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第六十話 変貌の原因

タダでイメチェンできて良かったねカイト。

 改めて鏡を覗き込む。

 黒かった髪の毛は艶のある淡い灰色の髪の毛へ、黒かった瞳は透き通るような空色へと変貌してしまっている。


「カツラでもないし、カラコンでもない。となると、原因は“アレ”しかいないよな」


 どうせシーディア様に記憶を覗かれているのだ。誰と繫がっているのかバレているだろうし、もう遠慮する必要はないだろう。

 張本人に話を聞かせてもらうとするか。


「なぁ神様、あんたが弄ったのか?」


(ええ、概ねその通りです)


「やっぱりかよ」


 ただ、妙に引っかかる言い方である。神様が原因であるのは間違いないのだろうけど、何らかの要因が他にあるような気がしてならない。


 そこで詳しいことを聞き出そうとするも、神様が話を続けたのである。


(ちなみにですが、わたしが実際に弄ったのは肌や睫毛、爪などの細かい部分ですよ)


「おい、そんなところまでしっかり弄ってたのかよ」


 鏡でよく観察してみると、睫毛はやや長くなっているし、肌は健康的な白さでスベスベで、爪は形が綺麗に整っている。


 もしかしなくとも、他にも色々といじられていてもおかしくはなさそうだ。


(ふふっ、わたし好みに弄っただけあって悪くないですね。以前の容姿と比べても良くなっていますし、きっと女の子にモテますよ)


「しかも神様好みかよ。人の体を勝手に弄りやがって、玩具じゃないんだぞ。というか、元の世界に戻ったら見た目は戻してくれるんだよな?」


(それがあなたの願い事なら、できないことはないですよ)


「ウッソだろ。最後の一枠を消費しなきゃいけないのかよ」


 神様が授ける使命とやらを果たせば三つの願いを叶えてくれるとのことだった。だが、元の世界に戻るのと元の姿に戻るので既に二枠が確定している。


 前者は絶対に叶えてもらう必要がある。後者は“封印の首輪”を使えば叶えてもらう必要はないと考えかけたが、万が一にも公衆の面前で外れてしまったら大惨事は不可避なので、やはり叶えてもらう必要がある。


 それと、アクセサリーと偽って首輪を一生つけたままというのはさすがに嫌だ。


「はぁ……知り合いにはイメチェンしたと誤魔化しておくのが無難か」


 元の世界に戻っても、今の容姿だと目立つだろう。

 それが災いするかもしれないけど、未来の俺に任せるしかないな。


(そこまで悲観することはないのでは? 今の容姿なら女の子たちにモテてるでしょうし、色々と楽しめばいいじゃないですか)


「モテりゃいいってもんじゃないんだよ。裏で何を考えてるか分からん手合とは御免被る」


 しかも金目当ての場合だったら最悪だ。どうせ俺のことをATMとしか認識しないからな。


 あれは今思い出しても辟易してしまう。

 学生時代に一度だけ、腐れ親戚連中のせいで多額の遺産があることが知れ渡ったことがある。その結果、金に目が眩んだ女子生徒に告白されることが多発し、転校せざるを得ない理由の一つにもなった。


「陰で『大人しくATM彼氏になればいいのに』って言われてたときは本気で女性不信になりかけたな……」


(だからモテても嬉しくないと?)


「ああ、今じゃ初対面でいきなり好意を向けてくる相手は怪しいと疑うまであるぞ」


(なるほど……)


「って、話がだいぶ脱線したな」


 本当は神様に聞きたいことがあったのに、昔の嫌なことを思い出したせいか、どうでもよくなってしまった。それに髪や瞳なら自前で弄って解決すればいい。


 ただ、どうして神様は俺の容姿を弄ったのだろうか。


「一応聞かせてもらうけど、何で弄った?」


(なんとなく、でしょうか。あなたをこちら側に移転させる際に、少し時間ができて暇だったというのもありますけど)


「実に神様らしい自分勝手な理由を聞かせてくれてありがとう。おかげでスッキリしたよ」


 同時に呆れもした。相変わらずの傍若無人ぶりで安心感すらある。


 まぁいい。夕食までまだ時間があるのだから、ついでに今の状況を打開する助言でもしてもらおう。


「ところで神様、スキルが封じられたうえに、半ば強制的にここでしばらく滞在することになったんだが、これからどうしたらいい?」


(ふむ、ひとまずは美少女や美女と同じ屋根の下で暮らせることを喜べばいいのでは? もしかすると不慮の事故でエッチな展開になるかもしれませんし)


「真面目に話してたのに、何で思春期の男子みたいなことを抜かしてやがるんだ?」


 ただでさえ精神的に参っているのに、苛つかせないでほしいのだが。


 そもそも、神様のくせに“エッチな展開”ってよく言えたものだな。その発想力には呆れを通り越して感心すらするぞ。


(仕方ないじゃないですか。あの三人に囲まれた生活なんて羨ましいんですから)


「??????」


 俺は一体何を聞かされたんだ。

 聞き間違いじゃなければ“羨ましい”とか言ってたような気がするけど、神様は本気でそう思っているのだろうか。


(いや、今までになく本気で言ってたような……やっぱり本音か?)


(やれやれ、冗談が分からないとは嘆かわしい)


「冗談に聞こえないくらい羨む気持ちが滲み出てたぞ」


(あなたの気のせいでは?)


「見苦しい言い訳だな。はぁ、今回はそういうことにしてやるよ」


 しっかし、この神様は女に飢えているのかねぇ。随分と欲にまみれているものだ。やはり敬う気にはなれないな。


(しょうがないですね。こちらも真面目に話してあげましょう)


「最初からそうしてくれよ……」


 夕食が迫っているのだから、こんなくだらないことでグダグダと無駄話をする余裕なんてないのに。


「で、何か助言はある?」


(わたしから言えることがあるとするなら、彼女たちの機嫌を損ねないようにかつ、気に入られることでしょうか)


「それだけ?」


(ええ、それだけです。とりあえず、飽きるまで付き合ってあげれば褒美として“至宝の果実”をくれるかと)


 まさかの“飽きるまで”ときたか。

 期間が曖昧すぎて少し気が遠くなりそうだが、他にも重要なことがある。


「じゃあ、この“封印の首輪”を外すにはどうしたらいい?」


(それでしたら、鍵を使って解錠するしかありませんね。少なくとも破壊することは無理かと)


「やはりか……」


 鍵を作り出せれるのなら話は別だが、生憎とそんな知識や技術は持ち合わせてない。


 となると、オリディアから入手しなければならない。戦うことは避けられないようだ。


「カイトー、夕食の準備ができから迎えに来たよ」


「噂をすれば何とやら。ついにきてしまったか……」


 オリディアの呼びかける声が聞こえてきた。とうとう夕食の時間になったらしい。


 一気に気分が重くなるのを感じながらも、声が暗くならないように努めて返事を返す。


「あぁ、分かった。今から向かう」


(カイト、念の為に伝えておくことがあります)


「何だ?」


 いつになく真剣味を帯びていた。さっきまでの会話と比べて温度差が激しすぎやしないかね。


 まっ、ひとまずは神様の言葉に耳を傾けるとするか。


(仮にですが、“封印の首輪”の鍵を盗み出すのに成功し、そして“至宝の果実”を盗んで逃げ出すことができても、絶対に無駄に終わります)


「無駄ときたか。どうしてそう断定できる?」


 確かに盗み出すことも視野に入れていた。ただし、限りなく不可能に近いと思っており、頭の片隅に留めておいていた程度でしかなく、実行に移す可能性は低い。


 それでもなお、俺が盗み出すと思ったのだろうか?

 まぁ、だからこそ忠告しているのだろうけど。


(まず、彼女たちはあなたをどこまでも追いかけます。そしてあなたを捕まえる為なら、手段を選ばないかと)


「おっかねぇな」


 有り得なくない話ではある。

 例え盗み出すのに成功しても、その後が決死の逃走生活になってしまう。そうなると、神様が授けるであろう使命なんて果たせる気がしない。


 うん、ここは大人しく正攻法で入手するしかないな。


「どうしたのカイト? いつまで待たせる気?」


「やべっ、行かないと」


 急いで扉に向かって開けると、そこには頬を膨らませたオリディアが立っていた。


「おそーい!」


「悪かった悪かった。色々と手間取っててさ」


「むぅ、許してあげるけど、次からは待たせないようにしてよね」


「もちろん気をつけるさ。それじゃ行こうか」


「うん、付いてきてね」


 なんとかオリディアを宥めることができた。だが、こんなのはまだ序の口でしかない。

 何故なら、ゴルディア様とシーディア様が控えているからだ。


(どうやって切り抜けたらいいのやら……)


(頑張りなさい。とだけ言っておきましょう。それと、話は終わっていません)


 神様なりの応援なんだろうけど、シンプル過ぎやしないかね。

 それはさておき、まだ続きがあるらしい。神様は何を話してくれるのだろうか?


(せめてもの救いがあるとするなら、彼女たちに捕まっても殺されることはないでしょう)


(意外と良心的だな)


(いえ、決してそのようなことはありません。捕まったら最後、あなたを永遠に奴隷として飼い殺すでしょう。そうなってしまうと、わたしでも助け出すのは不可能です)


(永遠ってのはさすが大げさじゃ……)


 とはいえ、死ぬまで奴隷生活はバッドエンドでしかない。


 無謀な真似は何が何でも避けないとな。

 と、肝に銘じていたら、神様は驚きの事実を伝えてきた。


(残念ながら永遠というのは過言ではありません。この神であるわたしに匹敵……いえ、全盛期の彼女ならそれ以上かもしれません。そのような存在ですので、永遠を付与するなど造作でもないかと)


(冗談はよしてくれって言いたいところだけど、冗談じゃないのか……)


 ふざけている雰囲気は皆無であり、至って真剣な口調だ。


 というか、全盛期とは一体全体どういうことだろうか。それに、俺が今この場で五体満足でいられるのが奇跡にさえ思えてくる。


(じゃ、じゃあ、神様がそこまで言わしめるというのに、どうして俺は客人として扱われているんだ?)


(彼女は気まぐれなところがありますが、オリディアに懐かれているのと、暇つぶしが大きな要因かもしれません)


(オリディアと暇つぶしだと……)


 目の前を歩くオリディアに視線を向ける。

 もしも、機嫌を損ねて嫌われたりしようものなら、俺の扱いはどうなってしまうのやら。ゴルディア様が暇つぶしと称して、何かをしてきてもおかしくはない。


(ですから、好感度を稼いでおくのが吉かと。ただ、稼ぎ過ぎると今度はあなたを自分のモノにしたくなるかもしれませんので、程々にしておきなさい。では、後は一人で頑張りなさい)


(いや、頑張れって言われてもどうすれば。というか、稼ぎ過ぎてもアウトなのかよ!)


 しかし、神様からの返事はない。ここから先は文字通り一人で切り抜けなければならないようだ。

 そして……。


「着いたよー。中でゴルディア様とシーディア様が待ってるからね」


「緊張してきたな……」


「もう、カイトったら大袈裟だよ」


「そ、そうかな」


 目的の扉を前にして臆する俺とは対照的に、オリディアは何ともなさそうにしている。


 オリディアは慣れているからだろう。ただし、慣れていない俺は扉越しから放たれるプレッシャーに恐れ慄いてしまい、今すぐ逃げ出したい衝動に駆られている。


 無論そんなことが許されることはなく、無慈悲に腕を掴んできたオリディアによって引きずられる。


「二人を待たせたらいけないからさ、早く入ろうよ」


「南無三……」


 もはや腹を括るしかない。

 こうして、オリディアが開けた放った扉の向こう側へと一歩踏み出したのだ。


髪と目の色は神様の好みであるとは一言も言っていないし、直々に弄ったとも言っていない。

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