チャラい後輩の禊が俺には沁みる
コロナになって、
こういうコミュニケーションがあるんですよね。
電話だけ、会えない。
でもそれが丁度良い時もあるし、傷つくときもある。
とある案件で、2年前まで所属していた東京本社の後輩に電話を掛けた。
後輩の岩本はノリが軽いヤツで、正直信用ならない所ばかりだが、
愛想があってお客ウケが良く、時にはピンチを救ってくれる事もあった。
新卒から5年面倒見てきたのもあって、まぁ憎めない後輩ってヤツだった。
電話の用件が済んだ3日後に 岩本から荷物が届いた。
木村さん へ
お久しぶりです。 お元気ですか?
そちらの様子はいかがですか? コロナ、大変ですよね。
この間は久しぶりに連絡を頂戴して嬉しかったです。
電話切った後に思い出したんですが、
お借りしていた物、いつまでもお返しできずに申し訳ございませんでした。
でも長い間お借りできて良かったです。
御礼といっては何ですが、僕のオススメも一緒にお送りさせてもらいました。
良かったらお召し上がりください。
P.S
皆のアイドル早川さんが来月末で退職されるそうです。
木村さんが居た頃は皆でワイワイ楽しく、目標に向かって仕事出来ていたんですけどね。
コロナでリモート増えて、コミュニケーション減って、
会話や愚痴を言う機会も減りました、切磋琢磨っていうのが無くなってしまったんだと思います。
良かったら、また連絡ください。
ふーん、早川さん辞めちゃうつもりなんだ・・・可愛くて岩本と一緒のムードメーカー的存在だったんだけどな・・・。
一時期 なんとか御付き合いを・・・なんて思った事もあったっけ・・・、早川さんも三十・・・ニ歳ぐらいか。
岩本も恋のキューピットやります、とか言ってくれてたな、少し懐かしい。
俺は箱の中身が何なのか、判らずに先に手紙を読んでいた。
箱を開けると中には洋菓子のような包み紙の箱
そして和菓子のような包み紙の箱
どっちが貸してたもの?どっちがオススメ?
和菓子の貸し借り? 洋菓子の貸し借り?
そもそも1年半ぶり、いやほぼ2年振りだから、
2年も貸してた物なんてあっただろうか?
とりあえず洋菓子の包み紙を空ける。
完全にお店仕様で包まれており、これは中身はオススメだな・・・と想像する。
紙を外すと、缶ケースが出てきて、中々の高級感・・・。
そこで始めてロゴと名前が気になる・・・P・・・パティシエ? グレ?グリエー?
何語だろうか・・・。
そもそも洋菓子をオススメしてくるキャラだったっけ? ふーーむ。
2年も貸してた物・・・。
和菓子の包み紙が気になる。
これは抹茶色の包みで、和紙仕立て・・・。
この中に何が? と思いながら手を掛ける。
これまた完全にお店仕様で包まれており、あれ?・・・あれ?
棟・・角・・・堂? なんだ、これは・・・あ・・・煎餅だな。
いやいやいや、どっちも貸してないし!
電話を手に取り、鳴らす。
トゥルルル・・・トゥルルル・・・トゥルルル・・・ ガチャ!
岩本 「あ!先輩!お疲れ様です! どうしました?」
俺 「どうしました?ってなんか届いたよ? 和菓子と洋菓子が!」
岩本 「あーーー届きましたか!受け取って頂いたんですね!お電話あざーーーっす!」
俺 「いや、長い間俺が貸してた物ってなんだよ?」
岩本 「いやーだから菓子じゃないですか! 貸しがあったので、菓子で返したってオチっす!」
俺 「え・・・?」
岩本 「なかなかシャレた事するようになったでしょ?先輩のお陰っす!旨いっすからね!それ二つとも!」
俺 「オマエなぁ、貸しは俺、オマエからしたら借りじゃないのかよ?」
岩本 「相変わらずっすね、先輩。 言われると思ってましたよ! 箱の底観てないですね?」
ああん? 箱の底?
電話を片手に二つの菓子箱を取り出すと、
俺 「・・・・オマエ・・・コレ・・・バー〇ント・・・カレー?」
岩本 「違うっすよ! カリーっす! 借りね! 」
俺 「いや・・・まぁ、あ・・・ありがとう・・・な。 なんか手の込んだ事を・・・」
岩本 「いやーまじ嬉しいっす!響いてますね、コレ!」
俺 「いや、なんか・・・なんだろう、嬉しいけど、なんか腹立つ」
岩本 「先輩!! 腹立つはマズイっすよ! これ早川さんの案ですから!」
俺 「え? そうなの?あ・・・それはマズイね、前言撤回です、はい」
岩本 「もう遅いですよ!僕たち結婚するんで!そのご報告も兼ねてのお届けでーっす!」
俺 「えーーー?!そうなの! え?え?いつから?え?付き合ってたの?」
早川 「そうでーーす!」
俺 「あ・・・早川さん、おめでとう! お菓子・・・あ、カレーもありがとうね!」
岩本 「いえいえ、なんか怒らせたみたいで、すいませんでしたっ!」
俺 「あ・・・もう、意地悪言わないでくれよ・・・、ごめんよ」
岩本・早川 「「では、最後にもう一つ手紙を!」」
俺 「え?まだあるの?」
早川 「カリーの箱の中です!」
俺 「手が込んでるな・・・えーっと・・・」
本当だ・・・この箱空箱じゃないか・・・細工してあるのか。
フムフム・・・・また手紙・・・?
コレハ 呪イ ノ 手紙 デス
コノ手紙 ヲ 読ンダ アナタ ハ
コレカラ 2年以内 ニ
結婚スル コトニ ナリマス
独身貴族狩りヨリ
俺 「・・・む、これはど・・・どういう?」
早川 「だ・・・だから止めておこうって言ったじゃない! ほらー」
岩本 「いや、・・・せ・・・先輩!? シャレ的な・・・ほら わかります?」
俺 「いや、それは・・・判る、うん。 なんで俺 2年以内に結婚する呪いなんだ?」
岩本 「すいません、先輩にも良い人が現れたらいいなぁ・・・・なんて、余計なお世話ですね」
俺 「うん、余計だね。 ま、ありがとう」
早川 「すいませんでした、でも洋菓子は私が選んで、もう一つは岩本君が選んだんですよー」
俺 「うん、ありがとう、そんな感じがするね」
早川 「木村さん、いつも私たちに色々ご指導頂いた事、感謝してます!」
俺 「改まって言われると照れ臭いね・・・どういたしまして」
岩本 「またこっち来る用事あったら、言ってくださいね! 一緒にご飯しましょう!」
俺 「うん、なかなか難しいけど、機会があったらね じゃあ、仕事頑張ってくださいな」
岩本・早川「「はい! それではー!」」
・・・ふぅ。
どんな感情なんだ、岩本のやつ。
まぁそういうヤツか、感謝と結婚報告か、ちゃんとやるだけマシになったもんだ。
アイツなりの禊なのかもしれないな・・・・多くは語らず、老兵はただ去るのみ・・・だ。
思い出したように送ってきたんだろうな、で早川さんに相談したのか。
早川さん、 まぁ・・・おじさんには高嶺の花だった・・・だな。
今日は、誰かと飲みたいなぁ・・・。
後日、結婚お「呪」い と書いて、5万円送り付けてやった。
意図せず人を傷付ける人っていますけど、
憎めなかったりする。
こういう人っているんですよね。
そして人知れず傷ついて、
自己修復できないおじさんもいる?はずです。
で何も傷ついていないフリは上手いんです。