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第十四話 家に帰るまでが遠足 ①

長くなったので、前半と後半に分けました

 ゴブリンからの伝言を聞き終えた後は二人を追いかけて合流し、マリンダさんの操る馬に乗せてもらった。そして当然のように遅れたことを言及されてしまう。


「別れる間際にゴブリンと話し込んでたみたいだけど、何を言われたんだい?」


「すまん、ここで話すには時間が掛かりそうでな。ルジェスさんのところに戻ったらまとめて話すつもりだ」


「ふーん、そうかい」


 マリンダさんは俺の返答にやや不満気みたいだが、こればかりは仕方ない。

 神様とゴブリンの伝言のおかげであれだけの情報が一気に手に入ってしまったからな。二度話すのも手間だし、ルジェスさんのところで話したら一度で済む。

 もちろん、理由は他にもある。


「なぁジャックさん、俺たち以外の気配とか感じてないよな」


「今のところは特に何もありませんな。何か気掛かりなことでもあるのでございますか?」


「あると言えばあるが……まだ何とも言えんな」


 ふむ、例の刺客とやらはまだ付近にはいないのか。だとしても、まだ油断はできない。もし気配を隠す達人だとしたらジャックさんでも察知するのは厳しい筈だ。どんな相手が襲ってくるか分からないし、いつでも動けるようにしておこう。


「カイト、何を警戒しているんだい?ゴブリンたちは襲わないって言ってたじゃないか」


「私はゴブリンの言うことを鵜呑みにするのは抵抗がございましたが、彼らからは誠意や誇りというものが感じられました。とても偽りを口にするとは思えません」


 俺に対する恨み言を除けば、わりと丁寧な対応をしてくれてたもんな。

 わざわざ討伐隊の埋葬までしていて、しかも遺品であるネームプレートまで渡してくれた。銀髪の魔人の命令によるものだろうけど、無駄口を叩くことなく忠実にこなしていたし、真面目という印象しかなかった。

 だからこそ、帰りの道中を襲ってくるとは思えない。その結論に至る気持ちは俺もよく分かるが、俺たちを狙っている刺客がいることをこの二人はまだ知らない。どうにかしてそれとなく伝えたいところだが……


(別に気にしなくてよいのでは?刺客の狙いはあなたでしょうし)


(さも当たり前のように俺の思考に割り込まないでくれ。……何で俺が狙いなんだ?)


(これは私の推測ですが、あなたというイレギュラーな存在が問題なのでしょう。何をしてくるか読めない存在であるために、焦った裏切り者があなたを排除しようと行動に移したと考えられます)


(滅茶苦茶具体的だな。おい)


(危険を冒してまであなたに刺客を差し向ける必要性がありませんからね。裏切り者は相当な小心者だと思いますよ)


 話が見えてこないな。何を根拠にしているんだ?

 神様の言うことによると、俺を排除するのは愚策と言いたいのはなんとなく分かったけど、それ以外が理解できそうにない。


(仕方ありませんね。愚鈍なあなたにも分かりやすく説明してあげましょう)


(いちいち俺をディスんじゃねぇよ)


(まず、結論から言いますとあの街は詰んでいます)


(おいおい、それは言い過ぎだろと言いたいところだが……あの有り様だとなぁ。ん?神様はどうして詰んでるって分かったんだ?)


(あなたの記憶を覗き、とある事情によって戦力が皆無に等しいと知ったのもありますが、それ以前の問題として裏切り者の存在が大きいのです。そうですね……街が攻め込まれた際の混乱に乗じて人質を取って降伏を促す。もしくは、秘密裏に作った隠し通路を使って魔王軍を街の中に招き入れるとかやりかねませんね。あの腐れ外道連中は)


(しれっと俺の記憶を覗くなよ……てか、最後は神様の怨恨が込められてなかったか?)


 つまるところ、俺が必死こいて戦ったとしても裏切り者とやらが街の内側から瓦解させるってわけだな。

 なるほど、確かに詰んだとしか言いようがないぜ。それなら街に戻ったて何としてでも探し出さないとマズいな。にしても、神様の口振りだと他にも色々と知っていそうだが……


(今のあなたが知る必要はありません)


(ま、まぁ、今は関係ないよな)


 本音としては気になるのだが、神様の口調からして絶対に教える気がないという空気を悟った。ただ、神様の言う腐れ外道とやらは裏切り者のことなのか?連中とも言っていたし複数いるのは間違いなさそうだけど……少なくとも、ただならぬ関係であることしか分かりそうにないな。


(相変わらず余計なことを考えますね。今は刺客への対処が重要ではないのですか?返り討ちにして捕まえたら、裏切り者に関する情報が手に入るかもしれないチャンスですよ)


(気になるんだから仕方ねぇだろ。まぁ、裏切り者に関する情報が入手できるのなら神様の言う通り刺客が優先なんだけどさ、本当に現れるんだよな?)


(ええ、現れますとも。今から数分後には刺客が待ち伏せている場所に着きますね)


(もうすぐじゃねぇか)


 俺たちを狙っている奴らがこの先にいるとか言っても、この二人がすぐに信用してくれる筈がないしなぁ。あまりにも時間がなさすぎる。

 でも、逆に信用してくれたとしても、今度はどうやってそれを知ったのか説明するのが厳しい。神様から教えてもらいましたとか正直に答えたいところだが、まず神様が許さないだろうな。

 いやぁ、どうしたらいいものか……せめて二人に危害が及ばないようにしたいところだけど。


(あなたが先頭を歩けばいいのでは?さっきも言いましたが、狙われているのはあなたでしょうし)


(それが無難だよな……俺が先頭を歩いて囮になるしかないな)


 後はどうやって説得しようかな。俺が石橋を叩き過ぎるような奴を演じて、先頭を歩きながら道中を警戒する感じでいくか?

 うーむ、我ながら無理のある発想だがもう時間が無い。ゴリ押しでもいいからこの案でやろう。


「マリンダさん、悪いが俺を降ろしてくれないか」


「急にどうしたんだい。まさか具合が悪くなったとか言うんじゃないだろうね。あんたは昨日の夕方から何も食べてないんだし、今から休憩がてらの昼食でもするかい?」


「い、いや……マリンダさんの気遣いは有り難いんだけどさ、別にそういうことじゃないんだよね。これは俺の勘というか……嫌な予感がするから俺だけが先頭を歩かせてもらいたいんだ」


「変なことを言ってくるけど、あんたらしくないよ。行きの道中は余裕だったのに、帰りの道中になるとやけに警戒しているじゃないか。もしかして、この先に何かいるのかい?」


 うぐぐ……やはりそうくるか。本当に参ったとしか言いようがない。刺客が潜んでいると正直に吐きたいところだが……それは言えねぇ。

 もっとそれらしい理由を言わなくちゃならんな。


「よく話を聞いてほしい。えーと、家に帰るまでが遠足って言葉があってだな……」


「遠足ってなんだい?」


「あー、ピクニックと同じと思ったらいい。それで俺が言いたいことは、家に帰りつくまで気を抜いたらいけないってことだ。俺としては、何としてでもマリンダさんとジャックさんを無事に帰したいってだけなんだ」


 まどろっこしい言い方をせずに、最初からストレートに言えばよかったな。あとはマリンダさんがどう受け止めてくれるかな。

 そう不安に思っていると、ジャックさんが助け舟を出してくれた。

 

「マリンダお嬢様、カイト様の言うことはごもっともです。彼から見て私たちは気が緩んでいたのかもしれませんし、旦那様の元へ無事に帰ることは重要です。それに何らかの考えがあるご様子ですから、ここは彼に任せてみませんか?」


「珍しいね。ジャックがそんなことを言うなんて。まぁ……カイトもあたしたちのことを真剣に考えているみたいだし、好きにさせてあげるよ。でも、実は何かを隠しているんだろ?さすがのあたしだっていい加減に気づくよ」


 やはりというか、感づかれていたらしい。当然と言えば当然だけどね。

 刺客さえいなければこんなことにはならなかったのだが、裏切り者に関する情報が手に入るチャンスかもしれないし、勘繰られるのは必要経費とでも思っておこう。


「はぁ……確かに隠し事はしているぜ。でも、今はどうあっても話すわけにはいかん。心苦しいけど、見逃してくれないか?」


「今はってことは、いつかは話してくれるんだろう?」


「……そうなるな」


 ただし、話すとしても別れる間際になるだろう。

 とは言えなかった。この場で言えば気まずくなるからな。もう少しで刺客に襲われる予定だし、変な空気の状態で臨むのは避けたいところだ。


「じゃ、先頭を歩くから少し距離を取って俺の後ろに続いてくれ」


「あいよ。……だけど無茶はしないでおくれ」


「カイト様、ご武運を」


 おーい、いかにも俺が戦いに行くみたいな言い方じゃないか。つっても、嫌でもある程度は察しがついたってなのかね?

 だとしても、ジャックさんのは完全にその気になっているようにしか聞こえないのだが……なんにせよ、たぶんこれで大丈夫の筈だ。神様の言う通り、俺が狙いならな。


(おや、私の言うことを疑うのですか?)


(まぁな、万が一にも刺客の狙いが二人だったら目も当てられないし)


 俺が神様の案に乗ったのは、俺の近くにいて巻き込まれる可能性を考慮したからだ。

 とはいえ、俺ではなく二人が襲われて何かあったとしたら俺のせいでもある。そうなってしまえば、絶対に後悔してしまうだろう。それは断言できる。

 故に、俺が狙われるという確証がほしいのだ。


(本当にこれでいいんだよな?)


(くどいですね。神である私があなたごときの為にここまで親切に教えて差し上げていることを自覚していますか?どれだけ特別なことなのか分かっているのですか?これ以上はあなた自身が進んで確かめなさい)


(おい……投げやりになりすぎだろ)


 やれやれと言いたいところだが、神様の言うこともあまり間違っていないんだよな。本来なら知る由もなかったわけだし、それを考えると待ち伏せされているという情報だけでも十分に有り難く、たかが道具相手にしては親切な方である。  

 おかげで覚悟を決めることもできた。後は投げられた賽の目次第だ。吉と出るか凶と出るかは分からないが、どんな目にせよ最善を尽くすだけのこと。神頼みなどしても意味がない。俺が切り拓いていくしかないからな。


「さて、どんな刺客が出てくるのやら」


 気を引き締めるように呟き、歩みを進めた。

 ただ、ここまで言っておいてアレだけど……相手が大したことなかったらどうしよう。肩透かしで終わろうものなら、俺の覚悟はいったい?と言いたくなるぞ。

 いや、それで終わるのがベストなんだろうけど、あそこまで真剣に考えていたのが馬鹿らしくなる。

 なんてことを考えながら周囲を警戒し、歩いていた。

 それから数分経った頃だろうか。神様の言う通りならそろそろ襲ってくる頃合いと思って心の準備をしていると、一瞬だけ視界の端で何かが光るのが見えた。


「ん?あの光は?」


 そんな疑問を口にした刹那に……足元が爆ぜた。それも銀髪の魔人が使ってきた『黒爆』に匹敵するような威力で。


「ぐあぁぁぁぁぁぁぁっ!?」


「カイトッ!!」


「危険です。近づいてはなりません!」


 結構痛えな。足の裏に穴が空いるかもしれん。別に歩くのは問題ないけど、片足が穴に嵌ったみたいで今すぐには動けないか。

 にしても、何が起きたんだ?視界の端で何かが光ったと思いきや、いきなり足元が爆発したんだが、この爆発は魔法?

 でも、魔法にしては違和感がある。無詠唱で撃ち込んできた可能性もあるが、無詠唱だと威力が下がってしまうというデメリットがあると銀髪の魔人は言っていた。……聞き間違いじゃなければな。

 にもかかわらず、銀髪の魔人が使う『黒爆』に匹敵する威力だ。ということは、詠唱していればもっと威力が上がることになる。なら、どうして詠唱して撃ち込まなかったんだ?俺なら確実に殺す為なら詠唱しておくぜ。とは言っても、刺客と対峙したらすぐに分かることだろう。

 ところで、マリンダさんとジャックさんは大丈夫かな?煙のせいで視界が悪くて確認のしようがないし、馬の鳴き声ばかりが聞こえてくるけど、爆音で驚いたかな?


「マリンダお嬢様!確認をするにしても馬を落ち着かせて周囲に敵がいないかを確認してからにしましょう!」


「なんでジャックはそこまで冷静なんだい!?カイトが目の前で爆発したんだよ!!」


 おっ、今のところは無事みたいだな。そのことが確認できたのはよかったのだが、お目当ての刺客はどこだ?煙のせいでいどこにいるのか分からん。

 このまま煙の中にいても何も見えないし、この場から移動するか。そう考えて嵌った足に力を入れろうとしたら、聞きなれない声がした。


「兄者、あの鎧男ってホントに死んじゃったのかな?」


「何を言っているんだ弟よ。あの罠はギルの『黒爆』に匹敵する威力だ。頑丈な鎧を着込んでいようが、死ぬか最低でも足は吹き飛んでいるに違いない」


「っ!あんたたちは何者なんだい?」


「まさか……あなた方がカイト様を?」


 やっと刺客とやらのお出ましか。ふむ、声からして男二人か。しかも、口ぶりからして兄弟なのかな。

 しっかしまぁ、完全に俺を倒したと思い込んでいるらしく、割と有用な情報を喋ってくれたな。どうやらあの爆発は魔法ではなく罠みたいだ。ということは、好きなタイミングで使うことはできない筈だからそこまで脅威ではないな。

 でも、どうしてかギルと呼ばれる人物が気になってしまった。まさかとは思うが……って今はそんなことを気にしている場合ではない。マリンダさんとジャックさんが危ないかもしれないし、いい加減に俺も動き出さないとな。


「おーい、勝手に殺さないでくれ。なんなら五体満足だぜ」


「どうする兄者……」


「ふん、どうせはったりだ。あの爆発なら瀕死に決まっている……たぶんな」


 最後まで断言しろよ。と思いつつ嵌った足に力を込め、今度こそ抜け出すことができた。


「よっこらせ、まったく変なところに穴があったもんだな……うん?」


 ふと周りに目を向けると、いつの間にか煙がなくなって視界がクリアになっていた。そして、何故か静かになったかと思いきや、四人の視線が俺に突き刺さっているのである。

 ……やっぱり、俺が五体満足なのが不思議でしかないのかね。まぁ、銀髪の魔人も俺の硬さに呆れていたし、仕方ないかも知れないな。

 ただ、これで化け物とか言うのは勘弁してほしいものだ。特にマリンダさんから言われたらかなりショックだ。


「道理で……それだけ頑丈なら昨日の話にも納得がいきますな」


「ジャック……?」


 うん?やけに冷静だなジャックさんは。まさか……銀髪の魔人が放った魔法が直撃していたことがバレていたのか?

 普通の人なら直撃したら即死するだろうと考えて、直撃したことは伏せていたんだが、やっぱり誤魔化しきれなかったかな。となると、他にも色々と疑われているかもしれん。

 でも、それを気にするのは後回しだ。


「ホントにどうするの……兄者?」


「弟よ、予定変更だがやることはあまり変わらんぞ。ここで鎧男を始末する」


「随分と物騒なことを言ってくれるじゃねぇか。てか、地雷みたいな代物を仕掛けるとかえげつねぇな」


 見たところというか、服装は昼間に似つかわしくない黒いローブを羽織っていて、フードも深く被っているから顔すらも分かりそうにない。

 ただ……敢えて感想を述べるとするなら、いつぞやの黒男と張り合えそうなくらいの不審者っぷりだな。いかにも怪しいことをしていると喧伝するようなもんだぜ。


「……地雷球を知っているだと?この鎧男は何者だ?」


「お、あの罠は地雷だったのか?」


 意外だな。この異世界にも地雷が存在するとは。でも、爆発する寸前に見たあの光は一体い何だったのだろう……?

 たぶん関係ありそうに思えるのだが、導火線に火を付けたとか?いや、タイミング的に導火線では間に合わない。他にあり得そうなのは……電気くらいか?


「どうして知っているのか聞き出したいところだけど、やっぱり始末するしかないよね?」


「当然だ。ここでしくじれば煩いお坊ちゃんにどやされるからな」


 罠について考察していたが『煩いお坊ちゃん』という言葉を聞き、内心で「きたきたきたきたぁっ!!」といった感じになって、少し冷静でいられなくなった。

 やはり、こいつらは裏切り者によって放たれた刺客に違いない。他に刺客を差し向けてくるとしても、ほんの僅かに可能性がある銀髪の魔人くらいしか思いつかなかった。でも、煩いお坊ちゃんというイメージはないし、俺から見た印象としては武人気質っぽく感じたぞ。それに将軍様とか呼ばれていたしな。

 つまり、刺客たちの言う煩いお坊ちゃんの正体は街に潜んでいるであろう裏切り者である可能性が高い。


「はははっ……いやー、手がかりが勝手に転がってくるなんて、とんだ僥倖だな」


「何を言っているんだ貴様は?」


「なぁなぁ、質問に質問で返すようで悪いけどさ、煩いお坊ちゃんって誰のことなんだ?」


「兄者!こいつ感づいてるよ!」


 弟と呼ばれる男が叫び、兄者と呼ばれる男と共に手を前にかざした。

 戦闘開始という合図かな?


「喰らえ!『黒雷刃』!」


「『黒風刃』!」


「ちっ、いきなり攻撃魔法をぶっ放してきやがるか」


 遠距離からの攻撃は厄介だな。これは近接戦に持ち込まないと、俺がジリ貧になるかもしれんな。しかも、かなり速くて躱すのは厳しそうだ。

 ……そういや、銀髪の魔人の使う魔法みたく黒いな。

 と思いながらも、地面を切り裂きながら迫りくる黒い電撃のような刃と黒い風のような刃に対し、両腕をクロスして躱すことなく受け止めることにした。


「ウオォォォッ……あれ、思いのほか痛くないな」


 直撃はしたはずなのだが、腕に軽い切り傷と痛みを与えるだけで弾けて消えた。ついでに電流が走るような感じもしたが、特に問題はない。

 初めて見る攻撃魔法だったから思いっきり身構えたものの、大したことはなかった。見た目は割と派手だったんだけどね。

 この二人はそこまで強くないってことか?


「通じてないよ兄者……」


「どうやら、ギルから逃げ切ったのは運だけじゃないらしいな……本気でかかるぞ」


「さっきから気になってたんだけどさ、ギルって銀髪の魔人か?」


 しかし、そんな俺の問いに答えてくれることはなかった。素人でも分かるような殺気を放ち、次の瞬間には二人とも駆け出していた。


「ちっ、さすがに答えてくれないか」


「君はここで死ぬんだから聞いたってしょうがないでしょ!『黒風縛』!」


 弟と呼ばれる男が叫び返し、両手をかざして魔法を唱えると黒い風が俺を締め付けるように囲んだ。全身が軋むような痛みを感じた。

 だが、初見とはいえこれは参ったな。どれだけ力を込めてもビクともしなくて、身動きが取れなくなってしまったからだ。


「厄介なことをしてくれるぜ……」


 ただし、強力な束縛だとしても限界はあるようだ。


「兄者っ!速くして!思ってたよりも力が強くて長く持たない!」


「任せろ!こいつをお見舞いしてやる!」


「うん?」


 魔法を放つことなく、拳よりも大きい黒くて丸い何かを俺に向かって放り投げてきた。しかも四、五個程もあり、どれも細長い糸状のような物が付いていた。こんな物をわざわざ投げ込む理由は……?

 そしてそれらが俺と同じように黒い風に捉えられると、兄者と呼ばれる男は気合を込めて魔法を唱えた。


「地雷球のストックは無くなったが、これで木端微塵だ!『黒雷』!」


「おい待て、まさか……!」


 地雷球と聞いて何をするつもりなのかここでようやく理解できた。だが、理解したところで防ぐ手立てなどはなかった。

 頭上から黒い雷が俺を貫くように降り注ぎ、それが罠に触れた途端に視界が真っ白になって何も見えなくなり、音も聞こえなくなった。唯一まともに感じるとすれば、全身を襲う激痛のみであった。


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