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第四十九話 異世界での初登山

今回はリザードマンの群れと遭遇した理由を考察しつつ登山しております。

俺は今、険しい山道を歩いて登山をしている。

 もちろんオリディアを背負った状態でだ。


「カイトが転んだらわたしも危ないんだから、気をつけてよね」


「分かってるって」


 人外と言えども、軽装で登山靴を履いてない状態で登山は酷だと思い、こうして背負いながら登山しているわけだが……少し注文が多いのが難点である。

 やれ揺らすなだのやれ速く歩けだのといった感じだ。


(やれやれ、かなり神経を削りそうだ。それはそうとして、登山なんていつ振りだろうか)


 小学生低学年の学校行事が最後だったような気がするが、転校ばかりの生活のせいで忙しい印象が強いせいで、あまり思い出せそうにない。


(嫌な小学校生活だったな……いや、マイナス思考はよくない。気晴らしに自然の景色でも眺めておこう)


 登山を開始して数時間は経っており、それなりの標高に達している。

 ふと振り返ると青い空や緑色の麓、広大な赤茶色の大地がよく映え、素晴らしい絵になる景色が広がっていた。


「おー、随分と高いところまで来たな。気持ちのいい眺めだぜ」


「そうなの? わたしは見飽きてるけどなぁ」


「オリディアと違って俺の住んでる場所の近くには高い山とかなかったんだよ」


「なるほどねぇ」


 気軽に登山できる山なんて近場になかったし、標高も今いる山よりも遥かに低い山しかなかった。


(にして登山かぁ……元の世界に戻れたら挑戦してみるのも悪くないな)


 その時は生身だから苦労はそうだが、登頂した際の達成感はかけがえのないものになるに違いない。

 少なくとも、今の状態で登頂した場合よりも達成感を感じるのは確実だ。


「カイトの身体って便利だよね。疲れとか感じないんでしょ?」


「あぁ、おかげで楽勝だよ」


 もっとも、それが原因で達成感というものが薄れてしまっていたりするが、今はそんなものを求めている場合ではない。


「ねぇねぇ、もう少し速く進んでくれない? お昼までには登頂したいんだ」


「任された。その代わり揺れるから、舌を噛まないように気をつけてくれよ」


「しょうがないなぁ。じゃあ、よろしく頼むね」


「おう」


 頂上で昼食を食べたいという意図もあるが、昨晩のリザードマンの群れによる襲撃を受け、異常が発生している可能性が高いと判断し、リザードマンの住処を確認するべく急いで先を進むことにしたのだ。


「えーと、この山を越えた先にリザードマンが住んでる沼地があるんだよな?」


「そうだよー。でも、今はもう居ないかもね」


「安心して通過できるなって言いたいところだけど、複数の群れが住処を捨てざるを得なかった理由がはっきりしないことには何とも言えないな」


 そう、昨晩のリザードマンの群れは複数の群れが合流したものだった。

 オリディアが言うにはこの山は元々は火山だったらしく、その名残りとして赤茶色の鱗を持つリザードマンの群がいたそうな。

 それからこの先にあるであろう沼地には、焦茶色の鱗を持つリザードマンの群が二つあったそうだ。


「合計で群が三つあったわけだ。二種類の鱗といい、グレーターリザードマンが三体いたのにも納得がいくぜ」


 だとしても、三つの群からほぼ同時期にグレーターリザードマンが発生するのは異常だ。余程のことがあったに違いない。


「ところでさ、カイトの言うグレーターリザードマンって初めて見たんだけどさ、どんなリザードマンなの?」


「ん? あー、滅多なことじゃお目にかからないし、知らなくてもおかしくはないか」


 ゲーム内において発生が確認されたのは、偶然の産物としか言いようがなかった。


「グレーターリザードマンってのは、群が危機に瀕すると現れるリザードマンの突然変異だな」


「へぇ、具体的には?」


「食料不足が起きて飢餓に陥ったり、狩られすぎて数を一気に減らしたりとか……後は格上のモンスターに襲われたりとかだな」


「随分と詳しいね」


「あくまでもそう聞かされただけだ」


 実際のところ、掲示板のログで詳細を知ったのだからあながち嘘ではない。

 確か魚料理のレシピを開発するために、複数人のプレイヤーたちがとある川で大量に魚を乱獲したのが事の発端だった。

 その結果、その川を縄張りにするリザードマンの食料が減ってしまい、飢餓状態となったリザードマンが魚を持つプレイヤーを襲いだした。

 しかし、手練れのプレイヤーだったために返り討ちに遭い、ますます飢餓で苦しむこととなる。そんな時、巨大なリザードマンが現れたのだ。後にグレーターの名を冠する突然変異個体のリザードマンが。


「にしても、食料不足が起きたとは考えにくい。食料となる魚はそれなりに豊富で、三つ群れは仲が険悪だったから殺し合いが起きて、リザードマンの数が増えすぎることはないんだよな」


「うん。だから食料不足が起きる筈はないよ」


「ふむ……」


 ちなみにだが、グレーターリザードマンと相討ちする形でやられた手練れのプレイヤーたちは、お返しとばかりにリザードマンを少しずつ狩り、群れを全滅に追い込もうとした。

 隠れながら時間をかけて堅実にリザードマンの群れは数を減らし、数日で半分近くまで減らしたと思いきや、またもやグレーターリザードマンが現れたのだ。

 この時は隠密に特化していたということもあり、グレーターリザードマンを仕留めて消耗しきってしまい、群れの全滅は失敗に終わったそうな。


「群の数が減ったのが原因……っていう線も薄いなぁ」


「へぇ、根拠がありそうだね」


「まぁな」


 リザードマンの群れを全滅に失敗した話にはまだ続きがあるからだ。

 諦めが悪いとしか言いようがないが、見てる側としてなんだかんだ面白かったりする。


「知り合いから聞いた話なんだけど、リザードマンの群れと鼻無しが縄張り争いをしたらしいんだ」


 もちろん偶然などではない。前回の反省を活かし、短期決着を目論んだプレイヤーが鼻無しをけしかけたのだ。

 だが、途中まで順調に進んだはいいものの、やはりと言うべきかまたしてもグレーターリザードマンが出現してしまう。

 ただし、それは織り込み済みである。最終的には互いに消耗したところを襲撃するという、漁夫の利を狙えばいいだけのことだから。


「それでどうなったの?」


「あー、実は締まらない終わり方をしてな……」


 漁夫の利を狙うプレイヤーたちは高みの見物をしていた。しかし、世の常と言うべきかそう甘くはなく……。


「運悪く近くに来たワイバーンに見つかったみたいでな。逃げるのに必死で、気がついたらリザードマンの群れはいなくなっていた。っていうのがオチなんだ」


 実際のところ、高みの見物をしていたプレイヤーたちはワイバーンに一人残らず殺されたんだけどね。

 で、その様子を見てたリザードマンの群れはその場からすぐさま逃げていった。というのが事の顛末だ。

 確実とは言えないが、リザードマンの群れはワイバーンを恐れて逃げたのだろう。と考察されている。


「ふーん。つまりカイトは、グレーターリザードマンでも絶対に勝てない格上のモンスターが出現したのが原因だって言いたいんだ」


「そんなところだな。念の為に聞いておくけど、この辺りで強そうなモンスターはいるか?」


「この先にある沼地は『竜人の里』からそう離れていないから、危険なモンスターは間引かれてる筈だよ」


「そうか……」


 とは言ったものの、俺としてはワイバーンに匹敵しかねない強力なモンスターが存在する可能性が高いと思う。


(不測の事態に備えるべく、周囲を警戒しながら山頂を目指すか)


 そうして一時間も経たないうちに山頂に到着した。

 休むことなく早足だったおかげか昼前には間に合ったようだ。


「やっと頂上か」


 標高はそれなりに高く、振り返ると赤茶色の広大な大地が絨毯のように見える。そして改めて前を向くと、木々が生い茂る森や大小様々な沼地が視界いっぱいに入り、雄大な自然を感じさせられた。


「是非とも写真に収めたい光景だな……」


「写真?」


「ん? あ゛っ、な、何でもないから気にするな」


「怪しい……」


 登頂して気を緩めてしまったようだ。おかげでボロを出してしまうとんでも発言をしたわけだが、正直かなりマズい。


(どうしたものか……強引に話を変えるか? いや、ちょっと無理があるか)


 そう思案していると、オリディアは何もせず俺の背中から降りた。


「まっ、カイトが怪しいのは出会ってから相変わらずだし、後からまとめて聞き出すことにするよ」


「ひとまずは見逃してくれるか……」


 助かったわけでないのは分かり切っている。おそらく『竜人の里』に着いたら根掘り葉掘り聞き出すだろう。


(はぁ……ひとまずは見逃されただけ良しとしよう)


「そんなことよりも、わたしはお腹が空いたなぁ」


 少し気が重くなっている俺に対し、オリディアは呑気にそう言いだした。


山を越えた先でワイバーンに匹敵する強力なモンスターが出現するかも……?

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