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第七十三話 カイトの素性 ②

今回はあのお方が少しはっちゃけますね。

「それじゃあ話を変えるけど、君が谷底で戦った男について詳しく教えてくれないかな。ヴェントから話を聞く限り、そいつが特殊な魔道具で『風の加護』を封じていたんだろう?」


 フィアンさんはオリディアに気を遣ったのか、話題を変えるべく別の質問を投げかけてきた。これなら問題は無いだろう。


「ゾアのことですね。あいつは中々に強敵でした」


「君が手こずるなんて、只者じゃないね」


「ええ、その通りで。なにせ、ゾアは女神様と敵対している組織の幹部クラスの人物でしたから」


「それはまた、えらく大物じゃないか。そのゾアという男は何が目的だったんだい?」


「女神様が言うには“至宝の果実”が狙いだったようです」


「つまりネイアたちが狙いというわけじゃないんだね?」


「そこのところは何とも言えませんね。尋問しようにも、余裕が無くて殺さざるを得なかったので。結局は詳しいことは聞けず仕舞いです」


 視界の端ではネイアさんが僅かに身を震わせていた。

 冒険者を辞めて生まれ故郷を離れ、最終的には人であることを辞めてまで、ようやくこの地で怯えることなく暮らすことができていたのに、組織の連中に再び狙われている可能性が出てきたのだ。

 内心では気が気でないだろう。


「ふむ、だったらどんな戦いだったのか聞かせてくれないかな?」


「もちろんお安い御用ですよ」


 それから事細かく戦闘の内容を語った。

 思い返しながら語っていくうちに、あることに気がつく。ゾアの発言には気掛かりなことがあり、未だに理解するためのヒントすら掴めてないということを。


(“復活”に“悲願達成の最大の障害”といい、ヴェントよりも出会ったばかりの俺を優先して滅ぼすだなんて、本当に訳が分からないな。連中にとって俺は一体どんな存在なんだ?)


 不倶戴天の敵とでも言いたげな様子ではあった。

 ただし、俺自身は『南の街』の攻略を頓挫させただけである。それだけでも脅威とみなすには十分だろうけども、あの様子からしてそれ以外の何かがあるような気がしてならない。

 確かゾアが豹変したきっかけは、俺が『神格解放』を発動させた後のことだった。つまり『神格解放』に関する何かを知っているのだろう。そしてゾアや組織の連中にとっては『神格解放』を使う俺が驚異的存在なのだろう。でなければ、俺を最優先にすることはあるまい。

 だが、それ以上の事は何も分かりそうにない。あまりにも情報が少なすぎる。女神様なら何か知っていないのだろうか?

 疑問を抱いて思考を巡らすも、フィアンさんによって中断される。


「へぇ、『魔道具速成』というスキルに“アイテムボックス”か。厄介な組み合わせだね」


「あ、はい。確かに厄介でしたね。状況に応じてマジックアイテムを即座に作れますから。でもって、材料は“アイテムボックス”に収納しておけば問題ないですし」


「随分と強力なマジックアイテムを持っていたようだから、ゾアという男が万全の状態だったらカイト君は負けていたかもね」


「否定はできませんね」


 ヴェントに備えて長期戦を見据えていたからか、中には大量の食材やらテントが入っていた。仮にそれら全てが俺を倒すための資材だったとすれば、俺の方が殺されていたかもしれない。

 そのことを考慮すると、出会うタイミングが良かったと言えるだろう。

 それでいて、逃さず殺すことができたのは僥倖である。仮に逃してしまっていたら、次に相対する時には徹底的に俺の対策をしてうえで戦いに臨む筈だ。万が一にもそんな展開になっていたら、俺の敗北が濃厚だったかもしれない。


(しかし……ゾアが死ぬ間際に羽ばたいて行ったアレは一体何だったのやら)


 これに関しても未だに謎ではある。が、ゾアのことだから情報を送る魔道具である可能性がある。そのことを踏まえて、組織の連中には俺に関する情報が届いたと見てもいいだろう。これから先は、俺の対策をした敵が出てくることも想定するべきだな。


「ところで、君は“アイテムボックス”を回収したのだろう? 見せてもらってもいいかな」


「ああ、それでしたらオリディアが持っていますよ」


 いきなり自分の名前が出たことに驚いたのか、オリディアは虚を突かれたような顔になっていた。


「へ? あ~、これのこと? 前にネイアたちが“アイテムボックス”は便利だって言ってたから、ついでに回収したんだよね」


 そう言いながら、ネックレスに下げられた銀色のキューブを取り出す。するとそれを見たネイアさんは、すぐさま顔色を変えたのであった。

 何事だろうか?

 少なくとも、ゾアから回収した“アイテムボックス”について何かを知っていそうな反応ではある。


「申し訳ございません。よろしければ、詳しく見せていただきたいのですが……」


「いいよー。はいどうぞ」


「あ、ありがとうございます」


 “アイテムボックス”を受け取ったネイアさんは後で控えていた人たちに向き直り、何か小声で話し始める。

 ただ、真剣な様子であるのにもかかわらすその会話は一分も経たずに終わり、ネイアさんは“アイテムボックス”をオリディアに返すのであった。


「見せていただき、ありがとうございました。これはお返しします」


「うん、どういたしまして」


「ふぅん……今の様子を見る限りだと、君らが知る“アイテムボックス”ではないんだね」


「おっしゃる通りです。おそらく、別の街の冒険者が持っていた物と思われます」


「どういうことです?」


 フィアンさんは何かを察したようだが、俺には全く理解できなかった。それはオリディアやヴェントも同様で、不思議そうな表情を浮かべている。


「ねぇ、何が分かったの?」


「オレたちにも分かるように説明してくれないか?」


「かしこまりました」


 説明を求められたネイアさんは、色々と語ってくれた。

 まず、“アイテムボックス”とは一部の冒険者が女神様より授かったという数少ない貴重な代物であること。

 ネイアさんの知り合いの冒険者も“アイテムボックス”を授かっていたものの、その冒険者は消息不明になって安否が分かっていないとのこと。

 ただし、名前を彫っていると聞いており、オリディアが持つ“アイテムボックス”がその冒険者の所有物であったのかを確認したとのこと。


「そういうことでしたか。にしても、“アイテムボックス”が女神様のお手製だったとは……」


 仮にも神なのだから、作れてもおかしくはないか。

 だが、問題はそんな代物をゾアが持っていたということだ。ほぼ確実に、殺した冒険者から奪ったに違いない。

 しかも複数個存在しているようだから、例の組織がまだ他に所有している可能性はあるな。もし所有しているとすれば、残りは幾つあるのやら……。


「参考までに聞きますが、他に“アイテムボックス”を持つ冒険者は全員で何人ですか?」


「残念ながら、我々もそこまでは把握しておりません。ご期待に応えることができず、申し訳ありません」


「いえ、お気になさらず」


(後で女神様から聞けばいいからな。素直に教えてくれるか怪しいけど)


 ともあれ、複数存在しているということは何らかの形で敵方の“アイテムボックス”に苦しめられるかもしれない。一応、留意しておく必要がありそうだな。

 それと、もしも敵が所有していた場合は可能な限りその敵から回収しておきたい。俺にとっては、『神格解放』のおかげで破壊されかねないから文字通り『無用の長物』でしかないが、例の組織に悪用され続けるのは避けたいところだ。

 元の持ち主だって、それは望むことではあるまい。


「へぇ、この“アイテムボックス”って女神が作った魔道具で、本当は冒険者が持っていたんだよね。ねぇカイト、これってわたしが勝手に使っていいのかな?」


「別に気にしなくていいとは思うけどな。悪用されるわけでもないし。そもそもオリディアは可愛いから、あの女神様は喜んで使わせてくれるんじゃないかな」


「ふぇっ」


「どうした?」


 意気消沈してから徐々に調子を取り戻していたと思いきや、今度はハトが豆鉄砲を食らったような顔になって頬を赤くしていた。

 まさかとは思うが、こういったのには弱いのだろうか?


「だ、だってカイトがわたしのことを可愛いって……」


「事実を言ったまでだろ」


(見た目だけは本当に可愛いんだけどなぁ。だけど、中身がちょっと難ありなのが……)


「おいおい、口説くのは他所でやってくれよ」


 と、ヴェントが面白そうに笑ってからかってきた。俺にその気が無いのを察しているのだろう。

 とはいえ、万が一にも勘違いさせるわけにもいかないから否定はしておこう。そうしなければ後が怖い。


「口説いてるつもりはないんだけどな。さっきも言ったけど、気になる人がいないって答えたばかりだろうに」


「だってよオリディア。カイトって冷たいな」


「もぅ、そこは演技でもいいから、わたしのことが気になるって言ってくれてもいいのに」


「俺はそういう純情をもてあそぶような嘘は苦手なんでな」


 脳裏に金目当ての女どもの影がよぎる。

 見え透いた嘘をついて俺に近づいてきて、心にもないことを言っては俺をその気にさせようとしてきた。おかげで何度も心底うんざりさせられたものだ。本当に浅ましくて不愉快極まりない。

 だからこそ、そんな奴らと同類になるような真似はしたくはない。

 それはそうとして、はっきり否定したおかげかオリディアは元の調子に戻ってくれたみたいだな。今は不満気に片頬を膨らませてそっぽを向いている。

 後で八つ当たりされるかもしれないが、完全に立ち直ったようで何よりだ。


「さてさて、落ち着いたのなら話を続けてもいいかな?」


 仕切り直すようにフィアンさんがそう言った。

 俺としては異存はないし、オリディアもヴェントも同様で頷いて了承の意を見せる。それを確認したフィアンさんは、改めて口を開く。


「ゾアに関して気になることがあるんだけどさ、彼はどうやって魔竜を従えていたんだい? ここを襲ってくるかもしれないし、守護を任された身としては一応は知っておきたいんだよね」


「それに関しては……何も分かっていません。特別な魔道具を使っているようにも見えませんでしたし」


 あまりにも当然のようにワイバーンを従えていたが、フィアンさんからしてみれば異様に思えたのだろう。

 確かに、ランク『A+』に分類される強力なモンスターを従えるなんて、俺から見てもとんでもないことだ。それも十体以上も従えていたのだから、もはや非常識としか言いようがない。

 あれだけの戦力であれば、仮に軍隊が相手だったとしてもそれを容易く壊滅させることだってできる可能性はある。

 今にして思えば、ゾア個人が持つ戦力としては尋常ではなかった。


(そういえば、謎の銀騎士も足としてワイバーンを使っていたよな。やはり、例の組織は魔竜とかモンスターを従える方法を知っているのか?)


 だが、現状では知る由はない。女神様も組織に関してはあまり詳しくは知ってなさそうだし、ゲーム内でもモンスターを従える方法は無かったのだから、完全にお手上げ状態である。


「ふむ……君の様子を見る限り本当に分からないようだね」


「すみません……」


「いや、別にいいんだ。今は情報が少ないのだから、仕方ないと割り切ってこの話は終わりにしよう」


「それもそうですね」


 さすがにこれで質問は終わりだろうか。

 そう思って気を緩めたその瞬間、不意打ちのように頭の中で声が響く。


(では、少し身体を借りますよ)


「はぁ!?」


「どうした……っこの気配は⁉」


「カイトなのに、カイトじゃない?」


「三人ともどうしたの?」


「どうなさったのです?」


 俺の異常を真っ先に察知したのはフィアンさんで、ヴェントも気づきつつある。

 オリディアとネイアさんは何も理解できないまま、首を傾げるばかり。俺の口から説明したかったのだが、今回ばかりはそうもいかない。

 そして、俺の口が独りでに言葉を発するのであった。


『何が起きたのか、わたしから説明しましょう。少しの間だけカイトの体を借りています。久しぶりですねぇ、フィアン』


「あなたと言葉を交わすのは五十年ぶりでしょうか……」


「フィアン姉、オレは初めてだぜ」


「こ、この声はまさか……!?」


「カイトの声じゃない? いや、あなたは誰なの?」


 ネイアさんは声を聞いてようやく事態を把握して驚愕の表情を浮かべ、オリディアも異常を察知したらしく険しい表情を浮かべて警戒感を顕にしている。

 なのに、俺の体を借りた存在は意に介することなく飄々としてやがる。


『おやおや、せっかくの可愛らしい顔が台無しですよ』


 そして俺の顔で、俺の声色で、こんなことを言うから質が悪い。しかも上半身裸だから絵面が地味に酷いことになっていないだろうか。

 いや、この真剣な話し合いが始まる前から上半身だったのだから、もう今更でしかないな。


(それはさておき……けっ、女神様は相変わらずだなぁ。まさか勝手に人様の体を借りるなんてな)


(そう邪険にすることはないでしょう。このわたしの依代になれたことを光栄に思うべきでは?)


(自意識過剰にしては度が過ぎるぜ……)


 やはり会話にならない。

 安心と信頼の傍若無人ぶりである。

 しかし、女神様が俺の体を乗っ取ることができるなんて思いもよらなかった。できるからこそ、俺にいつでも干渉できるように約束を取り付けたのだろうか。

 こうなると分かっていれば、条件を付けていたのだがな。とはいえ、時すでに遅し。今さら知ったところで約束は約束。約束をしたからには守る必要がある。仮に俺が約束を反故にしてしまえば、女神様も俺との約束を反故にしてしまうかもしれないのだ。

 だから今は、俺の体を女神様にゆだねる以外に選択肢はない。


「あの……あなた様は本当に女神様なのですか?」


『ええ、正真正銘女神ですとも。そう言うあなたは……あぁ、ネイアでしたか。あなたには『危険感知』を授けましたね。それを活用して今まで生き延びることができたのでしょうか。無事で何よりです』


 女神様が言い終えると、ネイアさんが改まった表情で椅子から立ち上がったと思いきや、床の上で跪いて頭を垂れるのであった。

 さらに後ろに控えていた人たちも、同じ行動をとっていた。


「わたしのスキルを知っているということは、やはり本物でございましたか。疑ってしまい、なんとお詫びをすれば……」


『いいのです。あなたを咎めるつもりはありません』


「わ、わたしを許してくださるのというのですか?」


『はい。ですから顔を上げなさい』


「女神様の寛大な心に感謝いたします」


 顔を上げたネイアさんの表情は感極まっており、心なしか眼が潤んでいるようにも見える。

 女神様が相手とはいえ、ここまでなるものなのだろうか。


(ふふふ、これですよこれ。これが神に対する反応なのですよ)


(だから俺にも同じことをしろと? 馬鹿馬鹿しい)


(実に嘆かわしいですね。別に期待していたわけではありませんが、カイトの反応が予想通り過ぎて苦笑ものですよ)


(言ってろ。とりあえずさっさと俺の体を返してくれ)


(相変わらずつれないですねぇ。できれば丸一日は借りたかったのですが……)


 壮絶に嫌な予感がした。

 聞くまでもない。この女神様のことだから、絶対に碌でもないことをしでかすのは明白だ。何が何でもそれだけは阻止せねば。


(ふざけるな! 俺は絶対に嫌だからな! そもそも明日はオリディアとの勝負が控えているんだぞ。余計なことはしないでくれ)


(これは残念。あなたの体があればネイアを……)


(おい、やめろ! 元とはいえ信者を食い物にするとか正気か!?)


(くふふふ……冗談が分からないのも相変わらずですか。仮にわたしがネイアに手を出そうものなら、今の持ち主であるゴルディアが報復と称して、あなたに手を出すかもしれません。ですので、今回は大人しくしますよ)


(はぁ……俺にまでとばっちりがくるのは勘弁してほしいぜ。とりあえず分かったから黙っておく。ただ、心臓に悪いから冗談でもそういうのは言わないでくれ……)


(いえいえ、カイトは弄り甲斐がありますからね。これからも付き合ってもらいますよ)


(もうヤダ……)


 やはり女神様と会話するだけで精神的に摩耗してしまう。ストレスが溜まり続けるから、早めの退場をしてもらいたいものだ。


(まぁまぁ、大人しく見てなさい。そう時間は取りませんし、用が済んだら体は返しますよ)


(どこまで信用していいのやら)


 兎にも角にも、文字通り身を任せるしかないのが今の現状だ。

 問題が起きないように祈りながら、静観するしかあるまい。


「女神様?」


『ああ、すみません。カイトを静かにさせたところです。さぁ、まずは席に座りなさい』


「では、お言葉に甘えまして」


 女神様に促され、ネイアさんは恐る恐るといった様子で立ち上がって椅子に座った。

 そして、女神様は真剣な口調で語り始めた。


『あなた達に伝えることがあります』


「そ、それは一体……何をでしょうか?」


 ネイアさんの疑問はもっともである。

 これまでの話を聞く限りだと、冒険者たちが次々と殺されているにもかかわらず女神様は何もしてこなかったのだ。

 それなのに、今となって伝えることがあると言い出すのは理解できない。

 もし伝えることがあるとすれば謝罪ぐらいだろうけども、果たしてこの女神様が素直に謝罪の言葉を口にするのだろうか。


『今まであなた達に救いの手を差し伸べることができなくて、本当に申し訳ありませんでした。それから謝罪するのが遅くなったことも謝ります。ごめんなさい』


(は? 嘘だろ?)


 最初は幻聴だと疑った。

 だが、女神様が言い放った言葉の一字一句を何度反芻しても内容は謝罪の言葉である。ましてや、直に聴いたのだから聞き間違えようがない。

 あろうことか、女神様は良い意味で俺の期待を裏切ったのだ。

 もちろん驚いたのは俺だけではない。目の前のネイアさんは絶句していた。


「女神……様? た、確かに見捨てられたのかと思ったこともありますが、元はといえば一方的に殺されるまでに我々の実力が不足していていたことが原因です。だから女神様に落ち度は……」


『いいえ、そんなことはありません。あなた達を襲った連中の狙いはわたしなのですから』


 ネイアさんの話を遮るように、女神様はそう断言した。

 これにより、俺の考えは正しかったということになる。だからある意味ではネイアさん達も女神様の被害者とも言える。

 だが、別に女神様を擁護するつもりはないが、手がかりすら掴めずに抗えなかった冒険者側にも、まったくの落ち度が無いとは言えないのではなかろうか。

 故に、いくら女神様が助けようとしても、確実に状況が好転していたとは思えない。


「それでは、女神様と敵対している組織というのは本当に存在していると?」


『存在しています。そして一度は滅ぼした筈でしたが……残党にしてやられましてね。その際にわたしは酷く取り乱してしまいました。言い訳がましいですが、それが原因であなた達に救いの手を差し伸べることができないでいました』


「つ、つまり……女神様は我らを見捨てていなかったのですね?」


『わたしとしては、一度たりとも見捨てたつもりはございません。ですが、あなた達から見れば見捨てたように思われても仕方ないでしょうね。なのでわたしへの信仰を捨て、ゴルディアに鞍替えしたことを非難するつもりはございません』


「そのことも許してくださると?」


『もちろんですとも。ですので、これからは過去に囚われることなく幸せに生きなさい。今回はそのことを伝えたかったのです』


「ありがとう……ございます。おかげで肩の荷が下りたような気がしました」


『わたしも伝えることができてよかったです。さて、積もる話もあるかもしれませんが、残念ながらこれ以上は留まることが厳しいようです。何かあればカイトに頼みなさい。それでは失礼します』


「は、はい。そのようにいたします」


 これで女神様の用は済んだらしい。

 と思いきや、俺に身体を返すことなく何故かオリディアの方に向き直ったのである。何がしたいのだろうか?


『ところでオリディア、あなたに二つほど伝えておくことがあります』


「何をかな?」


 オリディアは口調では平然を装っているが、身構えているあたりあからさまに警戒していることが窺える。

 初対面で得体の知れない相手だからか、そうなるのも無理はないか。


『まず一つ目はあなたが持つ“アイテムボックス”についてです。あなたならこれから先で有効活用してくれるでしょうし、好きに使って構いませんよ』


「え、いいの?」


『はい。それにオリディアのような可愛らしい女の子に使われるのは、わたしとしては気分がいいですから』


「カイトの言ってたことって、本当だったんだ……」


 呆れているような、気持ち悪がっているような、そんな二つが入り混じった複雑な表情をオリディアは浮かべていた。

 気持ちは理解できる。嬉しい申し出かと思いきや、しっかりと下心があったのだからな。それに得体の知れない存在から一方的に気に入られるのは、気味が悪いだろうよ。

 なのに女神様はお構い無しに語り続けていた。


『二つ目ですが、あなたはカイトをいたく気に入っているようですね』


「うん、そうだけど。それがどうしたの?」


(否定するどころか、肯定するのか……)


『気に入ることは構いません。ただし、これだけは言っておきます。コレはあなたのモノではなくわたしのモノです。そのことを忘れないでくださいね』


(は⁉)


「なっ⁉」


『言いたかったのはそれだけです。では、またお会いしましょう』


 最後の最後で爆弾発言を残し、女神様は俺に体を返してこの場から去りやがった。

 そして残された俺は色んな意味で重くなった空気に対して、何とも言えない気まずい思いを抱き、気まずさのあまりに言葉を発することができないでいた。

 ホント、オリディアに何て言えばいいのだろうか?


カイトは女神に対して「何言ってんだコイツ?」としか思ってませんね。

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