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第九十一話 速さを超える刻

 刻紫剣、イーダー・ナルガ。

 正義の味方を自称する古代龍族、歴代最強の男。

 その全貌は、第一の御業から始まった。


千面世界(せんめんせかい)


 その場に留まり振るう数千の太刀。

 瞬く間に俺の身体は細切れになり、瞬時に再生したのも束の間、両腕と両足が斬り落とされた。

 幾度となく再生と裁断を繰り返す。

 転移魔術で距離を取った。

 しかし、目の前にはイーダーがいた。


 咄嗟に俺は、空間転移をコロシアム全体に張り巡らせた。

 でも破壊された。

 磁場が不安定になるほど、その剣技は凶悪だった。


「魔力を撒き散らしたな? 聖盾原罪大砲イージス・シン・キャノン!」


 俺は、頭上から極大の閃光を放った。

 消し炭にするつもりで、加減は行わなかった。

 手応えは無し。

 しかし、最善であった。


 奴の一振は、どれも必殺技級の一撃。

 物量で押し切れなければ、逃げ惑うしかない。

 であれば、常に補足し続けて、高質量弾を連続で叩き込む他無い。

 そしてノックバックしたところを精密射撃で仕留める。

 絶対に近付けさせない。

 そう思い、俺は両足に加速術式を組んだ。


 闘技台があった場所を縦横無尽に駆け回り、魔弾を連綿と撃ち続けた。

 粉塵が舞う。

 視界からイーダーが消失した。

 次の策へ移行する。


啾啾龍鳴残響(ククルカン・ロアー)


 生体感知の衝撃波を飛ばした。

 時間にして、コンマ数秒の刹那。

 ターゲットを補足した。

 しかし、複数の人間が索敵に引っかかった。

 イーダーの動きが速すぎて、残像も含めた大凡の人数にしか絞れなかった。

 これでは役に立たない。


「魔術精度は超一流。制圧力は二流半」


 イーダーの剣に身体が勝手に反応。

 二丁拳銃で挟み止めた。


「ぐっ…!」


 衝撃により、両肩が粉砕。

 再生魔術が追いつかない。

 強い。

 強過ぎる。


「全身強化…筋力80倍、骨格30倍、関節60倍、関節可動域2倍」


 俺は剣を振り払い、イーダーに亜光速の蹴りをお見舞した。

 今のはモロに入った筈だ。

 コロシアムの壁に叩きつけられた音がしたから。


 でも油断はできない。

 全身強化は強大だが、イーダーにとっては大したことない。

 巨神の打撃を受け切った男だ。

 あれと比べれば、赤子の蹴りに等しい。


「この負傷箇所の違和感。さては部分的に強化魔術をかけているな?」


 あっさりと見抜かれた。

 そう、俺は部分別に能力値を振り分けた。

 単に肉体を強化しただけでは、ポテンシャルの維持が不可能となるからだ。

 筋力を高めれば骨が軋む。

 骨格を作り変えれば筋肉が悲鳴をあげる。

 片方でも両方でも、関節は砕ける。

 どれか一つでもバランスを崩せば、人の肉体では耐えられない。

 

「ご名答。流石は境界大聖、元一位」


「そうか、思えば(やつがれ)は二位か。天撃の娘に抜かれたんだったな…」


「そうなのか?」


「ああ。もう随分と昔の話だ」


 イーダーが剣を投げ、すかさず飛んで来た。

 俺の今の速度で、ギリギリ反応出来る速度。

 覇装は魔装の上位武装なのか?

 だとしたら真正面から否定してやる。


亜光速(ネザーライト)!」


 神すら超越した速度で、イーダーに打撃を叩き込んだ。

 100、200、500、もっと。

 全て捌かれた上にカウンターで斬り刻まれたが、銃口が腹部に届いた。


「なに…!?」

 

 イーダーが距離を取る。

 遅い。

 銃口は奴を捉えている。


終末戦々曳光弾(クローズ・ブレッド)


 右肩の粉砕を代償に、一射の光弾が放たれた。

 光弾は鎧を貫いた。

 覇装を砕いた。

 大爆発で、大気にヒビが入った。


 それでも、イーダーの身体に傷は無い。

 琥珀色に強く灯る両眼。

 さては見たな。


 膨大な経験値から来る読みで、俺の弾を見切ったのだ。

 その精度は最早、未来視に等しい。

 

「僕の覇装を砕く…か。やはり、一筋縄ではいかんな」


 とはいえ、奴の反射速度を上回れたのは嬉しい誤算だ。

 依然として劣勢だが、先手は取れている。

 畳み掛ければ勝てる。

 

「剣速を上げるぞ」


 イーダーが剣を持ち上げた。

 嘘だろ。

 まさかまだ、小手調べの範疇を出ていないのか。


「俺からすれば、お前の方がよっぽど化け物だ」


 俺は再度、加速術式を起動。

 空を蹴りながら宙を滑空し、連続で閃光を放つ。

 今度は威力特化のバランスの悪い闇属性弾。

 漆黒の閃光が辺りを焼く。

 焼いて焼いて、地表の温度が急上昇する。

 そして、奴が退避したところを狙う。


「感情は面に出さん方がいいぞ。計略が無駄になる」


 ビシりと、地面にヒビが入ったような音。

 紫色に輝く煌剣。

 赤い稲妻を纏う、龍の化身。

 振り抜かれた剣は、俺の胴体を両断した。


「ごふッ…!」


 再生した瞬間、次の太刀で両足を斬り落とされた。

 一度の再生で二度斬られる。

 奴には、俺の姿が見えている。


「ッ…! 聖盾原罪大砲イージス・シン・キャノン!」


 俺は再度同じ手を使い、距離を取った。

 負傷は完治させた。

 思ったほど、時間は稼げなかった。


 イーダーが超光を斬り払ったからだ。

 まるで羽虫をどかすように、軽く小突いて流した。

 魔導兵器すら一蹴するこの技を。


「明らかに別格だな。神族を比較対象に置いても、これ程の猛者は確実にいまい」


「かく言うお前も中々粘る。僕の剣に、ここまで食い下がった男は初めてだ」


「お褒めに預かり恐悦至極。なれど、食い下がるは癪だ。格好悪い」


「フッ……唐突に子供じみたとこを言うな、お前は」


 イーダーの剣が明るく発光。

 次の技が来る。


刻懐剣(こくかいけん)高嶺颪(たかねおろし)


 天上から降される突風の刃。

 咄嗟に囲み込んだ防御障壁20枚が、まるで意味を成さない。

 花弁一つ残らず削り取られていく。


 属性は風と光。

 しかし性質は闇。

 魔力を噛み砕いて掘り進むことから、この技は三属性の合技であると推測。

 威力は間違いなく天撃級だろう。


「ぬぁあぁぁぁぁあ――!」


 後手後手だ。

 何重にも障壁を張って、それでいて割られて。

 ジリ貧が続いていく。


 あと一回。

 あと一回斬撃を受ければ、俺は間違い無く魔力暴走を起こす。

 強化魔術と再生魔術の両立は、魔術回路に絶大な負荷をかけるのだ。

 死にはしないまでも、魔装は解ける。

 勝機が失われる。


「この技はな。かつて、ある女剣士が使用していた絶技なんだ」


 イーダーが剣撃を止めた。

 浅い呼吸。

 彼も、多少は疲れている模様。


「女剣士…?」


「そうだ。一時、共に世界を渡り歩いた戦友が、先刻話した女剣士。と言っても、1年かそこいらの付き合いだったな」


「そいつは強かったか」


「戦慄を憶える程に強かった。まあ…僕程ではないが、それでも、この技だけは目に止まった。つい真似したくなって、巨神を実験台に改良を加えた。それが刻懐剣・高嶺颪」


「思い入れのある技なんだな」


「ああ。だからこそ、我が秘剣の一振に数えられる。耐え切ったお前は、大層イカれてるぞ」


「…神級相当であれば、跳ね返す程度わけない」


「であろうな。ゆえに使ってみた。結果は敗北。これ以上続けても、均衡は崩れん」


 イーダーが剣を収めた。


「ちょっと待て。まさか、もう終わりなのか?」


「終わりだ。僕の負けでいい」


 イーダーは気分が晴れたように笑みを零す。


 ……負けた。

 実質的に俺の敗北だ。

 終始圧倒され、一矢報いたのも束の間、再度押し切られた。

 

 悔しい。

 死力を尽くした末に負けるなんて。

 あと少しで、熱くなれそうだったのに。

 楽しくなりそうだったのに。


「僕も楽しかった。これ程血湧いたのは数百年ぶりだ」


 イーダーが、ふっと笑う。

 ここで正式に試合が終わった。

 会場が歓声に包まれた。


「なにゆえ勝利を放棄した。あと一太刀浴びせれば、それで終わりだった筈だ」


 そう言うと、イーダーは首を横に振った。

 それは違うとでも言いたげな様子だ。


「お前の魔力暴走は、恐らく僕にも止められない。あの天撃を屠った力であれば尚更」


 天撃を屠った…?

 そんな話…ああクソ。

 思い出せそうで思い出せない。


「目的を確殺に切り替えれば可能だったろう」


「しかしそれはお前の土俵。僕はそこに上がりたくなかった。だから下ろしたのだ」


「……」


 会場の歓声は未だやまない。

 カグヤもマリオルも、同調圧力に負けている。

 ルーセントは見当たらなかったが、フォルワードは居た。

 高台から手を振っている。

 汗だくだ。

 きっと、修繕費に首が回らないのだろう。

 いいよ、それぐらいは出してやる。


「魔術王は、お前が思っている以上に脅威だ。個の百に対して、個の数万で楯突く暴威は、誰だって避けたい」


「そうでもしないと勝てないんだよ。こっちは」


「だから脅威なのだ」


 あっけらかんとしているな。

 ま、逸話から予想はしていたが。


「…最後に一つ聞かせろ。なぜ手を抜かなかった」


「久方ぶりの決闘に心躍ったからだ」


「ではなぜ、頭部を狙わなかった。殺さなかった」


 その剣なら、俺を殺れたかもしれないのに。

 どうして。

 

「誰の代わりでも無いお前を待つ者がいるからだ」


 イーダーは、最後まで威厳のある立ち振る舞いを崩さなかった。

 生まれて初めて、剣士に畏怖した。

 でも、嫌な気分じゃないんだ。

 対等に斬り結べる、好敵手が出来たみたいで。

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