第九十四話 間違い探しは不可能で
母娘感動の再会ということで、ちょっとしたパーティーを開いた。
宮殿の一室を借りて、華やかに催した。
場所が場所な為公に出来ないので招待客は絞ったが、フォルワードとマリオル、イーダーは呼んだ。
あとは一部の近衛騎士団を招いた。
人選はフォルワードに一任して、比較的口の固い者を呼んでもらった。
延べ30名あまりが集まってくれた。
此度のパーティーは、表向きには大公の気まぐれということにしている。
彼自身こういった宴会が好きらしく、基本的には主催者側。
記念式典などにも、意欲的に参加しているそう。
「母娘というよりは姉妹ですね」
お酒を片手に、マリオルがうっとりと二人を眺めていた。
「妖魔とは、外見年齢を重ねない種族なのだろう」
「羨ましいなぁ…」
カランコロンと、氷を奏でる音がした。
演奏につられて静かに寝落ち。
フォルワードが支えた。
「おやおや。この子はまた、変わったお酒を飲んだようで」
フォルワードが酒を徴収する。
マリオルを担ぎあげ、近衛兵に引き渡した。
「リンドブルム産らしいぞ」
「ということは…イーダー様からの差し入れですか」
「みたいだな」
当の本人が壁際でひっそりと飲んでいるため、確認しようにも邪魔しそうで悪い。
そこへミコが突撃訪問。
「なぬひとりどぅぬんどぅんの?」
…ん?
ああ、酔っているのか。
呂律が壊滅的だ。
「折角の母娘水入らず。邪魔をしては悪いと思ってな」
「きにすないから一緒にぬも?」
「……では、お言葉に甘えるとしよう」
イーダーが折れたようだ。
見かけによらず、面倒みの良い奴。
「ねぇアビル。一緒にぬも?」
カグヤも酔っていた。
狂ったように飲んでいた。
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パーティーが終わり、俺とカグヤは夜風に当たっていた。
自然地形を利用する渓谷の寒さが肌身に染みる。
満点の星空と冷たい風。
カグヤが、俺のお膝元に体勢を崩して暖を取る。
適度な重量に癒された。
「再会できて良かったな」
「アビルのおかげだよ、ありがとう」
細目でカグヤが瞳を接近させた時は、そういうこと。
二人きりだから、こうしてイチャつける。
「俺は何もしてない。ただ運が良かっただけさ…」
実際、行き当たりばったりで辿り着いた。
空回りに疲れて、景色移ろう遠回りを選んだ。
変えたところで、時間は進むのにな。
「ママ喜んでた。こんなに大きなパーティー、生まれて初めてだって。恥ずかしくて、アビルに話しかけられなかったって…」
暗い気配を落として、カグヤが体温を上げていく。
「あのぐらいなら、また何時でも開いてやる。あと、俺はカグヤ一筋だから揺らがんぞ。心配するな」
「……それってどういうこと?」
ちょっとだけ顔色が変わった。
息遣いが小刻みに震えた。
もうここで――なんて考えてしまう。
「あー…うん。お前の成長する姿を何時までも見ていたいから、他のものに目をやる余裕は無いってこと」
「見て…どうするの?」
「……」
「今夜いい?」
「…うん」
痺れる手で指をパチンと鳴らす。
転移魔術は便利だ。
貪欲な己の意志に忠実に従ってくれる。
後で自分を一発殴ることにした。
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ミコの永住滞在が認められ、ひと段落。
身の自由、安全が保証されることとなった。
以降、彼女の護衛役は近衛騎士団に引き継ぎ、イーダーは手すきになる。
帰郷するのかと思いきや、僕にはまだやるべきことが残っていると、急遽、出国を取りやめた。
頑固一徹に、彼女との同棲を選んだ。
近衛騎士の介入は最小限に、身の回りの世話を手伝うらしい。
「誘惑したらイーダーに怒られちゃった」
「それは……まあ…なんというか…」
唐突にそんなことを言われても、返答に困る。
だだっ広い宮殿の一室で、未亡人から聞く話では無い。
「貴方が悪いのよ? 心に深い傷を負った私の、獣のような絶愛を無視するから」
「その一言に全て詰まっているな。獣だからだろ」
「獣は嫌い?」
「いや全然。むしろかかって来い」
そう言うと、ミコは獣心を全解放して抱擁を強請る。
そして、その先を体験したく、カチャリとベルトを緩めて落とす。
隙を見計らい、俺の左手を乱暴に奪う。
左手は下腹部に当てる。
撫でさせ、上下させ、つまませる。
子猫も驚く蠱惑的な甘声で、緋色の瞳を自然に細める。
すぅ…と。甘い息を吹きかけてきた。
予め仕込んでいたフレグランス系の薬丸を齧ったのだろう。
炊いてあるアロマも同系統の香りに、微かなローズの香り。
忌憚なく言えば、高級娼館の一番星。
「あの子にしたことと、同じことして」
体つきから予測可能な、馴染む、ミコとの恋体験。
抵抗せねば、瞬く間に飲み込まれる。
行為は必ずエスカレートする。
愛液に、手先が滑った。
徐々に徐々に、水気が増していく。
ミコは快美感を求めているのだ。
「口が寂しいわ…」
瞳が、かち合う。
何時でも引き返せる。
それは甘い考えだと思い知らされた。
「俺は、お前とは考えられない。すまないな」
「そう…私とあの子で、一体何が違うのかしらね」
「いや、違わないから当惑している。どっちもレベルが高い」
「レベル? 高い?」
「美人ってことだ」
ミコは指を銜えて考える。
俺を下敷きに考える。
考えは答えを導き出して、感情を爆発させた。
ただ抱き締めているだけで、動かないだけで。
滴る水は顔にかかった。
濡れ髪をかき分けて力強く引き寄せた右手には、多量の汗がまとわりついた。
自分の息が荒くなるのを感じる。
立て続けに殴打されているような感覚を伴う心臓は、異常な鼓動を刻んでいる。
嬉しい声を出されると、優しい言葉をかけたくなる。
耳元で、じっくり。
互いの気が済むまで、舌と舌で会話して。
「カグヤちゃんばっかり…ズルい」
白シャツに滲む二つの点が、汗水でないことは容易に想像がついた。
それは同色に紛れて広がり、ろ過されて一滴、二滴。
不覚にも、喉の奥へ運ばれた。
ああ…そうか。
あの日、俺は彼女を邪な目で見ていたんだ。
だから胸が痛いんだ。
でも――今日だけは許して。




