9 魔王領はホームグラウンドでっす
お久しぶりです。よろしくお願いします。
「ほえー」
目の前はかわいいログハウス。一人暮らし用かなという感じに小さい。家の前には小さな花壇があって、なぜかハーブがごっそりと。
「はなじゃないんだねー」
庭には畑。野菜がわんさか実ってる。成長早くね? てか季節無視した野菜が並んでるぞ?
「実用性大事だし?」
どうぞ、と招き入れてくれたリトちゃん(魔王。超美少女バージョン)に挨拶して足を踏み入れた。
「ほわー」
中はなぜか広々だった。広めのリビング、キッチンはテーブルを置いてもゆったり、奥に水回りと寝室かな。いや、2部屋くらいある? マジ広いな。
「みためとなかみがはんぴれーしとるー」
「リトちゃん魔王になる前のマイハウスへようこそー。空間拡張って便利だよね!」
「なるほど」
「リト、お茶淹れるよ」
「ありがと」
フードを脱いだ、あらやだ超イケメン。なお兄さんは、リトちゃんの旦那さまの魔王領将軍閣下である。
藍色の髪と目の高身長なお兄さんは、リトちゃんに対する執着心が半端ない忠犬ならぬ忠虎さんなのだ。
「あー、おかえりなさーい」
奥の部屋からほやーんとした口調で出てきたのは、茶色から灰色へとグラデーションのかかった髪と青い目のお姉さんだった。
「芳佳」
「あー、よっしーだー」
「魔王さまと閣下はおかえりなさーい。マナちゃんはいらっしゃーい」
この芳佳さん。魔王城にお勤めの魔道具師さん。ご先祖さまが落ち人だったそうで、魔道具オタクは遺伝らしい。
私が父への式神さんに添付した動画も、この芳佳さん作。
「て、どうでした?」
ワクワクと身を乗り出して尋ねた相手はウチのロリコン。ひゃあ、とか悲鳴が聞こえたけど、お前女子か女子なのかロリコン。
「え、えーと、起動して安定するまで時間かかるのがちょっと? あと動画がブレやすい気が」
「なるほど。改善の余地ばかりですね。他には?」
「え、え?」
さあさあ! と詰め寄られてるロリコンはわかりやすく焦ってる。芳佳さんの研究心と探究心は底なしだから、気の済むまで尋問されるがいい。
「落ち人の遺伝子は気が合うのかねー」
「にほんではいきにくかったろうしねー、ロリコン」
そう、ロリコンが私の護衛の理由のひとつが、彼が落ち人だってことなのだ。私が思いつきでなんかやらかしても、ロリコンならある程度のフォローが可能だろうと。頼られてるな、ロリコン。ロリコンだけど。
ある日突然家の庭に降ってきた男、それがロリコン。
「重力とかなんでこんなに素直にかかるかな! おれにも飛行石とかあってもよくね!? コンビニ行こうとしただけなのに超理不尽ーー!!」
とか叫びながら落ちてきた男は、まぁ同郷だろうからと風魔法で重力から解放してやったら、自力で着地した。軽業師かなと思ったらタダの身軽なリーマンだと。でもロリコンだった。
「つかえるならなんだっていいけどねー」
そんなわけで私のお守りなのである。
「あっちは芳佳にまかせとこ。マナちゃんはこっち」
奥の部屋へと私を誘導したリトちゃん。
「前にマナちゃんも凛みたいな相棒欲しいって言ってたじゃん? ロリコンくんだけじゃお守り足りないって」
言ったね! 凛ちゃんはリトちゃんの相棒の魔虎さんだ。真っ白なふわふわボディーにグレーの縞柄。ホワイトタイガーだよね間違いないなと思ったら、リトちゃんが育ててる時にうっかり白虎を想像しちゃったそう。
「凛がね、出産したんだけど、マナちゃん一匹どうかなって」
「マジですか!?」
寝室のベッドの脇には大きなカゴ。中にはリトちゃんの相棒の魔虎、凛ちゃんが寝そべっていた。お腹のあたりにちっちゃい赤ちゃん魔虎が! うごうごと! なにこれかんわいいんだけど!!
「凛がマナちゃんならいいって。子虎もそろそろ乳離れするし」
「い、いいの? ほんとに? いや、たいせつにするけども! え、マジで?」
「マジマジ。しばらくは魔力でおくるみみたいに包んどかなきゃだけど、マナちゃんなら大丈夫だろうし」
み、と凛ちゃんが鳴いて、一匹を鼻先でおしやってきた。お勧めってこと?
まだ縞柄が薄い小虎を、そっと抱き上げてみる。みゅ、と鳴く小虎と目が合った。
「女の子だね。名前、つけたげてね」
「なまえ」
菫色の私の魔力でくるんで、額を合わせる。
「だいじにするから、よろしくね。紫」
その日、私に相棒が爆誕した。
やっぱもふもふは必須だよね!