表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
4/82

第三話 初めての戦闘

 マズいマズいマズいっ!

 現状はゴブリンによって挟み撃ちにされてしまいそうになっているし、弓矢による狙撃も警戒しないといけない。

 あまりにも状況が悪すぎる。だが、諦めるにはまだ早すぎる。俺は生きて元の世界に帰りたいんだからな。こんなところで死んでたまるか。


(頑なに私の授けたスキルを使おうとしませんが、意地になっているのですか?)


「何を言っているんだか……」


 使えるかどうか分からない代物なんだぞ。リスクが高すぎる。

 そんな博打に近い手段に出るにはさすがに躊躇してしまう。使うにしても、もう少し足掻いてからだ。

 見たところ、前から出てきたゴブリンはこれで終わったと思っているのか、殺気が感じられず、余裕ぶっこいて笑っていやがる。

 油断していそうだし、ハードル走みたいに飛び越えてみよう。


「後は……振る回す武器に当たらないことを祈るか」


 そんな怖いハードル走とかあってたまるか。と突っ込みを入れたいところだが、俺がそれを今から実行するんだよなぁ。

 何度でも言いたくなる。どうしてこうなったんだ。

 まぁ、悲しいけど言ったところで意味が無いんだよね。今は気を引き締めて、ゴブリンを飛び越えてみるとするか……


(そうですか……どの道、私が授けたスキルを使うことになるでしょうけど、それまでは精々頑張ってみてください)


 無駄な足搔きとでも言いたいのだろうか。人のやる気を削ぐようなことは言わないで欲しいもんだ。

 ま、それでも実行するんだけどね!

 ここまでくると意地を張っている自覚はあるが、あんな神様の言う通りになるのは気に食わないからな。

 貰ったスキルを使わずに、この状況を打破してやる。


「ここで!終わってたまるかぁ!」


 必死に叫び、走るスピードを落とさずに目の前のゴブリンの上を思いっきり飛び越えて、あっさり突破することできた。

 ほとんど妨害されなかったのが不思議だ。てっきり武器を振り回したり、足を掴んできたりすると思ったんだけどな。

 妨害が無かったおかげで無事に突破できたのだが、どうも腑に落ちないのはどうしてだろうか。

 何となく嫌な予感がして振り向こうとしたら……何かに躓き勢い良くこけてしまった。


「うおっ!?」


 前方不注意にしても、躓くような障害物は無かった気がするんだが。

 不思議に思って、足元を見てみると、そこには草で作られた罠があった。所謂、草結びというやつだ。

 どうりで妨害をしなかったわけだ。まさかの二段構えとは思わなかった……。ゴブリンにしては中々頭を使うな。

 なんて感心している場合じゃねぇ。状況が悪化しているんだぞ。


「グギャッ!ギャギャッ!」


「チッ!」


 俺が起き上がるよりも速くゴブリンに追い付かれてしまった。

 そして容赦なく短剣を突き刺そうとしてきて、必死で横に転がって突き出される短剣を回避する。

 おかげで短剣は地面に突き刺さるが、これで終わりではない。後ろから続いて、もう一体のゴブリンが飛び込むようにして、突き刺しに掛かっていた。

 今度はさすがに避けるのは無理そうだ。


「やべっ!」


 回避が間に合わないし、最低限の防御すらもできない。無慈悲にも、短剣の先端は俺の腹に突き刺さろうとしている。

 来るべき痛みを想像して、反射的に思わず目を閉じてしまったが、想像した痛みは来なかった。

 その代わりとして、ちょっとした痛みを感じると共に……場違いな甲高い金属音が響いたのである。


「へ……?」


「グギャ……?」


 この時の俺はさぞかし間抜けな面を晒していただろう。それはゴブリンたちにも同じことが言えて、口を開き目を真ん丸とさせていた。状況が状況なら、笑っていたかもしれない。

 ただ、ゴブリンたちがそうなってしまうのは分かる。何故なら……


「こ、これは?鎧?」


 俺はいつの間にか、中世の西洋に使われていたような鎧を全身に纏っていたのである。そのおかげで、腹に突き刺さろうとした短剣は鎧の装甲によって弾かれていたのだ。

 助かったとも言えるが、これはあまりにも異常だ。まさか、神様の言っていたスキルとはこのことなのか?というか自動で発動するんだな?


(その通りです。私が授けたスキルのおかげで助かってよかったですね。結局、あなたは私の授けたスキルを使ってしまいましたが、何か言うことはありませんか?感謝の言葉でもいいですよ)


「けっ、感謝も何も……俺は無理矢理に付き合わされているんだがな」


 苛立ちを込めて言い返した。

 結果から見れば神様から貰った力のおかげで命は助かったが、俺をこんな状況に追いやった大元凶である。素直に感謝の言葉を口にする気になれないね。

 それに、まだ終わったわけでもない。


「グギャギャー!」


「おいおい、囲まれちまったぞ」


 ゴブリンたちは、早くも気を取り直したらしく、すぐさまに俺を包囲していた。しかも、今回は油断していないのか、全員が殺気を滲ませている。

 神様の相手をするんじゃなかったな。まぁ、イラつくようなことを言ってきたんだから、あれは仕方ない筈だ。うん。


(おや、あなたのせいなのに私に責任転嫁ですか?)


「うるせぇ!わざわざ反応するな!」


「ギャッ!?」

 

 俺の怒声に、ゴブリンが驚いたようだが、それは無視しておく。

 確かに、責任転嫁したのは事実だ。そこは認めるよ。

 でもさ、さすがに今は黙ってて欲しいんだけど。現在進行で、ピンチの状況に陥っているんだが。

  

(心配には及びません。今のあなたなら、ゴブリンごときの攻撃で傷が付くことはないですから)


「そ、そうなのか?」


 実際に短剣が突き出された腹部の部分を見てみると、確かに傷という傷は見当たらなかった。

 てことは……今から無双できるんじゃね?所謂、俺TUEEEEEってやつができるのか? 

 ゴブリンが相手だからそこまでカッコよくなさそうだけど……それでも死ぬ心配はないよな?


(ええ、少なくともゴブリン程度が相手でしたら……今のあなたでも負けることはないのは確実です)

  

「……含みのある言い方だな」


 そうは言っても、ここにはゴブリンしかいないことだし、そこまで心配する必要はない筈だ。

 さぁて、どうしようかな?

 向こうの攻撃が通用しないのなら、今の俺は無敵状態ってことになる。見た目は……地味だろうけど、そこはあまり考えないようにしよう。

 とりあえず、神様から貰ったスキルを試すとするか。 


「お前たちに恨みはないんだが、俺は生き残りたいんでね。悪いが、ここで死んでもらうぜ」


 手始めに目の前の奴からだ。

 そうだなぁ、どうやって殺してみようか?

 手持ちに武器は無いが、俺には硬い鎧に覆われた拳や足がある。武器としてはこれで申し分ないだろう。

 よし、まずは近づいて……一発殴るか。

 そう考えて、ゆっくりと目の前のゴブリンに向かって歩いた。

 

「グッ、グギャッ!」


「はっはー、そんなんじゃ怖くないぞ」


 明らかに威嚇の声に怯えの色が混じっていた。

 そりゃそうだ。俺を追い詰めたと思ったら、急に鎧を身に纏っていたもんな。しかも、生半可な攻撃が通用しそうにない代物だ。

 まるで形勢逆転された気分かね?

 俺としては気分がいい。おかげで緊張することなく、どんな風に殴ろうかと考えることができる。


「全力で殴るのは何時ぶりかな?あまり覚えてないや」


「ギャギャッ!グギャー!」


「ギャッギャッ!」


 試しに拳を構えてみると、周りのゴブリンたちは焦るように鳴き声を上げてきた。耳障りでうるさいが、これから黙らせたらいいだけのことだ。構わず殴っちまおう。

 目の前のゴブリンは、必死な様子で短剣を振り回している。どうやら抵抗を試みていようだ。

 ただ、あまりにもその姿が情けなくて、最初の威勢はどこに行ったのやらと思ってしまった。

 傍から見ると、俺が悪役みたいに映っていそうだよな。だからといって手加減をするつもりはないんだけどね。景気づけに全力で殴らせてもらうぜ。


「歯を食いしばれよ!」

 

 漫画でよくありそうなセリフを言いながら力強く踏み込み、思いっきりゴブリンの顔を殴りつけた。

 この時の俺は、この一発で死ぬことはないだろうと心のどこかで思っていたに違いない。

 だが……次の瞬間には肉を打つ生々しい感触が伝わり、骨が砕ける嫌な音が響き、殴られたゴブリンは勢いよく飛んで行った。それから勢いが衰えることはなく、最後は木の幹にぶつってようやく止まったのである。

 

「あれ……?」


 木の幹からずり落ちて声を上げずにピクリとも動かないところを見ると、死んだようにしか見えない。

 いや、俺の見間違いじゃなければ、拳が頬にめり込んだ時には首があらぬ方向に曲がっていた気がする。だとしたら確実に死んだ筈。

 待て待て、どう考えてもおかしい。ドの付く素人の拳なんだぞ。しかも、俺はあそこまで殴り飛ばせる程に力強くなった覚えは無い。

 いくらゴブリンが小柄でも、一発で絶命させるなんて普通じゃあり得ない。もしも原因があるとしたら……この鎧にしか心当たりがないんだが。

 というかそれ以外に考えらない。そうなってくると、この鎧はパワードスーツ的な代物だったりするのか?

 さすがにこの鎧についての解説がほしいな。


(なぁ神様さんよ。この鎧って何なんだ?)


 いつまでも解説をしてくれなかったから、試しに心の中で念じてみた。実際に聞いてくれるが怪しいが、試す価値はあるだろう。


(…………それが神に対する口の利き方ですか。まったく、しょうがないですね)


 結果としては成功し、やや間があったが神様は返事をしてくれた。

 言っている内容は俺に対して呆れているが、そこはスルーしよう。いちいち相手にするのも面倒だ。

 それにしても、念じるだけで会話ができるのは便利だな。携帯と比べて、まったく手間がかからないのはいいね。

 

(都合よくこの私と会話ができると思わないでください。あくまでも、今回は特別ですからね)


(今回だけか……初回限定のチュートリアルみたいだな)


(あなたはたまによく分からない言葉を使いますね)


(ふーん、俺の世界だとよく聞くんだけどね。って、それよりもこの鎧のことを教えてくれよ)


(教えるのは構いません。ですが、まずはゴブリンを一掃してからですね)


(了解、さっさと片付けるか)


 本当は今すぐにでも教えてもらいのが本音だが、神様としてはゴブリンが邪魔になるのだろう。

 あんな神様の言うことに従うのは少し癪に障るとしても、教えてもらう為だと割り切ってここは素直に従うべきだな。

 ただ、説明するだけならすぐに終わってもおかしくはない筈だ。他に、ゴブリンを片付けなければならない理由でもあるのか?


(私がその気になれば、あなたの心の内を読めることを忘れていませんか?余計なことを考えていないで、早く片付けなさい)


(はぁ……そういえばそうだったか)


 思考が読まれることに対してすぐに慣れるわけもなく、油断してつい別のことを考えてしまう。

 でもなぁ、神様の様子が何となく怪しい。裏がありそうな気がしてならないんだが、これ以上は考えない方がいいか。

 またお小言を言われそうだし。


「さてと、残りを片付けるとするか」

 

「グギャギャッ……!」


 周囲を見渡すと、律儀にもゴブリンたちは包囲したままだった。俺を襲うチャンスなんていくらでもあっただろうに。

 とは言っても、仲間のあんな死に様を見てしまったんだ。怯えてしまってもおかしくはないか。

 ふむ、向こうから襲って来ないのなら、俺から行くとするかね。

 そう思って足を踏み出した瞬間、茂みの奥から音が聞こえたと同時に矢が放たれた。


「おっ?」


 茂みの奥から放たれたであろう矢は俺の胸に見事命中したものの、乾いた音を立ててあっけなく折れてしまったようだ。

 短剣で刺された時よりも少しだけ強い痛みを感じたが、この程度なら大したことではない。でも、どこか違和感を感じる。まるで直接痛みが俺に伝わっているような……そんな気がした。まぁ、特に問題があるわけでもないし、大丈夫だろう。

 それとそうだな、先に弓矢持ちのゴブリンから片付けるとしよう。この鎧でも隙間に矢が突き刺さる可能性もある。それを考えたら弓矢持ちゴブリンは厄介になりそうだ。


「矢はあの茂みから飛んできたよな……」


 周りのゴブリンたちに構わず、隠れていると思わしき茂みに向かおうとした。

 そんな俺の意図を察したのか慌てた様子で周りゴブリンは俺に襲い掛かり、それに合わせて茂みからさらに矢が飛んできた。

 だが、俺の前ではどれもが無駄な足掻きでしかなかない。

 短剣を突き出してきたゴブリンには、お返しとばかりに拳で殴って黙らせて、矢は腕を盾にして防いだ。

 そして茂みの前にたどり着いた頃には、俺の拳は死んだゴブリンの返り血で真っ赤になっていて少しゾッとした。

 血の匂いがしないのは幸いだが、ここまで生々しいと俺の精神的にはあまりよろしくない。早く手を洗いたいものだ。

 なんてことを考えながら茂みをかき分けると、一匹のゴブリンが空に向けて弓矢を構えていた。

 よく見れば矢の形状も少し独特だ。


「どういうつもりだ?」


 これはゲームでも見たことがない行動でもあるし、見たこともない矢を使っているのは気になる。

 初見ということもあって、何をしたいのかよく分からない。それでも何となく矢が放たれるよりも先に奪おうとしたのだが、間に合わずに矢は空へと放たれてしまい、鋭い風切り音を辺りに響かせるのであった。

 俺に対する攻撃でないのは分かる。ただし、分かったのはそれだけでどうにも解せない。

 とりあえず、コイツで最後のゴブリンだ。考えるのは後回しにして、先に殺しておくのが賢明だな。


「ググ……ッ!」

 

「……怖い目をしていやがる」


 最後の生き残りであるゴブリンの瞳には、憎しみの色に染まっていた。

 目の前で次々と仲間を殺されたんだ。しかも、俺は単純作業するかのように殺したからな。その抱いている気持ちは分からんでもない。 

 けれども……俺だって命は惜しいんだ。運が悪かったと思ってくれ。

 内心で言い訳しながらも最後のゴブリンの頭を首を掴み、一思いに首をへし折って殺した。

 俺に殺されるまでの間に抵抗という抵抗は無かったが、死ぬ間際まで俺を睨みつけていたのが酷く印象に残ったものだ。


「ふぅ……これでひとまずは安心かな」


 俺を襲っていたゴブリンはほとんど殺した。神様の言う通りにしたのだから、これでもっと詳しく教えてもらえる筈だ。

 そう思っていたのに……


(何が安心ですか?まだ何も片付いておりませんけど)


 無情にも、神様は俺にまだ終わっていないと告げたのであった。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[良い点] 異世界転移がスムーズ。一回の戦闘の描写がとても丁寧。神様が干渉しまくってくるのが新鮮(笑)。 [一言] ここまで読みました。
[良い点] カイトさん、個人的に好きな性格です。
2022/07/28 22:15 退会済み
管理
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ