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第四十二話 オリディアの本気

今回から文字数を三千から四千にして投稿しようと思います。

「こんなのって……あんまりだろ……」


「クオォーンッ!」


 殺気がこもった鳴き声を上げ、ワイバーンは一歩ずつ近づいている。

 谷底に墜落したというのに、生き延びるどころか普通に動いているというのが驚きだ。流石はランク『A+』のモンスターといったところか。


「あーあ、その生命力の高さは理不尽としか言いようがねぇな……」


 上を見上げると、ちょうどワイバーンの群れに追い掛けられるヴェントの姿が高速で通り過ぎて行った。

 あの様子を見る限りでは、俺を助ける余裕はあるまい。


「孤立無援……もはやこれまでか」


 と、諦めかけたその時だった。意外な人物の声が谷中に響いたのである。


「カイトーッ!!」


「この声は……」


 聞き間違える筈がない。オリディアさんの声だ。それにしても、どうしてこんな時に聞こえてくるのだろうか。もしかして、俺が無意識に望んだ幻聴だったりしてな。

 いや、幻聴の類にしてはやけに生々しいぞ。まさか……本当に降りてきたりしてないよな?


「いやいや、流石のオリディアさんでも、谷底に落ちたらひとたまりもないだろ」


 そんな自殺行為をする筈がない。

 即座にその結論に至って否定したのだが、この時の俺はオリディアさんの正体について考慮してなかった。


「今助けるからねー!」


「クオーン?」


 声がどんどん近づいている。ワイバーンも立ち止まって反応しているということは、幻聴の類ではないのだろう。

 だとしたら、本当に降りてきているとしか考えられない。


「で、どこにいるんだ……って、あれは?」


 視界の端で鳥のような影が高速で横切った。ただし、鳥にしては大きくて人のようにも見える。

 もしかしなくとも、あれがオリディアさんだったりするのではなかろうか。

 そんな確信めいたものを抱いていると、突如として黒い影がワイバーンの斜め上から飛び出て、頭部に飛び蹴りを決めたのである。


「間に合った!」


「クオーッ!?」


 黒い影による飛び蹴りはワイバーンにとって不意打ちに等しく、しかもそれなりに威力が強かったようで、情けない鳴き声を上げてその場に倒れ込んだ。

 そして、ワイバーンに奇襲を掛けたであろう人物は、蹴った反動で宙返りして華麗に着地していた。


「いや〜、危機一髪だったね」


「お、オリディアさん……?」


 最後に疑問符が付いたのには理由がある。


「ん? どうかしたの?」


「いや、その姿は一体……」


 眼の前にいるオリディアさんが最初に出会った時の姿とは異なっていたからだ。

 背中からは竜を連想させる白い翼が生え、腕の所々は白い鱗によって覆われ、指先に至っては鋭い鉤爪が生えている。そのうえ、腰のあたりから白い鱗でびっしりと覆われた尻尾が生えている。

 さらには金髪が銀髪へと、金眼と銀眼のオッドアイは両眼とも銀眼へと変化しており、瞳孔は縦に割れていた。

 見た目からして竜人の特徴とほぼ一致。となると、オリディアさんの正体は竜人なのだろうか?


「あー、カイトにこの姿を見せるのは初めてだったね。どう? カッコいいでしょ?」


「カッコいいじゃなく……美しいが適切かな」


 紛れもない本音である。白と銀の組み合わせはオリディアさんに似合っており、ただ立っているだけで絵になるのではなかろうか。

 だが、じっくり観賞している場合ではない。


「クオォーンッ!!」


 ワイバーンが立ち上がり、オリディアさんを敵と認識して襲い掛かろうとしていたからだ。


「む、意外としぶとい」


「谷底に墜落しても生き延びているくらいだからな……で、倒すつもりか?」


「当然! わたしも活躍したいからねー」


 そう言うオリディアさんはやる気満々の様子で、心なしか愉しそうにも見える。

 まぁ、頼もしいとは思えるが……何故か一抹の不安を感じた。とはいえ、今の俺には見守ることしかできない。


「ふふーん。これはどうかな?」


 オリディアさんが腕を構えて余裕たっぷりに言い放つと、背後から燃え盛る紅蓮の槍が幾つも出現した。


「マジか……」


 俺の記憶が正しければ、出現したのは上級魔法である『フレイムランス』だ。この魔法は対大型モンスター用として優秀で、柔らかい箇所を貫いて体内で爆発させて燃やす、といった運用をされていた。


 ただし、『フレイムランス』を幾つも同時に出現させるのは見たこともないし、聞いたこともない。ましてや無詠唱でこんな芸当ができるなんて、規格外としか言いようがない。


(これがオリディアさんの本気だというのか?)


「いっけぇっ!」


 内心で驚いてる間に、オリディアさんは意気揚々と幾つもの『フレイムランス』を放っていた。

 だが、ワイバーンの鱗には魔法への耐性がある。


「オリディアさん! 魔法じゃワイバーンにとどめを刺すのは厳しいぞ!」


「え、何か言った?」


 忠告したというのに、命中した『フレイムランス』による爆発音によって俺の声はかき消され、オリディアさんの耳には届かなかったようだ。

 そのせいで……。


「クオォーン!」


 『フレイムランス』の一斉発射に耐えきったワイバーンが爆煙の中から飛び出し、長い尻尾を巧みに操って先端の針を突き出し、オリディアさんを串刺しにしたのだ。


「カハッ!」


「お、オリディアさんっ!?」


 腹部を貫かれたオリディアさんは、大量の血を流して苦しそうにしていた。

 唐突に訪れた凄惨な光景は酷く印象的で、その惨さに目を背けたくなってしまう程だ。しかし、それは束の間のことであった。


「ホント最悪なんだけど……」


「えっ?」


 苦しそうにしていたのはほんの数秒だけで、今は俯いて怒りを露わにしていた。それも致命傷を受けているのにもかかわらずだ。


(人外であるにしても度が過ぎているんじゃ……)


 そう恐れ戦いていると、オリディアさんは腹部を貫く針を無造作に掴み、そのまま砕くのであった。


「クオーンッ!?」


 あまりの出来事にワイバーンは狼狽してしまっている。そりゃそうだ、自慢の針がいとも容易く砕かれたのだからな。

 言うまでもなく、格の違いがはっきりした瞬間だ。このワイバーンには破滅しか待ち受けていないだろう。


「こっちの力はあまり使いたくなかったんだけど……お気に入りのワンピースが破かれたから別にいいよね?」


「いや、怒る理由はそれかよ……」


 若干呆れて突っ込んでいる間にも、オリディアさんは変貌を遂げつつあった。


「この姿は久しぶりだねぇ」


「金色……」


 銀髪が金髪へと、銀眼が金眼へと変化した。それだけのことではあるが、醸し出される雰囲気が異様なものになり、敵対していないのに俺までも身の危険を感じてしまっている。

 そしてオリディアさんは薄く笑い、愉しげに口を開いた。


「あっは、やっぱり抑えが利かなくなっちゃうなぁ」


「ク、クオォォォーンッ!!」


 本能で危険と感じ取ったのか躊躇う素振りを見せながらも、意を決したワイバーンはオリディアさんに襲い掛かった。

 俺からしてみればその突進は無謀と言わざるを得なかったが、だからといって逃げたところで結果は変わるまい。

 何故なら、オリディアさんの方が圧倒的に強かったからだ。


「これはさっきのお返し!」


 襲い掛かるワイバーンの顎にアッパーを撃ち込んで仰け反らせ、跳躍して無防備となった胸部を殴って岩壁に叩きつけていた。

 それらが流れるような動作で行われたのだから、オリディアさんの強さが際立つというものだ。

 にしても見た目は少女なのに、巨躯を誇るワイバーンを一方的に殴り飛ばすとは……。


(魔法といい、怪力といいとんでもないな)


 怒らせないように気をつけなければ。と、こっそり誓っていたのはここだけの話である。

 それはともかくとして……まだ終わっていないようだ。

 ボロボロになりながらもワイバーンは体勢を立て直していたからだ。それから長い尻尾を鞭のように素早くしならせ、オリディアさんに叩きつけて岩壁へと吹き飛ばした。


「だ、大丈夫だよな?」


「まぁまぁやるねっ!」


 心配する俺をよそに、オリディアさん空中で体勢を整えて岩壁を蹴り、弾丸めいた速度でワイバーンへと飛び掛かる。そうして、お返しと言わんばかりに拳を脳天に振り下ろし、頭を地面に叩きつけた。

 うん、やっぱり大丈夫のようだ。そう安堵した次の瞬間、オリディアさんが地面に着地した隙を狙い、ワイバーンが死力を振り絞って腕に噛みついたのである。


「なんて執念だ……」


 ものの見事に、ワイバーンはオリディアさんに一矢報いた。と思いきや、白い鱗に阻まれて一滴も血を流させることができてないでいた。

 悲しいまでに無駄な悪足搔きでしかない。何をしたとしても、結末は大して変わらなかっただろう。


「いきなり乙女の肌に噛みつくなんて、最低だね。『フレイムランス』!」


 オリディアさんが無慈悲にそう言い放つと、牙を突き立てるワイバーンの口内で『フレイムランス』を発動。その容赦ないとどめの一撃により、ワイバーンは頭部を一瞬で木端微塵に爆破され、断末魔を上げる間もなく絶命し、力なく地に伏して二度と動くことはなかった。

 そして飛び散った血、肉片、脳漿がオリディアさんに降りかかって、白いワンピースが血で赤く染め上げられた。


まだ助かったとは決まってないです。

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