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第十話 詰みかけた街

 ゴブリンたちと別れてから森を抜けると、目前には夕日に照らされた草原が辺り一面に広がっていた。そして、その奥には街と思わしき建造物があるのを辛うじて視認することができた。

 きっとあれが街なのだろう。にしても思ってたより距離があるな。


「……徒歩でどれだけ時間がかかるんだ?」


(そうですね。馬を走らせて一時間といったところでしょうか)


(いや、俺は馬に詳しくないからよく分からないんだけど)


 具体的にどのくらいの距離があるのかを知りたかったんだよな。

 でもまぁ、辛うじて視認できているからそこまで遠くはないだろう。


「とりあえず走るとするか」

 

(そろそろ日が沈みますから急ぐといいですよ。門が閉められる頃合いでしょうし、次の朝日が昇るまで開けてもらえないかもしれません)


(げぇっ、それは洒落にならんな)


 こんな草原で一夜過ごすのは嫌だ。どんなモンスターが出てくるのか分からないし、襲撃を警戒しながらだと心を休めることもできないからな。

 それに街の住人には伝えないといけないこともある。急がねば……そう思って俺は駆け出した。

 ただ、沈みゆく夕日に照らされて茜色に染まった草原を眺めながら走っていると、何故かしんみりとした気持ちになってしまった。


「そうか……もう一日が終わるのか。何だか濃厚過ぎて凄く長く感じたな」


 今にして思えば、とんでもない一日である。

 唐突に日常から非日常へと切り替わり、生まれて初めて殺されそうになって、与えられたスキルを活用して逆に大量に殺したり、死ぬような苦痛を味わったりで、散々な目に遭ったものだ。

 極めつけはゴブリンの血だ。あれはもう思い出したくもないし、できれば二度と口にしたくもない。

 それでも、と続けようとしたらそれは神様に遮られてしまう。


(今は物思いにふけっている場合ではないでしょう。もっと速く走れないのですか?)


(これでも全速力なんだが。だいたいさ、神様がもっと高性能なスキルにしてくれなかったのが問題じゃないのか?)


(……今の私にはそれが精一杯ですから)


(本当に神様なのか怪しくなってきたな)


 苦行を強要してくるスキルで精一杯とか冗談だろと言いたいところだが、雰囲気から察するに本当のようだ。

 というか、どうしてそうなるんだよ。仮にも神様を自称しているんだからさ、これで精一杯とか残念なんだけど。


(私の事をどう思うがあなたの勝手です。ですが、この世界においては私が神であることは事実ですし、他にも優先すべきことがあるとだけ言っておきます)


(じゃあ何だ?俺に関しては優先度が低いってことか?)


(いえ、そういうことではありません……ただ単にあなたに割けるほどの力があまり残っていないのです)


(おいおい、神様なのにまさかのリソース不足かよ。もう少し配分を調整したらよかっただろうに……)


(それができたら私も苦労はしません。もちろん解決策はあるのですが、そこはあなたの頑張り次第といったところですかね)


(あぁ、あのマナの吸収か……)


 道理でそんな機能が備わっているのか。つまり足りない分は俺が自力で補うことで解決しろと言いたいんだな。

 確かに神様からしてみれば合理的でコスパはいいかもしれない。でもな、それだけ俺が苦労するってことになるよな。

 はぁ……勘弁してほしいぜ。頼みの綱であるマナポーションも入手できるか怪しいのに、モンスターの血からマナを吸収しようものなら、必死になって倒さなきゃいけないし、倒せたとしてもゴブリンの時みたくまたマズい思いをするかもしれないんだが。


(それがどうかしたのですか?あなたが頑張ればいいだけのことですよ)


(は、話にならねぇ……)


 そういや、俺のことを道具程度にしか見てない節があったからな。話にならないのも当然だったか。

 ホント……あまりにも理不尽だ。

 でもさぁ……神様といえども、これでは横暴が過ぎるだろ。せめてさ、俺に対して何かしてくれないのか?


(ええ、その点についてはご心配なさらず。使命を果たした暁にはあなたの願い事を三つ叶えてあげますから) 


(ほ、本当か?……いや、ちょっと待てよ)


 一瞬だけ嬉しくなりそうになった。しかし素直に俺の願い事を叶えてくれるのか怪しいと思い、湧きたちそうな心が瞬時に鎮まる。

 その疑念を晴らすためにも、そして俺がこの先でぬか喜びしないためにも確認しておくべきことがある。


(……念のため聞いておくけどさ、俺を元の姿に戻して、俺を元の世界に帰すのも願い事にカウントされる?)


(当然じゃないですか。二つの願い事を叶えてあげるのですから、あなたもそれで十分でしょう?)


(そうだな……)


 どうせそんな魂胆だろうと思っていたけど、この予想は当たってほしくなかったなぁ。どう足掻いても叶う願い事は一つだけかよ。

 別に強がりではないが、叶えて欲しい願い事はさっき言ったこと以外は特に無い。無いのだが……さすがにこれは酷すぎる。

 この神様はどれだけ俺の気力を削げば気が済むんだ。まぁ、気力が削がれたところで神様に従う以外の選択肢が俺にはないんだけどね。

 もうこのことについて考えるのは止めよう。これ以上は気が重くなるだけだ。

 

(おや、どうにか門が閉められる前に着きそうですね)


 神様と話しながら走っている内に、門がはっきりと見えるところまで距離は稼げたみたいだ。疲れることがなくずっと走れたのが大きい。

 それとやはり、俺の想像していた異世界の街らしく全体がそびえ立つ石造りの城壁に囲われ、中の様子を窺うことはできない。唯一ここから見えるとしたら、目の前で開け放たれている重厚で大きな木製の門である。

 さらによく観察すると、城壁の周りは水堀になっていて門の前には橋が掛かっていた。橋の上まで行けばそこから中を少しだけ窺うことはできるだろう。

 しかし、目的は観察するだけではない。街の中に入れてもらい、危険が迫っていることを伝えることだ。


「すんなり入れるといいんだが」


(先に言っておきますが私の事は口に出してはいけませんよ)


(どうして……あ、変人扱いされるかもしれないからか)


 神様の声が聞こえるとか、どう考えても普通ではないだろう。少なくとも、俺のいた世界では狂人扱いされかねない。

 ましてや、街の住民にとって俺は素性も分からぬよそ者である。そんな怪しい奴が急に現れて『神の声によって導かれた』とか言っても信じてくれるわけがない。

 俺なら間違いなく新手の詐欺と思って盛大に警戒する自信があるぞ。


(いえ、違います。訳があって理由は話せませんが、とにかく私と関りがあるということだけは隠してください)


(うん?よく分からんが、神様のことを口に出さなければいいんだな?)


(それが良いと思います)


 意味不明な注文をしてくるものだ。神様なりに何らかの考えがあってのことだろうけど、俺にはサッパリ理解できない。

 まぁ特段理不尽でもなければ難しい内容でもないし、俺はただ従うだけだ。問題があるとしたら、街に入れてもらえるかどうかである。


「入れてもらうことを祈るしかないのか」


 だが、自分で言っておいてなんだが、冷静に考えたら何処の誰に祈ればいいのだろうか?

 神様はアレだしなぁ……もしかしなくとも、祈っても意味がないのでは?


(随分と失礼なことを考えていますね。ですが、反論できないのも事実。ここからは私も手助けのしようがありませんので、あなた一人でどうにか切り開いてください)


 その言葉を最後に神様の声は聞こえなくなった。

 これから先は文字通りたった一人でどうにかしないといけないらしい。やれやれ、肝心なところで俺任せか。

 ただ、逆に言えば神様と関わっていることを徹底的に隠し通せということなのだろう。でなければ、こんな大事な時に何らかの手助けをしないのはおかしい。となると、かなりややこしい事情があると考えてもいいかも知れんが……考え事はここまでだ。

 遂に門の前にたどり着いたからである。夕日も完全に沈みかけている。


「そ、そこの怪しい奴!何者じゃ!」


「……なんて言ったらいいのやら」


 早速だけど、守衛と思わしき人にかなり警戒されて槍の穂先を向けられた。

 しかし、同時に酷く怯えているようにも見えるし、門番にしては年齢が高過ぎる気がする。いくら胸に紋章が装飾されている立派な鎧を着込んでいたとしても、はっきり言って守衛として相応しいとは思えない。

 少し雲行きが怪しくなってきたな……。まぁいいか、やることは変わらん。


「なぁ、お爺さん。俺は街に入りたいんだけど、入れてもらえないのか?」


「は、入りたいのなら身分を証明する物を提出し、税を納めてから正式な手続きをするんじゃな。最近は物騒になってきたからのう、街に入るのが厳しくなったのじゃ」


 俺が普通に話が通じる人と認識してくれたのか、素直に話してくれた。

 しかし、入るための条件が俺にとって鬼門である。身分証明書的な物は持っていなし、それどころか俺は手ぶらで完全に身一つだけだ。

 これはまいったな……


「少し前までは税を納めるだけですんなり入れたんじゃがのう。で、お前さんは何か持っとらんのか?」


 言うまでもなく、身分を証明する物のことだろう。

 だが、もう一度言うが俺はそんな物はもっていないのが現状だ。というか、税を納めるためのお金……もとい、この異世界の通貨すらも持ってない。まさしく一文無しである。

 いきなり詰んだのではなかろうか?


「……じゃが、その前にちょいと聞かせてもらえんかの」


「何をだ?」


 助け舟……ではなさそうだ。こうして普通に会話をしていても、その瞳に怯えの色が消えていない。というより、警戒の色が強くなったようにも見える。

 おいおい、何もしてないのに最初から警戒度がMAXかよ。


「お前さんから漂う焼け焦げた匂いはなんじゃ?へ、返答次第では……お前さんを中に入れるわけにはいかぬ」


「あー、そうか」


 これは完全に失念していたな。今の俺には嗅覚がないんだった。今思い返すと、返り血を浴びては黒炎で焼かれたし、変な匂いがしてもおかしくない。

 そんな物騒な匂いをふりまけばそりゃ警戒されるに決まっているし、守衛のおじさんも怯えても仕方ない。

 ……ただ、この程度で怯えていたら仕事にならない気がするが、どうなんだろうね?

 ま、それはいいとしてここは正直に話すしかないな。下手に嘘をついて現状を悪化させるわけにもいかないし、神様に関わるところだけはどうにか誤魔化していこう。


「どこから説明しようかな。あ、これだけは先に言っておくけど人は襲ってないぞ。ゴブリンなら殺したけど」


「ほ、本当なんじゃな?」


 お、ゴブリンという部分に反応して少し表情が明るくなったな。

 ということは、この辺りが物騒になった原因はゴブリンということなのだろう。あの森には大量のゴブリンがいたし。

 つっても、原因がモンスターだとしたら人の出入りが厳しくなるのは解せないな。他に物騒な理由でもあるというのか?


「しかしじゃ、匂いはどう説明する?ゴブリンを殺しただけではそうはならんじゃろ」


 やはりというべきか完全に疑念が晴れてないらしく、更に追求を続けた。

 もちろん、ここも正直に話す。後は信じてくれたらいいんだが。


「たぶん銀髪の魔人にやられたせいだな。そいつが黒炎を操る魔人でな、恐ろしく強くて俺は逃げるのに精一杯だったよ」


「魔人じゃと……お前さん、それは本当かの?」


「嘘つくんだったらもっとマシな嘘を言ってたぜ。例えば、焚火か何かでやらかしたとかな」


「なるほどのぅ……お前さんの言い分はもっともじゃ」


「ちなみにだけど、銀髪の魔人のせいで荷物が全部燃やされちまってさ、何も持っていなんだよね」


「そうか……じゃから手ぶらじゃったのか」


 よし、銀髪の魔人に燃やされたせいにできたぞ。これで身分証やら通貨を持っていない理由が出来上がったぜ。

 でもなぁ、どうも俺の言うことを完全に信用しているようには見えず、何かを気にしているのかソワソワしている。

 つまるところ、決定打が足りないのだろう。ここで神様のことを言うべきかと思ったが、神様がああ言っていたから致命的な失敗に繋がるかもしれないし、止めておくべきか。

 ふむ、これは偉い人に伝えた方がいいような気がしていたが、やむを得ない。一か八かであのことを伝えてみよう。


「それと、悪い知らせがあるんだ」


「悪い知らせとな?」


「ああ、これは銀髪の魔人が言っていたんだが、どうやらこの街に向かっていた援軍を潰したみたいだぞ」


「な、何じゃと……」


 よほどショックだったのか、守衛のおじさんの血色が目に見えて悪くなり、足腰が小刻みに震えだした。今にも卒倒しそうである。

 この反応だと、まだ知らなかったということか。


「信じ難いんじゃが……た、確かに辻褄は合う。本来なら、昨日にはゴブリンの討伐隊が到着する筈じゃった。じゃが、今日の夕方になっても到着しないということは、もしや……」


「なるほどねぇ。それと悪い知らせがまだあるんだけど、大丈夫か?」


「か、構わん……続けてくれ」


「了解だ。それで援軍じゃなくて……ゴブリンの討伐隊を潰したから次はこの街に攻め込むつもりらしいぞ」


「何ということだ……い、いかん!このことを早く市長に伝えなくては!」


 そう言い出すと、急に踵を返して門の中へと走って行った。俺を置き去りにして。

 職務放棄と咎められるかもしれないが、とてつもなく重要な情報を知ってしまったのだから、居ても立っても居られなくなったのだろう。

 何はともあれ、この調子なら街には入れるかもな。


「でも、ここからが正念場ってやつか……」


「ちょいとそこのあんた。待ちな」


「はいはい、何でしょうか?」


 さらに門に近づくべく橋を渡ろうとした瞬間、門の向こうからフライパンを片手に一人の妙齢の女性が現れて、ずかずかと近づいて俺の前に立ち塞がった。

 その女性は短めに切りそろえたポニーテールが特徴的で、凛とした瞳の持ち主である美人さんだ。ただ、容姿が優れていても本人の醸し出す雰囲気、口調、目付きからしてどことなく気が強そうだと感じる。

 その証拠に、守衛のおじさんとは違って目には怯えの色が皆無であり、しっかりと俺を見据えている。


「ディル爺さんに何を吹き込んだか知らないけど、あそこまで慌てるってことはよっぽどのことがあったんだね?」


「あぁ、ゴブリンの討伐隊が潰されみたいぜ。俺はこの目で見たわけじゃないが、張本人らしき人物から聞いたんだ」


「じゃあ、その張本人ってのはどんな奴なんだい?」


「魔人だ。そいつは黒炎を使う銀髪の魔人でな。しかも大量のゴブリンたちを従えている。で、討伐隊を潰したから次はこの街が標的みたいだな」


「そういうことかい、それならディル爺さんがすっ飛んでもおかしくないね」


 さっきのディル爺さんといい、俺の言っていることを信じてくれるのは有り難いんだが、こんなにほいほい信じてくれるのも心配になってくる。

 この世界の詐欺師はどんなのか分からないが、色んな人間がいるのだからいてもおかしくはない。

 だから思わずこんなことを口にしてしまった。


「俺が言うのもあれだけど、どこぞの馬の骨か分からん奴の言うことを信じるのか?嘘かもしれないんだぜ?」


「はっ、そんな嘘をつくためにわざわざこんな辺境の街に来たっていうのかい?あたしはそうは見えないね」


「そうかい……」


 何というか、肝が据わっているな。全身が鎧の男を前にして、フライパンだけを片手に堂々としているだけあってさすがである。

 さっきのディル爺さんっていう守衛とは大違いだ。槍を構えているというのに、ずっと及び腰だったからな。


「お、おい!そいつに近づいて大丈夫なのかマリンダ!危なくないのか!?」


 と、門の向こうから心配する声が聞こえたきた。他の守衛だろうか?

 てことは、ディル爺さんは周りの人には何も言わず、一直線に市長の元に向かったのかな。


「ふんっ、心配ならここまで来たらいいのに。そんなんだから、腰抜け呼ばわりされているんだよ」


「……ちょっと聞きたいことがある」


「なんだい?」


 ここに着いて色々と気になっていたことがある。この際だから、マリンダさんから聞いてみるとしよう。

 今の次点で凄まじく嫌な予感がする。いや、その予感はきっと正しいに違いない。だが、それでも確認はしておくべきだ。どんな結果が待ち受けていようとも、早めに知っておいて損はない。


「この門の守衛は一人だけなのか?」


「まぁ、そうだね」

 

 これはまだ想定内。いや、実を言うと想定外であってほしかったが、事実が覆ることはない。

 とにかく質問を続けよう。


「そ、そうか。なら他にも聞かせてもらいたいが、もっと若い男はいないのか。ディル爺さんみたいな年寄りだと荷が重いだろ」


「残念だけど、若い男たちのほとんどは兵士育成訓練の為に根こそぎ軍に連れて行かれちまったんだよ」


「待て、じゃあこの街の守りはどうなっている?」


「ディル爺さんみたいな退役した人くらいしかいないね。ま、その人数も少ないんだけどさ」


「嘘だろ……」


 おかしい。いくら俺にこの異世界の知識がなくても、必要最低限の防衛戦力……具体的に言えば、それこそ騎士団とか駐屯兵的な存在が街にいてもおかしくないし、というかいなかったらおかしい筈だ。

 門の守衛がディル爺さんたった一人という時点でかなり怪しいと思っていたが、これは想像以上にマズいかもしれんぞ。


「つまり、この街には老人や女子供ばかりってことでいいんだな?」


「あぁ、そういうことだね」


「はぁ……教えてくれてありがとうな」


 本当にどうなっていやがる。この国?のお偉いさんの頭はどうかしているとしか言いようがないな。

 控えめに言っても馬鹿だろ。万が一の時がきたらどうするんだよ。てか、その万が一が来てしまってるんだけど。


「この街はこれからどうするつもりだ……」


「さぁね、それは市長が決めることさ。……昔なら冒険者が解決してくれたのにね」


「今はいないのか?」


「いないよ。十年以上前から危険なモンスターが減って、ついでに依頼が減ったから廃業するしかないからさ」


 なんてこった……異世界物の創作で見る冒険者は、この世界においてもはや過去の遺産にすぎないということか。

 冒険者ギルドがあるのなら行ってみたかったのに、残念だ。

 あ、今思い出したけど、だからあの銀髪の魔人は冒険者と言いかけて、傭兵と言い直したのか。

 ん?それなら傭兵はどうなんだろう。


「冒険者がいなんだったらさ、傭兵はどうなんだ?」


「さっきも言ったけど、ここは辺境の街なんだよ。傭兵稼業をするなら金が多く集まる王都に行くに決まってるじゃないか」


 ごもっともだ。金を稼ぐなら金の集まる場所に行くのが自然の道理である。

 縋る気持ちで聞いてみたが、まともな戦力が皆無である確定しただけであった。こんな有様だと、籠城戦に持ち込んでも老人と女子供だけでは長く保つとは思えない。

 詰んだと言っても過言ではないかもな。


「万事休す……か」


「あたしばかりが質問に答えているんだからさ、次はこっちの質問に答えてもらうよ」


「内容にもよるけど、答えれる範囲なら構わないぜ」


「まずはあんたの名前から聞かせてもらおうか」


 名前か……フルネームで答えるべきか悩むところだ。

 しかし、この異世界では『神谷カイト』という名前は馴染みのない可能性があるし、もしかすると変に怪しまれるかも知れない。それなら今はこう名乗っておこう。


「カイトだ。そう呼んでくれ」


「ふーん、貴族じゃなさそうだね。じゃあ質問を続けさせてもらうよ。結局、カイトは何のためにここに来たんだい?」


 果たして信じてくれるのだろうかと思ったが、俺には選択肢がないのだからここも正直に答えるしかあるまい。

 それに俺だって良心は持ち合わせているし、ここまで酷いのなら見捨てるのも気が引ける。だからこそ、俺はこう答えるのであった。


「この街を救うために来た」


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― 新着の感想 ―
[良い点] カイトさんならこの理不尽をどうにかしそうな予感がします。 テンポの良い文章と主人公の性格のおかげで、とてもおもしろく読めます。
2022/07/28 22:21 退会済み
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