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第六十一話 人外美女たちとの晩餐

最近は執筆速度が上がったような気がするけど、文書の質が落ちてないか不安ではある。

 部屋に入って視界に映り込んできたのは、テーブルの上に溢れんばかりに乗せられた様々な料理たち。


 バケットやパスタにスープ、生野菜のサラダや焼き野菜、肉料理に海鮮料理まであり、酒瓶と思わしき物まである。


 素人目から見ても豪勢であり、晩餐と言っても差し支えはないだろう。


 そして、そんな豪勢な料理たちの背後には金髪と銀髪の絶世の美女が二人。席について待ち構えていた。


「おお、待っておったぞ。早く席につかぬか」


「料理が冷める前に食べましょう」


「早く早くっ」


 ゴルディア様とシーディア様に促され、オリディアに腕を引かれて席につく。


 目の前にはゴルディア様が、斜め前にはシーディア様、そして隣にはオリディアが座っている。


「うむうむ、席についたな。それでは乾杯でもするかの」


「グラスの準備はいいかしら?」


「はーい」


「は、はい」


 手に取ったグラスには薄い緑がかった淡い色の液体で満たされており、微かにアルコールの匂いが漂う。


(まさかお酒?)


(そのまさかじゃ。よもや飲めないと言うまいな?)


 隣のオリディアに気づかれないように、ゴルディア様が笑顔で凄んでくる。


 まだ二十歳じゃないから飲みたくないというのもあるのはもちろん、酔ってしまって何かをしでかしてしまうのでは、という不安がある。


 なのに、向こうは俺の都合なんてお構いなしだ。


(ふむ、酒は初めてか? ならば安心せい。度数は低くて飲みやすいのを用意しておるからの)


(お、お心遣い痛み入ります……)


 一応はゴルディア様なりに配慮はしているらしい。となると、なおのこと断りづらい。無碍に断ろうものなら機嫌を損ねる可能性が高いだろう。


 もはや飲むしかない。そう覚悟を決めていたところで、固まっている俺を不審に思ったのかオリディアに声を掛けられる。


「カイト、どうしたの?」


「えっ、あー、初めての飲み物だから戸惑ってな」


「へー、白ワイン飲むの初めてなんだね」


「白ワイン?」


 意外にも俺の知っている酒だった。とはいえ、俺の知る白ワインと同一なのかは定かではないけどな。


「だったら教えてあげる。お酒の白ワインは一気に飲んだらすぐに酔っちゃうから気をつけてね。慣れてる人ならともかく、初めてなら少しずつ飲むといいよ」


 酒が初めてである俺に対し、オリディアは意気揚々と注意点を語ってくれた。


 そこへ、様子を見ていたゴルディア様が口を挟む。


「くっ、くくくっ、確かにその通りじゃ。オリディアが初めて飲んだときは酷かったからのう」


「もう! カイトの前でそのことは話さないで!」


 妙に実感がこもってるなと思っていたら、どうやら初めて飲んだ際にやらかしてしまったらしい。これが「経験者は語る」というやつか。


 そう納得していたらシーディア様がオリディアをだ宥めた。


「落ち着きなさい、オリディア。レクチャーが終わったのなら乾杯しましょう」


「それもそうじゃ。では、乾杯!」


「「「乾杯」」」


 ややふくれっ面ではあるもののオリディアも大人しく乾杯し、白ワインを少しだけ口に含んで飲み込んだ。


 すると先ほどの表情が嘘のように和らぎ、頬をほんのり紅く染めて嬉しそうな声を上げる。


「うーん、やっぱり美味しいねぇ。カイトはどう?」


「えっ、少し待ってくれ」


 急いでグラスに口をつけ、白ワインを少しだけ飲んだ。


 ゴルディア様が言ってたようにアルコール度数は低い。それでいてフルーティさが感じられる甘口で口当たりが良く、サッパリとしていてジュース感覚で飲めてしまいそうだ。


「お、美味しい……」


 感動のあまり泣いてしまいそうですらある。大袈裟といえば大袈裟だが、これまでに口にしてきた物の味と比べると、天と地ほどの差があるだろう。


 というか、まともな飲み物なんてこの異世界では初めてではなかろうか。それを考えるとやっぱり大袈裟ではないかも。


 ただし、ゴルディア様とシーディア様が放つプレッシャーの前では感動に浸る気になれない。


「口に合ったようで何よりじゃが、ペースを考えて飲むんじゃぞ」


「それと飲む量はほどほどにしなさい」


 そう言う二人ではあるが、ゴルディア様は酒瓶を手にしていて、シーディア様は既に二杯目を飲み干していた。


「もしかして酒豪?」


「うん、二人ともすっごく飲むんだよ。わたしなんて五、六杯飲んじゃったら酔っ払っちゃうね」


「そ、そうなんだ……あっ」


 オリディアの発言でとあることに気づく。


(俺が酔わなくても、オリディアが酔ってしまったらマズいのでは?)


 酔ったオリディアが俺に何をするのか分からない。故に、ゴルディア様からこっそり聞かせてもらおうとした。


(あの、ゴルディア様。オリディアって酔ったらどうなるのでしょうか?)


 そう内心で問いかけてみるも、何故か返事はない。


 目の前では肉のソテーめいた肉料理を貪り食い、白ワインで口に流し込んでいる最中で、中々に豪快な食べ方をしている。


 と、そこで俺の視線に気づいたゴルディア様が話しかけてきた。


「なんじゃ、お主全然食べておらぬではないか。シーディアが腕によりをかけて作ったんじゃ、どれも美味しいからのう。遠慮せずに食べるがよい」


(無視をしているようには思えない。ということは、今は思考を読むことができない? んー、確証が持てないし、ひとまずは料理でも食べておくか)


「お言葉に甘えて……いただきます」


 近くにあった白身魚のムニエルめいた魚料理を少しだけ切り分けて小皿に移し、フォークで突き刺して口に入れた。


「これも美味しい……」


 香ばしく、表面はカリッと中身はジューシーで魚の旨味をしっかり感じられ、非常に美味である。


 今度こそ感動で涙を流しそうになったが、シーディア様の視線が強烈に突き刺さってそれどころではない。


「ふふっ、料理はたくさんあるからどんどん食べなさい。この野菜も上手く焼けた自信があるの。どうかしら?」


 満足気に微笑むシーディア様の申し出を断ることなんてできるわけもなく……。


「い、いただきます」


 それからというもの、次々とシーディア様から差し出される料理をひたすらに食べ続けた。


 どれもこれも思わず唸るほどに美味しく、心ゆくまで堪能させてもらい、至福のひとときと言っても過言ではない時間を過ごせた。


 だが、何事にも終わりは訪れる。それはオリディアが四杯目の白ワインを飲み干したタイミングでのことだ。


「ヒック……のう、カイトよ。お主、全然飲んでおらぬではないか。もっと飲んだらどうじゃ?」


「まさかオリディアよりも先に酔ってしまうとは……」


「今回は飲むペースが早かったようね」


 空の酒瓶の山を築いたゴルディア様の頬は紅く染まり肌は艷やかで、どことなく妖艶な雰囲気を身に纏い、ドレスもはだけそうになっていて目に毒でしかない。


 しかし、俺に向けられる眼は被捕食者を狩る捕食者めいており、舌なめずりする様は身の危険を感じるほどに官能的である。


「あのう、そろそろ部屋に戻りたいのですが……」


 それとなくシーディア様に助けを求めてみるも、相変わらず現実は無情だった。


「駄目よ。まだ食べてない料理があるわ。それに赤ワインもあるから一緒にどうかしら?」


(やはり駄目か。どうにか耐え凌ぐしかなさそうだ)


「よ、喜んで食べさせていただきます……」


「あら、空いた皿が多いわね。少し片付けるから、ゆっくり食べて待ってなさい」


 と言い残し、シーディア様は空いた皿を運んで部屋から出てしまい、それを見計らったかのようにゴルディア様が酒瓶を片手に俺の隣に来てしまう。


「どれどれ、妾が直々に注いでやろうではないか」


(断りたいけど、断れねぇ)


 反射的に席を立って逃げようにも肩に手を置かれて動けないし、オリディアに助けを求めようにも食べることに夢中になって気づいてすらない。


「ん? 返事はどうした? “至宝の果実”が欲しいのなら、妾の酒は飲めるよな?」


 まさしく詰み。あまり飲みたくないが、どう足掻いても飲まざるを得ない。というか、異世界に来てアルハラを受けることになるとは思わなんだ。


「も、もちろん飲ませていただきますとも。ゴルディア様のような美女に注いでもらえるなんて光栄の極みですから」


 引きつりそうになるのを堪え、必死に笑みを浮かべながら言葉を選んで返事を返してみた。すると、ゴルディア様は上機嫌に笑ったのである。


「ハッハッハッハ、上手いこと言うではないか。悪くはないぞ」


 色々と努力した甲斐もあり、結果的に好感触の反応を得ることに成功。


(でも、だからといって飲酒回避できたわけではないけどな)


 実際に目の前のグラスに、赤い液体がなみなみと注がれている。


 白ワインの次は赤ワインかなと他人事のように考えていると、ようやくオリディアがこちらに気づいたのであった。


「あー! 赤ワインだ。ねぇねぇ、わたしにも飲ませて!」


 やはり赤ワインだったらしく、どうもオリディアはまだ飲んだことがないようだ。


「オリディアにはまだ早いと思うが……今回は特別に飲んでもよいぞ」


「ありがとうゴルディア様!」


 そう言い終えるや否や、俺のグラスを目にも止まらぬ速さで掻っ攫って口をつけた。


「間接……いや、何も言うまい」


 藪蛇をつつくのは御免だからな。変に意識されても面倒なことになるし、何事もなければそれに越したことはない。


 と、考えながらオリディアが飲み干すのを横目に見ていたら、ゴルディア様が音を立てて酒瓶を俺の目の前に置いた。


「グラスがないからのう、このまま直で飲むがよい。ほれ、グイッと飲むんじゃ」


「どうして……」


(瓶一本分を飲むはキツイってレベルじゃないぞ)


 こんなことになるのだったら、死力を尽くしてでもオリディアからグラスを奪い返せばよかった。


(って後悔しかけど、冷静に考えりゃ力ずくでオリディアに勝てるわけがなかったか……)


 そして肝心のオリディアは赤ワインを飲み干していた。しかし、どことなく気分が悪そうに見える。


「うーん、ちょっと渋いかも」


「じゃろうな。やはりオリディアにはまだ早かったか」


「あれ、お水が飲みたいけどないや。ちょっとお水を飲んでくるねー」


「うむ、気をつけるんじゃぞ」


「ちょっと待って。俺が肩を……ムグッ!?」


 この部屋から出られるチャンス到来と思いきや、ゴルディア様によって即座に口を塞がれてしまう。


 そのおかげで、千鳥足で歩くオリディアが部屋から出て行くのをただ眺めることしかできなかった。


 これで酔っ払ったゴルディア様と二人っきりとなり、極めて最悪な状況ができあがってしまう。


「ぷはっ、一体何のつもりですか?」


 口が解放されてゴルディア様に問いかけてみると、予想外の答えが返ってきた。


「くくくっ、酒を飲み交わしながら親睦を深めようと思ったのでな」


「し、親睦ですか……」


「そうじゃ。それに妾のような美女となら、お主も嬉しいのであろう?」


 オリディアの席に座りながらそう口にするゴルディア様は、不穏な雰囲気を醸し出しながら目を細めている。


 こうして、この日における最大の正念場が唐突に始まったのだ。


次回はついにカイトの身に危険が迫るかもしれません。

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