第二十二話 報われない消耗戦
今回は長いっす
「マリンダさん……怪我は無いか?」
「別にどうってことはないけど、そう言うカイトこそ大丈夫なのかい……?」
「滅茶苦茶痛いけど、何とか大丈夫だ……」
マリンダさんを庇った代償として俺の胴体に風穴が開いてしまった。別に致命傷って程じゃないが、何度もまともに喰らうのはマズいことは嫌でも理解できる。
次からは上手い具合に受け流したいものだが……果たしてできるだろうか?
「ごめん……あたしが迂闊な真似をしたばかりに……」
「気にしなくていい。それよりも落ち着いたか?」
「何とかね……あたしを助けてくれてありがとう」
ふぅ、身体を張った甲斐があったぜ。
だがしかし、非常に芳しくない状況である。俺を貫いた腕を引き抜き、もう一度突き出そうとしているからだ。
「くっ!」
掴んでいた腕を放し、魔鋼ゴーレムから距離を取って攻撃範囲から逃れたが……このまま逃げ続けても埒が明かない。何としてでも対抗する手段が必要になる。
となると……ここは神様の案を採用するしかなさそうだな。
「……マリンダさんは父親の仇を討ちたいんだよな」
「そんなの当然に決まってるでしょ。でも、あたしだと力不足みたいだね……」
「それならさ、俺に協力してくれないか。マリンダさんの代わりに倒すからさ」
「カイトの申し出は悪くないんだけど……手伝うって、あたしは何をすればいいんだい?」
よしよし、この様子だと協力はしてくれるみたいだな。後はマナポーションを提供してくれる約束をしてくれたら完璧だ。
「大量のマナポーションを用意してくれ。それさえあれば逆転できるかも知れないんだ」
「マナポーション?よく分からないけど、あんたがアイツを倒してくれるんだったら用意してみせるよ。ここは任せるから、それまで何とか持ちこたえてちょうだい」
「おう、任された」
「ティノ!フェリン!一度あたしの店に向かうよ」
疑問を抱きながらも了承してくれて、ティノとフェリンを連れて店へと向かった。ありがたいぜ……。これで少しは光明が見えてきたかな。
ただ、課題はまだ残っている。それはどうやって飲む時間を稼ぐかだ。普通に考えても待ってくれることなんてまずあり得ない。そうなると一時的に魔鋼ゴーレムの動きを止める必要がある。
「あーあ、どうしたもんかね……うん?」
攻撃範囲から逃れながら動きを止める手立てを考えていると、周りが騒がしくなってきた。聞こえてくるのは足音や人の声ばかりで、少しずつこっちに近づいてくるように感じる。そのうえ人数はかなり多いようだ。
何でだろう……凄く嫌な予感がするんだが……。
「おーい、マリンダはどこにいるんだぁ!ロブ家の屋敷にいるフェリンちゃんの救出の為に助っ人を連れてきたぞー!!」
「間が悪すぎるぜ……!」
先頭を走る体格のよい老人の大声を聞き、大方の事情を察した。
おそらく、ティノから事情を聞き出したマリンダさんは俺を乗せた馬車を追跡して、ロブ家の屋敷を突き止めたのだろう……あるいはロイがやったと決めつけた可能性も否めないけど、そこは気にしない方がいいな。
それで突き止めたのはいいが、ロイは多くの私兵を雇っていた。だから万全を期す為に、手を貸してくれそうな人に声を掛けていたに違いない。
でも、結果としては必要なかった。一足先に俺とマリンダさんだけでほとんどを片付けてしまったからだ。
そして、一足遅れた助っ人たちは店に向かったマリンダさんとすれ違いになってしまい、この場に来たってところか。
「なっ!何だありゃ!変な奴らが戦っているぞ!?」
「あれはマリンダが連れていた鎧男だな。それともう一人のあいつは人間……には見えないな」
「ねぇ!ちょっと見てよ!あの鎧男の胴体に穴が開いているんだけど、大丈夫なの!?」
無論、魔鋼ゴーレムと俺が目撃されるのは避けようがない。そのことは仕方ないと割り切っていたのだが、ここに来た助っ人の存在が俺にとって枷になるのであった。
何故か魔鋼ゴーレムは助っ人たちへと歩みを進めたからだ。
「待てっ!お前の相手は俺だろうが!」
俺にヘイトを向けさせるべく無防備な背中に全力で殴りかかるも、表面を凹ませて軽くよろめく程度の効果しかなかった。それでも注意を惹くことには成功したらしく、振り向きざまに攻撃を仕掛けてきた。
「くっ……どうしてコイツは助っ人の連中に反応したんだ?」
改めて距離を取って攻撃範囲から逃れ、様子を窺いながら攻撃を躱そうと身構えていると……俺から興味をなくしたかのように、またしても助っ人たちに向かっていった。
行動が不可解すぎる。人数が多い方に反応するとしたらマリンダさんたちを追いかける筈だ。俺と助っ人たちに違いがあるとしたら、音だろうか?今でも騒がしくしているし、魔鋼ゴーレムの気を惹くには十分かもしれない。
「だったら、俺が攻撃して惹き付けるしかないのか……!」
本当は距離を取りながら攻撃を躱し、弱点を見極めながら時間を稼ぐという作戦を考えてはいたが、助っ人たちの存在のせいで既に破綻している。
最悪とまでは言わないが、逃げ回ることが許されない状況ってのは質が悪いぜ。
「だからお前の相手は俺だろうが!」
今度は拳ではなく、ドロップキックを無防備な背中にお見舞いしてやった。さすがの魔鋼ゴーレムといえども、背後からの強烈な不意打ちを喰らってはバランスを崩してしまい、跪いた。
「よっしゃ!チャンス!」
好機を逃さず、立ち上がる前に横からタックルをかまし、仰向けに転がしてマウントを取った。
だが、その状態から一方的に拳を連打したものの……表面を凹ませるばかりで効果的なダメージは見込めなく、それどころか逆に俺の籠手にヒビが生じたのだ。おかげで地味に痛い。
「うっそだろ、こんなんじゃジリ貧……ぐはぁっ!!」
一旦殴るのを止めた隙を狙われ、ランスめいた腕によって胸に風穴を開けられてしまい、さらには貫かれたまま持ち上げられた。そして貫いた腕を無造作に振り払い、俺を投げ飛ばすのであった。
「いってぇなぁ……幾つ穴を開けたら気が済むんだよ」
激痛に耐えながら立ち上がった。
助っ人たちのいる方向に投げ飛ばされなかったのは幸いだが、俺を仕留める気になったのかこっちに歩み寄ってきた。次からは背後から不意打ちすることはできず、真正面から殴るしかない。
「マリンダさんがここに到着する前に、俺の身体が持つといいけど……」
至近距離では恐ろしく危険だし、完全に攻撃を躱しきるのは難しいだろう。
せめて、助っ人たちがこの場から逃げ出してくれたらありがたい。そう思って逃げるように促したのだが……。
「そこのあんたら!ここは危険だから今すぐに逃げてくれ!」
「危険だからどうしたっ!俺たちはマリンダの為に来たんたぞ!!」
「ところでさ、マリンダはどこにいるか知らないの?」
「待て、あの鎧男は怪しくないか?身体に二つも穴が開いているのに、あそこまで動けるのは普通じゃあり得ない……人間なのか?」
好き勝手なことを言い出してきやがったし、逃げ出そうとしなかったのは俺の予想通りだな。当たってほしくなかったけど。
マリンダさんがいれば、助っ人たちはどうにかなるかもしれないのに……今はマナポーションを取りに行っているからここに戻ってくるのを待たなければならない。
「早く戻ってきてくれよっ!」
ランスめいた腕による突き攻撃を躱し、カウンターとして腕を殴りつけたが……表面が凹むだけで効いているようには見えず、胸元の連打した痕も綺麗に無くなっている。どう足掻いても勝てるとは思えん。
これなら距離を取って回避に専念したいところだが、助っ人たちに襲い掛かったら洒落にならないし、リスクが高くても攻撃を止めるという選択肢はなしだ。
(大変そうですね)
(まったくだよ……で、何の用だ?)
(少しばかり朗報をお伝えしようと思いましてね。マリンダという娘は数分後には到着しますよ。それと野次馬共とは比にならない助っ人が駆けつけています)
(そいつはありがてぇ……って言いたいところだけど、到着した頃には俺はボロボロになってそうだな)
(ここを耐え凌げば活路を見出せると思いますので、後は頑張ってください)
(へいへい……)
そして、何とか必死に攻撃を耐え凌ぐこと数分後……神様の情報通り、ようやくマリンダさんは到着してくれたのであった。
「カイト!!無事かいっ!?」
俺を心配するマリンダさんの声が聞こえた。だが、人の壁に阻まれてその姿はまだ見えない。すぐ近くにいるのが分かっていても、その僅かな距離が縮まらないのはもどかしいぜ。
ただでさえ至る所に風穴を開けられてしまい、何度も叫んでは激痛に苛まされていたのだ。しかも防御に使った腕なんてボロボロである。だからこそ、今すぐにでもマナポーションを飲んで修復させたいっていうのによぉ……。
「マ、マリンダじゃないか!一体どこにいたんだっ!?」
「ねぇ、どうなっているのか説明してもらえない?」
「あの鎧男は人間じゃないぞ!マリンダさんは騙されていたんじゃないのか!?」
「ちょっとあんた達!一旦落ち着いてちょうだい!」
これは酷い。あまり意識しないようにはしていたが、やっぱりどう考えても助っ人たちは邪魔でしかない。
頼むから今すぐ逃げてほしいもんだ。
「フェリンはさっき助け出して避難させたから大丈夫なんだよ!でも、悪足搔きでロイの奴が切り札を動かして暴走させてしまったんだ。そこでカイトが何とか食い止めているんだけど、大量のマナポーションがないと倒せないみたいでさ。だからこれを届ける為にもそこを退いてくれないかい?」
「で、でもよぉ……コイツが言っているようにカイトって奴は人間じゃないだろ?」
「見た限りだとモンスター同士の争いにしか見えないぞ」
「それなら、どっちかが倒されるのを待てばいいんじゃない?後はここにいる皆で生き残った方を倒せば解決でしょ」
はぁ……気持ちは分からんでもないが、俺が守ろうとしている相手にここまで好き放題言われると、萎えてしまうぜ。てか、最後の奴は漁夫の利を狙っていやがるな?
そんな時である。屋敷の方向から人の声が聞こえた。
「これは……何が起きているんだ?」
「ん?あの声は確か……」
聞き間違いでなければ、ジャックさんの声だ。
でも、どうして屋敷に?といった疑問を抱いていると、半壊した屋敷の影からジャックさんが姿を現した。
「カ、カイト様ではありませんか。これはどのような状況で?」
「そうか……神様の言っていた助っ人てのは、ジャックさんのことだったのか」
てっきりマリンダさんが誰かを連れてくるかと思ってはいたが、意外なところから出てきたな。
「え、今何と仰られましたか?」
「いや、気にせんでくれ。それよりもロイの奴が魔鋼ゴーレムとかいう切り札を暴走させてしまったから、何とか食い止めているところなんだ。手伝ってほしい」
「ジャックっ!!手記に書いてある通りならソイツが親父の仇なんだよ!!カイトに加勢してやっておくれ!!」
怒声を放ちながら助っ人たちを強引に押しのけ、マリンダさんもようやく姿を現してくれた。後はマナポーションを受け取って飲めばいいだけだが……ジャックさんに頼んで時間を稼いでもらおうかな。
しかし、ジャックさんの様子がどこかおかしい。顔を伏せていて表情が分からず、不穏な雰囲気を醸し出している。いや、本当にどうしたんだ?
「そういうことか……その鋭い腕で俺たちのリーダーの身体を貫いたんだな。そこの魔鋼ゴーレムって奴が俺たちのリーダーを殺したんだな」
「ジャックさん?」
「姪御さん!喜んで加勢させてもらいますぜ!!」
今までに見たこともない形相で声を荒げ、迷いのない動きで瞬く間に魔鋼ゴーレムの背後へと急接近し、いつの間にか握られていた短剣で斬りかかっていた。
さすがに歯が立たないだろうと思っていたが、その予想は裏切られる。
「えっ?」
背後から斬りつけられたであろう魔鋼ゴーレムは、動きを止めて俺に背を向けたのだ。俺ではなく、ジャックさんを標的にしたのだろう。しかも、その背中を見ると確かな斬撃痕が残されている。
ジャックさんは何をしたんだ?
「驚いただろ?実はジャックは元冒険者だったんだ。訳があって秘密にしていたけど」
「冒険者……じゃあ、スキルを使って斬りつけたのか」
「その通りさ。ジャックが言うには『鉄裂斬』っていう名前のスキルで、硬い鎧でもあっさり切り裂くんだってさ」
またしても聞いたことのないスキル名だが、ゲーム内のスキルと異世界のスキルは別物と考えた方がいいのだろうか?
まぁそれはそうとして、スキル名はシンプルで実に分かりやすいな。確かに『鉄裂斬』というスキルを用いれば、魔鋼ゴーレムを斬りつけることは可能かもしれない。
ただ、倒すに至るまでは厳しいようだ。
「どうも連発できないのが欠点みたいでね。たぶん、ジャックでも時間稼ぎするのが精一杯だと思う」
「なるほど。てことは俺が倒さないといけないのか……」
「カイトの望み通り、ありったけのマナポーションを用意したよ。これからどうするつもりだい?」
「すぐに分かるさ。俺のことはいいからジャックさんの援護をしてやってくれ」
「分かったよ。それじゃ、期待しているからね」
そう言い残し、弓矢を手にマリンダさんは魔鋼ゴーレムに向かった。
さて、ひとまずは傷ついた鎧の身体の修復だ。つっても、こんだけ風穴が多いとそれなりにマナポーションを消費してしまうな。最低でも十本以上は必要になるかもしれんぞ。
助っ人たちがいなければよかったのにと思ってしまうが、今は嘆いても仕方ない。さっさと修復を終わらせよう。
甘ったるい味に辟易しつつも修復を終え、残りは五十本ぐらいになった。そこからさらに飲み続けていると、マリンダさんの切羽詰まった声が響く。
「カイトっ!まだなのかいっ!?」
「げっ!?急がねぇとっ!」
ジャックさんは何とか攻撃を躱しながらスキルが使えるのを待ち、マリンダさんは矢を放って気を逸らそうと努力はしていたが……二人から興味が失せたかのように、魔鋼ゴーレムは相変わらず騒がしい助っ人たちの方へと向かっていったのである。標的を変更したのだろう。
「マリンダさんっ!ジャックさんっ!ソイツは大きい音にも反応するんだ。そこにいる助っ人たちを静かにさせられないかっ?」
「な、なぁ、あのでっかい奴こっちに来てないか?」
「そんなことよりも、あの鎧男……マナポーションを大量に飲んでいるのは何故だ?しかも傷が綺麗に無くなってるぞ」
こいつら何を悠長なことを言っているんだ?と思いつつ、必死に残りのマナポーションを飲み干していた。あともう少しで全てが空になるが、俺自身を強化させることができるのかが不安だ。
頼むから足りてくれよ……。
「ねぇ、あれってこっちを狙っているんじゃないの?」
今さら気づいたのかよ。そんな突っ込みを飲み込みながら最後のマナポーションを空にすると……力が湧いてきた。どうやらギリギリで足りたみたいだな。
だが、まだ安心はできない。多少は条件が好転しただけで、確実に魔鋼ゴーレムを倒せる保証がないからな。
それでも、今は立ち向かうしかない。
「お前の相手は俺だっ!!」
内心ではこんなセリフはガラじゃないなと思いつつも、真正面から殴りかかった。
すると放った拳は魔鋼ゴーレムの胴体にめり込み、ヒビが生じた。致命傷には程遠いが、明らかに効いている証拠だ。
「これなら何とかなるかも知れないぞ……」
劣勢な状況に僅かな光明が差して思わず喜んだが、それは束の間のことであった。標的を俺に変更し、ランスめいた腕を突き出してきたからだ。まともに喰らうのはマズいけど……。
「まっ、いい加減に慣れてきたけどな!」
身体を貫かれるという高い授業料を払いながらも、何度も危険な至近距離で攻撃を躱して殴りかかっていたんだ。ある程度はタイミングやコツは嫌でも掴めるぜ。
と思いながら攻撃をギリギリのところまで引き付けては躱し、お返しに突き出してきた腕を殴りつけた。すると形が歪んでヒビが生じた。同じようにあと数回殴れば、腕をへし折ることが出来そうだな。
「つっても、時間はかけられないんだよなぁ」
反対側からの攻撃を躱しながら呟く。
俺自身が強化されたおかげで今や対等になりつつあるが、奴自身の自己修復機能はかなり厄介だ。現に胴体の拳をめり込ませた痕が目の前で綺麗に無くなったからな。
つまり、自己修復させる暇を与えてはいけないってことになる。
「カイトっ!そのままやっちまいな!」
「おう、やってやるぜ!」
マリンダさんに発破をかけられ、今度は俺の方から攻めてみることにした。狙いはさっき殴りつけてヒビを入れてやった腕だ。片方だけでも使えなくなってしまえば、弱体化して戦闘を有利に進めることができる筈。
「これは最初に腕を貫かれた時のお返しだっ!」
魔鋼ゴーレムが攻撃を繰り出すよりも速く、歪んだ腕に追い打ちをかけるようにチョップを繰り出すと、ヒビが生じて歪にへし曲がった。
見たところあともう少しだろう。確実に相手の戦力を削ぐなら今しかない。
「もういっちょっ!!」
だから敢えて回避を捨てて強引に掴みかかり、流れるような動作で腕に膝蹴りをお見舞いしてやった。すると明らかに致命的なヒビが生じ、さらに膝蹴りを追加してやると遂に限界が来たらしく、厄介な腕は嫌な音を立てながら金属片をばら撒き、半ばから完全にへし折れた。
しかし相手の腕と引き換えに、それなりの代償を支払う羽目になったのはこの後すぐである。
達成感を感じたその刹那、頭から衝撃と共に激痛が走ったのだ。
「ぎゃぁっ!?」
ランスめいた腕をへし折ることに集中し過ぎた結果として、想定していた反対側からの攻撃を受けたのだろう。
そのことはすぐに理解できた。とはいえ、覚悟していても痛いものは痛い。
「なかなか慣れそうにないな……」
「大丈夫なのかい、カイトっ!?」
「頭をやられたのかっ!?」
一段階強化していたから完全に貫通することはなかったが、まさか側頭部に突き刺さるとは思わなかった。
というか、ほとんどは胴体ばかりを狙っていた筈なのに、どうして今になって頭を狙ったんだ?
それに、魔鋼ゴーレムの雰囲気が変わったような気がするんだが……?
「何かがおかしい……」
怪しく思いながらも、側頭部に突き刺さったランスめいた腕を掴んで側頭部から引き抜く。
すると魔鋼ゴーレムはとんでもない行動にでやがった。あろうことか、滑らかな動作で蹴りを繰り出してきたのだ。
「うおっ!?」
あまりにも行動が予想外過ぎる。ずっと腕しか使わなかったんだぞ?しかも動きもあからさまに違っているのはどうしてだ?
蹴り飛ばされた痛みよりも、唐突な行動のせいで疑問が頭の中を占めていた。
(ふむ……これは誰かに操られていると見ていいかと)
(おいおい、制御する為の水晶球は粉々に砕けたっていうのにか?)
(造った本人でしたら別の方法でも可能でしょう。ですが、厄介なことに遠くから操っているみたいですね)
(へぇ、逆探知的なことをしたのか。その造った本人とやらはどこにいる?)
(残念ですけど……大まかな方角しか分かりそうにありません。さらに付け加えますと、街の外ですね)
(それは遠すぎるな。結局は魔鋼ゴーレムを倒す以外の道は無いってわけだ)
神様のおかげで何が起きたのか分かったけど、状況はより悪化したかもしれないな。明確に敵意のある奴が魔鋼ゴーレムを操っていることになるんだぜ。今までの戦い方は通じないと考えた方がいいだろうし、厄介極まりないな。
ただ、一つだけどうしても気になることがある。
(大まかな方角が分かるって言っていたけど、その方角には何がある?)
(あなたには関係ありませんので、教える必要はありません。それに……構えた方がいいですよ)
返答はいつも通りの受け入れがたいものであったが、最後の警告だけは素直に受け入れるべきだろう。それから魔鋼ゴーレムの動きを注意深く見ていたら……その体格に見合わぬ素早い動作で俺に詰め寄り、無事な方の腕を俺に突き出してきたのである。
咄嗟に顔を逸らして躱すことはできたものの、油断はできないと強く認識させられた。
「あの動きはいったいどうしたっていうんだい……?」
「まるで、誰かの意思が宿っているかのように見えますぜ……」
攻撃が失敗したからか、追撃はせずに飛び退いて俺から離れた。相手は様子見をするつもりなのだろうか?
どう見ても人間臭い動きだな。確かに、操られているのはほぼ間違いないだろう。
「マリンダさん、ジャックさん……コイツぁ、誰かが操っているみたいだ。気をつけてくれ」
「えっ、さっきは暴走しているって……」
「姪御さん、これはカイトの言う通りだと思います。さっきと動きが違いますし、気をつけましょう」
せっかく戦力を削いで、あとはゴリ押しで倒せると思っていたのに……とんでもない隠し玉を用意していやがるとはな。
さて……追加でマナポーションを用意してもらうべきか?いや、それは無理な話か。人が操っているのなら絶対に飲む暇を与えない筈だ。
「これは参ったな。って、あれは……!」
この時になり、様子見で俺から離れたのではないことをようやく知ったのである。必死にへし折ったランスめいた腕は、見る見るうちに生えて元通りになってしまったからだ。
奴の狙いは自己修復されるまでの時間稼ぎ、ということなのだろう。そして準備が整ったことで、改めて俺に襲い掛かってきた。
「こうも早く元通りになるとは……」
(にしても修復が早すぎじゃないか?俺の上位互換としか思えないんだけど)
(私に対する嫌味のつもりでしょうか。言っておきますけど、あれは下位互換に過ぎませんよ)
(どうしてそう言い切れる?)
(所詮は人間が造った物です。あの修復速度を実現させるには……自身の体積を減らし、減らした分を破損した箇所に充てたからでしょう。そのような修復方法でしたら、弱体化しているとしか言いようがありませんね)
神様の解説でよく理解できたが、厄介であることには変わりない。理論上、奴の身体を文字通り削れば弱体化できるのだろうけど、効率的に速く削らないと俺の方がやられてしまいかねん。
今でこそ危なげに凌いでいるが、それもどこまで持つのやら。
せめて、何かいい攻撃手段があれば……
(では、そんなあなたに私が親切にアドバイスをして差し上げましょう。手に握っている物を活用してみてはどうです?)
(握っている物って……あっ、魔鋼ゴーレムの腕の一部か)
すっかり忘れていたぜ。なるほど、確かにこれは使えるかも知れない……。神様は使える物は何でも使えと言いたいんだな。
(硬さは向こうと同等で先端は尖っていますし、削るには十分かと)
(……助言、ありがとうよ)
(おや、あなたが感謝するとは珍しいものです。これがデレというものでしょうか?)
(頼むからさぁ……そういうことは言わないでくれ)
内心で呆れながらも、魔鋼ゴーレムの腕の一部を強く握りしめて反撃に出た。そして前に出ながら攻撃を躱し、奴の懐に潜り込んで胸元へと突き立ててやったのだ。不意打ち気味ではあるが、気持ちいい一撃が入ったから気分がいい。
「ざまぁねぇな!」
散々俺を貫いただけあって、その威力は中々のものである。魔鋼の欠片が飛び散り、胸元には大きく抉れた痕が残っていた。
それから奴は片腕で胸元を庇い、もう片方の腕で薙ぎ払いながら飛び退いて俺から距離を取ろうとする。もちろん、奴に修復の時間を与えるつもりはなく追撃を敢行した。
「逃がすかぁっ!」
追いすがるように距離を詰め、庇った腕ごと胸元へと突き立ててやった。すると庇っていた腕に深く突き刺さり、大きな亀裂が生じた。続けて魔鋼ゴーレムの腕の一部を手放し、杭を打つように拳を叩き込んでやると、庇っていた腕はひしゃげて折れたのである。
だが、奴だってやられっぱなしでいる訳がない。前のめりになっていった俺に対し、無事な方の腕でアッパーを繰り出して俺の腹部に突き刺してきやがった。
「ぐふっ!!いてぇけど……これで逃げられないぜ!」
敵の攻撃を逆手に取る為、激痛に耐えながら突き刺してきた腕を左手で押さえ付けのだ。そうして残った自由な右手を使い、抉れた胸元を何度も殴りつけて徹底的に叩き潰してやるつもりだったが……そうは問屋が卸さなかった。
数回ほど殴りつけたところで、その変化は起きた。何と言うか、金属ではない別の何かにヒビが入るような音が僅かに聞こえた。
「この音は……?」
気になりつつも殴りつけようとしたが途端に魔鋼ゴーレムが激しく動きだし、ひしゃげて折れた腕を叩きつけたり、膝蹴りをかましてきたのだ。
あまりにも出鱈目な攻撃ではあるが、左手に当たったのをきっかけに衝撃で押さえ付けが緩み、逃げられる原因となって距離を取られてしまった。
「今度はどうしたんだ?」
(どうやら当りを引きましたね)
(当り?何のことだ?)
(核のことですよ。人間の手によって造られたゴーレムにとっては急所となります。場合によっては埋め込まれる部位は違いますが、今回は胸部に埋め込まれていたみたいですね)
(なぁ………そういう大事なことはさぁ………もっと早めに言ってくれない?)
(てっきりゲームとやらで既に知っていると思ったのですが、知らないのは意外でした)
(ゲームだと人工的に造られたゴーレムは出てこなかったからな………)
ただ単に、神様は勘違いをしていたらしい。こんなことになるのなら、俺も弱点を教えてくれと頼めばよかったな。
でも、弱点が分かったのは大きいぞ。これなら抉れた胸を一点集中すれば、この戦いはすぐに決着がつく。
しかし、俺は大事なことを見落としていた。敵意のある人間が操っているということを。
「周りを見ている……?」
何故か俺に襲い掛からず、周囲を観察するかのような素振りを見せていた。そして未だに居座っている助っ人たちに顔を向けると、急に駆け出したのである。
少しでも分が悪くなったから、簡単に殺せそうな相手を選んだというのか?理由は兎も角として、かなりマズいぞ。
「マリンダさんっ!その人たちを逃がしてやってくれ。ジャックさんはコイツを止めるのを手伝ってくれっ!」
「まさか狙いを変えたっていうのかい?」
「だとしたらマズいですぜ。姪御さんは他の人を逃がしてやってください」
そんな会話を聞きながら魔鋼ゴーレムを追いかけていると、待っていましたと言わんばかりに立ち止まり、振り向きながらランスめいた腕を俺の顔面に突き刺してきやがった。かなり痛いし、馬鹿にされたようで癪に障るぜ。
「やってくれたな……っ!」
間違いない。こんなカウンターを狙うなんて、操ってる奴は相当に性格が悪いぞ。しかも冷静な判断力の持ち主らしく、俺が突き刺してきた腕を掴むよりも速く蹴とばしてきたのだ。そして質が悪いことに、またしても助っ人たちに向かって駆け出そうとしていた。
だけどなぁ、これしきのことで諦めると思うなよ?
「倒れやがれぇっ!!」
前傾姿勢で駆け出して脚に飛びつき、バランスが崩れたところを狙ってうつ伏せに倒すことに成功した。
「今度こそ決着をつけてやる」
背面から胸部の核を砕くべく、暴れる魔鋼ゴーレムを抑えながら背中に跨って殴り続けると、核と思わしきこぶし大の赤い球体が露出した。
しかも、ちょうどいいタイミングでジャックさんが来てくれた。確実にとどめを刺したいから、ここは手伝ってもらおう。
「ジャックさん!俺が押さえ付けるからこの核を狙ってくれ!」
「それならお安い御用だぜ!『鉄裂斬』!!」
そして、ジャックさんのスキルによって核は切り裂かれた。
これでようやく倒せた……かと思いきや、まさかのまさかで魔鋼ゴーレムは動きが止まらなかったのだ。
「うっそだろっ!?」
「す、すまねぇっ、俺の予想以上に硬かったみたいだ!」
安堵した隙を突かれ、俺とジャックさんを振り払って立ち上がり、仕返しとばかりに俺を突き刺して蹴とばしてきた。
だが俺に追撃をすることはなく、何故か助っ人たちに向かっている。まるで……誰かを道連れにするという意思があるように思えた。
「姪御さんっ!逃げてください!!」
「くっ、間に合ってくれっ!!」
そして最悪なことに、助っ人たちを逃がそうとしているマリンダさんが一番近かった。
俺も必死に駆け出してはいるものの間に合うか怪しく、もしかするとランスめいた腕によって貫かれてしまうかも知れん。
そんな嫌な未来が脳裏をよぎり、俺は焦燥感に駆られる。
「死なせてたまるかよ……!」
だが、それは杞憂に終わった。何の前触れもなく魔鋼ゴーレムの動きが止まり、前のめりに倒れ込んだからである。
「どうしてだ?」
不思議に思いながらも、不意打ちを警戒して慎重に近づく。そして、魔鋼ゴーレムが止まった原因が分かった。
「これはまさか……」
核に深々と何かが突き刺さった痕が残っていたのだ。それでいて、周囲には不自然に砂めいた何かがが積もっていた。
「カイト、そいつはもう動きそうにないのか?」
「たぶんな。でも、念には念を入れて核は完全に砕いておくぜ」
そう言って、俺は核を踏みつけて粉々にした。これなら誰がとどめを刺したかは簡単に分かるまい。
ただ、ジャックさんに気付かれなければいいけど……。
「最後の悪足搔きにはヒヤッとしたもんだぜ」
「……ところでさ、その口調ってジャックさんの素なのか?」
「あっ……これはこれは、見苦しいところを見られてしまいましたね」
「別に気にしなくていいと思うけど」
ふむ、この様子だと大丈夫みたいだな。余計なお節介だったかもしれないけど、とどめを刺した人を探し出すなんてことにならない方が望ましいだろう。
それはそうとして、後でこっそり感謝しないと。俺の代わりにマリンダさんを助けてくれたのだから。
「二人とも大丈夫……って、カイトは大丈夫じゃなさそうだね」
「気にすんな。犠牲は出なかったし、こんな傷は安いもんだぜ」
今の俺の状態は色んな箇所に穴が開いていて、さぞかし痛ましく見えるに違いない。そのせいか、マリンダさんは浮かない表情をしていた。
まぁ、何はともあれ、これにて裏切り者に関しては一件落着か。ひとまずは気が楽になれるぜ。
だがしかし……非常に残念なことに……別の問題が終わっていなかった。
「あんた達、どういうつもりだい?」
「そう言うマリンダこそ、この鎧男が化け物だってことが分からないのかっ!?」
「……困りましたな」
逃げ出そうとしなかった助っ人たちが俺を取り囲んだのだ。さらに各々の手には自前で用意したであろう武器が握られていて、ハンマーや槍、こん棒、包丁、角材などと選り取り見取りである。
「マジで漁夫の利を狙っていたのか……」
ある意味驚きではあるが、頑なに逃げ出そうとしなかったことを考えると納得だ。
てか、そんなクソみてぇな発想のせいで俺は手こずる羽目になったのか。頑張ったっていうのに、冗談抜きでやるせねぇなぁ……。
それでも、ここは仕方ないと割り切って捕まってあげるしかないだろう。ただ、そう思っていてもつい嘆いてしまうのであった。
「はぁ……報われないもんだな」
「何が起きたんだ。誰か説明してくれないか?」
街の住民たちが今にも襲い掛かりそうになったところでルジェスさんが登場し、少しは周りが静かになる。だが、これで助かったわけではない。
ルジェスさんが俺に視線を向けた途端に硬い表情を浮かべると、俺の前に来て厳かな口調で質問をしてきた。
「今回の騒動を引き起こしたのは君だね?」
「そういうことになるかな……」
「あっさり認めたか。よし、拘束して牢屋に入ってもらうぞ」
ルジェスさんはそう言って、俺を縄で縛り始めた。取り囲んでいる連中は俺が暴れたら取り押さえるつもりらしく、油断なくその様子を見守っている。
「待って、叔父さんっ!」
「マリンダお嬢様!ここは堪えてください!」
「君は……抵抗はしないのかね?」
「抵抗すりゃ面倒なことになるのは嫌でも分かるんでね」
碌に事情を知らない連中なのだ。この場で説明したとしても「はいそうですか」と納得できるわけがないだろうし、まずは落ち着かせるべきだろう。
故に、俺は抵抗しなかった。
「よし……連れて行ってくれ」
ルジェスさんがそう言い放ち、俺は本日二度目の牢屋に入るのであった。
オマケという名の蛇足
とある会議室にて
薄暗い部屋の中、円卓に座る男がつまらなそうな声を上げる。
「ちぇっ、誰も殺せなかったのは残念だなー」
まるで無邪気な子供のように言っているが、内容が物騒だ。それに加えて軽薄そうな雰囲気を醸し出しながらも、所々に邪悪さが見え隠れしている。だが、深々とフードを被っているせいか表情はうかがい知れない。
そんな男に反応したのは、反対側の席に座る男であった。
「珍しく静かだと思ったが、またお前の作った玩具で遊んでいたのか」
「そーだよ。でも、いいところで核が壊されちゃってねー」
「ふんっ、どうせお前の遊び癖が敗北を招いたのだろ。それで……どこの誰にやられた?詳しく聞かせろ」
反対側の席に座る男も深々とフードを被っているが、始めに声を上げた男の言動が気に食わないのか、不機嫌であることが傍から見ても分かる。
ただ、本人は生真面目な性格らしく、玩具を壊したであろう人物が将来的に障害となり得ることを考慮し、事の顛末を聞き出そうとしていた。
「別にいいよー、今の僕は気分がいいからね。それで場所は指輪の反応が二つ消えた街なんだけど、そこに面白い奴がいたんだ」
「あぁ、さっき報告にあった『南の街』のことか。あの辺境で異変が起きているみたいだが、その原因はお前の言う面白い奴とやらが関わっているのか?」
「そこまではよく分からないかな。僕が操作したのは報告を聞いた後だしね」
「因果関係が気になるところだが……知らないのなら仕方あるまい。とりあえず、話を続けてくれ」
「えーっとね……変な鎧?がいたんだよね」
そう切り出し、事の顛末を語るのであった。
そして軽薄そうな男があらかた語り終えたが、不機嫌そうな男はどことなく納得し切れていない様子である。
「中身のない鎧と戦ったというのか……。ゴーレムといったモンスターの類ではないんだな?」
「んー、動きがモンスターっぽくなかったんだよね。どう見ても人間みたいな動きにしか見えなかったかな。だけど……顔や胸を突き刺したのに血を流さず死ななかったし、それどころか元気に反撃してきたよ」
「ふむ……あり得るとするなら、中身のない鎧は誰かが操っていたのかも知れないな。それこそ、お前がゴーレムを操るように」
「まっ、それぐらいしか考えられないよね。にしても……掘削用に造ったのを戦闘用に改造したのに、あそこまで追い込まれるとは思わなかったな」
「追い込まれる?中身のない鎧に倒されたんじゃなかったのか?」
「とどめを刺したのは別の誰かだと思うよ。だって、最後は核に何かを投げつけられたみたいだからね」
「じゃあ、さっき言っていたスキルを使った男がとどめを?」
「それは何とも言えないかな。硬い物を斬ることに特化していた感じだけど、背後から投げつけられたから具体的に誰かは分からないんだよね」
と軽薄そうな男がそこまで語ると、何の前触れもなく扉が開いて薄暗い部屋に新たな人物が入ってきた。
ちなみに二人の男たちと同様に深々とフード被っている。
「へぇ、わたしも詳しく聞かせてもらおうかな」
「最初から盗み聞きしていたのなら必要ないだろに……」
「相変わらず気配を消すのが上手いねぇ……」
温度差のある言葉を投げかけられながらも、その人物……女は気にもかけず軽薄そうな男の席に近づいた。
「で、どんな人物がとどめを刺したのかな?ちなみにどんな武器を使ったのかも教えてくれると嬉しいけど」
「そう言われても困るなぁ。確実なことは僕も分からないんだよ?」
「いいからいいから、とにかく教えてちょうだい」
「そこまで言うのなら……これはあくまでも僕の勘だけど、武器を投擲した人はそれなりの手練れじゃないかな。それと武器に関しては、スキルに頼らなかったら魔剣に近い性能をしていると思うよ。だって、簡単に核が壊れないようにかなり頑丈にしていたからね。生半可な武器じゃ傷はつけられないよ」
「ふーん……ありがと、用事ができたからちょっと出かけてくるね」
必要な情報は手に入ったらしく、その女は聞き終えた途端に部屋から出ていった。残された男二人は何も声を掛けず、その後ろ姿を見送るだけである。
「せっかく来たと思ったら、すぐに行っちゃったね。どこに行くんだろ?」
「どうせいつもの気まぐれだろ。だが……わざわざ話を聞きに来るのは珍しいことだ」
「そんなにとどめを刺した人物が気になったのかなぁ?僕的には中身のない鎧の方が気になるけど……」
「彼女にも何らかの考えがあるのだろう。まぁ、俺から見れば今回の件は捨て置いて問題はないと思うがな」
「だよねー、中身のない鎧は面白かったけどさ、所詮は暇つぶし程度にしかならなかったし」
取るに足らない、というのが二人の出した結論のようだ。
それから円卓の誰も座っていない六つの空席を眺め、軽薄そうな男は呟く。
「あーあ、暇になっちゃったなー。自由に動いてる他の皆が羨ましいや」
「文句を言わずに我慢しろ。俺たちは待機しろと命令されているんだ。そのことを分かっているのか?」
「えー、待機って言っても何もすることないじゃん。あんたと話すのも飽きちゃったしー」
「仕方あるまい。他の身勝手な連中に押し付けられてしまったのだからな。ここは大人しくしておけ」
「ちぇっ、貧乏くじを引いちゃったなぁ。じゃ、僕は今から昼寝するからさ、何かあったら起こしてねー」
「ふん、お前も大概身勝手だな。……もう寝たのか」
軽薄そうな男は何も返事をせず、聞こえてくるのは寝息ばかりである。その様子を見て軽くため息をつきながらも、不機嫌そうな男は静かに新たな命令を待ち続けるのであった。




