11 とち狂ったお花畑の住人に常識はない
よろしくお願いします
敵襲の一報は、父を氷の魔術師へと変身(違う)させ、母は女主人の顔になった。
「警戒態勢を! 情報収集を急いで!」
「結界があるから何れ関所に辿り着くはず。一般人の避難と囲い込みを」
「「はっ」」
いやー、さすが辺境伯夫妻。いざと言う時の反応と判断が素晴らしい。
……だけども。
「ははさま。むりしてはだめです。そろそろなのでしょう?」
「……マナ」
「マナ?」
母さまの顔色が悪い。脂汗が浮かんで立ってるのがやっとっぽい。お腹を押さえる手が震えてた。陣痛きたこれ間違いない。
「とーさま、ははさまはごしゅっさんにはいります。あとはおひとりでなんとかしてください」
侍女さんズが慌てて母さまを両脇から支える。ほっとして力を抜いた母さま。さすがです。
「マナ、あとは……」
「おまかせください。みんな、よろしくね」
「はい、マナさま。奥さま、参りましょう」
寝室へと運ばれて行く母さま。産婆さんは待機してたし、準備は万端。私たちにできることは無事を祈ることだけだ。
「さて、いこうか。とーさま」
「いや、マナはるすば」
「さっさとおわらせないとまにあわないでしょーが。ほら、いきますよー」
やかましいって怒鳴るとこだったわ、危ない危ない。
「わらわを誰だと思ってるの!? ア!? ア!? っもう! 氷の魔術師さまの妻になる女なのよ!?」
いや、ならねーよ。てかなれねーよ。
「ならばわらわが女主人! ア!? ア!? もう! そなた達の仕える主人なのよ!!」
相変わらず父の名前を呼ぼうとしては、氷を作り出してる阿呆は、ピンクのドレスを揺らして叫んでいた。
動きにくそうな、のはちょっとぽっちゃりなせいか? てかあれ、ほんとにこの国の王妃なのか?
あのドレス、旅には向いてないと思うんだ。夜会用のデコルテ全開の派手で重そうなドレス。辺境には不釣り合いな、豪華さだけを求めてるからだろうか。似合ってないからだな、きっと。
王都から着て来たんだろうか、あれ。馬車で二週間以上かかるはずだけど、まだあれから2日。なのにこの短期間で辺境伯領地へ来てるってことは。
「転移陣を使ったか」
「あの、こくおーへーかのきょかがひつよーで、しかもまりょくをべらぼーにしょーひするっていう、あれ?」
「ああ。国王の許可を取ったのか、それとも無理矢理か」
「どっちにしろこくおーゆるすまじ」
「全くだな」
父との約束を即行で反故にしやがった国王に持つ敬意は最早ないな。最初からないけど。
転移陣というのは、王都にメインゲートがあり、そこから四方の辺境手前に一瞬で移動できる魔法装置のこと。
国家魔導師の魔力が5人分くらい必要なので、緊急時以外の使用は国王の許可がいる。てか、国王に辿り着くまで書類にたくさんのサインが必要だから、めったに使われない穀潰しな装置なのだとか。
王妃はひとりじゃなかった。侍女がひとりと子供をひとりつれている。横にいる騎士は逃げたそうに両手を上げて降参ポーズだけど。無理矢理です、と? 信じる根拠がないな。
「そうですわ! 我が国の王妃殿下がこんな辺境如きに降嫁してくださるというのです! 額づいて懇願するのです! そして氷の魔術師殿は跪いて王妃殿下に求愛なさいませ!!」
侍女が高らかに宣う。え、この人そんなに偉い人なの? それに、王妃は降嫁できんだろうよ、アホなの?
「王妃の侍女は、学院時代の学友だったはず。確か男爵令嬢だったな」
「おーひのいをかるめぎつねかー」
「そんなに学はなかったはずだがな」
「がくがあったらこんなことしないとおもうの。てかおーひにそんなけんりょくってあるのー?」
「ないだろうな」
ですよねー。
ぽん、と私が手を叩くと、空中に文字が浮かんだ。
お断りです。
うむ、我ながら良くできた。さて、開戦の準備だな。売られた喧嘩は買わねばなるまい。高値でな!
回避か、ド派手にいくか。どうしましょう(笑)




