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蛇足という名のオマケ その一 ②

前回のオマケの続きです。

「う、上から女性が……」


「空を飛んでいた……?」


「一体何者なんだい……」


 ラルド、フォル、マリンダの三人は動揺を隠せないでいたが、シドは動じることなく槍を構えたままだ。

 対するヴェントは驚くこともなければ警戒することもなく、余裕のある口調で語り掛ける。


「気配を消してかなり上から観察してたけど、こんなに早く気づかれるとは思わなかったぜ。えーと、姫様とその御一行でいいんだよな?」


「そうだが……そう言うあなたは?」


「オレか? オレはこの周辺を縄張りにしている『風の眷属竜』。とでも言っておこうかな」


 それを聞いてほとんどの人が首を傾げている中、反応したのはただ一人。シドだけであった。


「ま、まさか……彼の『始原の竜』に仕えるというあの『竜』だと……」


「なぁ、シド。さっきから何を言っているんだ? 危険じゃないかもしれないけど、念の為に拘束しておいた方がいいんじゃないのか?」


「ば、馬鹿を言わないでください! 私とラルド将軍や護衛が束になって勝てる相手ではありません。この中で彼女に太刀打ちできるのは姫様だけですよ!」


 血相を変えて訴えかけるシドの様子を見て、ようやく事態の深刻さを理解したのか、ラルドも慌てだす。ただし、気が動転してしまっているようだ。


「えぇっ!? た、退却して立て直すぞ。殿は俺に任せろ!」


「退却もなにも、相手は空を飛べるんですよ。逃げれるわけがありません! そもそも、将軍であるあなたが殿を務めるなんてもっての外です!」


「お、おう……じゃあ、どうすればいいんだ?」


 シドとラルドが二人して言い合っている最中、女性陣は冷静にヴェントの様子を窺っていた。


「マリンダさん……彼女は何が目的でわたくしたちの前に姿を現したのでしょうか?」


「さぁね。少なくとも、敵意は感じないから襲い掛かることはないと思うけど」


「だから落ち着いているのですね」


 理由を聞いてフォルは感心するものの、マリンダが落ち着いている理由は他にもあったりする。


「それとこれはあたしの勘なんだけど、たぶん悪い奴じゃないよ」


「なるほど。でしたら危害を加えることはないでしょうし、対話もできそうですね」


「……念の為に言っておくけど、これはあたしの勘なんだよ?」


「マリンダさんだからこそ安心できるのです。まぁ……姫様が一切動じていないのもありますけど」


 フォルの視線の先では、姫様と呼ばれる少女が臆することなくヴェントに歩み寄っていた。もちろん、オリハルコンの剣を構えることなく。

 そして、お互いに手が届く距離まで近づき、名前を名乗ったのである。


「初めまして。わたくしの名前はラティア・ソルドです。あなた様のお名前は?」


「ふーん、やっぱり『ソルド王国』の姫様なんだね。そして『剛力絢爛』の二つ名を持つってわけだ」


 納得したようにヴェントは語るが、ラティアは不満げだった。


「むぅ、わたくしのことをその二つ名で呼ばないでください。可愛らしくないから嫌いなんです」


「悪い悪い。女の子に付ける二つ名としては相応しくないな。おっと、こっちも名乗っておかないと。オレの名前はヴェント。呼び捨てで頼むぜ」


「ヴェント、ですね。よろしくお願い致します。それで、挨拶をしに来ただけじゃないですよね?」


「おうとも。忠告をしに来たんだ」


「忠告……ですか」


 ヴェントには敵意はないが、それでもラティアは身構えてしまう。

 追い返されるのでは。と、内心で思ったからだろう。しかし、どうやらそうでもないらしい。


「早く王都に戻った方がいいぞ」


「それは一体……?」


「少し前に聞いたことなんだけど、聖国の周辺とか北西がきな臭いみたいなんだ。もしかすると、何かが起こるかもしれないぜ」


「ほ、本当ですか?」


 仮に本当だとしたら、王都に戻って調査をするなりして備える必要がある。当然ながら、ヴェントが嘘をついているようには見えない。が、あまりにも唐突過ぎるせいかラティアは半信半疑のようだ。


「ですが、どうしてそう言えるのでしょうか?」


「んー、上から二番目の姉に教えてもらったのもあるけど、北西の『奈落の峡谷』に住み着いてる一番上の姉が最近連絡を寄こさないんだ。そんでもって、オレも厄介な奴に襲われたばかりだからな」


「そんなことが……」


「なぁラティア。『南の街』が魔王軍に襲撃されたんだろ? 魔族の連中が本格的に活動しているかもしれないし、また襲撃を仕掛けるかもな」


 内容としてはどれも定かではない。ただ、だからといって捨て置いていい内容でもない。

 故に、ラティアは決断を下すのであった。


「ご忠告、ありがとうございます。すぐに戻って、お父様と話し合ってみますね」


「それがいい。何が起こるか分からないからな」


「でも、カイトさんに会えなかったのは残念です」


 ヘルムのせいで表情は伺えないが、声色からしてあからさまに落胆していた。

 それを見かねたヴェントが、あることを提案する。


「カイトならどこにいるかオレは知ってるぜ。伝言なら預かってもいいが、どうする?」


「いえ、わたくしとしては直にお会いして、自己紹介をしたかったので」


「そっか」


「ちなみに、ヴェントはカイトさんとはどのような関係なのでしょうか?」


「んー、戦友ってところかな。カイトがいなけりゃ、あの厄介な奴を倒すのは厳しかったし」


「一緒に戦ったのですね。羨ましいです」


 しかし、幸か不幸かヴェントはカイトを尋問していた時のことをすっかり忘れていた。尋問の様子を傍から見れば、誰もが対等な関係ではないと思うことだろう。 


 とはいえ、その程度であればカイトにとって問題はない。が、ヴェントの次の発言はあまりにも問題があり過ぎた。


「そういや、カイトはもっと強くなってからラティアに会いたいとか言っていたな」


 当然ながら、カイトはそんなことは一言も言っていない。おそらくは、ヴェントの記憶違いによるものだ。


「本当ですかっ!?」


 だが、時は既に遅し。

 落胆している様子から一転して、嬉しそうにしていた。ヘルムの下では、喜色満面の笑みを浮かべているだろう。


 もしもカイトが今のやり取りを見たら、きっと絶望していたに違いない。

 そして、いつかラティアと出会ってしまった暁には、手合わせすることはほぼ確定したと言ってもいいだろう。


「ところでさ、後ろの三人が何か聞きたそうにしてるけど」


「あっ、すっかり忘れてしまっていました。リアラとマリンダさんとフォルさんです」


「へぇ、いい目をしてるな。特にマリンダってのは」


 そう言うと、ヴェントはマリンダに近づいた。


「あたしに何の用があるんだい?」


「別に取って食うなんてことはしないから、身構える必要はないぜ。少し聞きたいことがあってな」


「聞きたいこと?」


「眼つきが貴族のお嬢様らしくないと思ってさ。何者なんだ?」


「アンタの言うことは間違っちゃいないね。あたしは貴族の令嬢になる予定の商人だよ」


「商人か……」


 商人という単語が引っ掛かったのか、ヴェントは少し考え込んだ。すると、あることを聞き出すのであった。


「なぁ、取引で服が手に入ったりするのか?」


「それは内容次第だね。ちなみに聞くけど、どんな服が欲しいんだい?」


「白のワンピースだな。色々とあってダメになったんだ。逆に聞くけど、マリンダは何が欲しい?」


「そうだね……珍しいモンスターの素材とか、『竜人の里』の特産品かな」


 そう言い切ると、フォルが疑問を口にした。


「あの、本当に『竜人の里』は存在するのでしょうか?」


 存在が語られているだけで、実際に見たことがないからこその疑問だろう。

 その疑問を晴らすべく、ヴェントは答えるのであった。


「あるよ。とりあえず、特産品を用意したらいいんだな。オレが運んでやるから、どこに持って行ったらいい?」


「えーと、『南の街』にあたしはいるから……」


「決まりだな。じゃあ、沢山用意するから白のワンピースの他に色んな服を用意してくれよな」


「わ、分かったよ」


 マリンダは半ば強引だと思いつつも、『竜人の里』の特産品が気になるから了承した。


 忠告をして、ついでの取り引きがまとまったからヴェントは踵を返そうとする。しかし、そこでラティアが引き止めた。


「少し待ってくださいヴェント。最後に少しだけいいですか?」


「何だ?」


 ヴェントは空気が変化しつつあるのを肌で感じるも、表に出すことなく返事を返す。ただし、大方の予想はついているようだ。


「もしよろしければ、少しだけお手合わせ願いたいのですけど、よろしいでしょうか?」


 その申し出は、純粋な好奇心からくるもので、シドが『太刀打ちできるのは姫様だけ』と言ったのが一つの要因である。

 つまり、どれだけ強いのかが気になったからだろう。


 だが、ヴェントは即座にその申し出を断った。


「悪いな。このドレスは大切な貰い物だからさ、ラティアと戦うわけにはいかないんだ」


 それを聞いたラティアは意外にもすんなり引き下がった。


「確かに、綺麗なドレスが破けてしまったらいけませんよね」


「理解してくれて助かるぜ。じゃっ、また会おうな」


 そう言い残し、ヴェントは踵を返すと風を巻き起こして空へ飛び去る。

 残されたラティアたちは、未だに話し合うラルドとシドや護衛たちを落ち着かせて、来た道を引き返すのであった。


カイトが知らない間に交流が広がって、不吉なフラグが建ちましたねぇ。

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