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第四十八話 危険な野宿の夜 ②

今回は多勢に無勢を意識して執筆してみました。

 並のモンスターの鳴き声ではないのは確実。ここにいるリザードマン共よりも格上であることは確かだろう。


「おいおいおいおい。今度は何が出てくるんだよ」


 周囲のリザードマン共を倒しつつ、茂の奥にいるであろうナニかに意識を向けると、重い音と共に僅かな振動が俺の元に届いた。足音からして、それなりの巨体であることは想像に難くない。

 その足音に呼応するかのように、周囲のリザードマン共は俺から距離を取った。


「こいつらの親玉がお出ましかな。にしても大き過ぎないか……?」


 リーダー格のリザードマンは一回り大きい。だけど、足音からして明らかに一回り以上であることは確実。


(うーむ、ゲーム内の知識がどこまで通じるか分からないな。でも、もしかすると……)


 一抹の不安を抱きつつ内心で足音の持ち主の正体について予想していると、ついにソレは茂の奥から出てきて月明かりに照らされた。


「グロロロ……」


 ソレの姿はリザードマンそのものだった。しかし、体格だけは普通のリザードマンからかけ離れている。

 大きさなら巨人と見紛いかねない。それこそ、鼻無しに匹敵する巨体の持ち主だ。

 本来なら、ここまでリザードマンは大きくならない。例外を除いてだが。


「でけぇ。にしてもグレーターリザードマンが出てくるとはな……」


 その例外というのがグレーターリザードマンである。ランクは『B−』相当。いわゆるリザードマンの上位個体や強化個体的な存在だ。発生条件はかなり特殊だが……今は思い返している場合ではない。


「グロロロッ!」


「いきなり大物は勘弁してほしいぜ」


 愚痴を漏らしつつ、短剣のような強靭な爪による斬撃を後退して回避。

 今までの経験からして倒せない相手ではない。かと言って、楽な相手でもない。魔法が使えれば話は別だが生憎と魔法とは無縁だ。


(やれやれ、鼻無しを倒した時と同じように片方の足を集中攻撃して転倒させるしかなさそうだな)


 方針を決めると迷わず右足に向かって駆け出し、脛に拳を撃ち込んだ。さすがに足の骨が折れるということはなかったものの、ヒビが入ったような感触がしっかり伝わってきた。

 するとグレーターリザードマンは目を見開き、驚いたような鳴き声を上げて後退した。


「グロロ!?」


「そこまで硬くはないな。まっ、デカくてもランク的には鼻無しの劣化版だから当然か」


 この程度ならそこまで苦労しなさそうだ。

 そう判断し、グレーターリザードマンへと距離を詰めようとするもそうはいかなかった。


「クルルル!」


「ちっ、脳筋のくせに邪魔すんじゃねえ!」


 俺を取り囲んでいたリザードマン共が再度襲い掛かってきたからだ。

 仕方なく目の前から迫るリザードマンだけを殴り倒し、横や背後からの攻撃は無視して強引に押し進む。

 そうして改めてグレーターリザードマンと対峙したと思いきや、問答無用で丸太めいた尻尾を叩きつけてきやがった。


「ぐうっ!」


 咄嗟に両腕をクロスしてガードしたはいいものの、全身が僅かに軋んで悲鳴を上げる。


(鼻無しを倒したときよりも強くなったのにこの威力か。脳筋が巨大化したけのことはあるな……)


 グレーターリザードマンが再度尻尾を叩きつけるべく振り上げると同時に、反撃するべく即座に距離を詰めた。


「つっても所詮は脳筋! 隙だらけなんだよ!」


 尻尾を叩き付けてきたお返しに無防備となった右足へと回り込み、脛に回し蹴りをお見舞いしてやった。

 一回目に比べ、二回目の感触は確実にダメージが入ったと確信できるもので、この調子なら脛の骨が砕けるのも時間の問題だろう。


「グロローッ!!」


 グレーターリザードマンは痛む素振りを見せながらも、反撃として腕を振り下ろしてきた。が、苦し紛れの攻撃である。回避するのは容易い。


「焦ってるのが手に取るように分かるぜ。おぉっ?」


 グレーターリザードマンが不意に後退したと思いきや、周囲のリザードマン共が一斉に飛び掛かり、逃さんと言わんばかりに抱きついてきた。


「こんな連携するのかよ……」


 完全に身動きが取れなくなったわけではないが、振り払うのに手間取るだろう。


(こんなことになるのなら、真っ先にリザードマン共を片付けておくべきだったか)


 基本的には引っ掻いたり噛みつくといった攻撃しかしてこないし、明らかな妨害行為もしない。そんなゲーム内の知識を参考にした結果、今回は裏目に出てしまったようだ。


「くっ、反省は終わってからするとして、いい加減に離れろテメェら!」


 取り付くリザードマン共に悪戦苦闘していると、グレーターリザードマンは一際大きく口を開けて雄叫びを上げた。


「グロロロォー!!」


 何のために吠えたのだろうと疑問に思うも、すぐさま疑問が解消されることとなった。

 それも最悪の形で。


「「グロローッ!!」」


 目の前のグレーターリザードマンに呼応したのか、別々の方向から似たような雄叫びが聞こえてきたからだ。


「うっそだろ……」


 グレーターリザードマンは一つの群れにつき一体しか発生しない。

 それなのに、同じ鳴き声が二方向から聞こえてきた。


「もはや訳が分からないが、少なくとももたついている場合じゃねぇな」


 急ぎしがみつくリザードマンどもを引き剥がそうとするが、目の前のグレーターリザードマンはそんな隙を見逃すほど甘くはなかった。


「ガハッ!?」


(コ、コイツ……仲間ごとぶん殴りやがった)


 地面を掬うようなアッパーをもろに喰らって宙を舞いながらも、思わず動揺してしまう。

 ただし、残酷だとか非情といった感想が浮かび上がるわけではない。


(くっ、脳筋らしいっちゃらしいが、死を恐れずに特攻してくるのは厄介極まりないな)


 しかもリザードマンどもはまだ大量にいる。拘束を避けようにも、囲まれてしまったら困難だろうし、現に地面に叩きつけられた俺に覆いかぶさってきやがった。


「どきやがれっ! グハッ!?」


 そして追撃と言わんばかりの強烈なスタンピングを喰らってしまう。当然ながらリザードマンどもは巻き添えを喰らい、断末魔を上げる間もなく絶命した。


「質の悪い数の暴力だな……っと」


 二度目のスタンピングを横に転がることで辛くも回避。と思いきやそうは問屋が卸さない。


「グフッ!?」


「グロロロ……」


 二体目のグレーターリザードマンが突如として姿を現し、サッカーボールのように俺を蹴飛ばしやがったからだ。

 しかもスタンピングと蹴りはどちらとも俺の腹部に命中しており、無視できない亀裂が生じつつある。


「もう合流しやがったのか!」


 無様に地面を転がされて木の幹にぶつかって止まった。かと思いきや、木の幹ではなくまさかの三体目のグレーターリザードマンの足で、無造作に腕を掴まれて持ち上げられ、無慈悲に叩きつけられてしまう。

 ちなみに数体のリザードマンが巻き添えを喰らい、吹き飛ばされていたりする。


「うぐぐぐ……踏んだり蹴ったりだけじゃなく、最後はめんこみたいに叩きつけやがって……」


 幸いなことにそこまでダメージは受けてない。だが散々な扱いには苛立ちを覚える。


「まぁ、怒ってもしょうがない。それよりも、この状況はかなりマズいな」


 新たに二体のグレーターリザードマンが加わり、リザードマンどもの群れは少し数を減らしただけで未だ健在。

 戦力的には向こうが圧倒的に有利だ。


(絶体絶命……とはまだ言えないにしても、相当追い詰められてしまったぜ)


 姫様と呼ばれる少女やワイバーンの群れに比べたら生温いとさえ言えるが、それでもこの状況を打破するには切り札を使うしか他にない。


「リスクは高いし気は進まないけど、悠長なことは言ってられんな」


 そうして迫りくるリザードマンどもを前にして、俺は『神格解放』を発動した。全身を駆け巡る激痛は未だ慣れそうにないが、それでも我慢して駆け出す。


「どきやがれ!!」


「クルル!?」


「クルルーッ!?」


 突進だけで襲い掛かるリザードマンを蹴散らして突破し、右足を庇うようにしているグレーターリザードマンへと突き進んだ。


「グロッ!」


「グロロ!」


 他のグレーターリザードマンたちが許さんと言わんばかりに拳や足を振り下ろすも、ステップで難なく躱してお目当てのグレーターリザードマンへと向かった。


「グロロロッ!!」


 逃げられないと悟ったのか、右足を庇わずに立ち向かってきた。

 だけど悲しいかな。右足が痛むのか動きが少しぎこちない。立ち向かう勇気は認めるが、俺からしてみれば格好の的に過ぎん。


「遅い!」


 俺を掴もうとする腕を掻い潜って右足へと肉薄し、殴りつけた。

 元から負傷しているとはいえ、今回は『神格解放』によって力が倍増された状態だ。当たればひとたまりもあるまい。と思っていたら……。


「こりゃひでぇや」


 殴りつけた感触としては、確かな手応えは感じた。

 ただ、硬い鱗が弾け飛び、皮が破れ、肉が裂けて血が吹き出し、骨に至っては粉々に砕けるとは思わなかった。


「グッ!? グロロ……!」


 驚愕と激痛で顔を歪め、立ち続けることは叶わずその場で膝をついている。もはやまともに動くことはできまい。


「これでとどめ!」


 抵抗をされる前に貫手で胸を貫いて体内を抉った。すると目から生気が失われ、力無く地に伏せて死んだ。


「まずは一体目……ぬっ」


 安堵して少し気が緩んでしまったのか、リザードマンどもの接近を許して取り付かれてしまった。


「邪魔だ!」


 振り払うのに数秒。そのたった数秒が致命的だった。


「グロロロッ!!」


「やべっ!?」


 グレーターリザードマンが飛び掛かって爪を振り下ろしてきたからだ。

 半身をずらして辛うじて直撃を回避した。が、その代わり左腕が吹き飛び、おぞましい激痛と虚無感に苛まされた。


「グァァァッ!!」


 そして無慈悲な追撃が俺に襲い掛かる。


「グロローッ!」


「ゴハッ!?」


 槍のように繰り出された尻尾の先端が俺の腹部を捉え、あっさりと貫いた。

 しかも貫くだけにとどまらず、振り回していたぶるように何度も地面に叩きつけ、最後はリザードマンどもの元に放り投げた。


「しゃ、洒落にならねぇぞ」


 身体のあちこちがひしゃげてしまっている。

 発動した『神格解放』の代償で脆くなっているとはいえ、一瞬の隙を突かれただけでここまでボロボロになるのはかなりマズい。


(やはり、発動させるとしたら細心の注意を払わねば)


 内心で反省しつつ、俺を見下ろしてくるリザードマンどもに視線を向ける。

 リザードマンどもにとどめ刺させるのか拘束させるのか分からないが、これは好都合。


「敵に塩を送るってのはこういうことなんだぜ!」


 即座に跳ね起きると、近くにいたリザードマンの首筋に噛みつき、血肉を貪るように食い千切って殺した。


「マッズ……さぁて、お上品な戦い方はもう終わりだ」


 それからというもの、凄惨で酷かった。もはや人間の戦い方ではない。

 損傷を受ける度に、複数のリザードマンを噛み殺してはある程度身体を修復し、グレーターリザードマンに挑み掛かるということを繰り返したからだ。

 相手からしたらたまったものではないだろうし、二体のグレーターリザードマンが足を砕かれて膝をついた頃には、おびただしい数のリザードマンが血の海に沈んでいた。


「手間取らせやがって……」


「グロロ……」


「グロッ……」


 這いずりながらも俺に近づいてくるが、もはや敵ではない。

 最後は攻撃を躱しつつ、一体ずつ確実に胸を貫いてとどめを刺した。


「はぁ……こいつらの血でも飲んで左腕を修復だな」


 修復が終わったら可能な限り死体から血を飲ませてもらおう。

 そう考えながら美味しくないグレーターリザードマンの血を飲んでいると、背後から声を掛けられた。


「これじゃあどっちがモンスターなのか分からないねぇ」


「……起こしちまったか?」


 血を飲みながら振り返ると、そこにはオリディアが優雅に椅子に座っていた。

 しかもテーブルまで用意してあり、上には水の入った透明な瓶とグラスが置いてある。


「んー、別にそうじゃないかな。あっ、おはよ~」


 見上げると空が白み始めていた。もう間もなく朝を迎える。


「おはよう。じゃあ、早起きなんだ」


「まぁね。にしても、遠目から見てたけど凄かったよ。ただ、急にカイトから感じる気配が増大したかと思ったら不自然に光ってたよね。あれがカイトの切り札なのかな?」


 しっかりと『神格解放』を発動したところを見られてしまったらしい。

 ここははぐらかさないで答えておくとしよう。


「切り札といえば切り札だな」


(諸刃の剣めいた代償のおかげでかなり使い勝手が悪い。という注釈が付くけど)


「言い方が少しおかしいような気もしなくはないけど、否定はしないんだね」


「下手に隠し事をしてもいいことはないからな」


「ふーん、そうなんだ。でも、切り札を使ったにしては随分と荒々しくて野蛮な戦い方だったね」


「生憎と数える程しか使ったことがないんだ。俺だってもう少しスマートに戦いたいんだが……」


 普通の人が見れば、恐れ慄いてしまう戦い方だろう。それこそ、オリディアがさっき言っていたようにモンスターと断じられてもおかしくはない。


(実戦を積んで戦闘に慣れていくのが今後の課題だな)


「経験不足なんだ。納得したよ」


「そうかい……ところでなんで鉈の持ち手を俺に向けるんだ?」


 まるで受け取りに来いと言っているようにも見える。いや、たぶんその解釈で合っているのだろう。


「リザードマンの死体を解体して一箇所にまとめておいてほしいんだけど、やってくれるよね?」


「……何のために?」


「リザードマンって食べれるんだよ。カイトは知らないの?」


「は、初めて知った」


 ゲーム内でリザードマンを食べるなんて見たこともなければ聞いたこともない。ましてや食用可能なモンスターはかなり限られている筈だ。しかし、この異世界では普通に食べられるらしい。

 その事実に衝撃を受けていると、オリディアは何かを思い出したかのように口を開いた。


「あっ、人間は基本的にモンスターは食べないんだっけ。失念してたよ」


(そう解釈してくれたか。ボロを出さない為にも、この話はさっさと切り上げるのが得策だな)


「食文化の違いはよくあることだ。とりあえず、解体して集めたらいいんだな?」


 量が量なだけに、それなりに時間が掛かってしまいそうだ。その間にオリディアは何をするのだろうか。

 と思っていたら……。


「うんお願い。わたしは日の出を眺めながら朝食を食べてるから。それと作業が終わったら、カイトの身体を洗って出発するよ」


「……任された」


 手伝ってくれなさそうなうえに、血を飲む暇はなさそうだ。せめてもの救いがあるとしたら、返り血で汚れた俺の身体を洗ってくれることだろうか。


(待てよ。またおんぶをさせるつもりなんじゃ……わざわざ俺の身体を洗う理由としては辻褄が合うぞ)


 そんなことを考えつつ、俺は解体用の鉈を受け取るのであった。



グレーターリザードマンの発生条件は複数ありますが、どれも共通していることがあります。それは群れが危機に陥ることですね。

では、リザードマンたちはどんな危機に陥ったのでしょうね。

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