1 お約束的始まり
新作始まります。よろしくお願いします。
王都郊外にある森。王都を囲むようにあるそれは、王都を切り離すかのように広く深い。
日が落ちる前の薄暗い中、森の木々を縫うように避けて走る人影がひとつ。まぁ、私たちなんだけど。
「散開ーー!!」
「応!!」
蹄の音と鎧の擦れる音が不協和音を大量に生み出すカオス。てかうっさいわ。何人いるのさ。
ただの五歳児ひとり捕まえるのに一個師団投入って、なんの冗談ウーケールー。
こちとらヒョロガリロリコンの背に引っつく可憐な貴族令嬢だぞ? 馬代わりにしてるが、ロリコンは足で走ってるだけなんだが追いつけないとかこれ如何に?
瞬足揃いの軍馬に生足で対抗するロリコン。
「かおすやなー」
「お嬢、のんびりしてる場合じゃないだろって」
「だってわたし、はしるのすきじゃないしー」
「問題そこ!?」
「しょうがないからロリコンのせなかもがまんだしー」
「ロリコン言うな!」
「ちがうの?」
「……違わない?」
ロリコンじゃん。
「いや、だからそうじゃなくて」
「なによ」
「この先進路はどっち? 一応領地には向かってるけど」
「うん。ちょっとひだりにしんろへんこー。まのもりけーゆでかえるよー」
本当は真っ直ぐ帰りたい。が、追っ手を撒きたい。ウザイんだもん。
「魔王陛下に連絡は」
「さっきしきがみさん、さんごーとばしたよー」
「あー、迎えに来そうだな」
「リトちゃんヒマきらいだしねー」
「お嬢がやらかしすぎなんじゃね?」
「こんかいはふかこーりょくだもーん」
「まあ、確かに」
おとんには悪いが、和平でも独立でもどっちでも好きにしてきたらいいと、こちらも式神さん2号を送ってある。魔力って便利。
ま、愛娘を誘拐監禁した奴らに情けは無用とも伝えたがな!
「容赦ねー」
「いる?」
「いらねぇな」
「じゃぁ、とんでー」
「へ? う、わああぁ!!」
私の一言の次の瞬間、地面がないとか思ってなかっただろうロリコンは、叫びながら落下した。
当然、背中にいる私も一緒に落下である。
ドレスなのにねー。
「崖なら崖って言ってーー!!」
私の銀の髪が風に流されていく。長いんだよね切りたいんだよね許可降りないけど。おかんの命令は絶対です。
「いったらひめいあげないじゃん、リアルかんださないとねー」
「そんなリアルいらんわーー!!」
涙目のロリコンより、気にするのは上だ。
私たちの落下を目の当たりにした騎士団の連中は、崖を馬で降りることができないと知るや、崖下へと回り込むために移動を始めた。
しかし、動揺してるのが馬にも伝わるのか統率がとれてないようだ。お馬さんは繊細だからなー。
そらなー、絶壁に追い込んで捕獲予定が飛ばれちゃったらなー、責任問題だし後味悪いもんなー。
私たち生きてるけどなっ。
そもそも落下はしたが、森の木々に隠れて横移動中だ。空中浮遊べと言ったろう? 魔力って以下略。
ついでに認識阻害も使ってるので見つかりはしないだろう。旅はゆっくりしたい派なのだ、私。
「しばらくリトちゃんとあそびたいけど、さいたんでかえるよー、かあさましんぱいだしー」
「臨月の妊婦に負担だらけの報告すんのか、平和は産むまでか」
「うちのさいきょうへいき、おこらせることしたほうがわるいのねー」
いつの世も母は強しなのだから。
今年もお世話になりました。皆さまよいお年を!