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第三十六話 異常な忠誠心

今回は珍しくカイトがきちんと活躍しますぜ。

「たった一人で我々の相手をするだと? 甘く見られたものだな。残りの魔力は全て使い切ってもいい! あの鎧男に集中砲火だ!!」


 突破できないでいたオリディアさんのマジックシールドが消失し、好機と見た襲撃者たちは意気揚々としていた。

 それはそうとして、人間が使う魔法を直に見るのはこれが初めてである。


「今までに見たことのある魔法といえば、魔人が使う黒魔法(黒い魔法の略)だけだったもんな」


「何だ? わけの分からないことを言いやがって。これでも喰らえ! フレイムバレット!」


「『ウィンドサイス』!」


「『ロックメイス』!」


「『ウォーターブレイド』!」


「『シャドウニードル』!」


 次々と放たれる魔法の質と量がさっきまでとは違い、あからさまに殺意の高さが窺える。

 だけど悲しいかな。俺の鎧の身体は魔法への耐性が異様に高い。故に、そこまで脅威になるとは思えなかった。

 まずはファイアバレット。人の頭より大きい炎の塊が弾丸めいた勢いで同時に複数も放たれ、右腕で受け止めると小規模の爆発を引き起こすも、右腕は無傷。


「何ぃっ!?」


 次はウィンドサイス。風の大鎌が洞窟の壁を切り裂きながら俺の胴体を輪切りにしようとするも、傷一つ付かず風が霧散。


「馬鹿なっ!?」


 俺を叩き潰そうとするのはロックメイス。岩から切り出したような戦棍はまるで巨人が使うような大きさであり、咄嗟に両腕をクロスして防御態勢を取った。しかし、鎧の身体の硬さには敵わず、重量で僅かに身体を軋ませただけで粉々に砕け散った。


「んなっ!?」


 追撃として繰り出されるのはウォーターブレイド。圧縮された水が剣となって俺の両腕を切り落とそうと何度も斬りつけてくるが傷を付けることが叶わず、形を崩して地面を濡らした。


「なんてことだ!?」


 そして隙を突くかのように襲い掛かるのはシャドウニードル。周囲の影からは非常に鋭利な針が生成されて俺に殺到した。しかし、影の針が鎧の身体を貫くことはなく、悉くが折れ曲がってそのまま消滅。


「通じないだとっ!?」


「ふむ、こんなものか」


 面白いくらい痛くも痒くもない。正直なところ、ギルや魔人兄弟が放つ魔法の方が威力が強かったと思える。

 ちなみに、どの魔法もゲーム内で見たことがある。ゲーム内では主に、初級、中級、上級と分類されていて、俺に放たれた魔法の全てが中級に該当する。

 見たところ、範囲や威力からして複数人は容易に殺せそうではあるが、俺を殺すには明らかに威力不足だな。


「狼狽えるな! 奴は痩せ我慢をしているに違いない! もっと撃ちまくれぇ!!」


「「「「はっ!」」」」


「どうせ結果は変わらないのになぁ」


 いくら命令とはいえ、無駄な努力と知らずどんどん魔法を撃ち込んでくるのは、もはや哀れではなかろうか。

 こんな無為な戦闘はさっさと終わらせるに限る。そう考え、真正面から全ての魔法を受け止めながら前進した。


「ば、化け物めっ!!」


「隊長! もう魔力が尽きます!」


「どうしますか!?」


「まさか……単独で魔人の将軍を倒したという話は本当だったのか。ならば! 魔法が効かぬのなら魔剣を使うのみ! 総員、近接戦に移行せよ!」


「「「「了解っ!」」」」


「今度は魔剣か。真正面から受け止めるのはちょっとマズいかな?」


 しかも、人数が多いから滅多切りされるかもしれん。さすがにここからは真面目に戦わないといけないだろう。


「死ねいっ!」


「うーん、遅いな」


 突進しながら剣の魔剣を突き出してくるが、謎の銀騎士よりも動きが遅くて荒い。だから余裕をもって回避することができたし、軽く足払いして転倒させることもできた。


「もらったぁっ!」


 密かに背後から斬りつけようとする奴がいるが、足音と気配で既に把握している。


「少しはダークネスパンサーを見習っておきな」


 そう言い放ち、振り向きざまに相手の腕を掴んでそのまま強引に投げ飛ばしてやった。


「うわぁっ!?」


「ぐはっ!?」


「邪魔だ!」


 投げ飛ばされた奴は仲間を巻き込んで地面に叩きつけられる。が、思ったよりもしぶとく、立ち上がって俺を睨みつけてきた。


「お、おのれ〜!」


「何なんだその執念は……おっと」


 一人ずつでは敵わないと悟ったのか、複数人が連携を取りながら斬り掛かってくるようになったのである。

 これでは少し分が悪いか。ひとまずは回避に徹して様子見だな。


「よしっ! いけるぞ! このまま数で押すんだ!」


「魔剣持ちが同時……無傷で突破は難しいな」


 しかも全員が手慣れているのか、連携の練度も高い。多少は斬りつけられるのは覚悟して、一人ずつ確実に潰していくか?


「というわけで、まずはお前からだ」


 そう宣言し、敢えて斬撃を腕で受け止めて無防備になった奴の腹を蹴り上げる。


「がはっ!?」


 もちろん手加減はしていたのだが、血反吐を吐いて倒れ込むと腹を押さえて苦しみ悶えていた。

 腕が浅く切り裂かれて俺も少しは痛かったものの、相手の戦力を減らせたし代償としては全然軽いな。


「怯むな! 刺し違える覚悟で突撃せよ!」


「「「ウオォォォッ!」」」


「どんだけ必死なんだよ」


 命令を受けた襲撃者たちからは鬼気迫るものがあり、俺を剣で貫くべく同時に突進してきた。

 しかも本気で差し違えるつもりのようで、後先を考えていない捨て身の攻撃である。これを避けるのは簡単ではあるが、あまり長引かせたくはない。


「仕方ないな。まとめて受け止めてやるよ」


 防御態勢を取らず両腕を広げると、襲撃者たちは突進の勢いに任せて胴体に剣を突き立てるのであった。

 さらに、確実に俺を殺そうと剣で抉り込もうとまでしている。


「死に晒せっ!」


「これで終わりだ!」


「くたばれぇっ!」


 勝利を確信したのか、どことなく安堵しているように感じる。だがしかし、相手が悪過ぎたな。


「はいはい、まとめて眠ってろ」


 剣を突き立ててきた奴らの頭に、一回ずつチョップをお見舞いしてやった。もちろん、手加減はしてある。すると、気絶して糸が切れた人形のように地面に倒れ込んだ。

 胴体に剣が突き刺さったままで痛いけど、アーマードロックに貫かれた時のことを思い返すと、この程度なら生温い。


「よし、終わった……わけねぇよな」


「さすがに甘くないかっ!」


 頭に投擲された剣を躱し、最後の一人であるリーダー格と思わしき男と対峙する。


「潔く負けを認めたらどうだ。どう足掻いてもお前らに勝ち目なんてないんだからよ」


「黙れっ! 我々にはまだ奥の手が残されている!」


「奥の手だって? この状況をどうやってひっくり返すんだ? って、この魔剣は使い捨てだったのか」


 胴体に突き刺さっていた魔剣が砂のようになって形を崩すと、そのまま地面に落ちていった。

 魔法が無意味なうえに、魔剣は完全に使用不能となったわけだが、それでも奥の手とやらが気掛かりだな。


「た、隊長……俺にお任せください」


「ああ、頼んだ」


「おいおい、そんなフラフラで何ができるだ」


 俺の元に近づくのは、血反吐を吐いて倒れていた奴だった。

 覚束ない足取りで、手には何も持ってない。いや、よく見ると指先が不自然に輝いている。


「どうも既視感があるな。確か……」


「へへっ、もう遅いぜ」


 何が? と口にするよりも、近づいてくる男の指先がより激しく輝きが増していき、男の姿が閃光に包まれた瞬間、強烈な爆発を引き起こした。

 その爆発は数メートルも離れていた俺や足元で気絶する襲撃者すらも巻き込み、洞窟内を僅かに振動させたのである。

 そして爆煙で視界が閉ざされている最中、隊長と呼ばれる男の声が聞こえた。


「やったか……?」


「ところがどっこい。俺はこの通り無事だぜ」


 声を頼りに、爆煙に紛れて目の前に現れてやった。

 鎧の身体のあちこちがちょっとだけ欠けて地味に痛いが、逆に言えばその程度で済んだとも言える。それでも、今回のはロイがはめていた指輪よりも爆発の威力が強かった。道連れを前提に作られているかもしれないな。


「ふ、ふざけるなっ!」


 爆煙の中から現れた俺の姿を見て、隊長と呼ばれる男は盛大に狼狽えていた。が、そんなことはどうでもいい。


「うるせぇっ、それは俺のセリフだっつうの! 何が奥の手だ! ただの自爆じゃねぇか!」


 襲撃者の自爆を目の当たりにし、怒鳴らずにはいられなかった。

 ロイの最期がフラッシュバックしたというのもあるが、躊躇いもなく仲間を巻き込むというのはあまりにも非人道的過ぎるし、もはや正気の沙汰ではない。それに、間近で何人もの人が死ぬというのは俺的にはかなりショッキングである。

 だからこそ、隊長と呼ばれる男に同じ手を使わせるわけにはいかない。


「くっ、放せっ!」


「放せと言われて素直に放す馬鹿がいるわけねぇだろ!」


 逃げ出そうとする前に両腕を掴み、指輪の有無を確認する。すると、案の定というべきか見覚えのある指輪がはめられていた。


「ふん、やっぱりか」


「何をするつもりだ!?」


「それはすぐに分かることだぜ」


「がぁっ!?」


 躊躇わず指輪をはめていた指を強引に喰い千切り、口の中で爆発させた。多少は痛みが走ったが、ヒビが入った程度だろうし問題は無かろう。

 兎にも角にも、奥の手という名の自爆はこれで封じることができた。


「くぅぅぅっ! きさまはどこまで化け物なんだ!?」


「けっ、勝手に言ってろ」


 化け物呼ばわりには慣れてきたものだ。

 それはさておき、ショッキングな場面を見せつけられてしまったが、ほぼ無傷で情報源を確保できたのは大きいな。

 どんな情報を吐き出してくれるのやら。


「早速、尋問といきたいところだけど……ヴェントとオリディアさんも一緒の方がいいよな」


 首根っこを掴み、待っているであろう二人の元へと行こうとしたものの、引っ張ると違和感があった。


「おーい、抵抗はしないのか?」


 されるがままに引きずられていた。しかし、それは潔く諦めたわけではなく、むしろその逆の行動に出ていたのである。

 というのも、隊長と呼ばれる男は力なく四肢を投げ出していたからだ。さすがに異常だと嫌でも理解できたのだが、フードの下から血を流している様子を見る限りでは、気づくのが遅かったようだ。

 こういうのは小説や映画などといったフィクションの作品で見たことがある。


「テメェ……奥歯に毒でも仕込んでたのか?」


「ふふっ、よく分かったな。じ、尋問されて貴様に情報を渡すくらいならな、ゴフッ……い、いっそのこと死んだ方がまだマシだ。それに、俺がむざむざと生き残ってしまったら、組織への忠誠の為に死んでいった部下たちに申し訳が立たないからな」


「何でそういうところは潔いんだよ!? というか忠誠心が高過ぎるだろ!?」


 ふざけるな。としか言いようがない。

 仲間を巻き込んで自爆するだけでも十分以上にショッキングだというのに、今度は目の前で毒による自決をしやがった。しかも、演技ではない苦しむ様子が生々しいせか、印象が強くて余計に質が悪い。

 こういうのはフィクションの世界だけでやってくれよ。精神衛生上あまりよろしくないからさ、冗談抜きで勘弁してほしいんだけど。


「はぁ……いつかはこういった事に慣れてしまうのかねぇ。慣れる前に、こんな異世界からはさっさとおさらばして、元の世界に戻りたいぜ……」


 だが、元の世界に戻るまでの道のりはきっと長いだろうし、その過程で幾度も人間の死に際と対面することがあってもおかしくはない。


「先のことを考えると気が重くなるな……って、そんなことを考える場合じゃねぇ」


 ひとまずは被害を出さずに襲撃者たちを処理できたのだから、それで良しとするしかない。

 今はそう己に言い聞かせて気持ちを切り替えて、目の前の事に集中せねば。


「うーむ、にしても情報を引き出せなかったのは惜しいな。神様がこの事を知ったら、詰めが甘いとか容赦なく言ってきそうだ」


「き、貴様はさっきから……何を口走っているんだ?」


「あぁ、まだ生きていたんだな」


 元の世界に戻りたいとか、神様だとか目の前で言ってしまったが、どうせもうすぐ死ぬわけだし、このまま放置して二人の元に向かおうかな。

 ただ、死が近くなって意識が朦朧としてきたのか、隊長と呼ばれる男が虚空に向かって謝罪をし始めた為に、放置することはできなかった。


「も、申し訳ございません……ぞ、ゾア様。件の鎧男の抹殺は……し、失敗に終わってしまいました。『剛力絢爛』の姫が迫っていて時間がないのは承知の上でありますが……どうか、どうか我らの代わりに件の鎧男をっ……ガフッ!」


「死んじまったか……」


 隊長と呼ばれる男は自前の毒によって息絶え、ものを言わぬ死体と化した。自爆と違って死体が残ったから、異世界において初めて人間の死体を見るのはこれで初めてになるな。


「ったく、こんな初めては嫌なもんだぜ」


 見たくもない死に際を拝む羽目になったわけだが、全く収穫がなかったわけではない。

 ゾアという聞きなれない名前が出てきた。状況的に考えて、俺を谷底に落としたワイバーンの群れを従えている黒いローブ男のことではなかろうか。

 まぁ、名前が判明したところで特に意味は無いんだけどね。それよりも、もっと気になったのは『剛力絢爛』の姫の方だ。


「おいおい……まさかとは思うけど、何時ぞやの姫様と呼ばれる少女のことだったりして……」


 で、迫っているということは、この谷に向かっているという認識でいい筈だ。つまり、これはもしかすると再会してしまうかもしれないわけで。


「こいつぁ……マズいかもな」


「何がマズいの?」


「いやぁ、『剛力絢爛』の姫ってのがこの谷に向かっているらしいんだ。これがもし、俺が知っている人だったら、また手合わせを要求されるかもしれなくてな」


「そんなに手合わせしたくないの?」


「そりゃな。前に手合わせした時は一瞬で両腕が斬り飛ばされて勝負にならなかったし、次に手合わせするときは身体が真っ二つに両断されるかもな。まともな戦いをするとしたら、今よりもっと強くならないと話にならないだろうよ」


「へ~、さすがは王国最強って密かに言われているだけのことはあるんだな」


「王国最強!?……って、ヴェントとオリディアさん?」


(いつの間にいたんだ……)


 気がついた時には俺の両隣に二人が立っていた。

 『剛力絢爛』の姫とやらが気になっていたとはいえ、いくら何でも無防備になり過ぎじゃないだろうか。

 仮に二人が気配を消していたとしても、容易に背後を取られるのはさすがにマズいな。これからは気を付けないと。


「それで、そこに倒れている奴は死んでいるんだな?」


「あぁ、自前の毒で自決しやがった」


「見た感じ、生け捕りしようとしたけど失敗したってところかな?」


「その認識で合ってるよ……」


 まさか毒を仕込んでいるとは想像もつかなかった。だが、俺の詰めが甘いばかりに貴重な情報源を失ってしまったという事実には変わりない。

 さて、二人には何て釈明すればいいのやら。と考えていたのだが、それは杞憂に終わった。


「死んじまったもんはしょうがないな。そんなことよりも、どうしてカイトは気落ちしているんだ?」


「そうそう、何だか元気がなさそうだけど、どうかしたの?」


 意外にも、二人は俺のことを気にかけてくれたのである。どんな心境の変化があったのか分からないが、今の俺にとっては有り難かった。


「実はな……目の前で人が死ぬっていう経験があまり無くてさ、少しショックを受けていたんだ」


「えーっ、そんなことで?」


「カイトにしては意外だな。てっきり、ソイツの仲間を殺しまくって恨まれていると思ったんだけどな」


「そんな物騒な真似はしたことないんだが。そもそも、俺はまだ直接人を殺したことはないぞ」


「じゃあ、何でカイトは狙われていたの?」


 それに関しては心当たりがある。が、あそこまで憎悪を剝き出しにしてまで襲い掛かってくるのには少し違和感がある。

 他に俺を狙う理由があるのではないのかと勘くぐってしまうが、現状では情報があまりにも少なすぎる。ひとまずはマリンダさんがいた街について話しておくか。

 そして、俺は街を救ったことを二人に話した。


「命令されたとはいえ、たった一人でよくやったな。魔王軍の将軍と一騎打ちに持ち込んで、そのまま勝っちまうなんて」


「その話が本当なら英雄扱いだろうね。でも、『剛力絢爛』の姫が手合わせを要求した話が嘘とは思えないし、やっぱりカイトって実は凄い人なのかな」


「さぁね。凄いかどうかは俺にもよく分からんな。確実に言えるとしたら、魔王軍を退けて街を救ったのが原因で、コイツらに目を付けられたんだろうよ」


「だね。今のところだと、それ以外に考えられないし」


 一応、狙われる理由に関しては納得してくれたようだ。


「てことは、カイトは敵の敵ってことになるのか」


「現状だとそうなるかな。そこでだ。敵の敵は味方って言葉があるし、ここは手を組んでゾアを倒さないか? あっ、ちなみにゾアって奴はワイバーンを従えている黒いローブ男のことだな」


 思い切って二人にそう提案してみた。

 この提案に乗ってくれるかは賭けになるが、今回の襲撃によって互いに敵が共通していると判明したのだから、共闘してくれる可能性はあるだろう。

 さぁて、どんな返事が返ってくるのやら。


「オレとしては、カイトが手を貸してくれるのは助かるぜ」


「うーん……わたしとしてはカイトの素性を洗っておきたいところだけど、本当に悪い人じゃなさそうだし、特別に今は目を瞑ってあげる」


 意外にも、あっさりと提案に乗ってくれた。数時間前は俺の指を砕きながら尋問していたというのにな。

 こんなにも上手く話が運ぶなんて、完全に予想外だった。


(本当に、どんな心境の変化があったんだ?)


「……てっきり、俺がいなくても普通に倒せそうだから、断るんじゃないかと思ってたんだけどな」


「どうしてそう思ったんだ?」


「ヴェントって『風の眷属竜』なんだろ? もし本当に『竜』なら、ワイバーンの群れなんて蹴散らしそうだよなって」


 これはあくまでも俺の想像でしかない。

 ただ、実際のところはどうなのだろうか。俺としては実に気になるところだ。


「一応聞いておくけど、カイトは『風の眷属竜』がどんなのか知ってるの?」


「全然知らないな。なにせ、さっき初めて聞いたばかりからな」


「本当に知らなさそうだね……。ヴェント、軽く教えてあげてちょうだい」


「えーとだな。『風の眷属竜』ってのは、『始原の竜』によって『風の加護』を授けられた『竜』のことなんだ」


「んんっ?」


 まさかのまさかで、『始原の竜』がいきなり出てきたのだが。

 ということは、二人は『始原の竜』と何らかの関わりがあるということだよな。まぁ、ヴェントが『風の眷属竜』と呼ばれた時点で、何となく関係がありそうだとは思っていたけど。

 しかし、『風の加護』ってのはスキルなのかな。『始原の竜』は神様のようにスキルを授けることはできるのだろうか?

 等と考えていたら、ヴェントから驚きの事実を伝えられた。


「でもなぁ、どういうわけか『風の加護』が使えないんだ」


「えっ、それはどういうことだ……?」


「きっと、さっきカイトが言っていたゾアが何かしたと思うんだよね」


 確かにそれ以外に原因は考えられないな。

 しかし、ワイバーンの群れだけじゃなく、『風の眷属竜』への対策もしっかりしているということは、ゾアは計画とやらの為に相当な下準備をしてきたに違いあるまい。


「ふむ……とりあえず、ヴェントの『風の加護』が封じられていたから、二人は谷底で大人しくしていたのか」


「別に何もしなかったわけじゃないぞ。ゾアが寝泊まりするテントの周囲を偵察したからな」


「偵察? 奇襲じゃなくて?」


 この二人なら、ワイバーンさえ無視することができれば、ゾアを屠るのは赤子の手をひねるよりも簡単なのではなかろうか。

 しかし、奇襲できなかったのには、それ相応の理由があったらしい。


「オレたちだって偵察で終わらせたくなかったけど、テントの周囲には大量の罠が仕掛けてあったんだ」


「あー、罠があったのか」


「そうそう。野生のモンスターが罠に引っ掛かってて、爆発したり、燃えたり、風で切り刻まれたりでさ、沢山仕掛けてあるみたいなんだよね」


「実際のところ、あの程度の罠で死ぬことはまずないんだが、どうも音が大きくてな。一つでも起動したら、寝てるワイバーンが起きてしまうのが厄介なんだよな」


「……なるほど」


 罠の威力よりも、音の方が厄介なのか。

 ともあれ、これで大方の事情は理解できた。

 で、ここからどうしたらいいのやら。俺としては、『剛力絢爛』の姫が谷に着く前にさっさとゾアをはっ倒したいところではあるが……生憎とその作戦が今すぐには思いつきそうにはない。

 ただ、何やらヴェントには考えがあるようだった。


「カイト、お前にやってもらいたいことがあるんだけど、頼まれてくれないか?」


「やってもらいたいこと?」


 はて、俺に何を頼むのだろうか。ワイバーンが相手だと、大したことはできないと思うのだが。


「安心してちょうだい。決して無茶なことじゃないし、カイトが適任なの」


「俺が適任?」


 ますます想像がつかなくなってきたな。しかも俺が適任ときたか。

 うーむ、そこまで言うのなら……ここは引き受けるべきだろう。二人が俺の提案を受け入れてくれたように、今度は俺が受け入れる番ってのもあるしな。

 ひとまずは腹は決まった。が、詳しい内容はまだ聞いてない。二人は俺に一体何を頼むのだろうか?


書き終えて思ったけど、どうもカイトが悪役ムーブをかましているような気が……。

それはさておき、次回こそはオリディアと仲良くなれると思います。

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