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第九十三話 母と娘

 日光浴さながらの温光が窓から射し込む朝。

 俺の身体にへばりつく二人の女性。

 カグヤとミコ。

 どちらも美人で、どちらも狸寝入り。

 深夜寝ずに何をしていたのか問う以前に、彼女らの楽しそうな会話が蘇ってくる。

 

 二人は夜通し、思い出話で盛り上がっていた。

 ここへ行った、あそこへ行った。

 紛うことなき冒険の話。

 ふと感じた、俺とイーダーに対する愚痴。

 強敵との戦いで芽生えた、強さへの渇望。

 色々あった。


 時に二人は、泣きながら何かを話していた。

 強く抱き締め合っていた。

 ミコが打ち明けたのだ。

 自身の記憶が、まるで無いことを。


 再会した二人は間違いなく母と娘であるが、双方いまいち距離感が掴めない様子。

 特にカグヤは、ミコの過激なスキンシップに度肝を抜かれている。

 当たり前だ。

 実の母親にグイグイと、舐められんばかりに押し倒されるのだから。


 かく言う俺も、ミコの奇行には手を焼いている。

 昨日なんか酷かった。

 朝から晩まで付きまとわれた。

 俺に構わず、二人で美味しい物でも食べて来いとお金を渡すと「貴方も来なさい」と連行された。

 あーんを強要された。

 帰宅すると部屋を密室にされた。

 恐怖を見た。


 彼女の深層心理に根付くものは、俺への偏愛。

 未亡人を理解し、その上で俺に愛されようとしている。

 惜しむらくは、娘の記憶が無いこと。

 そこが残念でならない。


 また、彼女は後天的に備えた体術技能も同時期に失っているらしい。

 つまり、あの日見た鮮やかな体捌きは、もう二度とお目にかかれない。

 彼女を貶めた連中を恨む。


「どっちとキスしたい?」


 イーダー曰く、ミコは生粋のナルシストだと言う。

 己の美貌に絶対の自信があり、相手を追い詰める術を熟知しているんだそうだ。

 よって、カグヤを可愛いと評するのも、暗に自分も可愛いと知らしめるため。

 とんでもない母である。


「…カグヤ」

 

 不貞腐れるのは承知の上。

 平手打ちは予想外だった。

 ま、妖魔らしいと言えばらしい、か。

 

---


 繁華街で昼食を取り、少し散歩。

 俺とイーダーは護衛につく。

 いくら平和主義を謳う国でも、魔族を狙った人攫いは稀に起こる。

 警戒するに越したことはない。


「魔術王」


「アビルでいい。なんだ?」


「二人が消えた」


「んな馬鹿な…」


 目を離すと、すぐにいなくなる。

 二人の習性だ。


「遠目から見守るとしよう」


 イーダーが酒場の中へと入っていく。

 席は、二階のバルコニー席だ。

 つまみはナッツとチーズ。

 お互いに白ワインを頼んだ。


「ほら、あそこだ」


 イーダーが指し示した先は、レグリクス最大のファッション市場。

 貴族御用達の高級衣料店から、1から10まで全て揃う冒険者御用達の防具屋まで様々ある。

 客層は若く、主に10代後半から30前半までを的にしている。

 店頭はみな煌びやかな服を飾り、店奥は落ち着いた綺麗目の服装を取り揃える。

 世界規模で見ても破格の品揃えだ。


 カグヤとミコは、手前右横の小さなお店に入った。

 勝手に伝令石を起動して、会話を盗み聞きする。

 

『わー凄い。これとかママに似合いそう』


『あら。蝶、多っ』


 何となく想像つくのが嫌だな。

 盗聴犯と言われればそれまでだが。


『カグヤちゃん、ちょっとこれ着てみて』


『いいよ。でもすっごい黒ッ!』


 リアクションがほぼ一緒。

 あと、店内で騒ぎ過ぎだろ。

 

『どうかな?』


『ふわぁぁぁあああ!』


 カグヤの新コスチューム、俺も見たい。

 見に行こうかな。

 でもな。

 二人だけの時間を壊したくないな。


「動きはあったか、盗聴王」


「形状不明の黒服を一着、カグヤが購入したようだ。それと変な異名を付けるな」


 などと話している内に、ナッツが行方知れずに。

 俺の目を盗んで、イーダーが一人で食べ進めていたんだ。

 全く気が付かなかった。


 それはそうと、二人にも進展があった。

 二人は一風変わったお店に入った。

「ふしゅー」と、空気が抜けたような声がした。


『え…えちえち』


 頬を赤らめるカグヤが目に浮かぶ。


『これ着たら痴女ね。はいカグヤちゃん痴女』


『やめてママ…! やめて!』


 お着替えタイムに突入。

 カグヤが着せ替え人形と化した。

 これは見ちゃいけない気がする。


『おー、とってもキュートですお客様ぁー』


 これは店員の声。

 女性店員だ。

 そりゃそうか。


『私が着たら変かしらね…?』


『全然大丈夫ですよー。お姉様』


『まあ! お姉様なんて嬉しい!』


 ミコは、まんまと褒め上げ商法に引っかかってるな。

 革製ベルトが木製床に落下したと思われる音に、衣服が擦れる音がした。

 大層な自信家だ。


『ママえっちぃ』


 カグヤが発する含みのある呟き。

 意図して悪巧みを行う前触れのようなもの。


『これならあの人も、少しは私に目をかけてくれるかしら』


『ダメ。それだけは絶対にダメ』


『あら、どうして?』


『……何となく嫌なの』


 不貞腐れたカグヤが可愛かった。

 聞いてるこっちまで恥ずかしくなった。

 イーダーですら、伝令石を眺めていた。


『カグヤちゃん…』


 転じて重苦しい空気に変わった。

 でも、二人ならすぐに持ち直せる。

 そんな性格をしてる。

 頑張れ。


『…あら?カグヤちゃんの右ポケット、今なんか光って――』


 ちょうどいいところで魔力が途切れた。

 伝令石が爆散した。

 イーダーが、ナッツという名の弾丸を飛ばして砕いたのだ。


「九死に一生を得たな」


 イーダーの咄嗟の判断に助けられた。


「危うく盗聴という弱味を握られ、襲われるところだった」


「その程度で済めば良いがな。彼女なら既成事実すら作りかねんぞ」


「身の毛もよだつ豪胆さだな…」


「然り、それが妖魔だ」


 妖魔は人に巣食い、魔を注ぐ。

 神すら魅入らせる魔族。

 なのに、ミコの心は人に似て、実体を持って関係を迫る。

 俺には、彼女の心が微塵も読めない。

 でも夢があるな。

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