表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
21/85

第二十話 本当の裏切り者

 拝借したランタンを片手に屋敷の裏へ向かう途中、フェリンからしつこいくらい質問を受けた。

一つ、どうして異常に強いのか

二つ、私兵が使っていた剣をいとも簡単に弾く頑丈な鎧はどこで手に入れたのか

三つ、結界の情報をどこで知ったのか


 などといった内容である。

 答え方はいつもことだから省略するが、一つ気になることがある。それは冷静すぎるところだ。質問する様子が好奇心旺盛な少女とは思えず、まるで尋問をされているようにも感じた。

 いくら賢くて冷静だとしても、年不相応だろ。


「むぅ……どうしても教えてくださらないのですか?」


「今さら子供らしく装っても答えられないものは答えられんぞ」


 今度は不満気な表情が年相応に可愛らしいと思ったが、うっかり正直に答える程に俺は愚かではない。

 そうして歩いているうちに、目的の小屋に着いた。


「この中に地下に続く階段があるのか……ん?扉が開いているな」


「カイトさんがおっしゃっていた魔人のお二人がこの中に入って行ったのでしょうか?」


「ってことは、街の外に繋がる隠し通路もあるのかもしれないのか」


 だとしても、あくまでも最優先は結界の解除である。解除した後に、神様からの指示を仰ぎたいからな。ついでに聞きたいことがたくさんある。

 と考えていたら、トラブルが起きてしまった。それは地下へと続く階段に足を踏み出した時のことである。


「あぁっ!」


「どうした……危ないっ!」


 足を踏み外したのか、フェリンが俺に飛び込んできたのだ。そこで咄嗟に受け止めたのはよかったものの、足場が悪かったらしくフェリンを抱きかかえたまま足を滑らせて、激しい音を立てながら階段から転げ落ちてしまう。


「うおおおおっ!?」


「きゃぁぁぁっ!!」


 そして一番下まで転げ落ち、やっと止まった。俺とランタンは特に問題なかったが、フェリンが心配である。


「おい、大丈夫か?」


「だ、大丈夫です。カイトさんが受け止めてくれたおかげで……どこも怪我はありません」


「それならよかった。でも、俺の用事が終わったら念の為に医者に診てもらうぞ。後から症状が出ることもあるからな」


「はい、そうします……ところでカイトさんの方こそ大丈夫なのですか?」


「別に何ともない。気にしなくて大丈夫だ」


 やれやれ、まさか階段で足を踏み外すとは思わなかったぜ。運動音痴ってことはないだろうけど、こうしてたまにはドジったりするのかな。

 ま、今回は俺のおかげでどうにかなったからよかった。


「よし、気を取り直して先に進むぞ」


 と言ったものの、パーズの言ってた通り本当に降りてすぐ近くに部屋の扉があったのは予想外だ。ただ、部屋に続くであろう扉は左右にあり、目の前には等間隔で松明の灯りで照らされた通路がある。

 きっと目の前の通路が例の隠し通路なのだろう。しかし、気になるのは左右の扉だ。


「さて、このどちらかに結界の制御装置がある筈だ……まずは右から見てみよう」


 ちなみに右を選ぶ理由は特に無く、何となくである。


「では御開帳……って何じゃこりゃ」


 この部屋は物置小屋として使用されていたのか、色んな道具が散乱していた。さらにランタンで中を照らすと、その奥には大きな人形めいた何かが鎮座している。

 選んだ部屋はハズレであったものの、代わりにそこそこの収穫はあった。


「おっ、マナポーションがたくさんあるじゃん。せっかくだから頂くか」


 泥棒という単語が頭をよぎるも、死活問題だからと内心で言い訳しつつ片っ端から飲み干した。

 だが、そんな俺の様子を見たフェリンはかなり引いている。それに何故か若干頬を紅潮させているけど、冷静さを欠いているせいなのかな?


「なななななっ、何をなさっているのですかっ!?」


「何って、勝手にマナポーションを飲んでるだけだが」


「で、ですがっ……たくさんの量を一気に飲まなくてもいいじゃないですかっ!!」


「あぁ、盗んだことを咎めるんじゃなくて副作用のことを心配しているのか。だったら気にしなくて大丈夫だぞ。どうやら俺には副作用は起きないらしい」


「そ、そういうことでしたら安心ですけど……」


 そう言いつつも、訝しげな視線を俺に送っていた。

 まぁ、実際のところ俺もよく分からないんだけどね。副作用と言われても、何が起きるのかサッパリだし。

 それにしても、あの焦る様子を見ると副作用のことは知っていそうだな。せっかくだから聞いてみるか。


「ちょっと聞きたいんだが、マナポーションの副作用って具体的に何が起きるんだ?」


「カイトさんはそれを知らずに飲まれていたのですか……。すみませんが……少し恥ずかしいのでお教えすることはできません」


「あらら」


 恥ずかしいという理由で断るとは思わなかった。マナポーションの副作用とは一体何なんだ……余計に謎が深まった気がするぞ。


「副作用に関してはまたお預けか。そんでもって、二十本全部飲んでようやく力が湧いてきたから強化はできたな。だけど……この調子だとさらに強化するとしたら、もっと大量に必要になる気がするぞ……」


 前回の銀髪の魔人の血を飲んで強化したときに比べると、今回の強化に必要なマナの量が倍増しているのは確かだ。

 次に俺を強化する場合は、さらに倍のマナポーションが必要になるのだろうか……


「あ、あの……さっきから何をブツブツ独り言を喋っているのでしょうか?」


「悪いな。気にしないでくれ」


 マナポーションで強化とか言っていたら、間違いなく頭のおかしい人だと思われるよな。と思っていたが、フェリンの反応は一味違った。


「ところで、カイトさんが大量のマナポーションを飲むことに疑問を持ちましたが、強化という単語が聞こえましたので……もしや強さの秘訣だったりするのでしょうか?」


「急に冷静になったな……好きに解釈してくれとしか言えないぜ」


「その答え方から察するに、あながち間違ってないのですね」


「お喋りは終わりだ。左の扉に向かうぞ」


 一方的に話を切り上げ、右の部屋から出た。

 薄々感じてはいたが、このフェリンという少女は油断ならない。あの独り言だってつい声に出していたとはいえ、かなり小声だった筈だぜ。これ以上はボロを出さないように気をつけないとな……


「で、この左側の部屋に本命があるわけか」


 ところで今さら気になったのだが、本命である結界とはどんな代物なんだろう。神様が言うには、厄介だから街中の俺に干渉することはできないとのことだった。ただ、仮にも神様を自称するのなら、結界があっても俺に干渉するのは造作でもないと思う。まして、妨害する代物ではないとも言ってた筈。

 それでも俺に干渉してこないということは、神様でさえ警戒する必要があるとも受け取れる。じゃあ、何を警戒しているんだ?


「カイトさんはどのような結界なのか知っているのですか?」


「さぁね?俺も知りたいよ」


 冗談ではなく本音で言い返しつつ扉を開く。そしてようやくお目当ての代物が見つかった。


「あれが結界の制御装置ってわけか……」


 部屋は広く、最奥に鎮座する水晶球は一メートルくらいの大きさで、薄紫色に発光している。あからさまに怪しいとしか言いようがない。

 何とか見つけたのはいいけど……結界の解除ってどうすりゃいいんだろう。とりあえずは近づいてみるか。 


「うーん、これって殴ったら壊れるかな?」


 まじまじと眺めながら呟く。破壊して結界が解除できるのならそれが手っ取り早いと思ったものの、少し遅かったようだ。

 走るような足音が近づいてきたと思えば、勢いよく扉が開け放たれたのである。


「ま、待てっ!貴様ぁっ、何故この部屋にいるっ!?」


「やっと坊ちゃんのお出ましか」


 聞き覚えのある声に反応して振り向くと、裏切り者であるロイが部屋の入口に立っていた。

 結界の解除は後回しにしよう。フェリンが捕まって人質になったら洒落にならん。


「この裏切り者を片付けるからフェリンは俺の後ろにいてくれ」


「は、はい」


「ふざけるな!誰が裏切り者だとっ!?勝手なことを言うな!おい、この薄汚い鎧男をぶっ殺せ!」


「了解です」


 ロイの後から現れたのは、俺を屋敷に運んだ比較的に真面目な男であった。

 そういや、地下牢では見かけなかったな。


「嫌な予感はしていたが、まさか眠ったふりをしていたとはな……どうやって睡眠薬に気づいた?」


「いや、全然。飲んでくださいって言われたから飲んだけど」


「…………人間か?」


「一応は人間だぜ」


 何とも言えない表情をしていた。でもまぁ、その気持ちは何となく分かる気がする。普通の人間だったら飲めば眠っていた筈だからな。

 ただ、切り替えは早いらしく、鞘から剣を引き抜いて構えていた。


「ふぅ……人間でなかろうがやることは変わらん。覚悟してもらうぞ」


「おいおい待てよ。地下牢の惨状を見ていたのなら俺を殺すのは無謀だって分かるよな。悪いことは言わんから諦めておけ」


「生憎だが、命令には逆らえないのでな。茶番だとしても付き合ってもらうぞ」


「そうかい」


 うーむ、素直に諦めてはくれないか。あんな大口を叩いたけど、実のところ油断はできないんだよね。

 地下牢にいた男たちと同じように弱いとも限らないし、今は背後にいるフェリンが人質にされないように守る必要もある。

 さぁて、どう出てくるのやら……


「は、早く殺せっ!」


「善処は尽くします。はぁっ!」


「俺狙いで斬りかかるか……」


 分かりやすい攻撃ではあるが、俺が回避すことを前提としたフェイントかもしれん。回避してフェリンに危害が及ぶ可能性を考慮したら、敢えて腕で受け止めるのが妥当だろう。ついでに相手の意表を突けるかもしれないし。

 ただ、その選択は俺にとっても相手にとっても意外な結果を招いた。それは剣が腕に振り下ろされた時のことである。


「えっ!」


「あっ」


「嘘……」


「ぎゃぁぁぁっ!?」


 甲高い金属音が響き、その次にはロイが叫んでいた。

 あろうことか、俺が腕で受け止めた剣はあっさり折れてしまい、折れた部分は放物線を描いてロイの肩に突き刺さったからだ。

 これには目の前の男も驚きを隠せない様子だが、まずは自分の心配をするべきではなかろうか?

 内心で呆れつつ、かなり手加減した拳を放つ。当然ながら相手は回避などできず、無防備な腹に拳を当てたのはいいが……どうも鳩尾に拳を打ち込んでしまったらしく、男は呻き声を上げて倒れこんだ。


「ぐふっ……」


「何なんだこの終わり方は……」


 普通なら考えられないくらい運がよかった気がするけど、その反動が怖いのだが。

 大丈夫だよな?不運が連発するとかしないよな?それが凄く心配だ。


「カイトさんの鎧ってそんなに硬かったでしょうか……?」


「俺だって驚きだよ……」


 たぶん、マナポーションを飲んで俺自身を強化させた結果、装甲がさらに硬くなったに違いない。

 だとしても、まさかこんなことになるとは思わなかった。折れた剣の一部がロイの肩に突き刺さるだなんて、誰が想像できただろうか。


「誰かっ!いっ、医者を呼んでくれぇっ!痛くて死にそうなんだっ!!」


「そんだけ叫ぶことができりゃ死ぬことはないだろ。医者の前に色々と聞かせてもらうぜ」


 狙ったわけでもないのに、裏切り者であるロイを追い詰めてしまうとは夢にも思わなかったが、これで後顧の憂いを絶つことができそうだ。

 せっかく余裕ができたし、ロイからは事情を聞くとしよう。


「どうしてこの街を裏切ったんだ?」


「ちっ、違う!俺はあのお方から指示されただけだ!」


「あのお方?」


「しまった!」


 自ら墓穴を掘ったみたいだ。にしても、どんな人物に指示されたのだろう……気になるな。

 是が非でも聞き出すしかあるまい。


「興味深いことを言うじゃねえの。これ以上痛い目に遭いたくなかったら洗いざらい喋りな」


「ひぃっ!?わ、分かった!分かったから痛いのはやめてくれぇっ!」


「予想以上に折れるの早いな……」


 それはそれで助かるけどさ、拍子抜けにも程がある。こんな根性無しでよく街を裏切ろうとしたな。


「正直に話すとしても、あのお方に関しては王都の貴族であることしか知らないぞ。基本的には手紙でしかやり取りしていないし」


「王都の貴族って……お前がルジェスさんの前で言っていた奴のことか?」


「ああ、そうだ。だいたいな、よく考えてみろよ。いくら子爵の長男だとしても、俺一人だけで誰にも悟られず数年がかりの下準備なんてできるわけがない」


「確かに、一理あるな」


「だろ?だから俺はあのお方の支援を受けながら指示に従っただけだ」


 えーと、北側の跳ね橋の改修に援助をして、街の有力者を数人懐柔して、街の外に繋がる隠し通路を用意して、秘密裏に魔王軍と繋がっていたよな。前半は兎に角、後半は支援無しだとロイ単独では厳しい筈だ。

 となると……指示を受けていたのが本当なら、ロイの後ろ盾になっている王都の大物貴族が今回の黒幕になるな。偉い貴族なら揉み消しなんてお手の物だろうし。


「ふぅ……にしても話がややこしいことになったな。その王都にいる貴族はこの街を陥れて何がしたいんだよ」


「俺も詳しいことは聞かされていないから知らん。指示に従うのも報酬に釣られただけだからな」


「そうか……それと最後に聞きたいんだが、この街に張ってある結界はどんな代物か知っているか?」


 ロイなら知っているのではないかと思い、ふと聞いてみた。


「結界か、俺が聞いた話だと……えっ?」


「おいどうした……はぁっ!?」


 だが、結界に関してはタブーだったらしい。ロイがはめていた指輪が強烈に輝き始めたからだ。

 それも綺麗だとか感想が抱けない危険な輝き方である。


「どうなっているんだ……」


「お、俺も知らないぞ。この指輪はあのお方に貰った物なんだ」


 ちょっと待て、凄く嫌な予感しかしないぞ。こういうのって大抵は口封じに発動するよな。ということは、ロイを殺す為にこの指輪は発動したことになる。

 しかし残念なことに、それが分かったところで手遅れであることは明白だ。

 そして指輪の輝きが最高潮に達したその瞬間……無慈悲にも爆発を引き起こしてしまい、もれなく俺も巻き込まれた。


「いてて……なかなかの威力だな」


 爆発によって煙が漂う最中、俺は身体を起こした。

 威力は『黒爆』や地雷球と同等くらいだろうか。ただ、威力の割には鎧に目だった傷は特に無かった。

 俺自身がさらに強化されたのもあるだろうけど、指輪の爆発は魔法によるものかもしれない。


「しっかし……口封じの為にしては威力が強過ぎるだろ」


 目の前を見るとロイの姿形はなく、壁や床の一部が爆発によって抉れていたりして、扉や手に持っていたランタンに至っては粉々になっていた。明らかに過剰な威力だし、口を割らそうとした人を巻き込むことを想定しているかもしれんな。

 でも、どう見てもロイの意思で自爆させたようには思えない。恐らくは指輪が何かに反応し、自動的に自爆するように施されていたに違いない。で、その何かとは結界に関することで間違いない筈だ。


「自爆した理由は何となく分かったが……ロイの言ってたあのお方とやらは用心深すぎやしないかね」


 情報漏洩を防ぐ為だとはいえ、人の命を使い捨てにするなんて血も涙もない奴だな。少なくとも、まともな人間でないのは確実だろ。


「はぁ……ロイには悪いことをしちまったな。俺があんな質問をしなければ死なずに済んだかもしれないのに」


 これならさっさと結界の制御装置の破壊を試みていた方がよかったぜ。過ぎたことを悔やんでも仕方ないと分かってはいるが、目の前で死なれたからショックが大きい。せめてもの救いがあるとしたら、死体が無いことだろうか。


「ひとまずは気持ちを切り替えるとしよう。今するべきことはさっさと結界を解除してティノの元に…………あれ?フェリンはどうなったんだ?」


 俺の背後にいたから大丈夫だとは思うけど、爆風は受けたかもしれない。それで焦って振り向くと、意外なことになっていた。


「あんた……フェリンを庇ったのか?」


 倒したと思い込んでいた男は自ら背中を盾にしてフェリンを守っていたのである。いやぁ、こればかしはちょっと見直した。


「ま、まぁな……」


「根っこから悪い人じゃないんだな。無傷でフェリンを帰してあげたかったらさ、本当に助かったぜ」


 それから俺のことが心配だったのか、フェリンが近づいてじっくりと眺めてきた。


「ところで……カイトさんはご無事だったのですね……傷も見当たらないですし」


「俺は頑丈だからな。あの程度の爆発なら大丈夫だぞ」


「そ、そうですか……」


 どことなく表情が引きつっているように見えるものの、それ以外は特に問題はなさそうだ。これで心置きなくティノの元に帰すことができる。

 その為にも早速、結界の解除でもしてみるかと行動に移そうとしたら、フェリンが何かを取り出した。


「あの……ロイが落としたと思われる物を拾ったのですけど、何か書かれているかもしれませんよ」


「ほう?」


 手渡された物は本のように見えるが、一体何が書かれているのだろうか。結界について詳しいことが書かれているかもしれないし、とりあえずは読んでみるか。


「えーと、なになに……マリンダのことが好きだぁ?」


 どうしてこんな物がここに落ちていたのかと思っていたら、いきなりとんでもない内容が記されていやがった。赤裸々にマリンダさんへの想いが綴られている。これって本じゃなくて日記帳とか手記の類だよな。ただ、読むのが恥ずかしくても一応は読んでおいた方がいいよな……何か重要なことが記されているかもしれないし。

 そう考えてさらにページをめくっていくと、途中から内容が急に一転する。その内容は懺悔するようであり、しかもとんでもないことが書き記されていたのであった。


「あのお方が派遣したアイツが……魔鋼ゴーレムを起動して……勝手にマリンダの父親を殺してしまった……?」


 唐突過ぎる。何があってマリンダさんの父親が関わってくるんだ?それに魔鋼ゴーレムとは?

 まだ続きがあるみたいだな……読んでみよう。


「この街の結界に勘づいて調べたのが悪い……俺のせいじゃない……ふむ、マリンダさんの父親は結界に気づいていたのか」


 しかし、どうやって気づいた?

 俺は神様に言われたから調べていたけど、確信があって調べたわけでもない。だというのに、マリンダさんの父親は確信があって調べていたようだ。


「つっても……肝心な結界に関する詳しい内容は書かれていなかったか……」


「随分と熱心に読んでおられましたが……書かれていないのは当然ですよ」


「えっ?」


 無機質で冷ややかな声は、耳元から発せられたものだった。しかもその声は、俺の目の前にいた筈のフェリンのものである。そのことを認識した刹那に、鋭いナイフが容赦なく俺の喉を深々と貫く。


「結局、冒険者の仲間ではないことしか分かりませんでした。本当はあなたの正体や背後にいるかもしれない人物についても知りたかったのですが……これ以上は危険なので死んでください」


 淡々と喋りながら、フェリンは軽快な身のこなしで俺から離れた。

 冷たい雰囲気を醸し、冷淡な視線を俺に注ぎ、僅かながらも殺気を放つフェリンは人を殺すことに慣れているようにも思える。


「ぐうっ……フェ、フェリン……?」


 嘘だろと言いたい。どうしてフェリンがこんな真似を……。待てよ……手記に書かれていた派遣されたアイツってフェリンのことだったりするのか?

 だとしたら……マリンダさんの父親を殺したことになるぞ!?


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ