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第四十話 VSゾア&ワイバーン

カイトが身体を張ってくれますぜ。(物理)

「フハハハハハハッ! これで貴様らは袋の鼠だ!」


「けっ、ゾアの奴め。いい気になりやがって、今に見てろよ」


 己の勝利を確信して高らかに笑うゾアは無視するとして……まずは状況の確認だ。

 こちらが不利ではあることは違いないが、ワイバーンの数が最初よりも少なくなっているのが不幸中の幸いと言ったところだろうか。


「十体以上もいたのに随分と数を減らしたな」


「ゾアの元に向かっている時が隙だらけだったから簡単に殺せたぜ。だから、カイトの行動は無駄じゃなかったと思うぞ」


「役に立てたのなら良かった」


 とはいえども、未だに向こうの方が数が多いうえに、ヴェントのスキルが封じられたままだ。この状況を突破するのはかなり厳しいぞ。


「今の貴様らでは手も足も出まい! さぁ、どうする?」


「アイツ……なんてバランス感覚を持ってやがるんだ」


「ねぇカイト、そんなことで関心してる場合じゃないでしょ……」


 いやぁ、飛行するワイバーンの背の上で堂々と仁王立ちしてるんだぜ。俺が真似をしようものなら、たぶんすぐに落っこちる自信があるぜ。

 ……さて、オリディアさんを呆れさせるのはここまでにするとして、ゾアを叩き落とすにはどうしたらよいものか。あのバランス感覚を見る限りだと、しくじって自分から落ちるということは、まずないだろう。


「魔法は防がれるだろうし、突撃かまそうにもワイバーンに襲われるだろうし……何か有効な手立てを考えないと」


「ヴェント、わたしが本気を出せばどうにかできるかな?」


「できるかもしれん。だけど、それは最後の最後にしときな」


「うん、分かった」


(オリディアさんの本気だと?)


 常人離れした怪力に加え、当然のように上級魔法を扱っているというのに、まだ何かあるらしい。まさか『竜』の姿になるというのだろうか。だが、今はまだ温存するとのことだ。

 まぁ、それはそれで悪くない選択だと思う。オリディアさんの本気が切り札となり得るというのなら、ここぞという時までに温存するのは戦略的にも理に適っている。

 内心でそう納得していると、ゾアが威圧的な口調で語りだした。


「『風の眷属竜』よ! 命が惜しければ俺様の僕となれ! そして鎧男を殺すのだ!」


「何て傲慢な奴だ……」


「うわぁ、図に乗り過ぎでしょ」


 俺とオリディアさんがゾアの発言にドン引きしていると、案の定と言うべきかヴェントは憤慨して怒鳴り返すのであった。


「ふざけたことを言いやがって! テメェなんかの下僕になるんだったら死んだ方がまだマシだっ!」


「ふん、分かり切ってはいたが……よかろう! ならば望み通り死んでもらうまでのこと!」


 話は終わりだと言わんばかりにゾアは手を振り下ろすと、それを合図に背後を取っていたワイバーンたちが一斉に上空へと羽ばたいて行った。


「三体で『スティンガーショット』か。これを凌がないと、谷底に叩き落されるのはこっちだぜ」


「カイト、『スティンガーショット』って何?」


「えーと……」


 ぬかった。としか言いようがなかった。

 よくよく考えてみれば、『スティンガーショット』とはゲーム内のプレイヤーたちが考えて作り出した用語だ。それが本場である異世界でも同様に使われているとは限らないのだから、疑問に思われても仕方あるまい。

 しかも今回は小声ではなかったうえに、しっかりと聞かれている。どうにか上手い具合に説明して、余計なところまで追求されないようにせねば。


「……簡単に言うと、ワイバーンの必殺技名みたいなもんだ。尻尾の針を撃ち込んでくるだろ? アレのことでな。まー、仲間内で使ってた単語だからオリディアさんは知らなくても当然だけど」


「ふーん……嘘はついてないみたいだけど、何か怪しいね」


 と、訝しむように金と銀の瞳を俺に向けてきた。

 嘘はついていない筈だが、やや早口になってしまったのが裏目に出たか……いや、違うな。気配で致命的なことを隠していると勘づいているのかもしれん。

 だが今は時間がない。強引に押し切ろう。


「と、とりあえず。ワイバーン三体が尻尾の針を撃ち込んでくるから、どうにか防がないとこっちがやられるぞ」


「『アークマジックシールド』で防げばいいんじゃない?」


「それが可能なら俺はこんなに悩んだりしないんだがな……」


 いくら上級魔法でも限界というものはある。そもそも対魔法に特化しているだけであって、対物理になると話が違ってくるのだ。

 ゲーム内でも『アークマジックシールド』を展開して防ごうという試みはあったものの、悉くが障子のようにあっさりと突き破られ、使用者が串刺しとなり即死。後に複数人で展開しても、まとめて突き破られた。

 等といった有志たちによる実証実験の結果を知るからこそ、オリディアさんでも防ぐことはできないと断言できる。

 なのに……。


「そんなに威力が強いの?」


「ワイバーンのことはあまり知らないのか……」


 どうやら、『スティンガーショット』の威力はご存知ではないようだ。だからこんな状況下でも、あまり焦っている素振りを見せなかったんだな。


「オリディアは『竜人の里』の外にあまり出たことがないからな。ちなみに言っておくけど、オレでもまともに喰らうとヤバい。普段は『風の加護』で防いでいたけど、今は封じられてしまっているせいで防ぎようがない」


「えっ、かなりマズくない?」


「ああ、実際にマズいぞ」


 そうこうしている内に、上空へと羽ばたいて行った三体のワイバーンが必要な高さまでに到達し、旋回すると俺たち目がけて急降下を開始した。


「貴様らが谷底に墜落するのが楽しみだぞ。フハハハッ!」


「ゾアの野郎、よくも言ってくれるぜ。オリディア、防ごうと考えなくてもいい。少しでも逸らしてくれたら後はオレが躱してみせる。いいな?」


「わ、分かった。何とかしてみる」


 ヴェントの指示を受けたオリディアさんは魔法を放つべく立ち上がって両腕を構え、

急降下しつつあるワイバーン三体に狙いを定めた。

 にしても、『スティンガーショット』を逸らすという発想は思いつかなかったな。ぶっつけ本番で上手くいくかは怪しいところだが最悪の場合……っと、考える時間はもう無いか。

 射程圏内に入り、三体の内の二体が尻尾を振って針を射出したからだ。


「まさか時間差攻撃でもするつもりか?」


「ワイバーンのくせに生意気だね! 『ウィンドキャノン』!」


 軌道を逸らすべく放たれた『ウィンドキャノン』は、狙いを違えることなく真正面から命中するも、『スティンガーショット』のあまりの威力によって霧散してしまう。ただ、それでも僅かに軌道を逸らすことはできていた。

 しかし、逸らしたと同時に三体目が間髪入れず針を射出するのであった。


「ヴェント! 躱せそう!?」


「何とか! だが、三体目の針が厄介だぞ! それを防がなきゃどうしようもない!」


「どういう意味だ?」


 三体目の『スティンガーショット』も、先程と同じように逸らせば躱すのはそう難しくはないと思うのだが。他に何かがあるというのだろうか。


「くるぞっ! しっかり掴まっておけよ!」


 軌道を逸らすことができたというのに、そこまで警戒するとは一体……と思っていたのだが、この後すぐにその疑問は解消されることとなる。

 まさかのまさかで、射出された二本の針がうっすらと緑色の光を放ち、自ら軌道を修正したからだ。


「おいおいおいおい! さすがの俺もそれは知らんぞ!」


 ゲーム内でも異様に命中精度が高過ぎるとは実感していたが、よもや針そのものが軌道修正していただなんて誰が想像しただろうか。ゲーム内だと緑色の光を放つことはなかったと思うけど、運営はそこまで再現しなかったようだな。

 それはともかくとして……改めて軌道を逸らすには距離が近すぎる。もはやヴェントの回避が頼みの綱だ。


「カイトもそこまでは知らなかったのか。まぁ、あの軌道修正は一回きりだから……よっと!」


「手慣れているもんだな……」


「わわっ」


 驚いていた俺とは対照的に、ヴェントは落ち着いて針を危なげなく躱していた。

 しかし、三体目の分が残っている。さらに付け加えると、ヴェントの回避行動でオリディアさんは体勢を崩して膝をついてしまっている。今から魔法で逸らそうとしても間に合いそうにない。

 故に、ヴェントが回避をしても針が軌道修正してほぼ確実に命中させてしまうだろう。しかも運が悪いことに『スティンガーショット』の軌道がオリディアさん一直線である。


「だったら……『アークマジックシールド』!」


「それは無茶が過ぎるぜ」


 オリディアさんが『アークマジックシールド』を展開するが、即座に貫かれるのが目に見えている。

 早くも最悪の場合に備える必要性がありそうだな。あまりに危険過ぎるが……三体目が放った『スティンガーショット』がおぞましい速さで迫りつつある。もはや覚悟を決めるしか他はあるまい。


「オリディア! いくらお前でも防ぐのは無理だ! って、聞いてないか。すまん、カイト! オリディアのことを頼んだ!」


「任された」


 ヴェントが説得を試みるも、時すでに遅し。このままでは『アークマジックシールド』諸共オリディアさんは貫かれるだろう。

 もちろん、ヴェントに言われるまでもなく俺は行動に出るつもりだ。が、それは無謀と言える行動でもあった。


「つっても、こうするしかないからなぁ」


「カイトッ!?」


 『スティンガーショット』を受け止めるべく、オリディアさんの前に立って両腕をクロスして備えた。

 にしても、覚悟を決めたうえにゲーム内で何度も見たことがあるとはいえ、実際に目の前から迫ってくると否応なしに恐ろしくなってしまう。

 だが、ここにきて今さら退くわけにはいくまい。一方的に助けられてばかりで恩を返さないというのは、信頼してくれたヴェントを裏切るようなものだ。そして何より、男としての不甲斐なさを払拭するなら今しかない。

 とはいえども、やはりこう言わざるを得ない。


「まさか『スティンガーショット』を受け止める日が来るとは思わなんだ……」


 そう呟いた次の瞬間には目前まで迫っていた。

 すると重い風切り音が聞こえたかと思いきや、『アークマジックシールド』をあっという間に突き破り、俺の腕に『スティンガーショット』が撃ち込まれるのであった。


「ぬおぉぉぉおぉぉぉぉっ!!」


 凄まじい衝撃が身体中を駆け巡るも、辛うじて体勢を崩すことはなかった。がしかし、肝心の受け止めた両腕には瞬時に貫かれて大量の亀裂が走り、甲高い金属音を響かせて粉々に砕け散ってしまう。

 それでもなお、勢いを殺せなかった針は俺の胸部に命中して容赦なく貫通し……そこでようやく勢いが止まった。


「ぐう゛ぅぅう゛ぅぅぅ……」


 激痛が走って、慣れない虚無感に苛まれたが……何とか防げたようだ。

 代償として両腕は犠牲になったものの、オリディアさんとヴェントが無事だったのだから、文字通り身体を張った甲斐はあったというものだ。


「だ、大丈夫なの……?」


「よくやってくれたカイト。でも、少し無理し過ぎじゃないか?」


「あぁ……何とか大丈夫だ。両足が付いているから昨日よりかはまだマシだし」


「言われてみれば……あっ、お礼を言っておかないとね。ありがとう、助かったよ」


「借りを返しただけだからそこまで畏まらなくていいぜ。まぁ、借りは多いからまだまだ返さなきゃいけないけど……」


「『穿て』!」


「っ!?」


 ゾアの声を聞き取ったと同時に振り向くと、既に『ホーミングスティンガー』が投擲された後だった。


「誰が狙いだ……」


「何を焦っているの? あんなところから投擲しても当たるわけ……」


「ところがどっこい。あれはゾアが作った『ホーミングスティンガー』っていう魔道具でな。自動で狙った相手を当ててくるんだよ」


 オリディアさんに説明している内にも狙いを定めたらしく、風を巻き起こし凄まじい速度でこちらに飛来するのであった。


(狙いは……ヴェントではなさそうだな。じゃあ、俺かオリディアさんのどちらかだが……ゾアのことだからきっと)


「オリディアさん、俺の後ろに!」


「あの程度なら大丈夫! 『アークマジックシールド』!」


(いや、それでも貫いてくるとは思うが……言ったところで間に合わないか)


 そうして『ホーミングスティンガー』は『アークマジックシールド』に衝突して僅かに拮抗するも、俺の読み通りものの数秒で突き破ってオリディアさんを串刺しにしようとしていた。

 まぁ、そんなことをさせるつもりはないけど。


「ウソッ!?」


 そして驚くオリディアさんの前に立ち、真正面から腹部を貫かれるのであった。


「ハッハッハッハッハッ! 無様だな鎧男よ! しかも、その有り様では次は防ぐことはできまい! 貴様らはもう終わりだ!」


 防がれたにもかかわらずゾアは高らかに笑っていて、相変わらず己の勝利を確信していた。

 確かに、二度目も防げるかと言われたら、防げないとしか言いようがないのが現状だからな。


「ぐふっ……これ以上はさすがにキツイぜ……」


「また助けられちゃったね。……それはそうとして、あのゾアって奴は絶対に許さないんだから!!」


「オリディア、怒る気持ちは分からんでもないが、どうするんだ?」


「決まってるでしょ。やられたらやり返す!」


「つまり?」


「こうするのっ!」


 言い終えるや否や、胸部に突き刺さっていたワイバーンの針を引き抜き、ゾアへと投擲したのであった。

 投擲された針は鋭い風切り音を響かせながら、とんでもない速度でゾアを串刺しにしようと迫っていた。オリディアさんが常人離れした怪力の持ち主だからこそ、できる芸当である。

 当然、さすがのゾアも慌ててワイバーンに回避の指示を出していた。


「か、躱せっ!」


「クオーン!」


 咄嗟の指示でありながらも、ワイバーンは辛うじて回避していた。が、その好きを見逃すほどオリディアさんは甘くはない。


「カイト、これってどう使えばいいの?」


「えーと……ゾアは『穿て』とか言ってたぞ」


「そう。なら、これもお返ししてあげる! 『穿て』!」


 今度は俺の腹部に突き刺さっていた『ホーミングスティンガー』を引き抜き、即座に投擲した。

 回避直後を狙ったこの一撃は、もはや防ぐ以外に凌ぐ手立てはない。

 と、ゾアは判断したらしく、虚空から大盾を取り出して防ごうとしていた。


「待て待て待て待て、どこからあんなデカブツを取り出しやがったんだ。というか、『ホーミングスティンガー』もどこから取り出したっていうんだよ」


(一流の手品師でも度肝を抜かれてもおかしくない光景だぞ)


 半ば混乱しながらそう思っていると、オリディアさんがとある魔道具の名前を出すのであった。


「んー、『アイテムボックス』っていう魔導具を使ってるのかも」


「『アイテムボックス』か……なるほど」


 異世界系の物語でもよく出てくる名前だ。基本的には物資や食糧の運搬で重宝されたり、場合によってはチートアイテム的な扱いをされていることもある。所謂、ゲームでいうインベントリ的な機能を持つ代物という認識でいいだろう。


「タネは分かったが、このままだと防がれてしまいそうだな」


「そうでもないよ」


「ん?」


 不意に、オリディアさんが意味深な視線を俺に向けてきた。それこそ、まるで品定めをしているような……。

 でも、それだけだというのに、こんなに身の危険を感じるのは何でだろう。今すぐにでも、オリディアさんから離れるべきだと本能が訴えかけているような気がする。


「カイトってさ、あと一回くらいは借りを返さないといけないよね? だから……今すぐここで返してもらうね」


「えっ?」


 まるで死刑宣告めいていた。

 と、思ったときにはオリディアさんに首根っこを掴まれ、次の瞬間にはとんでもない速度で宙を飛んでいた。


「ウッソだろぉぉぉぉぉぉっ!?」


 よりにもよって、俺を追撃としてぶん投げたのだ。

 しかも、追い打ちをかけるかのようにオリディアさんは魔法を放った。


「いっけぇぇぇっ! 『ウィンドキャノン』!」


 『ウィンドキャノン』を背に受けてさらに加速する。

 俺の視線の先では、大楯が『ホーミングスティンガー』に貫かれながらも、何とか防ぎきっていた。

 そんなゾアの元へと、俺は砲弾のように一直線に突き進んだ。

 

(まさか、人間砲弾めいた体験までする羽目になるとは思わなんだ)


 内心で白目を剥きながらそんな感想を抱いていると、ゾアが慌てて大盾を構えなおしていた。が、『ウィンドキャノン』で加速しているということもあってか、俺が頭から衝突すると大楯はひしゃげ、構えていたゾア諸共ワイバーンの背中の上で倒れ込んだ。

 しかも、俺が衝突した衝撃でワイバーンの身体が揺れ、飛行体勢が不安定になった。


「意外と上手くいくもんだな……」


「うぅっ、貴様ら……よくもやってくれたな」


 呻きつつも、ゾアは健在のようだ。

 立ち上がる前にどうにか仕留めたいところだが……生憎と両腕を失っている今では俺の方が立ち上がるのが恐ろしく困難である。そのうえワイバーンの背中の上は不安定で、下手すれば転げ落ちかねん。


(後もう少しだというのにこれかよ)


 どうにか立ち上がろうと四苦八苦していると、後方からオリディアさんの声が聞こえた。


「カイト! 後のことは頼んだからね! 『サンダーレイン』!」


「えっ、ちょ」


 「待って」と言うよりも先に、オリディアさんがさらなる追撃として、上級魔法で広範囲に雷を落とす『サンダーレイン』を放った。

 すると次の瞬間には、真上から轟音と稲光を撒き散らしながら、雨のように雷が降り注ぐ。

 当然ながら真下にいる俺も巻き込まれるが、ほぼ無傷。ゾアはひしゃげた大楯でどうにか凌いでいた。ワイバーンは鱗に魔法への耐性があるものの、耐性のない翼膜は雷によってズタズタに貫かれて焦げてしまう。

 そして、ワイバーンが飛行能力を失うわけだから……谷底へと墜落するのは必至なのだ。


「また谷底に落ちるのかよぉ!」


 叫びながら谷底へと落ちていく最中、上から俺を鼓舞する声が聞こえてくる。


「頑張ってくれ、カイト! ゾアの魔道具をぶっ壊してくれたら、他のワイバーンはすぐに蹴散らしてやるからな!」


「そういうことだから、きっちり決着をつけてよね!」


「なんて無茶振りを……まぁ、それでもやるしかないんだが」


 それに今回は昨日と違ってワイバーンというクッションがある。そのおかげもあってか、谷底に落ちても何とか無事で済んだ。

 だが、ゾアも同様に無事で、ワイバーンの背の上で俺と対峙して睨みあっていた。


「お、おのれ……ここまでこの俺様を追い詰めるとはな……っ!」


「へっ、追い詰められたのなら観念したらどうだ」


「馬鹿を言え。観念するくらいなら貴様と刺し違える覚悟で戦うまでのこと」


「諦めの悪い奴め……」


 厄介だな。

 両腕を失っているから、諦めてくれた方が非常に楽だったんだがな。とはいっても、ゾアにとっては俺は因縁の敵みたいだし、簡単に諦めてくれるわけがないか。


「貴様なんぞと近接戦は避けたかったが、こうなっては仕方あるまい。出し惜しみをせず、全てを出し切って貴様を滅ぼしてみせよう」


「……やれるもんならやってみな」


 おいおい、まるで奥の手があるような口振りじゃねぇか、それは勘弁してくれよ。こちとら両腕がないんだぜ。しかも鎧の身体はボロボロになっているから、『神格解放』はあまり使いたくはない。

 ただ、泣き言を言ったところで何も変わらないんだよなぁ。できるできないは関係ない。俺にはやるしかないんだ。


「そんなわけで、こっちから先に行かせてもらうぜ! おらぁっ!」


 不意を突くように低姿勢で接近し、側頭部狙いの回し蹴りを放つ。が、ゾアは俺の蹴りを見切ったのか軽くしゃがんで難を逃れ、そのままワイバーンの背から降りて離れた。


「逃がさねぇぞ!」


「まさか、逃げるなんて毛頭ない。これはな……下準備をする為だ!」


 俺が追撃を仕掛けるよりも先に、懐から何かを取り出して地面に叩きつけると、ゾアとその周囲を覆い尽くすように煙が発生した。

 煙の中に突撃するのは、さすがにリスクが高過ぎるな。


「時間稼ぎの煙幕かよ……今度は何を出してくるつもりだ?」


「ふっ、悠長に構えていていいのか?」


「何だと……って、うおっ!?」


 煙の中から大柄の人めいた何かが飛び出してきて、先端が尖ったランスを突き出してきた。

 これを辛うじて回避して後退すると、飛び出してきた何かの全体が見えた。それは俺にとって見覚えがあり、俺を散々苦しめた相手だった。


「魔鋼ゴーレム……こんなところでまたお目にかかるとはな……」


 かなり頑丈で、重く鋭い一撃を繰り出すランスめいた腕が特徴的なゴーレムだ。あの時よりも俺自身は強化されたとはいえ、あまり戦いたくない相手だ。

 だがしかし、そんな俺の思いとは裏腹に魔鋼ゴーレムが煙の中からもう一体現れやがった。


「マジかよ……」


「さすがの貴様でも骨が折れる相手であろう? 手持ちの魔鋼全てと貴重な核を使い切った甲斐があるというものだ」


「とんでもねぇ奥の手じゃねぇか」


 『神格解放』を使わねば、どう足掻いても倒せない。こうも早く使わざるを得ない状況になってしまうとは……。

 しかも、魔鋼ゴーレム二体だけでは終わりではなかった。


「さぁ、これで終わりにしよう」


「お、おい……何だその格好は?」


 煙が晴れると、ゾアの姿が一変していたのだ。全身が濃い緑色を基調とした鎧に覆われていて、右手にはいつの間にか回収していたと思わしき『ホーミングスティンガー』、左手には鱗のような物で形成された盾を持っていた。

 これもまた見覚えのある鎧だ。


「まさか……ワイバーンの素材を使った鎧まで持っているとは……」


「驚いたか。ならば驚いたまましねい!」


 言い終えるや否や、二体の魔鋼ゴーレムを伴ってゾアは俺に向かって駆け出すのであった。


「はぁ、骨が折れるってレベルじゃねぇぞ……『神格解放』!!」


 ゾアの本気を目の当たりにして、恐ろしく不利な状況であることを理解し、半ば自棄になりながら切り札の名を叫んだ。

 そしてゾアを迎え撃つべく、力任せに地面を踏み抜いて駆け出した。これが谷での最後の戦いになるだろうと、内心で思いつつ。


次回でようやく決着がつくでしょう。それとオリディアさんからの好感度は今回できっと上がった筈。

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