6 父の激怒は上限突破した模様
前回だけでは説明不足かも、と話を追加してたら長くなりました。
凍りついた玉座の間。
静かな、息遣いすら感じられないそこに、近づく声。
キャンキャン吠えるような声は高い。女性だろうか、他に少し低めの声が周りに怒鳴り散らすように響くが、他の声はない。
気配からしてふたりということはなかろうに。まあ、騒いでるのはお察しだけどな?
「相変わらず躾のなってない」
低い声に、玉座の主がビクりと肩を揺らす。そうだね怖いよね威圧半端ないもんね! てか、躾してないの自分だもんね!
「わらわを誰と思ってますの!? 王妃に対する不敬など、陛下が許すはずないではないの!! わらわに命令できるのは陛下おひとりなのよ!?」
吠えながら入室した、えーと、王妃? え、これが? あ、不敬ああいや声に出てないし?
薄いピンクの生地に、ふわふわなレースがこんもりと。所々に薔薇の花モチーフをあしらった、少女が着るならとても可愛らしいドレス。
とてもじゃないが、三十路を突破して上に手が届く妙齢の女性のお召し物には見えない。
いや、仮に童顔の可愛らしい女性ならまだなんとか、なんとか? ほうれい線とかさぁ……すくなくとも常識ある大人なら子供に譲るドレスだよなー。
「我が命じたのだ、王妃よ」
うん、虚勢だな国王。憐れみの目で宰相が見てんぞ? え、それでも国王だから? なにそれ美味しいの?
「陛下!? これはいった、い」
国王に噛みつこうと、くるくる縦ロールを振り乱して前を向いた王妃は、ようやく室内の様子に気づいた。騎士たちは入室断固拒否である。賢明な判断だなー。
「……まぁ! あなた、ア!?」
瞬間、王妃の口に現れる氷。マジで氷。喋れなくなるくらいに口いっぱいに氷。
「が、ア!?」
「学習能力もないのか、動物以下だな」
これ、氷の魔術師さまの魔術である。
氷の魔術師さまは、自分の名前(あだ名や略称を含む)を呼ぶ権利を、家族以外には与えていない。
周知徹底はされている。なので、国民はマジで名前を氷の(苗字)魔術師(名前)だと思ってる。それくらいマジな話。
なので、それでも呼ぼうとすると物理で口を塞がれることになる。そう、さっきのあれである。
「ちょ、なんなの!? ア!?」
さっきから氷を吐き出しては氷の魔術師さまの名前を呼ぼうとしてる王妃は、認められてない事実が見えない。脳みそお花畑だから。
国王だって呼べないのに、横恋慕してくる阿呆に呼ばせるわけないじゃん。バカだねー。
「王妃よ。そなた、氷の魔術師の息女を捕らえようとしたのは誠か」
「まあ、陛下? わらわの子とア!? ア!? ア!? もう! なぜ氷がでてくるの!!」
しつこいなー。話にならないし、意味も理解できんわ。
「つまり、第一王子殿下と氷の魔術師のご息女を婚約させることで、氷の魔術師と縁を結ぼう。と、こういう事ですか?」
ナイス宰相。わかりやすー。
「致し方なく、よ! 本当はわらわとア!? ア!? ああもう、氷が邪魔!!」
「誰が阿婆擦れなんぞと縁を繋ぐものか」
ポソりとこぼされた呟きは、ギャンギャン騒ぐ甲高い声に消え、国王の肩を落とさせ、宰相の同意を得た。だから一時の熱に浮かされて嫁取りをするなとあれほど説得したのに、周りの意見を無視した結果なのだ。
自業自得因果応報親の因果が子に報い。てかあの王妃に育てられた王子がまともに育ってるのか? と思うだろう。安心してほしい、第二王子の子育ては宰相が選んだエキスパートたちがしている。
時々現れるお花畑が母親でもないのに母親面して話しかけて来るのと、内容が理解できないのとでドン引きしたりしてるが、一応王妃なので無碍にできない模様。子供だしな。
しかし、今回ので接触もなくなるだろうな。母親である側室も安心だろう。やったね!
ただ、王妃による英才教育を受けちゃった第一王子は、その無下にできない子心が最悪の方向にシフトしてダッシュかまして後戻りできないだけだ。うん、どうしようもないな!
「国王、あれらをどうにかできないのなら、我々は見限る」
むしろ即決しちゃいたいが、そこはほら、一応臣下だからね。
「脅しか?」
「脅される理由が?」
「だから、負けると知っていてなぜ歯向かうのです、陛下?」
宰相にすら負ける国王だからね!
イケメンとはいえ、四十超えのおっさんが、諦めと悲しみの目でウルウルしたって、キモいんだよねまったく。
マナ父はマナ母に恋に落とされて溺れて酔って愛に生きる人です。ただし家族限定でしか人になりません。マナさんとお腹の赤ちゃんも溺愛モード爆進中。