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第五十一話 新たなる魔竜の気配

穏やかな前回から不穏な回になります。

 それは不意に視界に入り込んできて、見た目は真っ黒な塊の何かだった。それを遠目で視認した時は岩に見えたが、近づくにつれて違和感を感じつつあった。

 ただの岩にしては形が歪で、不自然に密集している。


(あからさまに怪しいな。あれは一体何なんだ?)


 警戒して立ち止まると、背中で寝ていたオリディアが動き出した。

 どうやら起きてしまったらしい。


「く、臭い……何これ?」


「前もって言っておくが、俺のせいじゃないからな。にしても臭いのか……」


 嗅覚が利かない俺には分からなかった。こういった時だと、すぐさま気付けないのが不便だな。

 ただ、目の前に転がる真っ黒な塊が臭い原因と考えていいだろう。


(にしても臭いってことは、もしかすると毒といった危険物の類のかもしれないし……ここは離れておこう)


 ついでに周囲を確認しながら後退し、ある程度離れてからオリディアを背中から降ろした。匂いが嫌だったのか、少し不快そうに表情を歪ませているけど、体調は問題無さそうだ。


「ここまで離れたら大丈夫か?」


「うん、臭くはないよ」


「そうか。で、どんな臭いだった?」


「え~とね、お肉が焼け焦げたような臭いだったかな」


「焼け焦げた臭い? こんな山で?」


 さらに謎が深まったような気がする。これは直に確認してみる必要がありそうだ。


(にしても焼け焦げた臭いか……あまり穏やかじゃねぇな)


 オリディアをその場に残し、俺だけで真っ黒な塊へと近づく。

 近づいてよく見ると分かったのだが、やはり岩の形にしてはおかしい。特に一番大きな塊に至っては……。


「人の形に見えるんだよなぁ。もしかしなくても、これは焼死体ってやつか?」


 仮にそうだとしたら、焼死体を作り上げた犯人が近くにいる可能性がある。

 ともあれ、速やかに確認してオリディアの元に戻らねば。


「何の焼死体なのやら……」


 そう呟きながら真っ黒な塊をじっくり観察すると、やはりというべきか人の形をした焼死体にしか見えなかった。

 しかし、人にはない決定的な違いがある。


「この尻のところから伸びてるのって、もしかして尻尾か? こんな山で尻尾があるとしたら、リザードマンしか今のところ見たことないよな」


 確定したわけではないが、リザードマンの焼死体である可能性が高い。

 そのことが分かっただけでも十分だ。オリディアのところに戻って、これからの方針を決めるとしよう。


「というわけなんだ。この辺りで火を吐いたり、操ったりするモンスターはいたりするか?」


「そんな危険なモンスターはこの周辺にいない筈だよ。でも、別の場所からやって来たかもしれないね」


「なるほどな」


「逆に聞くけど、カイトはこんなことをするモンスターに心当たりはないの?」


 あるにはある。ただし、その予想が外れてほしいと祈ってる。俺としては遭遇したくないからだ。


「……状況的に考えて、有り得そうなのはツインヘッドだな」


「ツインヘッド? そのモンスターって強いのかな」


「知らないのか。まぁ、そこらのモンスターなんか目じゃないぞ。なにせ、そいつは魔竜だからな」


「へぇ……魔竜かぁ」


 僅かに目が細められたのを見逃さなかった。どんな感情を抱いているかまでは分かりそうにないが、少なくとも恐れているようには見えない。


(その気になりゃ、ツインヘッドなんてタイマンで倒せそうだもんな)


 地に落ちていたとはいえ、同じ魔竜であるワイバーンを一方的に叩きのめしたのだ。あの戦いの様子を見る限り、ツインヘッドを倒してもおかしくはない。

 ちなみにツインヘッドだが、こいつももれなくランク『A+』である。ただ、同じランク『A+』であるワイバーンと比べると、かなり良心的だったりする。


「ねぇねぇ、そのツインヘッドってどんなモンスターなの?」


「そうだな。まず見た目は、二つの頭を持つでっかいトカゲっていったところだ」


「それだけ聞くと強そうに思えないね」


 説明が大雑把だし、そう言われても仕方ないだろう。

 だけど、まだ話は終わっていない。


「具体的な大きさだけど、ワイバーンよりも大きいぞ」


「……随分と大きいね」


「もちろんそれだけじゃない。二つの口から強烈な火炎ブレスまで吐くんだぜ」


「だからリザードマンの焼死体が転がってたんだ」


 別に真っ黒な塊がリザードマンの焼死体と決まったわけではないし、犯人がツインヘッドと決まったわけではないが……とりあえず話を続けるとするか。


「しかも、ツインヘッドは翼腕で空を飛ぶことができる。だから上から『火炎ブレス』を吐いて火の海を作り出すことができる。っていう強力なモンスターなんだ」


(でも、強力といえば強力なんだけど、火の海を作っても水系の魔法で消すことができるから、攻略自体はそう難しくはないんだよな)


「ふーん……まぁまぁ強そうだし、リザードマンが住処を捨てて逃げるのも当然かもね」


「まだ確定したわけじゃないんだが……とは言っても、ツインヘッドって色んなところに出没するモンスターだから、可能性としては十分にあり得る」


 空を飛べるからワイバーンと同様に行動範囲が広く、特定の生息地などはあまりない。それに加え、ツインヘッド以外の炎を扱う強力なモンスターは、基本的に火山などによく生息している。

 だからこそ、ツインヘッドが怪しいと俺は考えた。


「もしツインヘッドに遭遇したら、わたしたちだけで倒せるかな?」


「倒せるとは思う。ワイバーンよりも良心的なモンスターだし」


「良心的?」


「ワイバーンってさ、こっちの攻撃が届かないことが多いじゃん。でも、ツインヘッドって普通に攻撃が届くから良心的なんだよなぁ」


「やたらと実感のこもった言い方をするね。それってさ、本当に知り合いから聞いた話なの?」


 そういえばそういう設定だった。懐かしかったせいか、つい口を緩めてしまったようだ。

 ただ、オリディアからはかなり怪しまれているようだし、今さら取り繕っても手遅れだろう。


(『竜人の里』に着いたら神様と会話できたらいいんだけど……)


 尋問され、五体満足で黙秘し続けるのはほぼ不可能なのは分かりきっている。ならばいっそのこと、神様に許可を貰って話してしまおう。それしか助かる方法はない。

 最悪の場合として、死ぬまで口を割るなと言われたら俺は詰んでしまうわけだが、そうならないように祈ることしかできないのが現状だ。


(まぁ、神様がアレだから祈りが通じるか怪しいけどな……)


「はぁ……」


「急にどうしたの? 辛気臭いため息なんてついちゃいたりしてさ」


「色々とあるんだよ。それはそうとして、そろそろ移動しないか?」


 オリディアの追求から逃れるのと気分転換を兼ね、そう提案した。

 ここで立ち止まったままでは埒が明かない。というのもあるけど。


「おっと、カイトの言う通りだね。それじゃあ、リザードマンの焼死体は迂回してね」


「了解」


 オリディアをおんぶし、真っ黒な塊を避けながら移動を再開した。

 この先にツインヘッドが待ち受けているかもしれないというのに、足取りは重くない。理由は至って簡単で、ワイバーンを屠ったオリディアがいるからだ。


(敵だったらこの上なく恐ろしいが、一時的とはいえ味方だから心強いぜ)


 そんなこんなで山を下り、特に何事もなくリザードマンたちが住んでいたと思われる場所にたどり着く。

 そこには阿鼻叫喚地獄と言えるような光景が広がっていた。


「これは酷いな……」


「だねぇ」


 大小様々の真っ黒な塊が辺り一面に転がり、原型を留めてないものもあれば、綺麗に原型を留めたものもあり、中には炭化せずに苦悶の表情を浮かべたまま息絶えた死体まである。

 火炎放射器でこの辺りを焼き尽くしたかのように見えるが、ここは異世界である。火炎放射器なんかではなく、強力なモンスターがここにいたリザードマンを襲撃したのだろう。


「近くにいないといいんだが」


「実はすぐに近くにいたりして」


「おいっ、そういうフラグはやめ……む?」


「フラグって何……えっ、悲鳴?」


 二人して悲鳴のような声が聞こえた。遠くなのだろうか、風の音に掻き消されてしまいそうな声だ。

 そして次の瞬間。


「ギシャシャシャーッ!!」


 恐ろしいモンスターの鳴き声が響き渡った。それも聞き覚えのある鳴き声だ。


「俺の予想が外れてくれると嬉しかったんだがな」


 残念な気持ちになりながらも、今後どうするべきか思案していると……。


「いけない!」


 あろうことか、オリディアが俺の背中から飛び降り、迷わす鳴き声のしたと思わしき方向へと駆け出したのだ。

 俺も慌てて追いかけるように駆け出し、声を張り上げる。


「一体どうしたんだ!?」


「子供が襲われてるの!」


「何だって!?」


 あの悲鳴のような声は子供が出していたらしい。実際のところ定かではないが、もし本当だったら洒落にならない。


(というか、こんなところに子供がいるっていうことは……)


「もしかして『竜人の里』の子供だったりするのか!?」


「当然じゃない!」


「やはりか……」


 ここから『竜人の里』はそう遠くはないのだろう。おそらく、子供は何も知らないでここに来てしまったに違いない。


「マズいと言えばマズいけど……」


(同時に恩を売るチャンスでもあるわけだ)


 首尾よく子供を助け出して切り抜けることができれば、俺に対する評価が上がるかもしれない。

 だが、下心ありきでそんなことを考える場合じゃないな。


「捕らぬ狸の皮算用ってことわざもあるし、まずは助け出さないと話にならん。気を引き締めるか」


「カイト! 何をブツブツ喋ってるの!? もっと速く走ってよ!」


「き、聞こえてたのか……悪いがこれが全速力なんだ!」


 先行するオリディアを追いかけているが、少しずつ距離が開きつつある。

 俺自身は決して遅くはない。なのに引き離されているということは、オリディアがそれだけ速いということなのだろう。


「このままだとオリディアだけで助け出してしまいそうだな。まっ、子供が助かるのならそれに越したことはないけど」


 ただし、安心するにはまだ早く、事態は急を要するようだ。

 木々を通り抜けた先には沼地が広がっていて、その沼地の端では絶望的な決死の逃走劇が繰り広げられていたからだ。


二体目の魔竜ですが、ワイバーンと比べると本当に良心的だと思います。(カイトにとって)

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