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魔素を見る、転生する  作者: 鉛風船
第一章 魔素を見る
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休息日

 風邪を引いて三日が経った朝、ベッドで寝ている俺の元へいつものようにディランが来た。行ってきますの挨拶だ。


 熱はまだ下がらない。寧ろ上がっている。オリヴィアとディランは、村一番の医者を呼んでくれたけれども病状は変わらず、このままこの状態が続くなら都にいる賢者に診せに行くと言っていた。


「ギル、お前は強い子だ。病気に負けるんじゃないぞ」


 彼のひんやりと大きな両手が、俺の小さな手を包む。その力は俺からするとちょっと痛かった。でも、彼の優しい目を見るととても安心できた。


「ありがとうございます父様」


「本当は父さんもギルの側にいてやりたいが、お前のためにも仕事に行かなければならない。わかってくれるか?」


「もちろんです。お仕事頑張ってください」


「オリヴィアに似て本当に賢い子だ。何かあればオリヴィアかスージーを呼ぶんだ。よし、行ってくる」


「行ってらしゃい」


 ディランは俺の額にキスをして部屋を後にした。


 入れ替わるようにオリヴィアとスージーが入ってきた。さっきまで洗濯物を干していたようだ。二人とも空になった洗濯籠を抱えている。


「お加減は如何ですか、坊ちゃま」


「もう慣れました」


「その元気なら大丈夫そうですが、油断は禁物です。綺麗なお召し物と温かいご飯、そしてぬくぬくの毛布にくるまってしっかり治しましょう。今新しいタオルに替えますね」


「ありがとうございます、スージーさん」


 スージーが熱でぬるくなったタオルを冷たいそれに替えてくれた。


「風邪が治ったら、皆で見晴らしの丘でピクニックをしましょうね」


 オリヴィアがニコリと微笑んだ。しかしその目は笑っていない。


 俺は知っている。俺が風邪を引いてから彼女はまともに寝れていないことを。俺の風邪が一日でも早く治るように、夜なべして看病してくれているのだ。


 きっと、オリヴィアにとって初めての子供ということもあり、母親としての使命感が強く働いているのだろう。


 その後、スージーは俺の身の回りの世話をしてくれたのち、本業である家事をするため俺の部屋をあとにした。オリヴィアはベッド横の椅子に腰掛け、時々立ち上がって窓を開けたりしながら、努めて看病をしてくれた。


 そんな彼女に、俺が返せるものは少ない。


「母様」


「どうしたの?」


「一緒に寝てくれますか?」


「今は夜じゃないわよ?」


「知ってます。ダメですか?」


「もちろんいいわよ。一緒に寝ましょ」


「はい」


 一緒に寝るという口実で休んでもらおう。


 俺のベッドが大きくてよかった。本当は一人用だけれど二人で寝ても問題ない。俺は毛布を捲って隣をポンポンと叩いた。


「それじゃあ、お言葉に甘えようかしら」


 オリヴィアはニコりと笑い、俺の隣に横になる。彼女は毛布越しにトントンと寝かしつけてくれようとしたけれども、余程疲れていたのかその手はすぐに止まり寝息が聞こえてきた。


 俺はそれを見計らい、そっとオリヴィアの腕を抜け出しベッドの淵に腰掛ける。


 一つ言い忘れていた。俺は魔力切れを起こして昏倒し、泣きっ面に蜂と言わんばかりに風邪を引いた訳だが、実は魔法の鍛錬は毎日欠かさずに行っている。


 お陰で、熱で頭がふらふらしていても水の球を発現させることができるようになった。流石にまた昏倒するわけにはいかないので、魔力切れを起こさない程度にセーブしているものの、たったの三日で五つだったものが六つ召喚できるようになった。


 これは大きな進歩だ。


 それと、魔法を勉強していて、一つ心に留めておかなければならないことがある。


 魔導書が正しいとは限らない、ということだ。


 というのも、さっきも言ったとおり、俺の魔力量は徐々に増えてきている。しかし、魔導書には鍛錬で魔力量が増えることはない、と書かれているのだ。


 嘘を書かないで欲しい、と切に願う。


「それにしても、体がだるい」


 どうして下がらないんだ?


 前世では風邪など一年に一回程度しか引かなかった。しかも、一日休めば治っていた。


 まあ、この世界は元いた世界と比べて文化水準が低いので一概に言えるものではない。


 それこそ魔法で治せばいいのにと思うけれども、村医者が薬草を煎じていたことを考えるに、魔法も万能ではないということなのだろう。


 俺はいつもの鍛錬をこなしてから、再び熟睡しているオリヴィアの腕の中に戻り、風邪を治すために寝ることにした。

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