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第七十九話 敗北の代償

年末ギリギリの更新ですね。

今回は短めです。

 目を開くと、そこは淡い青色の空間だった。

 またしても俺は己の精神世界に来てしまったようだ。

 ただし、前回と違うところがある。


「何故に布団が無いんだ?」


『邪魔なので片付けておきました』


 俺の疑問に答えるように、女神様の声が唐突に響く。

 どうやら布団が無くなった原因は女神様らしい。相変わらずの傍若無人さには、呆れさせてくれるものだ。

 ホント、いつも通り過ぎて安心感すらある。


「仮にも俺の精神世界なんだからさ、勝手な真似はしないでくれないかな?」


 無駄と察しつつ、苦言を呈してみる。


『そんなことはどうでもいいのです。それより、見事な負けっぷりでしたね』


「どうでもいいときたか……まぁいいや」


 予想通りの反応だった。こんなやり取りはこれで何度目になるのやら。

 とはいえ、引きずったところで建設的な会話にならないのは、もう身に染みてる。だから、今回もいつも通り諦めて話を進めることを優先しよう。


「確かに負けた。だけど言っておくが、タダでは負けてないぞ」


『ええ、オリディアの覚醒はいい収穫でしたね。正直に言いますと、あの展開はわたしも予想外でした』


「女神様でも予想外ときかか。しっかし、オリディアがあそこまで強くなるなんてな」


『さすがはゴルディアたちの後継者といったところでしょうか。少々侮っていました』


 “後継者”という言葉が引っ掛かった。

 しかし、これまでのことを振り返ってみると、オリディアは何かと特別扱いされていた。それも眷属竜であるヴェントやフィアンさんが気を遣う程に。

 それに、ゴルディア様はオリディアのことを娘のように扱っている。となると、後継者というのも納得である。


「で、覚醒したオリディアはどうやって攻略すればいいんだ? 難易度が爆上がりして攻略の糸口すら掴めそうにないんだけど。ぶっちゃけると、もうお手上げだぞ」


 ただでさえ『金竜の加護』を発動させた状態は厄介極まりない。俺がオリディアに手痛いダメージを与えられたのは、油断していたのが大きいからだ。次は油断するとは思えないし、そう上手く事が運ぶことはないだろう。

 故に、次の戦いではさらなる苦戦は避けられない。

 だというのに、あの女神様でさえ想定外の覚醒によって超強化ときた。その強さは言わずもがなであり、俺が万全の状態でも勝てる見込みは限りなく薄い。間違いなく断言できる。

 あの覚醒の前では、苦戦どころで済まされないのは必至だろう。


『安心してください。当てはありますので』


 こちらが内心で頭を抱いているというのに、安心できる要素が一欠片も無い女神様の返答がやってきた。

 具体的なことを言わないから、期待してもいいのか怪しい。むしろ余計に不安を煽ってくるまである。


「“当て”っていうのは何のことだよ?」


『時間が無いので、今は説明できません』


「少しくらいは説明しろよ! というか、どういうわけか後一回しか挑戦できないんだぞ。どうなっているんだ。女神様は本当に何も知らないのか!?」


 さすがに我慢できず、声を荒げてしまう。

 そして、今まで不思議でしかなかった変更についても問い質そうとした。おそらくだが、俺の知らぬ間に女神様とゴルディア様が交渉をした可能性が濃厚だと思う。

 でなければ、急な変更などしない筈。もちろん推測の域を出てない。が、この説が正しいとほぼ確信している。

 何故なら……。


「その“当て”とやらと急な変更が関わってると思うんだがな。違うか?」


『ふむ、カイトにしては良い線をいってますね。ですが、ここまでです』


「何?」


 否定はされなかった。むしろ肯定的だったようにも感じられる。

 それでも、些事だと言わんばかりに一方的に話を切り上げてきた。

 俺としても収穫があったから、切り上げるのは別にいい。だけど……結局のところ、女神様は何が目的で俺の精神世界で接触をしてきたんだ?


『一つだけ危惧していることがあるため、忠告しておきたかったのです』


「危惧だと?」


 女神様がわざわざ対話の場を設けなければならない程に、重要なことだというのか。

 というか、忠告が本命なら真っ先に言えばいいのに。

 まぁ、傍若無人な女神様に言ったところで無駄だろうけど。


「それで、何を危惧しているんだ?」


『目覚めてすぐに分かることです。心が折れないように、強く気を持ってくださいね』


「いや、だから具体的に教えてほしいんだけど」


 これまた随分と具体性が欠ける忠告である。

 女神様がいうには、目覚めてすぐに分かるらしい。でも、気を強く持たなければならないとは、一体全体どういうことなんだ?


『その様子だと、本当に何も分かってない……いえ、忘れているようですね。まぁいいでしょう。後はカイト次第です。わたしは愉しませていただくとしましょう』


「おい待て。最後に不穏なことを……」


 しかし、残念ながら言い終えることは叶わなかった。

 淡い青色の世界に激しい光が差し込んできたからだ。


「はっ」


「ようやくのお目覚めね。まったく、丸一日経たないと目覚めないのは考えものだわ」


 目の前で、銀色の瞳と銀髪が特徴的な美の女神と見紛う絶世の美女が嘆かわしそうに口を開いていた。

 手には空の盃があり、俺の顔から水が滴る感触がした。

 俺を起こそうと水をかけたのだろう。そのことは別に構わないが、状況の確認を優先しなければ。

 目の前にはシーディア様がいる。その背後には、鉄格子らしき何かが視界に入ってきた。もう不穏な気配しかない。

 それとなく周囲を見渡すと、ここは薄暗くて冷たさを感じる石造りの部屋のようだ。やはり不穏でしかない。

 ただ、目覚めてからずっと不穏に感じていることがある。

 まず身動きが取れない。何かできつく縛られているようだ。そして地に足が着いておらず、宙に釣られているようだ。

 うん、碌でもない状況下であることを嫌という程に理解できた。


(さてと……聞くだけ聞いてみるか)


「あのー、この部屋は一体?」


「地下にあるごう……尋問部屋よ」


 一応は言い換えていたけど、どちらとも大差ないように思える。が、この状況下においては些細なことでしかない。

 問題は俺が物騒な部屋で何をされるかだ。


「カイト、どうやら忘れているようね」


「忘れている?」


 言われてみれば、シーディア様は戦いの後に何かをすると言っていたような。

 確かその内容は……あっ。


「まさか、俺の記憶を全て覗くと?」


「ようやく思い出したようね。なら、話は早いわ」


「いやいやいや、だからといって拘束する必要はないと思うんですけど」


「あなたが暴れるかもしれないからよ。実際にやってみれば分かるわ」


「まだ覚悟ができてないんですけど、あっ」


 口先の抵抗だけではどうすることもできる筈もなく、問答無用でシーディア様が俺の頭に手を重ねる。

 その瞬間、頭の中が掻き混ぜられるような感覚に襲われた。


「うっ……」


「安心なさい。今回は気絶しない程度には調節してあるわ」


 シーディア様の言う通りであり、前回と比べて酷く気分が悪くならなかった。

 これなら我慢できなくはないだろう。


「ほ、本当だ」


「でも、代わりに時間が掛かるから覚悟しておきなさい」


「具体的にどの程度の時間が?」


「半日程度かしら」


「半日!?」


 血の気が引いた。

 たとえ我慢できるとしても、この状態が長時間も続くとなれば話は変わってくる。ましてや気絶できないということは、一時的に苦しみから逃れられないというのと同義だ。

 希望を与えられたかと思いきや、実は絶望だったというオチは勘弁してほしいものだ。


(マズいな。これが半日も続くなんてシャレにならん。俺に耐えられるのか?)


「気絶はしないとは思うけど、壊れないように頑張ってちょうだいね」


「ひぃっ!?」


 俺の不安を加速させるかのようなシーディア様の言葉によって、恐怖を感じて小さく悲鳴をあげてしまった。

 我ながら情けない。だが、壊れるとはきっと精神的な意味合いであり、その末路は気が狂うか廃人になるかだろう。

 そんな末路は想像するだけでも恐ろしい。そして、女神様が危惧していたことがようやく理解できた。


(こうなることを予見していたなんてな。少しくらい教えてくれたってよかったのに)


 内心で女神様を恨みながらも、これからのことを考え、絶望しかけた。


(ま、まさかとは思うが……次の戦いが始まるまでこんなことが続くのか?)


 温泉でのゴルディア様との会話を思い返す。俺が敗北すれば、自由はなく客人として扱わないという内容を。

 故に、今の状況は序の口でしかないかもしれないのだ。


(客人として扱われていた際も散々だったってのに、さらに苛烈になるなんて)


「マジかよ……」


「勝手に絶望してるところ悪いけど、そんな調子だと三日間も保たないわよ。ゴルディア姉さまやオリディアたちも愉しみにしているんだから」


「三日間も……」


 今度こそ絶望した。

 事前に話し合って確定していた取り決めとはいえ、今の状況下で改めて聞かされると恐ろしく長く思えてしまう。

 ゴルディア様の容赦の無さは言うまでもないが、オリディアも俺に対して怒っているだろうから、どうなるか分かったものではない。

 いや、それ以前の話として俺は今日という日を耐え凌ぐ事ができるのだろうか?


「わたくしも壊れないように加減はしてあげるけど、カイトも精々頑張りなさいね」


「助け……助けて……」


 蚊の鳴くような小さな声で救いを求めても、都合よく助けてくれる存在はいる筈もなく、少しずつ精神的に負担が増していくのを感じながら、時間が過ぎてゆくのであった。

 まだ始まったばかりだというのに、気が遠くなりそうだ。


次回からカイトには色々と可哀想な目に遭ってもらおうかと思います。

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