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第六十九話 二人目の眷属竜

やっと竜人とヴェントの姉妹が出てきます

 『竜人の里』の入り口と思わしき場所には門があり、今は開放されて大勢の人が集まって待ち構えていた。

 その人だかりの中から穏和な雰囲気を醸し出す妙齢の女性が現れ、俺たちの前に進み出て口を開く。


「オリディア様にヴェント様、わざわざご足労いただきありがとうございます。我々一同、お二方の来訪が歓迎しております」


「毎回思うけどさ、ちょっと大げさじゃない?」


「もう少し気楽にしてくれてもいいんだぜ」


「いえいえ、滅相もございません。我々は貴方がたの庇護によって生きながらえております。しかも先日は大切な子供たちを助けていただいて、何とお礼を申せば……」


「別に気にしなくていいよ。それにお礼を言うならカイトにも言ってあげて」


「おお、カイト殿もおられたのですか。どこにいらっしゃるので?」


「え? ここにいるけど」


 オリディアに手を引かれ、妙齢の女性の前に連れ出される。

 上半身裸ということもあってか、一気に視線が集中して突き刺さるのを肌で感じた。もはやある種の公開処刑ではなかろうか?


「鎧の男と聞かされておりましたのですが、その……本当にあなた様がカイト殿なので?」


「疑う気持ちは分からなくもないですけど、俺がカイトですよ。こんな格好をしていますが……」


 ここまで恥ずかしい自己紹介は生まれて初めてだ。

 まぁ、幸い海が近い。上半身裸なのは泳ぎに来たから。と言い訳ができそうではある。

 だからそこまで恥ずかしがらず、堂々としていたら乗り切れそうだな。たぶん。


「それはそれは……大変失礼いたしました。この度は里を治める長として、子供たちを助けてくださったことを感謝申しあげます」


 と、この場を乗り切る方法を模索している俺に対して、深々と頭を下げてお礼を口にしていた。

 何気に『竜人の里』における代表的存在らしい。


「いえいえ、当然のことをしたまでですから」


「しかし、相手はあの恐ろしくて強力なツインヘッド。それでもなお立ち向かい、オリディア様と子供たちを逃がすため、自ら囮になられたそうではありませんか」


「ま、まぁ、あの時はあれが最善と思ったので……」


 『鎧化』が発動した状態ならば、疲れないから幾らでも逃れる。だからこそ、確実に三人を逃がすことができる最善の行動と考え、躊躇なく実行したのだ。

 ただし、実のところオリディアから逃れるチャンスだと少し思っていた。

 それだけに、ここまで感謝されると少しいたたまれない気持ちになってしまう。


「その最善を実践できる人はそうそういないかと。むしろ保身に走って、見捨てていたかもしれない」


「あー、やる奴はやるでしょうね」


「ですが、カイト殿はそれをなさらず見事に助けられた。とてもご立派で、その勇敢さには私は感服いたしました」


「あははは……そ、それほどでもないですよ」


 こんなに褒められると、むず痒く感じてしまう。

 俺としては、本当に当然のことをしただけとしか思ってない。年端もいかない子供と年下の少女を助けるのに、理由などいるのだろうか。


(それはそうとして、本当に竜人がいるとはな……)


 日焼けした健康的な肌や赤色の髪は普通の人間と遜色ない。だが背中からは赤い翼が生え、露出した肌のところどころは赤色の鱗に覆われ、指先は鋭い鉤爪で、腰からは爬虫類めいた尻尾が伸びており、瞳孔は縦に割れている。

 まさしく人外と言える存在で、ぶっちゃけると俺的には怖い。穏和な雰囲気だけども、露出が多い服装で顔つきが整っていて美人だけども、妙に威圧感があって怖い。


「あの、いかがなされたのですか?」


「も、申し訳ない。竜人の方を見るのが初めてでして」


「なるほど。でしたら、気の済むまでご覧になっても構いませんよ」


「いえ、もう十分に拝見させて頂いたので、気持ちだけ受け取っておきます」


「そうでしたか」


 こんなにも丁寧な対応をされるとは思わなんだ。今までが酷かったせいか、どうも調子が狂ってしまう。


(生身の状態ってのもあるのかねぇ。だけど、ゲーム内と同じ性能なら今の俺なんて瞬殺だろうよ)


 故に気が抜けない。

 ゲーム内における竜人は遭遇することは滅多なくて詳細は不明な部分が多いが、戦闘面に関しては色々と判明している。

 まず力が強く、鉤爪は鉄をも切り裂く。さらに鱗による防御力も優秀。そのうえ翼である程度は宙を飛ぶことが可能。

 そして、一つの属性だけだが魔法も使える。これに関しては、鱗の色によるとのこと。


(戦闘民族かって言いたくなるくらい強いんだよなぁ。戦闘能力ならあの魔人に匹敵するんじゃないのか?)


 目の前の竜人の女性に対して勝手に恐れおののいていると、不意に騒がしくなってきた。


「悪いけど、そこを通らせてもらうよ」


「っ!? 皆、道を開けろ! ささっ、どうぞお通りください!」


「うん、ありがとう」


 そんなやり取りが聞こえて目の前に現れたのは、燃え盛るような赤色の髪と眼が特徴的な美女であった。

 髪はセミロングで服装はヴェントと同じようにシンプルな赤色のロングドレス。

 ただ、体のラインが出ているので、スタイルの良さが布の上からでも十分に確認できるし、特に胸の部分がかなり突出している。ゴルディア様やシーディア様以上だろうか。

 当然ながら、この場にいるということはただ者ではないのだろう。


(ふむ、ヴェントには姉がいるとか言ってったっけな。服装も似てるし、もしかしてこの人だったり?)


 内心でそう見当をつけていると、ヴェントが真っ先に反応して駆け寄っていった。


「フィアン姉じゃないか! 久し振り!」


「久し振りって、一ヶ月前にあったばかりだろう。まぁ、元気そうで良かった」


「フィアンも元気だった?」


「もちろんだとも。そう言うオリディアは……聞くまでもないかな」


 オリディアも駆け寄って三人で談笑を始めた。積もる話もあるのだろう。


「カイト殿は初対面でしたね」


「え、ああ、そうです」


「あのお方は、この里を守護するフィアン様です。また『炎の眷属竜』という呼び名をお持ちですよ」


「眷属竜……てことは、ヴェントの姉ということに?」


「その通りで、フィアン様は三女になられます」


「へぇ」


 つまり、フィアンさんの上に姉が二人もいるわけだ。ヴェントを含めたら、全員で四人なのだろうか。あるいは、他にも姉妹がいる可能性も否めないな。

 ただし、この場においてそんな疑問は些細なことでしかない。


(兎にも角にも、眷属竜ということはヴェントと同等か、それ以上の力の持ち主であることには変わりないな)


 フィアンさんは『炎の眷属竜』ということだから、炎を扱うのは確定。しかも、ツインヘッドの『火炎ブレス』よりも強力な炎だろう。

 機嫌を損ねたら何をされてしまうのやら。可能な限り接触するのは必要最低限に留めたいが……さすがに挨拶は避けられないか。


「やぁ、君が噂のカイト君かな?」


 話を早々に切り上げたのか、俺に声をかけてきたのである。同時に、反射的に身構えてしまいたくなるようなプレッシャーも感じ取った。


「どんな噂をされているか存じませんが、俺がそのカイトです」


「ふぅん、あまり動じてないようだね」


 俺に放たれるプレッシャーの圧が増したように感じる。先ほどの口ぶりからして、確信犯なのは間違いない。


「いえいえ、内心ではヒヤヒヤしてますよ」


 とはいえ、ゴルディア様とシーディア様のせいでそこそこ耐性ができていたらしく、真正面から受け止めても耐えきれそうだった。


「とか言いながら、普通に受け答えができてるじゃないか。ヴェントが気に入るだけのことはあるようだね」


 そう言いつつ、プレッシャーを引っ込めて俺のことを品定めするようにじっくりと眺めてきた。

 どうやら自在に調整することができるらしい。それにシーディア様のよりも慣れているようで、普段から抑えているのだろう。


(それはともかく……)


「俺がヴェントに気に入られていたんですか?」


「当の本人は自覚してないみたいだけど」


「そうですか」


 しかし、ヴェントの言動を思い出す限りだと心当たりはなくもない。それにやたらと距離が近かったのもある。


(谷での共闘がきっかけかもな。良好な関係を築けそうで良かったぜ)


「さて、お互いに名前は既に知っているとは思うけど、自己紹介しておこうか。わたしの名前はフィアン。ゴルディア様に仕える『炎の眷属竜』だ。改めてよろしく」


「カイトです。あー、女神様の遣いって言った方がいいのかな?」


「まさかあの女神の? それは……黙っておかなくてよかったのかい?」


「ゴルディア様とシーディア様にはとっくに知られてますから。この場で下手に隠して不審がられるのも嫌ですしね」


「へぇ、あのお二方もご存知なんだ。だったらわたしからは特に言うことはないかな」


 これで自己紹介は終わった。だが、別の問題が発生してしまった。

 オリディアとヴェントが不満げな表情を浮かべて詰め寄ってきたのである。


「ねぇねぇ、わたしはそんなこと聞いてないんだけど」


「オレもだぜ。フィアン姉にだけ話すなんて水臭いじゃないか」


「いや、とっくに聞かされていると思っていただけで……ないがしろにするつもりはなかったんだ」


 そもそも、色んな要因が重なって二人と話す機会が少ないのが原因だ。事情が変わった今なら、幾らでも話してもいい内容でもある。


(まっ、そんな言い訳をしても仕方ないか。とりあえず二人をこのままにしておくと後で厄介なことになりかねん。どうにかせねば……)


「はいはい、二人とも落ち着こうか。後でじっくり話を聞かせてもらえばいいでしょ。ね?」


 まさかのフィアンさんが助け舟を出してくれた。

 これで二人が矛を収めてくれたらいいんだけど、どうなることやら。


「フィアン姉がそう言うのなら……」


「むぅ、後で根掘り葉掘り聞かせてもらうからね」


 ひとまずは事なきを得たようだ。

 おかげで一安心。フィアンさんには感謝しかない。


「落ち着いたようだね。ここにカイト君を連れてきたということは、案内してあげたかったんだろう? だったら、まずは案内からしようじゃないか」


「「はーい」」


 こんなやり取りを終えてから数分後には木造の高床式建物が特徴的な里の中を歩き、俺は早速この里から出たくなった。


「視線が突き刺さりまくってるんだけど……上半身裸ってそんなに駄目なのか? 上を着た方がいいのか?」


「あぁ……大丈夫だと思うよ。むしろそのままの方がいいかも」


 俺の疑問に答えてくれたのはフィアンさん。ただし、どことなく遠い目をしているような気がするのは何故だろうか?


「そ、そうですか……」


「気を悪くしないでくれ、彼女たちは君に興味があるから見ているんだ。堂々としていて問題ないよ」


 実際のところ視線に悪意は感じられない。


(学生の頃に味わった羨望とか妬み、恨み、やっかみ、僻み、そねみ、とも違うのは確かだが……分からん)


 本当にこの異様な視線は何だろうか。昨日のシーディア様と似たようなものを感じるけど、あれも何だったのか未だに謎だ。

 確実に言えるとしたら、あまり良くない気がする。そんな漠然とした感想しか出てこない。


(歓迎されてないよりかはマシか? ついでに、この際だから気になることを聞いておこう)


「ところで、見たところ女性ばかりしかおりませんが、男性の方は外で仕事を?」


「んー、外じゃないけど仕事といえば仕事かな?」


 なんともまぁ歯切れの悪い返答だな。それに外じゃないってことは、この里のどこかにいるのだろうか。

 だとすれば、姿を見せないのはどうしてだ?


「あ、ちょうど漁で使う網を編む作業をしているよ。せっかくだから見ていこうか」


「えっ」


 俺が返事をする前にフィアンさんが俺の腕を掴み、作業している場所に連れてこられた。


「ほら、こうやって専用の道具を使って縒り糸を編んで網になっていくんだよ」


「これはまた……中々に大変そうですね」


 竜人の女性たちが地面に布を敷いて、その上で黙々と作業を行っている。

 素人目からして緻密な作業なのが見てわかり、少なくとも今の俺には真似できそうにもない。でも、彼女たちは談笑しながら慣れた手つきで網を編んでいた。


「わたしも暇潰しにやってみたんだけどね、これが中々上手くいかないんだ」


「やはり素人には難しいですよね」


(暇潰しでこの作業を? 他にの人たちは気が気じゃなかっただろうな)


 フィアンさんにこの作業をさせるのは恐れ多いが、目上の存在であるために拒めなかったに違いない。

 しかし、ここにも男性はいないようだ。一体どこで仕事しているんだ?


「この作業場には女性しかいませんけど……」


「おっと、向こうで干し魚を作っているんだ。せっかくだから試食してみないかな?」


「あ、はい」


 こんな感じで、俺が男性が少ないことに対して疑問を抱きかける度に、気を逸らすような行動に出た。

 そして見回った場所の全てにおいて男性の姿は無かった。

 ここまでくるとあからさまに怪しい。


(つっても、俺なんて所詮は部外者だもんな。隠しておきたいことの一つや二つあってもおかしくないし、追及するのは野暮かねぇ)


 ましてや長居するつもりはない。いずれこの地から去るつもりなのだから、わざわざ理由を知る必要性は皆無。

 よって、案内が終わったら里から出てしまおう。延々と好奇の視線に晒されるのは勘弁願いたい。

 それに……。


「フィアンばっかりズルいー」


「そうそう、オレたちは後ろをついて行くだけで暇なんだぜ」


 不満を漏らす二人がいるからだ。このままフィアンさんに案内され続けると、俺にもヘイトが向いてとばっちりを受けそうで怖い。


「少しくらいわたしが案内してもいいじゃないか。駄目かな?」


「駄目じゃないけどよ……」


「むぅ、もう少しだけだよ」


 見たところ二人はフィアンさんには強く出られないようだ。

 上下関係で言えばオリディアの方が上だと思うのだがな。どんな関係性なのやら?


(まぁ、ひとまずは凌げたようでよかった)


 この時の俺は気が抜けていた。故に、背後から近寄る足音を気に留めることはなかった。


「この声は鎧のお兄さんだよね?」


「わぁ、鎧を脱いだらカッコいいね」


「うん?」


 どこからともなく幼さを感じる声が聞こえた。そして次の瞬間……両手を掴まれて後ろに引っ張られたのである。


「はぁっ!?」


「あー! 何してんの二人とも!」


「いてっ!」


 バランスを崩して尻もちをついてしまうも、力づくで引きずられて驚くオリディアたちの姿がどんどん遠ざかっていく。

 当然ながら追いかけようとするも、何故か俺に感謝してくれた竜人の長が引き止めた。どういうつもりだろうか?


「で、どこまで俺を引きずるんだよ! お尻が痛いんだけど!」


 だけど悲しいかな。俺の声なんて聞き入れることなく、里の外へと連れ出されてしまった。

 白昼堂々と人攫いが起きているというのに、他の人たちは驚くばかりで止める素振りを見せなかったのは解せない。


(オリディアのことだから俺を取り返しに来ると思うけど、できるだけ早くしてくれないかなぁ)


 我ながら情けない他力本願思考だが、力で負けているから仕方ないんだ。

 そして、隠れるためか茂みの中に連れ込まれ、ついに俺を拉致った下手人の顔を拝見することができた。


「いててて……あっ、ツインヘッドに襲われてた子供か」


「そうだよ」


「お兄さん、元気にしてた?」


「元気……まぁうん、元気だと思うよ」


 遠い目になってしまったが、五体満足で生きているのだからあながち間違いではないだろう。たぶん。


(それでこの二人は何がしたい……ん?)


 二人の少女を見て、ある違和感に気がついた。


「なぁ、少し聞きたいんだけどいい?」


「いいよー」


「お兄さんなら何でも教えてあげる。何を聞きたいの?」


 意味深げな表情を浮かべているのが気になるが、快諾してくれたのだから問題ないだろう。では聞かせてもらうとするか。


「二人は鱗とか尻尾が無いけど、竜人なのか?」


 そう、この少女たちには竜人の特徴と言えるべき物が皆無だったのだ。


ちなみに里の男たちはある問題を解決するべく頑張っています(意味深)

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