13 鳥籠は行くよ、王都まで
お久しぶりです。
こちらから多分、2話ほど王妃のお話です。多分2話。頑張ります。
お空はとっても青いのに、パカラッと鳴る馬の足音よか、後ろの金切り声がやかましい。ああ、無情。
男は、今日ほど王妃付き護衛騎士という己の肩書きを恨んだことがない。なぜ、今なのか。なぜ、今日なのか。
せめて別日なら、担当ではなかったというのに!
「ここから出しなさい! わらわを誰だと思ってるの!! 王妃なのよ!!」
知ってるわそんくらい。貴女ほどその肩書きが似合わない人はいないだろうに。義務を放棄して権利だけを貪る暴君め。
辺境の砦を出発してから早4日。食べる寝る以外はずっとこうである。無駄に元気な人だな、やれやれ。
ポクポクと進む馬車は、王妃の我儘ーー目立たない裏道を選んだら、ガタガタすぎて腰が痛いと罵られたーーから、街道を進んでいたため、人の目に触れる機会が多かった。めっちゃ多かった。
豪華な、デコルテめっちゃ開きすぎてるドレスは、民の稼ぎ、つまり税金で作られてる。大事に使うならともかく、あんな派手なだけでセンスの欠けらも無いドレスを、しかも汚しても気にしないどころか、新しいのを寄越せと叫ぶ醜さしかない、女。あれがこの国の王妃かー、終わったなーこの国。という民の言葉は王妃には届かない。届けよマジで。
お付の女官は早々にリタイアして、隅で小さくなっとるのに。てか、ここで現実に気づくなら、もっと早く正気に戻って王妃を止めとけば良かったのにな?
あの日。辺境の砦で氷の魔術師の愛娘がガチ切れした日。
騎士は無駄だと思いながらも、一度転移陣へと向かった。騎士は入れたが、鳥籠は拒否られた。やっぱりな、と在駐の魔導師に国王への報告を頼んだ。
苦笑で肩を叩かれたが、嬉しくないしちっとも心が軽くならんし。
国王からの親書もここに返ってきたらしいが、朱文字で受け取り拒絶と書いてあったそうだ。拒絶って……と小さいご令嬢を思い出した。やりそうだなと。
むしろやらない理由がないけど? だってそれがマナさんだし。
「あらやだー、ホントに反省も絶望もしてないんだね」
みっともなく喚く王妃の後ろから、カラカラと笑う声。
「だ、誰っ!?」
振り向いた王妃は、目を見張った。
自分と女官しかいない空間に、人がいた。いや、人か? 人が空中にぷかぷか浮くのか?
絹のような艷めく銀髪を靡かせ、すらりと柔らかな流線を描く肢体は極上の総レースドレスを纏っている。紺から黒へのグラデーションは、色白の肌に映える。緋色の瞳が妖しげに細まった。
「あたし? あたしは魔王」
「……は?」
「名前は教えなーい。あんたに呼ばれたくないし」
「は!?」
「あ、あんたうるさいし反論の余地ないからお口チャックねー」
「な、もがっ」
答えも応えも望んでないのだ。なにせ心をぽっきり折りにきてるからな!
「マナちゃんとマナパパが忙しいからさ、新しい領民を歓迎してあたしが代わりに来てあげたよ」
ふわりとドレスの裾を靡かせて、空中に座った魔王さまは、悪役のごとくにやりと笑った。
「あんたのせいで、あんたの旦那である国王の領土が減ったよ? 氷の魔術師の領地は4日前にうちのになったからね」
マナさんが決断、氷の魔術師がした独立宣言は、王妃の帰還より先に王宮に知れ渡った。
マナさんのしきがみさん3号がいいお仕事をした模様。拡声器で王宮中に触れ回るとかさすがである。
セットで王妃のやらかしが事細かに語られたので、宰相を始めとした面々は納得するしかなかった。
ちなみに、国王には自分の嫁が他の男の妻宣言した諸々を映像エンドレスリピートで見せられている。現在進行形。今この瞬間もだ。
「そもそもさぁ、王妃って立場理解できてる? 国王を支える、国の礎であり国の母なんだよ? それが堂々と浮気宣言するとかないわー。相手に完膚なきまでに拒絶されてるのに、気づかないとかないわー。自分が好きになったら相手は自分を愛するとでも思ってんの? ないわー。氷のはガン無視で拒否って拒絶してんじゃん。あれは嫁と子供たち以外は一律他人って考えな人だよ? 自分の領民は守るけど、後は知らんな家族に全振りするような人だよ? 見たらわかるじゃん? つけ入る余地すらなかったはずじゃん? なんでわかんないの? アホなの?」
モガモガと反論らしきものをしてくる王妃に、リトさんは鼻で笑ってやった。
「氷のと会話したことある? あれの笑顔見たことある? 惚気は? いやー、嫁と子供たちの話になると饒舌。あんなに話せるんだね。嫁の話なんか聞いてみなよ、止まらない上になんか色っぽすぎて無理。氷どこ行ったのって感じで」
モゴ、と王妃の口が止まった。
「帰ったら色々修羅場だね? まぁ、言い訳が通用するどころか、聞いてもらえたらいいね?」
マナさんのソウルメイトなリトさんは、まだまだ続くでー、と魔王さまモードでにやりと笑った。にやり。
魔王さまの本領発揮? は次回です。今回は挨拶がわりのジャブです、多分。




