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第五十二話 VSツインヘッド ①

さぁ、かませ犬が出できましたよ。

 二人の小さな子供が泥に塗れながら必死に走っていた。その背後から地を這い追いかけるのは、双頭のモンスターことツインヘッド。

 双頭という異形の姿だけで十分威圧的だというのに、子供よりも十数倍も大きい巨体で威圧感に拍車をかけている。

 さらに口元から覗かせる牙は短剣よりも大きくて太く、一噛みで容易く子供の命を絶つことだろう。また、前足から伸びる爪は牙以上に長大で凄まじいの一言に尽きる。これに『火炎ブレス』も加わり、遠近共に脅威を感じざるを得ない。

 しかも分厚く頑強な筋肉まで備わっており、天然の鎧である赤茶色の鱗と組み合わさって防御力も生半可ではない。

 そして、ツインヘッドの眼からは残虐性が垣間見える。その眼に相応しく、視界に映る動く生物を殺し尽くすという魔竜の中で最も凶暴な性質を持つ。

 故に、懸命に逃げる二人の子供が殺されるのは時間の問題とも言えるだろう。


「だ、誰か助けて!!」


「こんなところに凶暴なモンスターがいるなんて聞いてないよ!!」


「ギシャシャシャッ!」


「ギシャー!」


 二人の子供がツインヘッドの双頭から繰り出される噛みつきから、必死に走って逃げていた。が、無駄な足掻きでしかない。

 不意にツインヘッドの動きを止めたからだ。もちろん諦めたのではなく、双頭の視線はしっかりと二人の子供へと向けられ、不自然に胸部を膨らませて大きく口を開けていた。


「『火炎ブレス』を放つ気か!」


(見覚えのある動作で分かったのはいいけど、助け出そうにも距離がありすぎて無理だぞ。どうすればいい!?)


 そう焦っていると、前を走っていたオリディアが立ち止まって振り向く手招きをする。


「こっちに来て!」


「おう!」


 何やら考えがあるらしい。具体的な内容が気になるところだが、今は一秒でも時間が惜しい。


「手を出して!」


「これでいいのか?」


 オリディアに近づいて右手を差し出した。すると……。


「いっくよー!!」


「えっ、は?」


 右の手首を掴まれたかと思いきや、唐突に浮遊感が襲い掛かってきて、気がつけば物凄い勢いで投げ飛ばされていた。


「ま、まさか……」


「いっくよー! 『ウィンドキャノン』!」


「またかよーっ!?」


「わたしは子供を安全な場所に隠すから、カイトはそいつの気を引いてて!」


 後ろから放たれた『ウィンドキャノン』の衝撃を背後から受けて更に加速し、『火炎ブレス』が放たれるよりも先にツインヘッドの脇腹へと到達。

 そして、覚悟する間もなく頭から衝突したのであった。


「ぐぅっ!」


「「ギシャシャーッ!?」」


 頭から鈍い痛みが走る。少し歪んだのかもしれない。

 ただ、ツインヘッドの『火炎ブレス』を防げたのだからよしとするか。問題があるとするなら……。


「「ギシャーッ!!」」


「まっ、俺を狙うよな」


 苛立ちを表現するかのように凶悪な双頭は口を大きく開け、俺を見下ろして威嚇した。それから間髪入れずに口腔が赤く染まり、容赦なく火炎ブレスを放ちやがった。


「熱いぃぃぃっ!?」


 確かに熱い。だけどその程度でしかない。これで俺を焼き尽くそうものなら、相当の時間が必要となるだろう。


(魔力を炎に変換しているっていう話は本当だったみたいだな)


 魔法への耐性がある防具が有効。という攻略情報を思い返しながら安堵する。

 正直なところ半信半疑だったが、今回は情報通りだったおかげで上手い具合にツインヘッドの気を引くことができた。


(ゲーム内で得た知識はまだ捨てたもんじゃないな。後は子供たちを無事に逃がしてくれたら、俺も心置きなく逃げ出せるんだけど……果たして上手くいくやら)


 この場合の上手くいくかは俺が逃げ切れることではない。

 このまま逃げ出せるかどうかだ。けれども、内心では中な諦めがついている。何故なら……。


「カイトーッ! お待たせ!」


「やっぱりそうなるかぁ」


 オリディアならツインヘッドと戦うだろうと思っていたからだ。

 逃げるなんて最初から考えてないに違いない。


「まぁ、付き合うしかないよな……オリディア! ツインヘッドの翼膜を破ってくれ! 飛ばれたら厄介だ!」


「任せて! 『アクアランスレイン』!!」


 ツインヘッドの頭上から水で形成された槍が虚空から大量に現れて降り注ぐ。

 ただ、狙いが悪かったのか大半は背中に命中し、翼膜を破るには至らなかった。


(景気よく上級魔法をぶっ放してくれるのはいいが……ちょっとマズいな)


 もちろん嫌な予感は的中し、ツインヘッドは俺からオリディアへと視線を移すと敵意を剥き出しにして突進した。


「「ギシャシャシャッ!」」


「くっ、とりあえず追いかけるか」


 俺に夢中になっている間に翼膜を破れなかったのは後に響くかもしれないが、今は泣き言を言ってる場合ではないな。

 足手まといなりに善処を尽くさねば。


「活きが良さそうだね『ウィンドキャノン』!!」


 圧縮された風の塊が放たれ、ツインヘッドに真正面から衝突。岩をも砕く上級魔法ではあるが……。


「「ギッ、ギシャッ!」」


 怯んで仰け反るだけにとどまり、オリディアに向かって突進を再開した。


「えーっ、魔法が効かないの?」


「そんなことはない! そいつが単に頑丈なだけで魔法は普通に通じる!」


「だったら、少し本気をだしてみようかな!」


 どことなく楽しそうに口角を上げると、オリディアは銀色の光に包まれる。

 その様子はさながらアニメや特撮番組の変身シーンのようで、一瞬にして金髪から銀髪へ、オッドアイから銀眼となり、腕や足には白い鱗、指先から白い鉤爪、腰からは白い鱗に覆われた尻尾が生えていた。


「『銀竜の加護』だったか……」


 上級魔法を無詠唱かつ、同時に複数展開をやってのけるというとんでもスキルの名を口にする。


(こりゃ速く片が付きそうだな)


 ワイバーンと違い、ツインヘッドは鱗がより硬く筋肉質で全体的に頑丈だ。その代わり、魔法への耐性は全く無い。

 ただ、『火炎ブレス』を放つおかげか火への耐性はそれなりにある。


「まっ、それがどうしたとしか言いようがないな」


 目の前の光景を眺めながら呟く。もはや走る必要はない。

 何故かというと……。


「あっはははははっ!」


「ギシャシャッ!?」


「ギシャーッ!?」


 比喩表現ではなく、文字通り雨のように延々と降り続ける『アクアランスレイン』によってツインヘッドがズタズタにされているからだ。

 ツインヘッドに対して同情するつもりなんてなかったのに、この時ばかりは少し哀れに思ってしまった。

 それから約一分後にはボロ雑巾めいた死体が出来上がっていた。


「これは酷い」


「そこそこタフだったねぇ」


 スッキリした表情を浮かべたオリディアは俺のもとに歩み寄ろうとする。

 たったそれだけのことなのに、つい反射的に身構えてしまう。


「どうしたの?」


「どうしたもこうしたも、あの時のことが忘れられなかったからな……」


 “あの時のこと”とは、谷底での一方的な暴虐のことだ。

 俺の鎧の身体が破損して動けないというのに、無事だった左足を踏み砕いて嫐る光景は、今でも鮮明に思い浮かぶ。


「“あの時のこと”って……谷底のこと? もしかして根に持ってたりするのかな?」


「根に持ってるわけじゃない。だけど、あんなのはさすがに勘弁してほしいな」


「なるほどねぇ。だったら安心していいよ。『銀竜の加護』なら問題ないからさ」


「そうか……」


 よくよく思い返してみれば、オリディアが豹変したのは『金竜の加護』を発動させてからのことだったか。どうやら過剰に反応し過ぎてしまったようだ。

 内心で納得すると構えを解いて謝罪した。


「早とちりをして悪かったな」


「別にいいよー。それよりも子供たちを回収しに行こっか」


「あぁ、ところで子供たち怪我はなかったか?」


「見たところ目立つ傷はなかったよ」


「それはよかった」


(子供だっていうのに、あのレイドボス相手によく無事だったな……)


 そう、ツインヘッドもまたワイバーンと同じくレイドボスであり、二番目に実装された。

 ただまぁ、悪い意味でワイバーンのインパクトが強烈だったせいか、ツインヘッドの存在感が若干薄かったりする。

 それでも実装当初はレイドボスに相応しい強さを誇り、数多のプレイヤーたちを返り討ちにしていた。が、安定した攻略法が生み出されて広まるまでの間だけの話だ。


(面倒だけど倒せる。というのが最終的な評価だったけ。確か極限まで効率化した少数精鋭パーティーに倒された動画とかもあったよな)


 とはいえ、決して弱くない。むしろ、油断してたらあっという間に全滅しかねない強力なモンスターであることには間違いない。


(でもって、そんなモンスターを瞬殺してしまうオリディアはもはや別格だな……)


 心強いような、恐ろしいような少し複雑な感情を抱いた時のことだった。


「きゃーっ!?」


「なんでここにもいるのっ!?」


 目の前の茂みから二人の子供が叫びながら飛び出したかと思いきや、さらにその背後から木々を薙ぎ倒しながら迫りくる巨体のモンスターがいた。

 それも今しがた倒されたばかりのモンスターである。


「「ギシャシャシャッ!!」」


「まさかの二体目かよ……」


「これはちょっとマズイね……」


 そしてツインヘッドは立ち止まると、胸部を膨らませて大きく口を開けた。


「まとめて焼き払うつもりか!」


 射線上にはちょうど俺とオリディア、そして二人の子供がいる。

 『火炎ブレス』を放たれてもオリディアは自前で防げるだろうし、俺に至っては直撃しても大丈夫。だが、子供たちはそうもいくまい。


「仕方ない……!」


「カ、カイト!?」


 最悪の事態を避けるべく覚悟を決め、俺は駆け出した。


次回が本番ですね。

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