提供しているようで、多くの冒険者たちが朝食を取っている。


 その中に一際目立つ三人がいた。


 一人は優に二メートルを超えている大男。聖職者のような恰好をしているが背中に背丈ほどもある棍を背負っており、鬼のような角と牙が生えている。明らかに人間ではない。


 一人はあまりに大きなとんがり帽子を被り、長い杖を持った小柄な少女。帽子でも隠し切れない長い黒髪背中で揺れている。


 一人は切れ長の目をした長身の男。腰の両脇に長さの違う二本の短剣を佩いており、明らかに素早さを意識した装備を着けている。


 ディランが彼らを見てニヤリと笑った。


 彼らもディランを見つけた。


 ディランは大股歩きで酒場の隙間を縫うように彼らの席まで行くと、余っていた席にどさりと腰を下ろした。


「それで? 俺たちを呼びつけた訳を聞かせてもらおうか」


 長身の男がディランに告げた。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ