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第五十四話 不本意な逃走劇

投稿が遅くなって申し訳ない。

(さて、改めてどうしたものか……)


 俺に向かって駆け出すオリディアと対峙しながら思案する。

 『神格解放』は制限時間を迎えたが、たぶん連続で発動させることは可能だと思う。ただし、今この場で発動させるのは悪手だ。

 オリディアの攻撃を喰らってしまえば、即座に粉砕されることは間違いなし。ならば発動させないで回避に専念するのが得策と言える。


「これはどうかな? 『フレイムランス』!」


「魔法……?」


 意外にも接近戦ではなく魔法を放ってきた。

 先制攻撃を仕掛けるのはいいが、どうして魔法なのだろう。

 『金竜の加護』は近接に特化したスキルの筈だ。ましてや俺は魔法への耐性がある。オリディアもそれを知ってる筈だ。


(どうも既視感を感じるな……ここは回避しておこう)


 嫌な予感がして横に転がり、『フレイムランス』を回避。

 するとオリディアが立ち止まって不満気な声を上げる。


「えーっ、何で避けちゃうの? 目眩ましに使おうと思ったのにー」


「ご期待に添えず悪かったな」


 回避して正解だったらしい。前にも同じようなことをされたからか、危機回避能力が上がってるみたいだ。


(しっかし、回避しなかったらあっという間にやれてた可能性があったわけか……末恐ろしいぜ)


 『フレイムランス』で一瞬だけ視界を奪い、その隙に接近して一気にかたをつけるつもりだったのだろう。

 ツインヘッド以上に油断できそうにないな。時間を稼ぐだけでも相当苦労しそうだ。下手したら、あっという間に四肢を粉砕されてもおかしくはない。


(考えただけでゾッとするぜ……)


「むぅ、カイトのくせに生意気」


「避けただけでそこまで言うのかよ。あぁ、ダメ元で言うけどお手柔らかに頼む」


「んー、少なくとも殺しはしないよ?」


「そこが最低ラインかよ。はぁ……」


 死ななければ何をしてもいいらしい。

 気を取り直したオリディアとの会話にため息をつきつつも、油断なく身構える。

 次は本気で襲い掛かってくるだろう。


「それじゃあ、改めて……いくよ」


「……っ!」


 嗤っていた。ただし、年頃の少女らしい可愛らしさからは恐ろしく程遠く、まるで手頃な獲物を前にして愉しんでいる捕食者のようだ。

 そして威圧感も生半可ではない。ツインヘッドの方がまだマシだと思えるし、今からチェンジとかできないだろうか?


「いや、できるわけないか……」


「何を言ってるのかな!? 『エクスプロージョン』!」


「なにっ!?」


 この距離では回避は不可能。容赦なく目の前で強力な爆発が生じて巻き込まれてしまう。だが、これではオリディアも巻き込まれて自爆行為にも等しい。

 しかし、オリディアの心配をする場合ではなかった。爆煙で視界が奪われている状況はあまりにもまずく、即座にこの場から離れるべきだと後悔したのは次の瞬間のことだ。


「隙ありだね!」


「くっ!」


 爆煙を吹き飛ばしながら懐に入り込んでくるオリディアに対応しきれず、必死に飛び退くも貫手を躱しきれなかった。

 貫通こそ免れたが、胸を穿たれて痛い。


「『神格解放』使ってないのに、あっさり穴を開けやがった……」


 生身だったらこの時点で既に致命傷。だというのに、まだ序の口でしかないというのだ。


「もー、逃げないでよ!」


「うおっ!?」


 俊敏な動きで肉薄し、怒涛の勢いで貫手を繰り出してきた。

 死にものぐるいで躱し、あるいは逸らし、何とか耐え凌ぐものの、完全に攻撃を捌き切れず徐々に身体が削られている。あからさまにジリ貧だ。


(マズいってレベルじゃないな……)


 いつぞやの謎の銀騎士と戦った時を彷彿とさせるが、今回は荒々しく精細さに欠けている。

 付け入る隙はあるかもしれない。けど、タイミングをしっかり見極めなければやられるのは俺だ。


「ねぇねぇ、さっきから反撃してこないけどカイトって腰抜けなのかなぁ?」


 嘲り笑いながらそう言い放ってきた。自分が優位に立っていると思っているからこそ言えるのだろう。

 おそらく慢心してるに違いない。というかそうであってくれ、慢心してなければ反撃に出る余地がないのだが。


「けっ、そんな安っぽい挑発に乗るわけないだろ」


「つまんないのー」


 とか軽口を叩きつつも、攻撃の手を緩めることはなかった。


(耐え凌ぐだけでもこの有り様か。どうにか反撃に出て状況を変えたいところだが……)


 オリディアの動きをよく観察しながら隙を窺う。

 貫手の連続攻撃は速く、動きが見えても捌き切るのは難しい。ただ、顔面を狙う際は的が小さいせいか狙いが甘い。

 つけ入るなら、顔面を狙ったタイミングだろうか。


(吉と出るか凶と出るか分からないが、それでもやるしかねぇな)


「ほらほら〜、カイトの格好いいところ見せてよ〜。さもないと……手足もいで玩具にしちゃうよ?」


「おっかねぇことを言うなよ!!」


 心からの叫びを上げると同時に、顔面を狙った貫手をしゃがみながら回避し、ローキックでオリディアの無防備な足を狙う。


「えっ、嘘っ!?」


 そして狙い通りローキックが決まり、さすがのオリディアもたまらず尻もちをついてしまった。

 が、マズかった。何がマズかったって言うと、見えてしまったからだ。


「あっ……すまんっ! 許せ!」


 視認してしまった刹那、謝罪しつつも本能に従い即座に背を向けて脇目も振らずに全力疾走。

 結果的には時間を稼ぐことに成功したのだろう。しかしその代償はあまりにも大きく、もはや『虎の尾を踏む』にも等しい行為で……。


「スカートの中を覗くなんてカイトのバカーッ!! 逃げるなんてサイッテー!!」


 怒ったであろうオリディアが背後で声を張り上げていた。

 無論、俺としても逃げるという情けない行為は不本意だ。可能ならその場で誠心誠意込めて謝りたかったし、幾らでも土下座してもよかった。けど、あの状態のオリディアなら問答無用で俺を粉砕するに違いない。

 だからこそ逃げざるを得なかった。


「あーあ、やらかしたなぁ……って、オリディアは追いかけているかな?」


 走りながら背後を確認するも、肝心のオリディアはどこにも見当たらなかった。

 もう嫌な予感しかしない。


(どこにいるんだ? オリディアのことだから追い駆けてもおかしくはないが……)


 だが、この時は完全に失念してしまっていた。オリディアが人外であるということを。

 不意に頭上から声が聞こえてきた。


「逃げるなーっ!!」


「上か!」


 ここでようやく翼で飛べるということを思い出し、咄嗟に横へ転がって頭上からの急襲を間一髪で回避。


「もー、避けないでよ!」


 オリディアが着地した場所は小規模なクレーターのように地面が陥没していた。

 回避しなかったら粉々に砕けたかもしれない。


「恐ろしいぜ……」


 激昂したオリディアと戦うのは得策ではない。逃げるとしよう。


(さて、また頭上から襲われるのも危険だし……)


「ねぇカイト、いい加減に観念したら? えーと、こういう時は『年貢の納め時』って言うんだっけ?」


「悪いがこれでも諦めは悪い方なんでな」


(何でそんなことわざを知っているんだ……いや、そのことは後回しだ)


 湧き上がる疑問を無視して、木々が鬱蒼と生い茂る森の中へと駆け込んだ。


「あっ! 待てー!」


 背後からオリディアの声がするがもう遅い。木が邪魔で飛びながら追いかけるのは困難だろう。


(後は上手い具合にどこかに隠れてやり過ごそう)


 と、考えていたが甘かったようだ。


「こんなことで逃げられると思わないでよね! 『エクスプロージョン』!!」


「マジかよ!」


 無慈悲に『エクスプロージョン』が撃ち込まれ、木々が消し飛んで見晴らしが良くなってしまった。

 辛うじて範囲外だったが、隠れるどころではない。


「おいおい、森林破壊しながら追いかけっこなんて無茶苦茶だぞ」


 今も『エクスプロージョン』を連発しているみたいで、断続的に爆発音が聞こえてくる。

 立ち止まれば即座に爆発に巻き込まれて捕捉されるだろう。


(生きた心地がしないが、確実に時間は稼げている。この調子なら……うん?)


「あっ」


「さっきのお兄さん?」


 運が悪いとしか言いようがない想定外のことが起きてしまった。ツインヘッドから逃がした筈の少女たちが目の前に現れたのである。

 この場合における運が悪いというのは、俺にも少女たちにも当てはまることだ。何故なら……。


(やっべぇ! あの子たちも巻き込まれるじゃねぇかよ!)


「仕方ない!」


「わっ」


「きゃっ」


 すれ違いざまに二人を両脇に抱きかかえ、オリディアとの追いかけっこを継続せざるを得なかった。


「お兄さんって強引な人なの?」


「ふ、二人同時だなんて……どこに連れ込むんですか?」


(この状況で呑気に何を言ってるのかなぁ!?)


 思わずそう叫びたくなった。

 背後からの爆発音が聞こえてないのだろうか。何なら後ろで爆発したし、木っ端微塵になった木の欠片が俺の背中に当たっているのだが。

 兎にも角にも状況を理解してもらう必要がある。


「あー、いきなり抱きかかえてすまない。別に危害を加えるつもりはないんだ。えーと、オリディアが落ち着くまで付き合ってもらうかもしれんが……」


「オリディアお姉ちゃんと何かあったの?」


「もしかして痴話喧嘩?」


「オリディアとはそんな仲ではないんだけどな……」


 今の状況だと捕食者と被捕食者の関係が限りなく近いのだろうか。


(もちろん俺が被捕食者側だな……堂々とは言えないけど)


 どう説明すればいいのか悩んでいると、ついに『エクスプロージョン』による爆風に巻き込まれて吹き飛ばされてしまった。


「くっ!」


「きゃーっ!?」


「あわわわっ!?」


 地面を転がる寸前に二人を胸元に抱きかかえていたおかげか、特に目立った外傷はない。

 それでも念の為の確認はしておこう。


「二人とも大丈夫か?」


「なんとか……」


「びっくりした……」


 ひとまずは無事らしい。ただし、他人の心配だけでなく自分の心配もする必要があったようだ。


「みーつけた」


 とうとうオリディアに追いつかれてしまったからだ。しかも、二人を抱きかかえているという状態で。


オリディアとの実力差があり過ぎたので今回は逃走させるしかありませんでした。

ちなみに次回はカイトに運命の時がきてしまいます。お楽しみにしてください。

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