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5 父の怒りはパねえっすので

オトンは家族以外には導火線がありません。短気です。

「……で?」


 低い低ーい、とても怒ってる声が静かに響く。


 王宮、玉座の間。


 玉座に座した国王陛下の前に、腕組みして仁王立ちのイケメンがひとり。


 マナさんの父、氷の魔術師さまはとてつもなく怒っていた。


「報告書以上の内容などない、と何度使者に伝えてもわたしに来るようしつこくしつこくしつこかったのはどういう理由ですかね」

「いや、あの、な」


 国王陛下の方がタジタジなのはなんでだろう。そして知らんぷりの宰相。お前主君を守らんでいいのか? いいのか。


「まして、なんの脈絡もなしに我が娘を呼びつけた理由を、きちんと説明いただけるのですよね?」


 そう、使者はマナさんも王都に来いとか抜かしやがった。即断った。そのまま追い出した。部下に手厚く送り出すよう指示したので、使者は感激の涙で帰ったはずである。


 決して強面のゴリゴリの野郎共からの圧迫面接などしていないったらしていないのだ。事実はそれ以上なので。


 マナさんは辺境伯領のアイドルなのだから。ロリコン疑惑の使者など死すべし、二度と来んなわかったか、と。野郎共の心はひとつである。


 護衛にロリコン変態犬がいることは周知の事実だが、対象は見てるだけが信条なのと、護衛の腕はピカイチという理由で不問なのはマナさんの希望である。


 辺境伯領は実力が全てなので。


「いや、だから、のう、宰相?」

「わたしに振らないで頂けますか」

「助け船とかないの!?」

「ありませんね」

「誰でもいいから答えろや」

「(ひいぃ)いや、だからあれだ、ほら、魔王領の、だな」


 ガチの威圧に押されて、国王がうっかり本音をポロリしやがったので、宰相は静かに国王から離れた。賢明な判断であろう。


 触らぬ氷の魔術師に祟りはないし、物理に巻き込まれたくはない。命大事に、判断ミスはマジで命取り。


「……なるほど。つまり、隣国との小競り合いと魔王領からの魔物被害が頻繁(ひんぱん)にあった我が領で、屋敷に帰るのもままならなかったわたしが、なぜか屋敷にいる上に、さらに隣国からの間者をきちんと把握できている理由が、我が娘にあると。そう、勘違いも甚だしい間違いを犯し、ならば娘を王子とでも結婚させようとでも考えたか。浅慮(あさはか)にも程があるな。消すか?」


 (なげ)ぇよセリフ。よく噛まずに言えるもんだ。しかも怒りのボルテージがぐんぐん上がって、魔力が漏れてますがな。最後物騒な一言に誰も突っ込めないし。


 氷の魔術師と言われるだけあって、玉座の間が氷に覆われていくんだが、いいのかこれ。いいのか、そうか。


 パキパキと凍りつく豪華な部屋は、温度をなくし、しん、と張りつめた空気を纏っている。寒いな。


 そこに、場違いなほどののほほんと、パタパタと小鳥が飛んできた。いや、どっから入った!? 締め切ってあるんだけど!?


「マナか」


 すい、と伸ばされた父の手に降りた小鳥は、ポンと形を変えて(さえず)り出した。なぜに拡声器。


『きんきゅーじたーいでーすおとーさまー』


 ちっとも緊急事態に聞こえないのんびりとした声だけど?


『かんこーしてたらへんなこどもにこえかけられて追いかけられたのと、マジあきたのでさきにかえるよー、いぬといっしょなのでしんぱいごむよーですー。()()()()()()はおまかせー、()()()でもおすきにどーぞー。あ、なさけはごむよーかとおもわれー、あまやかされたわがままこぞーにくにもりとかむりげー、てかゆうかいかんきんのうたがいありー。おとなってきたなーい』


 じゃーねー、という声を最後にボンと弾けて拡声器は消えた。代わりにA4サイズの板に映像が映し出される。


 そこには王妃付きの女官が、王子付き騎士にあれこれ指示を出す所や、監禁場所への誘導、既成事実の証人が証言する文言の打ち合わせ等、証拠の山がザックザクだった。


 視点からしてどこぞのロリコン犬が撮ったものだろう。よくやった。


「追いかけてきた子供とは、()()第一王子殿下ですかね?」


 気温がさらに下がった気がするんだけど? 吐く息が白いんだけど? 今夏なんだけど!?


「いや、あの、えー、と」

「誘拐監禁は宰相閣下の指示で?」

「存じません!」

「独断か。王妃殿下の考えそうな事だ。人質などと、恥を知れ」


 王妃殿下、国王の嫁なのに氷の魔術師に恋してるんだと。こんなの王妃として存在してるだけで罪だろうに。


「家の娘がね、『和解』でも『独立』でも好きにしろと言ってました。どちらがよろしいですか?」

「ど、どどど独立って、なにする気だ!? まさか隣国に併合させるつもりか!?」


 吃りすぎじゃないかな国王陛下。そんなわけないじゃん馬鹿なのアホなの勝手に死ねよとマナさん父の視線は冷たい。


「我が領が独立するなら、併合先は決まってます」

「隣国でないならどこだというんだ!?」

「魔王領です」


 娘は魔王陛下のお友達ですから。


 さらっと言うには爆弾発言すぎる一言を落とした氷の魔術師は、くだらんことで呼び出した落とし前を要求した。もちろん、王妃の処罰も込みで。


 氷の槍で視界が塞がれるって、かなりの視界と物理の暴力だよね、寒っ。



マナさんの父ですからねー。この父だからのマナさんです。

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― 新着の感想 ―
[一言] すごく面白かったです‼ 才能の違いにちょっと(いや、かなり?)嫉妬しちゃいました。 どうやったらこんなに面白い作品が書けるんですか? しかも、ブックマーク登録者数や評価ポイントがかなり高くて…
2022/01/12 19:00 退会済み
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