15 鳥籠は行くよ、地獄まで
話数についてはもう言及しません(泣)
誤字脱字報告感謝です。いつもありがとうございます!
学院を卒業すると同時に婚姻した、氷の魔術師夫妻は領地に引きこもりになった。なんの問題もない、困るの国王と宰相だけ。ざまぁ。ちなみに王妃はキィーッとハンカチを3枚噛みちぎった。
なんとかして王都に、国の中枢に、と画策するも、領地と家族以外大事じゃない氷の魔術師に軽く一蹴され続けてる。最近じゃスルー一択ですがなにか。国王の我儘になにか反応してやるのも馬鹿らしいってことだね、よくわかりますぅ。
王妃の暴走は年々凄さを増すばかり、国王の頭頂部は益々寂しくなるばかり、宰相の飼っているクマさんはいっこうになくならず。
八方塞がり、遂に爆発どっかーん。がマナさんの王都行きの発端だったとか。ウーケールー(棒)
誰からも愛されて敬われているはずの王妃の周りにいるのは、学院時代から友人だった女官だけ。類友だと、本人達だけが気づかない。
自分の子供ですら、身分保証のための道具でありアクセサリーだった。
現実がまだまだ見えない王妃に、くすくすと軽やかな笑い声が降ってくる。
「愛されて当たり前? その程度の面で?」
傾国クラスの美少女に言われたら反論の余地もないな。
「氷のの妻になる? 名前も真名も知らないくせに?」
そらもう、アレには特に絶対呼ばれたくないと、氷の魔術師さまが魔術をこれでもかと重ねがけしてたからね。
「そもそも、魅了使わなきゃ誰にも相手にされないくせに、ナニサマなの?」
魅了? と王妃は聞いた事のない単語に首を傾げた。
そんな王妃に告げられる、残酷な真実。
愛されてきたのも、許されてきたのも、全部魅了の力のおかげだったのだ。
両親に、屋敷の人間に、無意識にかけ続けた力は、人を歪ませ王妃をねじ曲げた。
「国王にも使ったし、しかもガッチガチにかけたから、あれはなかなか解けないよね。じゃなきゃ王妃になんてなれる器じゃないじゃん」
王妃教育された? ないよね? だよねー。
ひとりで納得する魔王さまの言葉は、王妃には聞こえていなかった。
魅了で、周りが自分に優しかった? みんな愛してくれたのも?
なら、なぜ愛しのあの方はわらわを見てはくれなかったの?
「氷の程に魔力が強いと、あんた程度の魅了の力なんて届く前に消し飛ばしちゃうだろうね。そんな力がなくても氷のを魅了した奥方を見習いなよ」
ま、そもそも眼中にないんだけど。
その言葉はすんなり王妃の中に落ちた。
眼中にない。興味がない。だから愛されなかった? 奥方より、自分の方があの方を想ってきたのに。
そんな当たり前の事実に、今更気づいて力が抜けた。
「大丈夫。今の王妃さまになら、氷のは興味があるよ?」
膝をついた王妃に囁く甘い声。
「自分の家族を危険に晒そうとした、全力で叩き潰したい相手だもの」
全力で、叩き潰したい、相手。……わらわが?
「ガチ敵認定。人生最大級の憎らしい相手。憎悪の視線なら貰えるかもね?」
まさに氷の微笑? うわ、怖てか恐。
色々諸々含めてお花畑が枯れ始めてるが、そんなこと魔王さまには関係ない。
「このまま王都に着くまで遊んであげたいんだけど、あたしそこまでヒマじゃないんだよね。だから、置き土産しとくから。退屈しない旅にご招待」
魔王さまの言葉と共に、空間に現れる画面の数々。
それぞれに、人々が映っている。
「この国の人達の、あんたに対する忌憚ない意見。聞かれてると思わないから、超本音」
じゃーねー。ポン。と消える美女を見送る視線はなかった。同時に、馭者をしている騎士の肩を叩いて、フードの男も消えた。ひぃ、と悲鳴を上げた騎士は悪くない。
井戸で楽しげに喋る女達。
『さっきの馬車? みたいなのに乗ってたの、王妃さまなんだって?』
『そうなのかい? なんかゴテゴテ派手だったけど、キレイじゃなかったねぇ』
『あんなドレスにあたしらの税金が使われてるのはなんか納得いかないねぇ』
『似合ってなかったものねぇ!』
あはははは! 確かに! と大笑いの女達に、王妃は敬うべき至高の存在とは認識されていない。
王宮、文官達。
『おい、またアレがやらかしたらしいぞ』
『アレって、アレか? 今度はなにやったんだ』
『他にいるのか。氷の魔術師殿を怒らせて後宮に監禁されてたのに、抜け出して辺境に行ったらしい』
『は?』
『しかも転移陣を無断で使ったそうだ』
『はぁ!?』
『なんで問題しか起こさないんだろうな』
『いや、待てまてマテ。陛下はなにしてるんだ、氷の魔術師殿を失ったらこの国終わるだろ』
『もう遅いかもな。氷の魔術師殿がアレを嫌ってるのは有名だ。辺境でなにやらかしたかは知らんが、宰相閣下が倒れたと聞いた。この国大丈夫か?』
『陛下が甘やかしすぎたんじゃないのか? 真の王妃殿下と宰相閣下と氷の魔術師殿のおかげでこの国回ってるのに』
『今回ばかりは陛下も庇えないだろう』
『当然だ。てか遅すぎたくらいだ。さっさと廃位して幽閉すべきだったのさ』
文官達の愚痴はまだまだ続く。
あの画面も、この画面も、あっちもそっちも王妃への文句、愚痴、罵り蔑み。今までのやらかしてきた全てが、民の言葉で王妃に返ってくる。
正しく理解した王妃に、それらの言葉は鋭い棘として降ってくる。終わらない棘の雨に、耳を塞いで蹲った王妃に、安寧は訪れない。
ようやく王都にたどり着きます(笑)




