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第九十二話 始まりの再会

 イーダーの旅仲間である妖魔は、カグヤの母だった。

 寝顔がそっくりだ。

「むにゃむにゃ」と寝言を言う姿も、まるで生き写し。

 否、生き写しと言うには語弊があった。

 彼女は生きている。

 生きてる内に再会出来たのだ。

 

 しかし、カグヤの母ミコは目を覚まさない。

 ぐっすりと眠っている。

 カグヤの呼び掛けには薄らと反応しているが、心地良いほど夢の中である。

 俺の手をきゅっと弱く握り、離さない。

 そんなミコのお腹で眠るカグヤ。

 目頭を擦った跡がある。

 感極まって泣いていたのだ。


 見れば見るほど瓜二つ。

 どちらも若く、ミコの姿は17年前と変わらない。

 あまりにそのままだ。

 天性の美貌と言うべきか。

 お高くとまりそうな、凜然とした美人だ。


「一体どちらが母で子なのか、わかりかねますね」

 

 フォルワードが気の利いたジョークを飛ばす。

 静寂に鬱屈としていたから助かる。


(やつがれ)からすれば、ここに居る全てが赤子だ。まあ、お前ぐらいなら子と言えなくもない」


 イーダーが俺を見て苦笑する。

 齢509の俺ですら子か。

 一体いくつなんだろう。


「ボクは18ですよ」


 マリオルが的外れに反応した。


「いや…お前ではなく、そこの魔術王に言ったのだが…」


「ああそうでしたか、これは失礼しました」


 マリオルがカグヤの傍に寄り、髪を分けて顔を近づけた。

 何をしているのだろうか。


「…ん」


 よくわからないが、良くないことはわかる。

 目、逸らしとこ。


開闢(かいびゃく)(つるぎ)ですが、本当にお返し願えるのですね」


「ああ。所詮は無用の長物だ」


「ありがとうございます」


 フォルワードの手に、剣神の剣が渡る。

 大振りで長い、真っ直ぐな剣だ。

 フォルワードは、ほっと安堵した様子で剣を包みに収めた。


「宝物庫にでも仕舞うのか?」


 そう尋ねると、フォルワードは首を横に振った。


「レヴェストリカ総帥からご叱責を賜りましたので、これは祭壇に戻します」


 と言いつつも、フォルワードは出し渋る素振りを見せた。

 うずうずしてる。


「大公ともあろう者が一介の軍部総帥の言いなりとは…変わってるな」

 

「私は気にしておりませんけどね」


 つまり、世論からは批判の声があがっていると。

 遠回しにそう聞こえる。

 

「刻限です。行きますよマリオル」


「…もうちょっと」


「タダをこねない。レヴェストリカ様に叱られますよ?」


「うわっ! それは嫌です!」


 軽快な足取りで、二人がイーダー宅を後にした。

 多忙を極めるフォルワードの後ろにくっ付いて歩くマリオル。

 さながら兄妹のよう。


---


 午後になり進展があった。

 ミコが目を覚ました。

 それは良かったのだが…。


「可愛い可愛い! 本当に可愛い!」


「まままままっ、ママ!?」


 ミコは大層ご機嫌な様子で、カグヤを押し倒して顔をうずめた。

 頬擦りが止まらない。

 愛情表現の極みがそこにあった。


「もう私の子になりなさい!」


「なってますけど…?」


 絶妙に会話が噛み合わない。

 カグヤも困り果てているようだ。


「魔術王、ちょっと来い」


 イーダーに呼ばれ、隣の部屋に移動した。


---


 外音遮断。

 そこで明かされた衝撃の事実。

 ミコの記憶喪失。

 世界各地を転々させられた彼女が受けた仕打ち。

 半ば薬物中毒になりかけていたという。


「古代龍族に伝わる秘術が弾かれ毒抜きが出来なかった。リンドブルム随一の回復術師に依頼したのだがな…」


 イーダーは、苦虫を噛み潰したような顔をしていた。


「……」

 

 誰が彼女に毒を飲ませたのか。

 誰が彼女を犯したのか。

 誰が泣かせた?

 誰であろうと鏖だ。


「案ずるな。一党は法輪の連隊共々肉塊にした」

 

 つくづくこいつが居てくれて良かったと思う。


「彼女を助けてくれたのだな」


「さて…どうだろうな」


 イーダーが二人の部屋に移動したので、俺もついて行った。

 母娘の日常が垣間見えた。


「いい? これが林檎で、これがトマト」


「ママ、それ逆」


 見かけによらず、ミコは物覚えが悪そう。

 娘のほうがしっかりしてる。

 残念美人だ。


「あ…」


 ミコが俺の存在に気づいた。

 途端、もじもじと身体をくねらせる。


「?」


 ちょっと変わっているな。

 腕をグイグイと引っ張られる。

 仕方なくベッドに移動すると、ミコが太ももに跨ってきた。

 たわわな胸を押し当てられ、耳を甘噛みされた。

 …は?


 え、意味がわからない。

 カグヤのゴミを見るような目が痛い。

 イーダーは無意識の内に、視線を天井に移した。

 (やつがれ)は知らんと仁王立ちしている。


「会いたかったわ、覗き魔さん」


 重ね方、舌使いまでもが娘と一緒。

 必死に絡めて、侵略してくる。

 記憶は近いほど失いやすく、古いほどよく覚えているものだ。

 彼女はここ数年の記憶を失っている。

 或いは、口封じをされたのかもしれない。

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